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まさかの誘拐事件?





中継地点の1つ目の町はとくに何をするでもなく、早めの朝食を取り後にした。

たかが一晩の停泊で千依の足に、不運な擦り傷が増えたのはご愛嬌だ。


アルバローザと千依を乗せた馬の少し後ろを付いてくる大五郎には、今の所疲れは見えない。

昨夜、夕飯に出されたミディアムレアの特上焼き肉が大五郎の体力と気力を保たせているのであろう。


道中、魔物に襲われる事も野盗が出ることも無く進めたのはアルバローザの運が良かったからなのか、大五郎の運が良かったのか。

言うまでもなく千依の運でないことは間違いないだろう。

整地されただけの砂利道は千依の大切なお尻に不運な痛みと、床ずれをもたらしていたのだから。



二人と1匹は、その日の日が暮れる前に2つ目の町についた。

夕暮れ前の町の入り口には、千依達のように到着したばかりの旅人の姿がちらほら見えた。

一つ前に訪れた町よりは大きい町だけど、門番や警備らしい人は見当たらない。

ヨーロッパの片田舎に似たようなそこは、人が行き交い活気に溢れていた。

大通りに立ち並ぶ家々の軒先には、幌を張ったテントが設置され、様々の食材や生活品が売られている。



「今日はこの町で一泊するよ、千依」

アルバローザは大通りをゆっくりと進みながらも背後から千依に声をかけた。


「···な、なんでもいいから、馬から降りたい」

涙目でそう言った千依の顔はどこかやつれてる。

慣れない馬上移動で、千依はすっかり辟易しているようだ。


「慣れない旅で疲れたのか?」

アルバローザは心配そうな顔で自分の前に座る千依の顔を覗き込む。

眉を下げて口をへの字に曲げた千依を見てギョッとした顔になったアルバローザは言葉を続けた。


「具合が悪いのか?」

そう尋ねられ、千依は戸惑うことなく返す。

「私のお尻が悲鳴を上げてます」と。

あまりの痛みに女の子だとか、恥ずかしいだとか言ってる場合ではないようだ。


(い、痛いよぉ。もう、馬は嫌だ)

(早く、ベットに寝転びたい)

切実にそう願う千依は、すっかり魔法を使えることを忘れてる。

魔法を使えば馬上の揺れも痛みも消せると言うのに、そこに気づかない辺りが千依の不運さなのかも知れない。

馬での移動が初めての千依にとって、この2日の馬での移動が相当な負担になってしまったのは仕方のないことだろう。


「さっきから大人しかったのはそのせいだったのか。気づかずに悪かった」

アルバローザは急いで馬を路肩に止めると、大慌てで千依を馬から降ろしてくれた。

馬上での移動に慣れているアルバローザは、馬に乗り慣れていない千依にかかる負担が並々ならないものであるという事にようやく気づいたらしい。


「痛い、もう体中が」

地面を両足で踏みしめれば踏みしめるほど、千依の膝は震えだす。

そして、それに助長されるかのように全身に痛みが走るのだ。


「あぁ、千依。本当にすまない。宿屋を直ぐに探そう」

生まれたての子鹿のように膝がガクガクしている千依を見て、困り顔になったアルバローザ。


大五郎は千依の足にまとわりつきながら、くうんくうんと鳴いて心配そうに彼女を見あげた。


(とにかく、どこかに寝転びたい)

千依は切実にそう願った。



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