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彩がとけるまで  作者: みんとす。
Ⅰ 彩られる春
5/7

彩・交友関係 4


五月。可愛らしいピンクの花から、少しずつ鮮やかな緑が栄える頃。

毎年やってくる大型連休というものは、私たち大学生も楽しみにしている一大イベントだ。




「連休何か用事ある?」


明日から、その連休が始まるわけで。

講義が終わった後、私の席の隣に座った晃はそう切り出した。


「んっとー、五月は火、金、土曜がバイトだから……ちょうど丸二日間は予定ないよ」


「そっか。あのさ、どっちか一日、俺に時間ちょうだい」


私の前の机を這うように乗り出す晃は、少し上目遣いになった。

垂れた目から覗く、大きな茶目が、私にお願いをする。答えに、ノーはない。


「いいよ! お出かけ?」


「うーん、決めてないんだけど。どっか行きたいとこある?」


「ないことはないけど……でも遠出はだめでしょ?」


「いいよ、遠出でも。電車乗り継いでもいいし、新幹線使ってもいいし」


長期休みならではの、一般的に旅行と言われる遊び。

晃が良いと言うなら、是非行きたい。


「いいの!? どこでもいい!?」


「え、あ、……まあ、遠すぎなければ」


少し困ったような晃は、少しだけ目を逸らす。それでも、もう一度目が合うとにこりと笑った。


「もしかして、みんな行きたがってるテーマパーク? ランド?」


「それも行きたいけど、今回はいいかな。この前、電車で40分行ったところに新しく大きなモールができたの知ってる?」


「ああ、確か相当大きな建物で、いろんなショップとか飲食店とか、ゲームセンターも入ってるんだっけ?」


「そう! すごく大きなところみたいだから、行ってみたくて!」


「何何? レインモールの話?」


気持ちが昂ぶって声が大きくなっていたらしく、近くを通った菜乃佳ちゃんが話題に入る。

そこに、晃の友人でもある岸くんもこちらを見かけたようで、加わった。


「泉妻、レインモール行くの!?」


「何で岸が一番乗り気なんだよ……ていうか俺が話しかけたの彩葵だけなんだけど」


「まあまあ! せっかくこうやって仲良くなってんだからみんなで行こうぜ!」


「あたしも行ってみたかったのよね~、レインモール! あきりんの提案?」


「あきりん???」


晃の目が私に向く。菜乃佳ちゃんが私に付けたあだ名に、意外な呼ばれ方だ、と引いていた。


「ちょっと泉妻くん! 何そのドン引きしてる顔!」


「いや、まさかそんな呼ばれ方してるって思わないから……彩葵が良いなら別に突っ込まない」


「もう突っ込んでるようなものよ! ……で、行くの? 行くなら私も一緒に行きたいなあ」


「……まあ、いいよ。彩葵も、行きたいんだもんな?」


岸くんが乗ってきた時は気が進まない感じだったのが、菜乃佳ちゃんの一言で一転し、結局、四人で電車に乗って、水曜日の朝からレインモールに行くことが決まった。




● ● ●


「おい岸……分かっててやってんの……?」


「何言ってんだよ! 当たり前じゃん!」


彩葵と出かけるせっかくの時間を、と、彩葵が帰ってしまってから岸に直接文句を言うが、悪気なんていうものはまるでないと、あっけらかんとして言った。

思わず足を蹴ると、痛いと言いながら俺を止めた。


「そのチャンス、あの子に作ってもらえばいいだろ? 何ていった、菜乃佳ちゃん? お前のこと気づいてるっぽいし。ああいう子が彩葵ちゃんにちょっと吹き込んでやれば、もしかしたら……な!」


「……それは否定しないでおくけど、一応聞く。お前は」


「俺は興味!! お前らどうなるかすげー気になんだもん! な! 菜乃佳ちゃんと見守っといてやるよ!」


「それ、ただお前と武川さんがデートする感じになるだけだろ?」


「それはそれで一石二鳥じゃん? 俺だってそうやって遊びてーもん!」


自分の気持ちに正直なやつだと、半分呆れる。

しかし、俺の気持ちをうまく彩葵に伝えようとするなら、岸はともかく、武川さんがいるともしかしたら、なんて、都合の良いことを考える。


でも、あの鈍感な彩葵だ。

どう言われれば、俺を意識してくれるのか。

長い付き合いでも、全く分からなかった。


「……泉妻ってそういうところで不器用なんだな」


「何か言った? ぐいぐい食いつきたくないだけなんだけど」


「行動的にはぐいぐいいってんでしょ。アンバランスだなあ」


(……好き、なんて。それだけじゃ想えない。そんな言葉よりも、もっともっと、彩葵は大切、なんだから)


岸の指摘はもっともだけれど。

俺は俺で、今の関係を崩したくないことが大きくて。


「……しょうがないだろ」


そう言うことしかできなかった。




その時、彩葵からLinEが届く。


【明日、バイトの時間まで付き合って!】


そうやって、俺を頼ってくれる彩葵は、どうして気づいてくれないのだろうか。

思わず、苦笑いをした。


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