セリーヌの悲劇
亀です。いつもありがとうございます。短めです。
のぞみちゃん、悪いけど、海上国家に行って、セリーヌから原稿もらってきてくれないかな。
「お、うなぎ、いいけど、ちょっと時間かかるよ。それに、お給金もはずんでもらうからね。」
「ああ、いいぞ。海上国家の王妃様、セリーヌ直々のお願いだからな。」
のぞみちゃんはあっという間に見えなくなった。本気で走れば、本家の新幹線より速いと思う。
セリーヌのお願いは、今、巷で話題の雑誌連載の原稿をこの街の編集部に届けることだった。海上国家に移る前からの連載で、今回が最終回だそうだ。
俺もちょっと読んだが、ミステリー仕立てで、王を殺されたことで、誰が犯人かわからず、疑心暗鬼になった第1王子、第2王子、第3王子が争う中、第1王女、第2王女が真相を突き止めようとしてた。そんな中で悲劇が起こり、真相を知っていた第1王女が、事故で死んだ。しかし、それは事故だったのか。大臣、そして、王の弟である公爵をもまき込んでの争いの中、第2王女が真犯人を突き止め、全員を王宮に呼び寄せたという回で終わっていた。結構面白い。
俺が、掃除をしていると、そわそわとしたケチャとシェール、そしてミリカがやってきた。
「どうしたんだ。こんな時間に。おやつの時間はまだだよ。」
「いえ、実は店長・・・・・」
どうやらこいつらは、のぞみちゃんが原稿を取りに行っていることを知って、そわそわとここに集まったらしい。
「だめだよ。覗き見しちゃ。受け取ったら、サインをして、確認した後、直接編集に持っていくから!」
「ご主人様、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいのです。」
ミリカが可愛らしく訴えたが却下!そんなことしていたら、信用に関わる。
すると、スーパースピードで、のぞみちゃんが現れた。
「さすがのぞみちゃん。疲れたろ。ミルクでも飲んで休んでくれ。」
俺はのぞみちゃんにミルクをあげて、原稿を受け取った。
なぜか、ケチャ、シェール、ミリカが距離をじりっじりっと詰めてくる。
「おいおい、誰にも見せないよ。」
しかし、この言葉が合図となって、争奪戦が始まってしまった。しかも悪いことに、ケイトまで参戦した。隠れていたのか。とんだ伏兵だ。
ところが、4人が掴んだ瞬間、袋が破けて、原稿が、ミルクに落ちてびちょびちょになってしまった。
「お、俺のミルク!!!」
のぞみちゃんが沈痛な声をあげた。悪かった。俺は、のぞみちゃんにミルクとクッキーを差し出した。
「こ、こんなとこにいたら、またミルクをだめにされちゃうぜ!」
のぞみちゃんはミルクとクッキーを加えて這々の体で逃げ出した。
俺たちは原稿を見つめていた。やばい、完全にダメになっている。ま、仕方ないか。
「大丈夫だよ。巻き戻しをうまく使って復元するから心配するな。それより、復元しても、奪い合うなよ。」
「わ、わかったわ。」「ごめんなさい。」「約束しますわ。」「タクト殿、誓ってもうしないぞ!」
俺は、巻き戻した。そして頭を抱えた。
目の前には、紙とインクの原材料が鎮座ましましていた。ヤバイ・・・・・・・。
「店長、これは??」
「巻き戻しすぎました。テヘッ!」
「可愛く言っても無駄です。どうしましょう。」
そうなのだ。でも俺たちには女神様もいれば、ガブちゃんを始めとする有能な赤ちゃんたちが・・・・・・。いない。どこだ???
「あ、さっき、女神様たちは、赤ちゃんたちを連れて神デパートに出かけたのん。なんでも絶品のミルクとアイスがあるとかで。」
ランちゃんがしれっと言うのを聞いて俺は頭を抱えた。な、なんですとぉー!
悲惨なことに、あと3時間で入稿だ。どうしよう!今からのぞみちゃんに頼んでもセリーヌが書き終わる保証などないし・・・・・・・。
俺は、みんなを見た。
「でっちあげましょう!」
ミリカが言った。
奇遇だ。俺もそう思っていたところだったのだ。
ところが、誰一人として文才などないのだ。あれこれ叫んでいるうちにあと1時間になってしまった。
くっ!こうなったら!
俺はペンを走らせた。
皆さんに集まっていただいたのは、王殺し、そして、第1王女殺しの真犯人について、お話することです。王が、私たちの父がなくなって、このように政治が混沌としてしまい、そして、裏切りが横行するようになりました。すると、宰相である大臣が叫んだ。ですから、申し上げたではないですか、これは、外国勢力が我が国の力を殺ぐためにおこなったことであると。いいえ、王女は、首を振った。残念ながら、犯人はこの中にいます。犯人は・・・・・・。その時、大地震が起こり、王宮は潰れて皆死んでしまった。謎は迷宮入りとなった。そして、王家につらなる善行で名高い辺境伯爵が、あとをついだ。そして、皆、この恐ろしくも混沌とした5年を記憶にとどめることで、いましめにしたのであった。
俺は、筆を置いた。わからない時はみんな殺すのが一番だ。俺は額の汗をぬぐった。やり遂げた、という気持ちでいっぱいだった。
原稿を編集者に持って行くと、原稿をチェックする編集が首をひねっていた。それはそうだ。筆跡も違えば、内容もデタラメだ。しかし、編集者はまあ、いいかという具合で、魔力を込めて、出版の準備を始めた。
ま、俺のせいじゃ、ないよね?
その後、なぜかシュールな最後が人気となり、これは、コメディだったのだ、という評価で落ち着いた。セリーヌにそれが届いた時は、後の祭りで、仕方なく、本来のバージョンを入れた本を出版したのだが、バカバカしい俺が書いたバージョンも泣く泣く収録したようだ。なんか、ごめん。本当に・・・・・。
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