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彩がとけるまで  作者: みんとす。
Ⅰ 彩られる春
4/7

彩・交友関係 3

初めてのアルバイト面接に緊張しながら、通された事務室のような部屋に備えられた椅子に腰かけ、数分間待つ。

程よく力が抜けてきた頃、ドアノブを回す音と、扉が開く音がほぼ同時に聞こえてきた。


「すまない、待たせてしまったね。えっと、折出さん、だね?」


背の高い、四十歳前後の男性が入ってくる。声は優しそうで、それでいてリーダーシップのありそうな印象を受ける。名前を確認して目の前にやってくるその男性に挨拶をしようと、私も腰を上げた。


「はい、折出彩葵です。よろしくお願いします」


「ああ、座っていいよ。アルバイトの面接だよね? アルバイトは初めて?」


「初めてです。大学生になったし、そろそろ経験できることをやってみようと思って……」


面と向かって話す男性は、レストランの店長、というわけではなく、アルバイトなどの下っ端を管理する副店長で、松野と名乗った。

面接といっても、受験で味わうようなピリピリとした雰囲気はなく、質疑応答を繰り返し、最終的には必要事項の話に落ち着き始めた。




「じゃあ、シフトは週三日。夕方四時からを頼むよ。出勤曜日は月が替わる前に一か月分提示するから、自分で確認しておいてくれ」


「は、はい! お願いします!」


話が全て終わると、どうやら面接には合格したようで、五月からの勤務を知らされた。研修期間というものがあるらしく、その間は私を指導してくれる先輩がついてくれるらしい。初日当日に紹介するから、と言われ、面接は終了した。


「そうそう、制服なんだけど、出勤してから着替えてほしいんだ。衛生的な問題があるからね。制服も、当日渡すから、よろしく頼むよ。じゃあ、気を付けて帰りなさい」


「はい。ありがとうございます、失礼します」


無事終了したことに胸を撫で下ろし、レストランを出る。隣にあるゲームセンターから洩れる騒がしい音を聞きながら、家の方角を向き、ゆっくりと歩く。色々な環境に染まり始めた私は、少しだけ、新鮮な心地よさを感じていた。





● ● ●


ゲームセンターで、岸と遊んでいた俺は、その岸に誘われて近くのコンビニにいた。何でも、読みたい漫画雑誌があるらしい。俺はそこまで漫画に興味がない方で、夢中になる岸の横で、適当に雑誌をめくって時間を潰していた。


「なあ! 泉妻! 見ろよこの子可愛いだろ!!!」


「え? いや声でかい……お前少女漫画読んでんの?」


ずいっと見せられたページには、まあまあ可愛らしい女の子のワンシーンが、一ページの半分に大きく描かれていた。岸の好きなタイプは、女の子らしい女の子、という感じのようだ。


「読めば女の子の気持ち分かるかと思って! 彼女欲しいし!」


「お前実はチャラいんじゃねーの……?」


「そんなことねーって! ただ優しくありたいじゃん!? そんで困ってたら助けたいじゃん!? 本望の表れだな!」


「間違っても、女絡みで面倒ごとに巻き込まないでくれよ……ん?」


コンビニにいるということを考えていない、岸の口調に半分呆れながら、外に目を映すと、向かいの歩道を渡っている人物に目が留まった。


(……彩葵。面接終わったのか。LinEしてみるか)


そう思った俺は、すぐにスマホを取り出した。




〇 〇 〇


ブブ、とスマホが振動する。ポケットから取り出すと、そこには見慣れた名前の人物からのメッセージが来たことを知らせる、緑色のアイコンが出てきていた。


(晃から? ……向かいのコンビニ、あれかな?)


【彩葵が見えた。友達と一緒に向かいのコンビニにいる。良かったら来て】


必要事項だけが書かれたメッセージを読み、道路を挟んだ向かいのコンビニに向かう。友達と一緒にいるということは、晃もこの辺りで用事があったのだろう。

横断歩道を渡り、入店の音を鳴らして中に入ると、雑誌コーナーに立つ二人の男性が目に入った。


「晃ー」


私が入って来たことに気づいた晃も、こちらを見て少しだけ笑いかけてきた。


「あ、彩葵。おかえり。終わったの?」


「うん、五月になってからバイト始まることになったよ。お隣は友達?」


何やら、真剣に雑誌を読んでいる。手にしているものは漫画雑誌だろうか。それも、女性向けのような表紙だ。


「岸梓真。ほら、前に一緒にサークル入ったっていっただろ? その一人」


「岸くんね。凄い夢中みたいだね」


「……こういう漫画が好きらしい」


私たちが会話をしていても、全く気づいていないのか、こちらを見る気配もない。晃が呆れたのか、その肩を思い切り叩くと、驚いた声をあげてこちらを見た。


「いて! え!? 増えた! しかも彩葵ちゃん!!」


「うるさい。さっきからいたよ。やっぱ気づいてなかったのか」


「私のこと知ってたの?」


「ああ、まあね。よく泉妻と一緒にいるし、覚えちゃった。俺はー」


「晃に聞いたよ、岸くん。よろしくね」


私がにこりと笑うと、岸くんはこちらこそ、と言いながら笑った。読んでいた雑誌の一ページを見ると、そこには可愛い女の子の大きなワンシーンが描かれていた。


「……待て、夢中になってると思ったら、ずっとそのページ見てたのか」


「あっ、いやその……あはは。好みがバレちゃうな~」


後頭部をかきながら、少し照れて見せる困った表情は、男の子らしいやんちゃな性格を表しているようだ。素直な人なのだろう。


「彩葵も合流してるし、遅くならない時間に帰るよ」


「もう帰んの!? 遊ぼうぜ泉妻! 俺の暇つぶしに付き合ってよー!」


「正直かよ、他当たれ」


「あー、分かった分かった! 俺も帰るって! 一緒に帰ろうぜ!」


慌てて雑誌を置き、すでにコンビニを出ようとしている晃と私を必死で追ってくる。


(晃って割とクールなのに、賑やかな人と友達になったんだなあ)


そんなことを考えながら、晃の少し後ろについて歩く。その横から、岸くんは私にたくさん話しかけてくれて、今日一番に笑った時間だった。


そうして、すっかり薄暗くなった中、岸くんと分かれ、晃は私を家まで送ってくれて、一日は終わった。

また一人増えた友達の賑やかさで、一層楽しみが増えたことを、ひっそりと喜んだ。



【また明日】


晃が家に着いたのだろう。

私のLinEに、一言だけのメッセージが届いていた。



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