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彩がとけるまで  作者: みんとす。
Ⅰ 彩られる春
2/7

彩・交友関係 1



―少し肌寒く、しかし春特有の花が、僅かに風に乗って散る今日この頃。学生も、社会人も、新たな環境に赴く。

どこにでもある、普通の四年制大学に進学が決まって数か月が経った今。スーツを身に着け、少しだけメイクをして、これから四年間通う学校を前に、深呼吸をする。


(楽しみだな、大学生活。一人で来るとなると不安だけど……)


私の背後で、土を踏む音が聞こえる。振り返った先にいる人物もまた、私と同様に、目の前の大学へ進んだ人。


「おはよう、彩葵(あき)


「晃、おはよう! スーツかっこいいね!」


中学生の頃から友人関係が続いている、私の目に映る泉妻晃芭(いずのめこうば)は、そうかな、と言いながら少し頬を赤らめていた。

六年来の付き合いのある晃と一緒に、その門を通り、学内の景色に心を躍らせた。




〇 〇 〇




入学式から一週間。

一通りの講義を受け、少しだけ大学に慣れた私は、近くに座っている人達に声をかけていった。女の子は、みんなそれらしくおしゃれをし、男の子はラフな身なりの人から、寝坊したような格好の人まで様々だった。当たり障りのない話をして、少しずつ友人を作っていくことができていき、これからの大学生活に、より一層の期待を持っていた。


「彩葵、楽しそうだね」


「うん! みんないい人たちばっかで、いろいろと盛り上がっちゃった!」


大学に入っても変わらない関係を保つ晃は、大学に入るのを機に一人暮らしを始めたらしい。私はといえば、ほとんど仕事で家にいない両親がもつ家で、変わりなく過ごすだけ。半分一人暮らしのようなものだけれど、それでも晃のように、自立している人は凄いと思える。


「そういえば、今日予定は?」


「んー、ないかな! 晃のおごりなら付き合うよ!」


晃からそう言って誘いが来るのは、今に始まったことではない。親しくなってからは、よく二人で出かけたり、互いの家を行き来して食事をさせてもらっていたりと、とにかく家族ぐるみで仲が良い。

特別家が近いわけではないが、時間があれば必ず一緒に過ごしていた。


「付き合うっていうか、夕飯。材料買うから、彩葵が作って」


「えー! また! めんどくさいよー、どっか食べに行こうよ!」


「そんなんもったいねーよ。彩葵が作るの美味いし、久しぶりに食いたい」


もちろん、私も女の子。そう言われて悪い気はしないものの、素直に喜べない理由がある。


「そんなこと言って、晃の方がうまいでしょ!」


「否定はしないけど」


「少しはしてよ!」


講義のあった部屋を出て、並んで歩きながらそんな会話をする。適当にあしらう晃は、眉を下げて柔軟な笑みを見せている。私からしてみれば笑い事ではない。


「もー。……分かった、何食べる?」


「あ、いいんだ。じゃあ……チーズの入ったハンバーグがいい」


「それ好きだねー。材料の調達は任せた!」


「あはは、任せて。楽しみだなー。……つか、一緒に買いに行こうよ。後で落ち合うの面倒だし」


それもそうか、と近くのスーパーに寄ってから帰ることになった。予定調和か、晃は会計の時に買い物用鞄を出し、購入したものを入れていっていた。私よりも家庭的なところは、ずっと変わらない。





あれから、私の家に来た晃は、約束した通りに私の作ったチーズ入りのハンバーグを中心に夕食を食べあげ、さわやかにお礼を言って帰っていった。

食べっぷりは見ていて気持ちがいいけれど、まるで晃の親になったような気分だった。

……と、昨日の一連のことを、入学後すぐに仲良くなった武川菜乃佳(たけかわなのか)ちゃんに話した。それも、昨日の帰り際に、私と晃が並んで帰るのを目撃し、気になったという理由で、私は問い詰められていた。


「へー! あんたたちやっぱそういう仲? 付き合ってるの?」


「え? ううん。付き合ってないよ。っていうか、晃とそういう関係になるの、考えたことないから」


「ええ!? 中学の頃から一緒にいるのに!? どういうこと!?」


「それは俺も知りたい。どういうこと? 女の子だろ?」


盛り上がってきたところに、晃も室内に入って来ていたようで、ひょっこりと顔を覗かせた。菜乃佳ちゃんはそれに驚いて悲鳴を上げ、晃はさらにそれに驚いて大きな声をあげていた。


「二人とも驚きすぎだよ」


「あんたが冷静すぎなのよ! 急に来たらびっくりするでしょ!」


「俺も武川さんが普通だと思う。で? 意識しないの? 昨日だって彩葵の家に二人でいたのに、何も思わなかった?」


「だって晃だよ? 付き合いも長いし、今更意識も何も……」


それを聞いた晃は、すっと真顔になっていた。まずいことでも言っただろうかと思いながら、いまいちその感覚が掴めないでいると、菜乃佳ちゃんが晃をフォローした。それに対して、「いつものことだから」と、少し困ったような表情で笑っていた。

講義後、また一緒に帰ることを約束し、晃はその場を離れて、新たにできた男友達の横に座りに行った。


「……泉妻くん可哀相に」


「え? 何で?」


「……イケメンなのに、はあ、可哀相」


「何! 晃が何!? 菜乃佳ちゃん!?」


頬杖をついてため息を吐きながら、晃を可哀相だという菜乃佳ちゃんに問うも、「自分で気づいたら教えてあげる」と、少し意地悪なことを言われた。



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