ラシーヌの瞳再び
記憶の中ではどんなものでも美しいですよね。
サイン会が終わってからしばらくコタローは、ひきこもった。無理もない、あんなに怖い発情したメス共に囲まれたんだ。人間不信にもなるだろう。
しかしあのパクリ本、ゲフンゲフン、ベストセラーのラシーヌのためには、すごい勢いで売れているそうで、サーシャが次のイベントをやりたがって怖いよ。コタローお前のせいでひきこもってんだぞ!
それにしてもあれが、ほぼ、そのまま歴史をなぞっているということは知らなかった。でも、あんなにアリ王子は、美形でもなかったらしいよ。それに本当は、ラシーヌの瞳を大きなキャンディだと思って飲み込んで喉につまらせて死んだアホな王子の話らしい。
ガウラン様が教えてくれたんだから間違いないな。でももう800年以上も前のことなんで詳しいことを知っているのは、ガウラン様しかいないらしい。
「そういえば、ガウラン様」
「なんじゃ、タクト殿。」
ガウラン様、相変わらず猫ちゃんを撫でるのに夢中だ。
「ラシーヌさんって、まだ存命なんじゃないですか。」
「いやいや。エルフがいくら長命だとはいえ、もうラシーヌは生きてはいまいよ。でもな。わしは思うんじゃ。かなえられなかった恋じゃからいつまでも輝くのじゃ。思い出の中にあるからこそ、全て美しいのじゃ。過去のことは全て美化され、そして、記憶の中にしまわれるのじゃ。」
へ、へぇー。なんだかガウラン様が、かっこよく見えたよ。一瞬だけど。
「それにな、ラシーヌは死んでなどおらん。」
「え?でもガウラン様、もう生きてはいないだろうって…」
するとガウラン様は、そっと手を心臓の上にあてた。
「彼女は今でも生きておるよ。わしの心の中にな。そこには、若いわしとラシーヌがいつまでもいつまでも微笑みあって生きておるのじゃ!」
カラン、その時ドアがなった。お、客か?
するとえらい年取ったばあさん?爺さん?がそこにいた。
「ガウランどの、覚えておるかの、わしじゃ、ラシーヌじゃ。本読んだぞい!なかなかええのう。」
ガウラン様はその場で卒倒された。そのあと、何をラシーヌ様に話しかけられても目が死んでいた。どうやら、ラシーヌ様、たんなる話好きのおばあさんと化していてうるさい、うるさい。記憶もぼやけていて、同じことを何度も繰り返して聞かされるので、うんざりした。
それからガウラン様もひきこもった。なむ〜〜〜。
ガウラン様、かわいそうです。




