人生最大の不運
生まれた時から何をやっても不運が続く女の子が居ました。
道を歩けば穴にはまり、公園を散歩すれば鳩の糞が頭に直撃。
小さな不運が重なりに重なって、いつしか彼女は不幸少女と呼ばれるようになった。
そんな彼女は中肉中背、150センチと言う低い身長、おかっぱの黒髪に安定の太めの眉毛。
どちらかと言えば可愛い部類に入るが、如何せん彼女は不幸少女。
可もなく不可もなく、と言うスペックである。
唯一の救いは彼女が能天気で、自分の不幸体質にも動じない所だろうか。
彼女の不運の始まりは、自分を生んですぐに母親が亡くなった事だったかのように思える。
父一人子一人で、16年と言う月日を生きてきた。
妻が命を懸けて産み落とした命を父親は大切に慈しみ育ててくれた事だけは間違いない。
普通の生活をするだけで不運に見舞われる体質の娘を心配した父親が、彼女の体と精神を鍛えることを推し進めた結果、彼女は150センチと小さい体つきではあったが強さを手に入れた。
それは、武道大会に置いて優勝を果すほどのものであった。
小さな体の不運な少女は、強さとポジティブさを兼ね備えた人物である。
そして、誰よりも優しく育った彼女の周囲には自然と人々が集まった。
不運であっても、親しい者達から大切に扱われた彼女は決して不幸せではなかった。
そんな彼女がある日の朝、人生最大の不運に見舞われる所から、この物語は始まる。
キキキーッ、甲高いブレーキ音と共に彼女の体は大きく円を描いて吹き飛んだ。
彼女が助けた小学生が驚愕の表情を浮かべて、歩道の隅で尻餅をついていた。
「ああ・・・助かったんだね」
地面に体を打ち付けられる寸前に小学生を見てそう呟いた彼女は、そのまま意識を手離した。
ぐらぐらと揺れた地面、グニャリとネジ曲がった様に歪んだ空間。
時間が止まったかのように、周囲は無音に包まれた。
そして、彼女の体は静かに光始めた。
そんな彼女の元に走り寄るのはリードがついたままの彼女の愛犬。
次の瞬間、ピリッと何かが避けたような音がして、少女と愛犬の姿は忽然と消えた。
後日、その場に居た者はそう証言した。
車に跳ねられた少女も、その少女が連れていた愛犬もどんなに探しても、この世界にはもう存在しなかった。