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私、ここでも生きていけそうです

初の異世界ファンタジーです。どんなお話に仕上がるかはまだ分かりませんが応援してもらえたら嬉しいです。


鳥のさえずり、風が揺らす木の葉の擦れる音。

川のせせらぎが耳障りのよい音楽を奏でていた。

川原の石畳の上に、仰向けになって倒れる少女とその傍らに寄り添うように彼女の愛犬が目を閉じていた。


太陽は暖かい光で二人を照らし続けている。

周囲には民家もなく、広がるのは青々とした森。

人影もなく、彼女達の様子を伺うのは野生の動物達だけ。


普通ならここで、イケメンの王子様や騎士が登場する所ではあるが、如何せん彼女は不幸体質。

そんな奇跡は起こるまいて。





どれぐらい時間が経っただろうか、真上にあった太陽が随分と傾いていた。

先に目覚めたのは彼女の愛犬。

周囲を警戒しながらも、川原に寝転がったままの主人の顔をペロペロと舐め始めた。

起きてくれとでも言うように。


「・・・っ・・・大五郎だいごろう、もう少し眠らせて」

寝惚けたままの彼女が、石だらけの川原で寝返りをうった。

ハッハッハ・・・クゥンクゥン、愛犬は寝返りをうった彼女の顔に冷たい鼻頭はながしらを擦り付ける。

起きて起きてと言いたげに。


「もう・・・冷たいよ、大五郎」

当てられた鼻の冷たさに彼女はゆっくりと目を開けた。

そして、五秒ほど静止する。


(あれ・・・ここどこ)


眠い目を擦りながら、彼女は体を起こす。

彼女の隣では愛犬が舌を出して尻尾を大きく振って喜びを表現していた。


「い、痛いよ」

石だらけの場所に寝ていたせいで、体がバキバキになっていて、ありとあらゆる所が痛いらしい。

両腕を擦りながら彼女は辺りを見回した。


(はて・・・ここはどこだろうか)


知らない場所にいると言うのに、随分と暢気なものだ。

先程まで都会の街中にいたと言うのに、突然こんな自然に囲まれた場所にいるのだ、少しぐらいは焦っては如何かな。


「私・・・どうしてこんなところに」

口に出してようやく、自分の今の状況に気付いた彼女。

腕組みした彼女は首を捻って、意識を亡くす直前まで記憶をたどり始めた。

知らない場所で、本当に暢気なものだ。


(私、ボールを追って車道に飛び出した子供を庇って車に跳ねられたような気がする)


気がするではなく間違いなく跳ねられたのである。

跳ねられた彼女が、こんな森の中の川原にやって来たのかは至極単純な理由。

飛び出した彼女の足元にこちらの世界から遊びに行っていた精霊がいて、不運にも彼女が踏みつけてしまった。

驚いた精霊が、そのまま異世界へと空間を繋いでしまいそれに巻き込まれたのだ。

よって、神の祝福だの守護精霊だのと言ったのもは一切付加されていない。

なんとも残念な異世界転移である。


「う~ん、困ったなぁ。どうしてこんな所にいるんだろう」

そう言いながら彼女は立ち上がると体についた埃を両手でパタパタと叩き始めた。

彼女の足元では主人が立ち上がった事を喜ぶ愛犬がワンワンと石の上で跳び跳ねている。


「すっごい深い森に囲まれてるんですけど。しかも大小の太陽が二つもあるとか、完全にここ地球じゃないよね」

腕を伸ばして背伸びしながらそんなことを口走る彼女に、全く危機感を感じられないのはなぜだろうか。


(第一村人発見しなきゃなぁ~)


某テレビ番組みたいな事を考えてる場合じゃない。

危機感、危機感を持とう。

軽い屈伸運動を始めた彼女は、1、2、1、2と元気に掛け声を出す。

体を慣らしていったい何をするつもりなんだろうか。

愛犬も彼女の動きを見つめている。


「大五郎。お腹減ったから魚でも取ろう。その前に火を起こした方がいいよね」

おいおい、そんなことを考えていたのか。


彼女は、愛犬大五郎にそう言うと背負っていたリュックをおもむろに下ろすと、中身を確認し始めた。


「大五郎、薪拾うよ。良い具合にマッチがあったから」

再びリュックを背負った彼女は、地面に引きずられたままの大五郎のリードを掴み取った。

散歩だと勘違いした大五郎はワンワンと嬉しそうに跳ねながら彼女と共に歩き出す。


彼女が目指したすぐ近くの林には大きな大木があり、ちょうど良さそうな木陰があった。

リュックを再び下ろすと、大五郎のリードを近くの枝に結わえ付けた。


「ここで待ってて」

そういった彼女に返事したのかどうかは分からないが、大五郎はワンと言ってその場にお座りをした。

かなり頭の良い犬であるのは間違いなさそうだ。


彼女は、お洒落ジャージのズボンの裾とジャージの袖を腕捲りする。

そして再び川の側までやって来た。

靴を脱いでその中に靴下を脱いで突っ込んだ。

どうやら、川に入る気らしい。

魚をとると言うのは嘘じゃない感じだ。


彼女の膝したまでの流れの川へとザブザブと入っていく彼女に躊躇はない。

手掴みで泳ぐ魚を捕まえようとするも、もちろんそんなことは簡単に出来るはずもなく。

三回ほどチャレンジして諦めた諦めの早彼女。

手近な岩に座って川の中を恨めしそうに眺める。


「あ~魔法とか使えたらなぁ。ほら、バリバリって雷とか出せたら魚取り放題なのに」

安易な言葉を口にして、エイっと人差し指を川の方へと振った。


バリバリバリ・・・耳をつんざくような音がして、眩しい光が川へと落ちる。

次の瞬間にはブカプカと横倒しになった魚が数匹川面に浮かび上がった。


「うそっ!」

さすがにこれには彼女もビックリした。

大きな目をさらに大きく見開いて浮かぶ魚を見つめてる。

が・・・それも数秒の事。


(流れないうちに魚拾わなきゃ)


思い立ったが吉日で、彼女は再びザブザブと川へと入っていく。

そして手掴みで浮かぶ魚を捕獲し始めた。

気がすむまで魚を拾い上げた彼女は、川縁まで戻ってくるとポケットからビニール袋を取り出してその中へと放り込んだ。

大収穫である。

満足した彼女は、靴を履こうとしてここでも再び思い付く。


「風とかこうピーっと操れたら、この濡れた足も一発乾燥だよね」

エイっと自分の足に向け人差し指を振れば、なんと不思議な事でしょうか、足の周辺を柔らかい風が包み込みあっという間に濡れた足を乾燥したではありませんか。


(ヤバッ、魔法の世界に来た)


なんの情報もこれと言ってないままなのに、なんとも順応性が早い。

彼女は嬉々として靴下を吐くと愛犬への元へと戻っていった。


「大五郎、大量だよ」

そう言いながら巻き拾いをして、魚を焼くための準備を進める。

リュックからピクニック用の小型ナイフとスケッチブックを取り出した。

スケッチブックを一枚破りその上で魚を捌いていく。

彼女がどうしてそんなものを持ってるかと言うと、実は車に跳ねられたりしなければ今ごろ友達とキャンプをすることになっていたのだ。

そのお陰かは、ちょっとだけ生活に必要なものが揃ってた。

ありがたいことに塩コショウまである。


薪をくべライターで火をつけると、ちょうど良い長さの枝に刺した魚をその回りに並べていく。


「あ、私、ちょっとやってけそう」

そんな軽口を叩いた彼女はまだ自分の置かれている状況の危うさに気付いてはいなかった。






 




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