彩・交友関係 4
五月。可愛らしいピンクの花から、少しずつ鮮やかな緑が栄える頃。
毎年やってくる大型連休というものは、私たち大学生も楽しみにしている一大イベントだ。
「連休何か用事ある?」
明日から、その連休が始まるわけで。
講義が終わった後、私の席の隣に座った晃はそう切り出した。
「んっとー、五月は火、金、土曜がバイトだから……ちょうど丸二日間は予定ないよ」
「そっか。あのさ、どっちか一日、俺に時間ちょうだい」
私の前の机を這うように乗り出す晃は、少し上目遣いになった。
垂れた目から覗く、大きな茶目が、私にお願いをする。答えに、ノーはない。
「いいよ! お出かけ?」
「うーん、決めてないんだけど。どっか行きたいとこある?」
「ないことはないけど……でも遠出はだめでしょ?」
「いいよ、遠出でも。電車乗り継いでもいいし、新幹線使ってもいいし」
長期休みならではの、一般的に旅行と言われる遊び。
晃が良いと言うなら、是非行きたい。
「いいの!? どこでもいい!?」
「え、あ、……まあ、遠すぎなければ」
少し困ったような晃は、少しだけ目を逸らす。それでも、もう一度目が合うとにこりと笑った。
「もしかして、みんな行きたがってるテーマパーク? ランド?」
「それも行きたいけど、今回はいいかな。この前、電車で40分行ったところに新しく大きなモールができたの知ってる?」
「ああ、確か相当大きな建物で、いろんなショップとか飲食店とか、ゲームセンターも入ってるんだっけ?」
「そう! すごく大きなところみたいだから、行ってみたくて!」
「何何? レインモールの話?」
気持ちが昂ぶって声が大きくなっていたらしく、近くを通った菜乃佳ちゃんが話題に入る。
そこに、晃の友人でもある岸くんもこちらを見かけたようで、加わった。
「泉妻、レインモール行くの!?」
「何で岸が一番乗り気なんだよ……ていうか俺が話しかけたの彩葵だけなんだけど」
「まあまあ! せっかくこうやって仲良くなってんだからみんなで行こうぜ!」
「あたしも行ってみたかったのよね~、レインモール! あきりんの提案?」
「あきりん???」
晃の目が私に向く。菜乃佳ちゃんが私に付けたあだ名に、意外な呼ばれ方だ、と引いていた。
「ちょっと泉妻くん! 何そのドン引きしてる顔!」
「いや、まさかそんな呼ばれ方してるって思わないから……彩葵が良いなら別に突っ込まない」
「もう突っ込んでるようなものよ! ……で、行くの? 行くなら私も一緒に行きたいなあ」
「……まあ、いいよ。彩葵も、行きたいんだもんな?」
岸くんが乗ってきた時は気が進まない感じだったのが、菜乃佳ちゃんの一言で一転し、結局、四人で電車に乗って、水曜日の朝からレインモールに行くことが決まった。
● ● ●
「おい岸……分かっててやってんの……?」
「何言ってんだよ! 当たり前じゃん!」
彩葵と出かけるせっかくの時間を、と、彩葵が帰ってしまってから岸に直接文句を言うが、悪気なんていうものはまるでないと、あっけらかんとして言った。
思わず足を蹴ると、痛いと言いながら俺を止めた。
「そのチャンス、あの子に作ってもらえばいいだろ? 何ていった、菜乃佳ちゃん? お前のこと気づいてるっぽいし。ああいう子が彩葵ちゃんにちょっと吹き込んでやれば、もしかしたら……な!」
「……それは否定しないでおくけど、一応聞く。お前は」
「俺は興味!! お前らどうなるかすげー気になんだもん! な! 菜乃佳ちゃんと見守っといてやるよ!」
「それ、ただお前と武川さんがデートする感じになるだけだろ?」
「それはそれで一石二鳥じゃん? 俺だってそうやって遊びてーもん!」
自分の気持ちに正直なやつだと、半分呆れる。
しかし、俺の気持ちをうまく彩葵に伝えようとするなら、岸はともかく、武川さんがいるともしかしたら、なんて、都合の良いことを考える。
でも、あの鈍感な彩葵だ。
どう言われれば、俺を意識してくれるのか。
長い付き合いでも、全く分からなかった。
「……泉妻ってそういうところで不器用なんだな」
「何か言った? ぐいぐい食いつきたくないだけなんだけど」
「行動的にはぐいぐいいってんでしょ。アンバランスだなあ」
(……好き、なんて。それだけじゃ想えない。そんな言葉よりも、もっともっと、彩葵は大切、なんだから)
岸の指摘はもっともだけれど。
俺は俺で、今の関係を崩したくないことが大きくて。
「……しょうがないだろ」
そう言うことしかできなかった。
その時、彩葵からLinEが届く。
【明日、バイトの時間まで付き合って!】
そうやって、俺を頼ってくれる彩葵は、どうして気づいてくれないのだろうか。
思わず、苦笑いをした。