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まさかの誘拐事件?2



子鹿になった千依が少し復活するのを待って、再び馬上の人となった二人はなんとか宿屋を探す事に成功する。

その事に千依が歓喜したのは言うまでもない。

(早く、誰か私をベッドに寝転がせておくれ)


「今日はここに泊まるとしよう」

一軒の宿屋の前で停まるとアルバローザは、馬から降りて千依を抱えおろす。

「うん」

「よし、いい子だね。親父、馬屋はあるか」

アルバローザは千依の頭を一撫でし、宿屋の前にいた親父に声をかけた。

「へい、旦那。建物の裏手にございます」

丁寧に頭を下げた親父は手もみをしながらニッコリと笑う。

「分かった。千依、ここで少し待っていられるかい?」

アルバローザは子鹿になってる千依を馬屋まで連れ歩く事に戸惑いを覚えたようだ。

「待ってられる」

何かを堪えるようにして頷いた千依の瞳は大丈夫だとアルバローザに伝える。


「直ぐに戻るから、くれぐれも一人で行動しないように」

「分かってるよ」

「本当に?」

「本当に」

アルバローザは心配性だ。

彼が千依に向ける瞳には心配と疑いが混じっている。

「···分かった。親父、馬屋まで案内を頼む」

「へい、こちらです」

苦渋の決断をしたとばかりに言葉を絞り出したアルバローザは親父に案内を頼み馬を引いて歩き出した。


(自分でここで待ってられるか聞いたくせに、心配性過ぎる)

千依ははぁ、と溜め息をつき建物の裏手に消えていくアルバローザの背を見送った。


宿屋の前で一人になった千依は、暇潰しも兼ねて街を観察してみることにした。

(この街は今まで立ち寄った中でもかなり大きいみたいだね)

商店や露天などが立ち並ぶ広い道から一本奥に入ったこの場所は、人の通りがまばらだ。

街に入った時はお尻の痛みのせいで街並みを観察する事も出来なかったが、こんな風にゆっくりと眺めてみると色々なものが見えてきた。

この街は、貧富の差がとても激しい事が見て取れる。

高級そうな服を着ている人もいれば、ボロのような布を纏った人もいて。

道の端で物乞いしている子供達の姿がやけに目についた。

建ち並ぶ建物の奥の方に微かに見えるのは壊れかけのあばら家。

貧困と富が混ざりあったこの街は少しだけ異様な空気が漂っていた。

こんなにも混ざり合ってるのに、この街の人達は互いを気にすることもなく過ごしている。


(少し気味悪いな、この街)

千依の素直な感想だ。

この世界に来てそんなに日はたっていないけれど、ここがあまりいい場所でない事だけは千依にも分かったようだ。

(そう言えばアルバも、本当はこの街に立ち寄りたくないとか言ってたよね)

道すがらアルバローザから聞かされた事を思い出す千依。

王都に向かうにはこの界隈を通らなければいけない事。

そして、夜になるまでに次の街に辿り着くことが難しく止む終えなくこの街で一泊するしかない事。

本当ならば無理を押してでもこの街は通過したかったが、それだと千依の体に負担をかけてしまうので、この街に立ち寄ることを決断したようだ。


(あんまり来たいと思えない街なのは確かだよね)

千依はそんな事を思いながらぼんやりと周囲の景色を眺めていた。

「お嬢さん、お困りかな?」

不意に声をかけてきたのは身なりのいい貴族っぽい紳士。

「あ···いえ、困ってません」

見知らぬ人からかけられた声に戸惑いながらもそう返す千依。

「私でよければ相談乗ってあげよう」

人好きのする顔で微笑んだ紳士に、不信感が募る。

(困ってないって言ってるのに、強引に話を進めようとするあたりが怪しさ満開だよね)

怪訝そうに見てしまうのは仕方ない事だ。

「大丈夫です。連れが直ぐに戻ってきます」

アルバローザがもうすぐ戻ってくるのだから、見ず知らずの人に世話をかけることは無い。

「子供が一人で居るのは危ないよ」

「·····」

(この人、ウザい。親切そうに言ってくるけど間違いなく怪しいよね)

どうしたものかと、試案する千依にお構いなく話しかけてくる紳士は後ろ暗さを醸し出していく。

この時ほど、アルバローザを心から待ち望んだのは間違いないだろう。


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