地獄へのピクニック
ぽちもすっかり猫カフェに馴染みました。
今日は久しぶりの猫カフェたまと、うさかふぇうさみーるの合同イベントで、有志のお客さんと我々スタッフ、猫ちゃん、うさちゃんで、公園でピクニック兼、写生イベントだ。もちろん、自分たちで筆を握ってもよいが、魔法ギルドで写生のスキルを持っているプロに描いてもらえる(有料)というもので、いつもの屋内ではなく、屋外での写生なので、コアな常連は残らず参加している。
もちろん、お弁当セットもいつも違い半額でご用意させてもらっておりますでやす。ゲスゲス!
俺は、いつも俺たちのカフェの写生を担当してくれているクルド君とメリンダさんに声をかけた。
「いつもすみません。今日は屋外なんで、いつもよりお支払いはいいかと思いますので、よろしくお願い致します。」
「こちらこそ、いつもすみません。本当にありがとうございます」
クルドさんは、魔法学園卒業後、写生館で仕事について以来ずっと担当してもらっている。18歳くらいのちょっと細身のイケメンだ。ちなみに、彼が写生館の次のオーナーだ。前のオーナーがギックリ腰で半引退となってからメリンダさんをやとって二人でやっているらしい。
「それにしても、タクト君は、すごいよね。まだ12歳なのに、たまとうさみーるの二つのオーナーなんだもんな。しかもこうやってお仕事もくれてるし。えらいえらい!」
メリンダさんはフランクなお姉さんで、俺の髪をわしゃわしゃした。どうも、弟が多いので、俺にも気楽にせっしてくれている。
「ああ、メリンダさん、タクト君にそんな失礼なことしちゃいけませんよ。彼とはこれからもずっと長いおつきあいになるんですから」
クルドさん、まじイケメン。
「しかし、メリンダさんにきてもらってよかったですね。彼女の写生技術は天下一品ですからね。」
「そうだね。」
「いやいや、ここに拾ってもらわなかったら、写生士としては私は終わってたからねー。」
確かに写生は普通軍隊で敵の位置などをすぐさま伝えるための魔法として発達したので、軍かまたは余裕がある貴族に雇われるのが普通だ。だが、メリンダさんは、貴族ではないので、軍に入るしかなかった。しかし最初の従軍で片足を失ってしまい走ることができなくなってしまったのだ。現在は、再生の技術でかなり精巧な足がついているが、それにしても本物のようにはいかない。しかしギックリ腰で人手が必要だった写真館には、渡に船だったのだ。
ご主人が二人にくっついてほしいと思っているのは内緒。
「ところで、あの方は、もしかして歌姫のミリカ様じゃありませんか。」
「え?誰?ああ、ええと、そうそう」
ちょっとためらったのは乳魔人の名前を忘れていたからではないぞ!俺の名誉のために行っておくけど。
「私ファンなんです。サインなんか後でいただけませんかね。」
「いいと思うけど、聞いてみるね。おーい、ミリカー!」
すると、ランちゃんとぽちと一緒に遊んでいたミリカがこっちに歩いてきた。あいからわず、本当に美人だ。こんな美人、この世にいるんだな。クルドさんもうっとり見ている。それを面白くなさそうに見ているのはメリンダさんだ。
「どうしました。ご主人様?」
「クルドさんが、サインが欲しいとおっしゃっているんですが、お願いできますか。彼は我々の商売のパートナーなんだ。」
「まあ、ご主人様のためでしたら、なんでもいたしますわ。ミリカでございます。お初にお目にかかります。私の夫がいつもお世話になっております。」
このやり取りを聞いていて、クルドとメリンダが驚いているようだ。
「へ、タ、タクト君、王女様と結婚するんじゃ!」
「えーと」
そこにサーシャがやってきて、
「王女様ともミリカともミケとも結婚の予定さ。あたしもそのハーレムに入れてもらおうとおもってるよ。それだけじゃなくて、ランちゃんもね」
二人の驚愕の度合いがあがったようだ。
「で、で、でもまだ、タクト君12歳なんだよね。」
「あーーーーーええええええと」
ぶつぶつとクルドさんがつぶやいている。
「まさか店主としてだけではなく男性としても負けているなんて……」
なんだかひどい誤解だ。おいサーシャ、やめろ!
「ま、まさか、あそこの幼女も、ハ、ハハハーレム要員????」
それを聞いたるーたんがぽちを連れてやってきた。
「パパー!るーたんに何かようなん?」
それを聞いて、クルドさんがあわわわわといってひっくり返った。
ひっくり返ってしまったクルドさんの分も写生をしなくてはいけなくなったメリンダさんは忙しい。魔法の力で風景を写し取って、写真のような精密さで写し取っていく。
写生は、その後に自分なりのアレンジ、(まあフォトショップのような修正だが)、完全に仕上げる。そのままではなく、その修正加減で、客がついたりつかなかったりする。
「すまん、ここに凛々しく立ち猫ちゃんを頭に乗せた私の絵を描いてくれ!」
ケイトよ、凛々しく猫ちゃんを頭に乗せるなんてどういうシチュエーションだ。
「姉ちゃん、俺は木の下で優しく猫を膝に乗せている絵をお願いするぜ!」
セオドアよ、お前がやったら、猫ちゃんをピクニックで食そうとしている筋肉おばけにみえるはずだ。
しかし、そのような無理難題をメリンダさんは綺麗に仕上げていく。まるでケイトやセオドアではないようだ。
「ぼ、ぼくは、るーたんが、ぽちを抱いているのを遠くで眺めている姿を描いてほしいんだな。」
さすがスミス殿、こんな時でもノータッチだ。流石すぎだ!
全てが終わって、寝ていたクルドさんが寝覚めた。
「ううううう。す、すまない。メリンダ。どうも迷惑をかけてしまったようだな。」
「何言ってんだよ。水くさい。でも給料は弾んでおくれよ!」
それを聞いて、そっと、メリンダにクルドさんがそっと箱を渡す。
「開けてみて。」
中に入っていたのは指輪だった。
「これをずっと持っていたんだけど、なかなか勇気がでなくて。でもタクト君が若いのに、僕より立派に奥さんも何人も養って子供までいる。それで、勇気をもらって、君に申し込む勇気が出たんだ。結婚してくれ!」
「嬉しいんだけど、私、もう結婚してるんだけど」
「ふぉおおおおおおおおおおお!」
そして、クルドさんが二度目の失神をした。
後でわかったが、これはメリンダさんジョークだったらしい。ミリカに鼻の下を伸ばしている(メリンダさんにはそう見えたらしい)クルドさんにお灸を据えてやろと思ったらしいが随分裏目に出たものだ。
あれから2人は結婚を決め、仲良く写生館を一緒にやっているらしい。時々、お客さんの求めにより、2人にも来てもらっている。それにしてもメリンダさんたら、お茶目だ。
クルドさんイケメンです。