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早々にバレる正体と保護の申し出




アルバローザと話していると千依のお腹がキュウっと鳴った。


「まずは腹ごしらえをしようか。食事を頼んでくる。俺が戻るまで一人で部屋を出てはいけないよ」

アルバローザは幼い子供に言い聞かせるようにそう言うと部屋を出ていく。

年齢を言っても、彼にとって千依はどうやら幼子の認識のままらしい。

ドアがパタリと閉まり、部屋に一人きりになると千依は大きく息を吐き出した。

もちろん、大五郎が居るので全くの一人ではないが。


「あの人、悪い人じゃなさそうだね」

身を寄せる大五郎にそう話しかけた。

クゥンと鼻を鳴らす大五郎は、複雑な表情で千依を見上げた。

その瞳は、そんなに簡単に人を信じて良いの? と言いたげだ。 


「今夜の寝る場所と食事は確保できそうだし。まぁ、明日の事は明日考えようよ」

いかにも千依らしい楽天的な考え方である。

深く考えないのが千依なので仕方ない。

大五郎はやれやれと言った表情で千依から離れ、両腕を合わせた上に顔を乗せて床に伏せた。


すべての疑問もすべての謎も放置して眠りについた千依が、翌朝目を覚まし驚愕に目を見開くことになるであろうことを知るものはこの場所に存在しない。







「きぁっ・・・」

きゃぁ~と言う悲鳴を飲み込んだ千依は、自分の口元を両手で押さえてわなわなと震える。

自分を胸に抱き締めるように眠る金髪の美丈夫な男の瞼はしっかりと閉じられたままだ。


千依が目を覚まして直ぐに目に飛び込んできたのは筋肉質な男の胸板。

寝惚けながらも状況を把握した千依は、動揺せずにはいられなかった。


(ど、どうして、アルバが一緒に寝てるのよ)

(私、眠った時は一人だったよね)


寝起きの頭は上手くどうにも上手く動かないようだ。

悲鳴を飲み込んだ自分を誉めてやりたいとさえ、千依は思う。


いったいどうして、このような状況になったのかを考えたとて、千依に分かるはずもなく。

眠るアルバローザを起こさないようにその腕から逃れる為に体をよじった千依。


(一先ず、ここを抜け出そう)

(それから、考えよう。いや、考えて分かるかどうかは疑問だけど)


自分の体に巻き付く太い腕を持ち上げて、横倒しの体で後ずさると意外にもあっさりと抜け出せた。

ベッドの端により、寝息をたてる男の顔をまじまじと見つめる。

イケメンは眠っていてもイケメンだと、千依は思いつつも静かに深呼吸した。


クゥン・・・千依が目覚めたことを知ったらしい大五郎がベッドの上に前足をついて千依の背中に顔を刷り寄せる。


「・・・大五郎」

振り返った千依の瞳に写ったのは慣れ親しんだ大五郎。

彼の登場に千依はホッと息をつく。


クゥンクゥンと鼻を寄せてくる大五郎の首にギュッと抱きついた千依は、混乱から少し立ち直る。

昨日は何も考えずに眠ってしまったが、この部屋にはベッドが1つしかなくアルバローザが仕方なく一緒に眠ったのだとしても仕方ない気がしてくる。

アルバローザのベッドを奪ったのは千依の方なのは間違いないからだ。


「起きたのか?」

昨日より少し掠れた声が聞こえて、ギョッと振り返る。

そこには色気を撒き散らすかのようにして、千依を見つめるアルバローザがいた。

起き抜けの彼は無駄に色っぽい。

さらさらとした髪をかき揚げる姿も様になっていて、少し千依の胸はドキッとした。


「あ、は、はい」

こくこくと頷く千依。

いつでも逃げ出せるように臨戦態勢なのはご愛嬌だ。

グルルと喉を鳴らず大五郎は、千依の向こうに見えるアルバローザを威嚇している。


「起きて朝飯にしようか。昨日は戻ってきたらチィは寝ていたから、お腹が空いただろ?」

そう言いながらし上半身を起こしたアルバローザは、彫刻のように引き締まった肌を惜しげもなくさらす。


「うわっ・・・ちょ・・・」

千依は慌てて自分の両手で顔を覆う。

花の16歳には刺激的すぎる光景だったようだ。


「ああ、ごめんごめん。女の子には刺激的だったかな」

アルバローザはクスクス笑いながらベッドから降りて、椅子にかけてあった白いシャツを羽織った。

下半身はトラウザーを履いてたアルバローザは、シャツのボタンを上から三つ目まで止めて千依を振り返る。

そこにはプルプルと震えながら赤い顔を両手で覆う千依がいて、愛らしいと微笑ましくなる。


(本当、勘弁して。マジでありえないから)


悶々と考えつつも残像として残ったアルバローザの肌を思い浮かべてしまう千依の顔は赤い。


「服を着たから、目を開けてもいいよ」

優しく声をかけるアルバローザに、千依は恥ずかしそうに両手を下ろして彼を見た。

白いシャツにトラウザー姿のアルバローザは、それでも色気満載だった。


(金髪碧眼の威力凄い。あ~顔が熱いままだ)


平常心を保とうとするも、赤くなった千依の顔は中々元通りには戻りそうにない。


「こっちにおいで。朝御飯にしよう。保温の魔法をかけておいたから温かいよ」

アルバローザは千依にそう声をかけると、料理の並んだテーブルへと向かう。

彼が料理の腕で手を翳すと出来立てのような匂いが部屋に漂い始める。

グウッと鳴るお腹、昨日から何も食べてない千依は腹ペコだ。


モソモソと動き出した千依は匂いに誘われるようにテーブルへとつく。

足元には護衛よろしく大五郎が寄り添う。


「美味しそう」

並べられたお皿には色んな料理が並んでる。

「好きなだけ食べていいよ。ほら、お前はこれをどうぞ」

アルバローザは千依に優しく料理を勧めた後、千依の足元に寄り添う大五郎に向かって肉の載った皿を差し出した。

警戒したように匂いを嗅いだ大五郎は、千依にお伺いをたてるように彼女を見上げた。


「食べていいよ、大五郎」

千依は大五郎の頭をポンポンと撫でる。

ワフン、大五郎は一吠えすると床に置かれた皿の肉に食いついた。


(大五郎もお腹減ってたんだよね、ごめんね)


「さぁ、俺達も食べよう」

「うん。いただきます」

アルバローザに向かって頷いた千依は両手を合わせていただきますをすると、カトラリーからフォークを取り出して料理に手を伸ばした。

イタリアンのような料理はどれも美味しくて、千依の空腹を満たしていく。

自然と笑顔になった千依をアルバローザは満足そうに見つめながら、綺麗な作法で食事を同じように食事を進めた。


「食べながらでいいから聞いて欲しい」

「ん・・・」

モグモグと口を動かしながら千依は対面に座るアルバローザを見る。


「チィは渡り人だね。この世界の人間じゃないよね」

「へっ?」

「あれ、違った?」

「・・・ち、違わないけど。どうして・・・」

分かったの? と言う顔でアルバローザを見つめる千依の心は複雑だ。


「黒髪黒目はこの世界にはいないんだよ」

「えっ? そんなの普通にいるよね」

「黒い髪に近い人間ならいなくもないが、黒目の人間はこの世界に存在しないんだよ」

アルバローザにそう言いきられて、そう言えば・・・と昨日の事を思い出す。

町についた途端にジロジロと見られたのは、千依が黒髪黒目だったからなのかも知れないと。


「落ち人って他にもいるんですか?」

もし居るのならば会いたいし、帰り方を知りたいと千依は思った。


「数百年に一度訪れると古い文献には載っていたが、俺の知る限りでは現在は落ち人はいないかな」

申し訳なさそうに言うアルバローザに、千依は肩を落とすしかない。

自分以外の落ち人が居ないと言うのは、かなり複雑な気分だろう。


「・・・そうですか」

千依の食べるスピードが落ちる。

この先どうしていけばいいのだろう、そう考えるとほの暗い何かがじわりと沸いてきた。


(数百年に一度とか、どんなレアなのよ。私、本当に知らない世界に来ちゃったんだなぁ)


「そんなに落ち込まないで。チィがこの世界に来た理由を探そう。東の神殿の精霊王なら何か知ってるかも知れないし」

「精霊王?」

「そう。彼は世界の全てを知ると言われてるからね」

「その人なら元の世界への帰り方分かるかな」

ポツリと漏れでた千依の本音。


「一緒に探そう。見つかるまでは俺が君を保護するよ」

「えっ? どうして、見ず知らずの私に親切にしてくれるんですか?」

昨日会ったばかりのアルバローザが、親身になってくれればくれるほど、千依の気持ちは複雑になる。

何か目的があって、自分に近づいてきたのかとさえ勘繰ってしまうのは仕方のないことだろう。








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