ジムノペディア〜あるいはガブの悲しみ〜
亀です。いつもありがとうございます。
別れの予感と共に雨が降ってくる。静かな雨が。それは最初、ポツポツと屋根を叩き、そして、街をゆっくり静かに濡らしていく。
単調な雨のリズムが眠気を再び誘う。雨の音は心臓の音だ。街をゆっくりと循環させていく。
教会の鐘が遠くに鳴り、静かに朝が来たことを告げてくれる。毎日のゆったりとした繰り返し。だが、何かが少しずつ微妙に変わって行き、気がつくと取り返しのつかない地点まで我々を運んできてしまっている。
サーシャが去ってからちょっと皆も落ち込んでいる。起きたくはないが、えいやっ、と起きて朝ご飯の支度をする。コーヒーを作ると、ゆっくりと日常が戻ってくる。希薄だった現実が色濃くなり、一日がゆったりと始まる。頑なだった心も少しずつ柔らかな場所を取り戻していく。
「店長、オハヨー!」
シェールが珍しく早起きをしてコーヒーを飲みにくる。なぜか違和感を感じたが、それが何だかわからないうちに、次の瞬間がきてしまう。
冒険者飯を作らないと、そう思うが、雨がこんな風に降っている時は、歴戦の冒険者たちは、なぜだか、家でのんびりとお休みを決め込むものも多い。こんな日に稼ごうというのは、老練な冒険者がいないことで、自分たちの分け前が増えると思っている若者が中心だ。そんな若者のためにちょっと味を濃くした冒険者飯を作る。少しずつ朝の喧騒が戻ってくる。世界の色が戻ってくる。
サーシャがいないという現実も戻ってはくるが、それは鈍い日常に埋もれていく。俺は、その喪失感を忘れようと、体を動かす。体が温まってくると、やっと日常の繰り返しが戻ってくる。
今日は、なぜか、雨の日にしては比較的忙しい日だった。でも体を動かしていると考える暇がないので助かるのだが。
雨の日は、パンとスープがよく出る。まあ、雨の日の特別メニューで、いつもは高いサンドイッチを安く提供しているというのもあるのだろうが。
パンを切って、中にたっぷりバターを塗る。そして、チーズと薬草、そしてたっぷりの薄切りのハムを挟む。上薬草を使ったサンドイッチは比較的高いのだが、苦味を抑えた薬草のサンドイッチはお手頃なので、大人気だ。冒険者は苦味が効いたサンドイッチの方が効能が高いので好みだが、店では上薬草のような苦味が少ない、ただし効能は低めのサンドイッチも提供している。このセットが雨の日はいつもの銅貨5枚から3枚になるので、皆頼んでくれる。まあ、雨の日は、儲けは度外視だ。
午後になっても客足が途絶えず、忙しい。
ガチャーン、と皿を割る音が店内に響く。珍しいランちゃんがお皿を割るなんて。俺はなぜか、何かを思い出しかけるが、気のせいだと思って、作業を続ける。
店の合間に赤ちゃんたちを見に行く。主に最近ではミリカが中心になって面倒を見ていてくれる。赤ちゃんもなぜかミリカが抱くと安心するようだ。
夜には、家族で一緒にお風呂で汗を流して、あとは、就寝するだけだ。あたたかいミルクを飲んでゆったりする。
俺たちは忙しい1日を終えて体を横たえる。
朝から雨だ。別れの予感と共に静かな雨が我々を濡らす。それは最初、ポツポツと屋根を優しくノックする。そして、街は、ゆっくりそして、静かに雨に濡らされていく。
単調な雨のリズムだ。それが、我々の眠気を誘う。遠くで、教会の鐘が聞こえる。朝だ。いつもと変わらない繰り返し。何かが変わってはいるのだろうが、微妙すぎて気がつかない。気が付いた時には、既に我々は遠くへと運ばれているのだ。
サーシャが去ってから皆の落ち込みもひどく、気だるい毎日が続いている。起きたくはないが、えいやっ、と起きて朝ご飯の支度をする。コーヒーの香りと共に、ゆっくりと日常が戻ってくる。一日が始まるのだ。
「店長、オハヨー!」
シェールが珍しく早起きをしたようだ。そして、コーヒーを飲む。そこで、俺は、なぜか違和感を感じた。この風景。どこかで見たような。しかし、それが何だかわからないうちに、次の瞬間がきてしまう。
冒険者飯を作る時間だ。雨がこんな風に降っている時は、歴戦の冒険者たちは、家でのんびりとしたがるものらしい。なぜかはわからないが。こんな時に、活動するのは、名をあげたくてうずうずしている若者だ。
そんな若者のため冒険者飯は、ちょっと味を濃くして作る。朝の喧騒を我々は取り戻す。否応無しに。
サーシャがいないという現実を我々は、鈍い日常に埋めていく。その喪失感が、そこにあることを意識して、それでも体を動かす。体が温まってくると、なんとなく、日常を取り戻したきになる。
なぜか、雨の日にしては比較的忙しい。まあ、体を動かしていると考える暇がないので助かるのだが。
雨の日は、パンとスープがよく出るので、パンを切り続ける。このパンは、苦味は薄いが、それでも薬効があるので、人気が高い。しかも、雨の日には特別に安く提供しているので、余計、雨の日の人気の裏メニューとなっている。午後になっても客足が途絶えず、忙しい。
ガチャーン、と皿を割る音が店内に響く。珍しいな、ランちゃんがお皿を割るなんて。俺は何かを思い出しかけた。そうだ。こんなこと、どこかでなかったか・・・・・・・・。俺ははっと気がつく。このゆったりとした雨の日の繰り返しに我々が囚われてしまっていることを。俺は、大体誰が犯人か見当がついたので、赤ちゃんがいる部屋へと足を運ぶ。
ミリカが、そこでガブちゃんをあやしている。そうか。お母さんが恋しくて、そして忘れたくなくて、この日を繰り返していたのか。俺はガブちゃんを腕に抱いた。ガブちゃんが悲しげに微笑む。そうか、悲しいのは、俺だけではなく、この子は、もっともっと悲しかったんだな。
とたんに、呪縛が解けて、俺たちは循環から抜け出す。それにしてもこんな循環を作ってしまうなんて、ガブちゃんは、本当にすごいな。
夜になった。家族で一緒にお風呂で汗を流した。そして、あたたかいミルクを飲んでゆったりする。
俺たちは忙しい、ある意味、忙しすぎた1日を終えて体を横たえる。
翌日はすっかり雨もあがり、清々しい朝だった。朝日が、残りの雨によってもたらされた水たまりを奪っていく。そして、また、1日が、ある意味、繰り返しが始まるのであった。
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