カズキの話
続きです。
こっちに来てから一週間が経った。ここでの生活は案外快適だった。それぞれが自分の役割をしっかりやり、皆で生活していた。なにより誰かと一緒にいるという事実が心地よかった。俺がどれだけ家族と関わっていなかったかがよく分かる。まぁ、それは置いといて。一週間で同居人について分かったことがいくつかある。まず、カズキについて。衝撃の事実が発覚した。今まで美少年だとさんざん思ってきたが、なんとカズキは女子だった。美少年ではなくかっこいい系女子だったのだ! もう訳が分からない。事が発覚したのはこっちに来て、2日目のことだった。
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俺はやることがなく、その日は朝から家の中を探検していた。なにしろこの家、アメリカンにでかいから飽きることはなかったのだ。室内を見終わり、庭に出たとき例の不思議植物の世話をしているカズキを見かけた。そのとき俺はどうせ暇ならカズキを手伝おうと考えたのだ。声をかけ、一緒に庭仕事をした。カズキが不思議植物を育てているのは、薬の材料になるかららしい。薬を作り、それを店に売って金にしてるそうだ。薬って自分で作れるんだな。不思議植物のほかにも普通の家庭菜園のような畑もあった。カヅキはそれを魔法ですばやく手入れしていた。ぶっちゃけ俺、要らないんじゃね? 思い当たってしまった。それでも肉体労働もあり、俺は汗びっしょりだった。事件が終わったのはその後だった。
「すげえな。カズキ、いつもこの量一人でやってんの?」
あふれた汗を拭きつつ、聞いてみた。
「いやー。さすがにいつもじゃないかな? 週一ぐらいだよ」
涼しい顔で答えるカズキに思わず
「いや、カズキさん。それでも化け物級です」
そう言いかけた。ていうか、これだけやって汗の一滴も垂れないってあんたどういう構造してんすか。事件が終わったのはその後だった。
家に戻り、俺は着替えようとカズキの前で服を脱いだ。どう考えてもこれがまずかった。上を脱ぎ、さぁ下も脱ぐかとズボン手をかけたときだった。
「ちょっと待て、ユウキ。あんたここで着替えるつもり?」
そんなことを聞いてきたのだった。
「? そうだけど・・・? どうした?」
当然こう答えたのだった。
「どうした? じゃないよ! 僕の目の前でやるな!!」
そう言って出て行こうとするカズキに俺は言ってしまったのだ。
「なにか問題でもあるのか? ”同性”だろ?」
この言葉を発した瞬間、カズキから濃紺のオーラが立ち上った。その”殺気”のようなものに当てられ動けない俺のほうを振り向くと”濃紺に”輝く瞳で俺を睨み、こう言った。
「・・・僕は女子だ!!!」
何かが腹に当たり、俺は意識を失ったのだ。
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これが2日目の出来事。1時間後俺は”服をきた状態で”イツキに発見された。イツキの回復魔法で起こしてくれたらしい。一緒にいたシュウジがカズキについていろいろ教えてくれた。
カズキはここに居るメンバーの中でも、一番”古参”らしい。なんでも本人いわく5歳の誕生日に呼ばれたらしい。だから、向こうのことは何も知らない。こっちの常識で生きてきているから。他の人間はカズキに魔法や戦い方、この世界のことを教えてもらったんだそう。俺が意識を失った原因は、カズキが無意識に放った魔力に当たったこと。純度の高い魔力というのは、それだけで凶器になりうる(らしい)。カズキはこのなかで、最も魔力の扱いに長けている(まぁ、古参だし、)。常に体内では純度の高い魔力が生成されている状態でぶっちゃけ存在が爆弾のよう。
カズキに対して男子だとはっきり口にだすのはタブーらしい。
「まぁ、必ず初対面の人間はやらかすんだけどな」
そうシュウジは言った。それはやるだろう。だって、どうみても美少年だもの。慣れているとはいえ、カズキも嫌なんだろう。今後は控えよう。
それから、振り返ったカズキの目の色が違っていたこと。澄んだ黒から輝く濃紺になっていた。見間違えかとも思っていたんだが、どうやら見間違えではないらしい。いわく、召還された者たちの特徴として”ハーフ”である、というのがあるらしい(だからといってハーフ=全員召還者という訳ではない)。
「なんでそんな大事なこと、最初の説明で言ってくんないんだよ!」
俺が聞くと、
「ごめん。すっかりわすれてたわ」
「覚えてた、けど、別に、伝えなく、ても、もうカズキが、言ったかと、思って・・・」
とのことだ。まぁ、よしとしよう。話を戻すか。これは必ず魔力を調べるときに、なにかしらのハーフであることが判明するらしい。ハーフは本来の力を使う際身体に目に見えるかたちで変化が起こる。カズキの場合、そのひとつが目の色だった訳だ。
「ひとつ? 複数あるのか?」
「人によるな。魔力の保有量が多い場合は複数になる。あとは種族によるな。俺はドワーフとヒューマン種のハーフで変化はひとつ。目の周りに文様が浮かびあがる」
「わたしは、エルフと、サキュバスの、ハーフ。変化は、耳がとがったり、角や、しっぽが生えたり、羽がはえたり、する。これは、種族的なもの」
「まぁ、実際イツキは魔力も多いんだけどな~」
ほんとに様々らしい。ちなみに、カズキはネコの獣人とヒューマン種のハーフ。変化は目の色、髪の色・長さ、ネコ耳・ネコ尻尾着用になるらしい。サキはリザードマンとのハーフ。リザードマンと聞くとモンスターのような気もするけど、この世界ではリザードマンには”知的生命体”といえるだけの知能があるため、モンスターの一種ではなく人種のひとつになるそうだ。変化は肌にうろこが生え、魔力、腕力が大幅にUPするんだとか。最後の一人。シュントは鳥人という珍しい人種とヒューマン種とのハーフらしい。変化は目の色。金の瞳の輝きが増すらしい。そして視力がめちゃくちゃあがる。
「なんか、地味だな」
「そう言ってやんなって。アイツけっこう気にしてんだから」
俺はなんなんだろう。すげぇ、気になるな。
ここのメンバーを魔力の保有量順に並べるとこうなる。
カズキ>圧倒的差>イツキ>シュント=サキ=シュウジ
カズキがどれだけ突出しているかがよく分かる。シュント、サキ、シュウジの魔力保有量はほぼ変わらんらしい。
「つっても、一般人に比べると大分多いんだけどな」
「召還者は、他のひとよりも、魔力が、多い。これは、事実」
てことは、俺も例外じゃなく多いはずで。これは異世界チートくるんじゃないか?
「それでも、カズキの魔力量は異常。あれを目指しちゃ、ダメだからね」
釘をさされてしまった。
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この日俺はカズキに謝りにいってから寝た。昼間話した内容がいつまでも頭の中にあった。俺は、どれくらいの魔力を持ってるんだろうか。俺は、どんな種族になるんだろうか。楽しみだった。夢が広がるな。そんなことを考えていたら、いつまでも寝付くことができなかった。まるで遠足前のガキのようだった。
なかなか話が進みません・・・。