コタロー危機一髪
黒猫かわいいですよね。
「タクちゃま!僕もついに人化できるようになりました!」
えい、っとばかりに人化するコジロー。黒髪、黒目、ブレザーに半ズボンの可愛い少年になった。お、これなら、猫カフェの受付とか任せてもいいかな。そう思ったら、声がした。
「う、嘘。」
そこに立ちすくむ赤毛の少女。急にこっちに走ってくると俺の腕をとって、店の裏側へと連れて行った。う、カツアゲはやめてください…。
「あ、あんた、あの、ふ、ふつくしくてハンサムな子、って誰?」
「はぁ?お前ショタコンだったのか。」
「何よ、そのショタコンっての???あんた時々分からないこと叫ぶわね。
悪かったな、単なる日本人ジョークだよ、ケッ!
あの子、今流行りのこの挿絵の子にそっくりなのよ!」
見ると、それは、いわゆる少女達の間で流行っている小説、「ラシーヌのために」であった。
よくわからないが、この本の中で、王子である兄に虐げられる薄幸の第2王子アリとそっくりらしい。ま、興味もないし、よくわからないし、わかろうとも思わないけど。
「あ、あの幸せ薄いアリ様が存在していたなんて、こうしてはいられない。アリ様を幸せにすべく、ファンを集めてくるわ!」
えーと、何が起こっているか、ついていけないが、まあ、なんでもいいから俺に迷惑かけない範囲でお願いします。
甘かった。1時間後、俺の猫カフェは、目をキラキラ輝かせた女共、あえて言おう、発情したメス共の群れで一杯になっていた。猫カフェ常連も締め出されてしまっており、ひどい状態だ。お前ら、なんか頼めよ!
「アリ様、こっちむいてくださいまし。」「アリ様、これをめしあがって!」「アリ様、わたくしの方をみてくださいませ」
同時に話すから聞き取れないしうるさい。しかもみんな鼻息荒く、目が血走っている。コタローは、もうヘビににらまれたカエル状態だ。かわいそうに。
その夜、ヘトヘトになったコタローは涙目で俺にこういった。
「タクちゃま、もうしばらく人間にはなりません。怖いです。猫ちゃんとして、撫でられる方がずっとマシです!」
うん。それには俺も同感だ。
それからしばらくアリを求める少女達が花束や贈り物を持って通い詰めるのであった。お前らなんか頼め!
近所の黒猫さんは、心のお友達です。