デメテル様と悲劇と俺
亀です。いつも遅くて申し訳ありません。
デメテル様がいらして、悲劇に参加する人間が足りないからと駆り出された。コレー様の人形劇よりましだと、そう思っていた自分を殴り倒したいです。
「うわー、今日はソフォクレスかな、エウリピデスかな、私はアイスキュロスがいいなぁ〜。」
ヘーちゃん様、なぜかうきうきである。
「どうでもいいけどエウリピデスは勘弁。」
アテナ様が、げっそりした顔で呟く。
「あいつ、デウスエクスマキナ多すぎ。」
アルテミス様も泣きそう。
着くとそこにはすでに大勢の人がいた。新入りは後ろで機械の操作、と言われて、後ろに回った。
「おい、新人、しくじったら、殺す!」
殺気立ったベテランくさいスタッフが俺に怒鳴る。ところが、どう見てもそれは、俺だった。
はぁ?わけがわからん。
「そのうちわかるから、黙ってやっとけ!」
出し物は、タウリケのイピゲネイヤだ。結構面白い。しかし、この劇、アテナ様が登場人物なんだな。本物のアテナ様がアテナ様の役をやるっていうのは、どうなんだろう?
とりあえず、俺がやるのは、機械仕掛けの神をやるアルテミス様を吊り下げることだった。本来なら空を飛べる女神を吊るすって、どういうこと?
ちんたらやっていたら、舞台監督という男に尻をけられた。しかし、そいつも俺だった。なぜだ!
コロスは、大勢のアテナ様とアルテミス様・・・・どうして何人もいるんだろう???
途中、助監督というやつに足を蹴り上げられた。脛が痛い。
また、監督には、怒鳴られまくった。
しかし、こわいのは、ここではない。怖いのは、舞台を仕切っている全員が、俺の顔、俺の声だったことだ。
なんなんだ。
しかし、劇はスムーズに済んでたったの2時間程度だった。誰だよ、4日も5日もかかるっていったのは!
終わってから、みんな泣いていた。監督なんかは、やっと終わった!次はお前の番だ助監督と、しゃくりあげていたところだった。引くわ!
ところが、悲劇はここからだった。ギリシア悲劇の上演の方が悲劇だなんて、誰も思わなかったに違いない。
はいはい、じゃ、今度は、慣れたろうから、舞台装置の担当だぞ!
はあ?よくわからん。しかし、次の瞬間、俺は驚愕した。デメテル様が、いきなり、中央に現れ、アテナ様、アルテミス様、そして俺を連れてきたのだ。あれ?これ、デジャブ?
どうも、人間が足りないから、時間をループさせて俺たちを閉じ込めて数を揃えているようだ。なんてこった。
6回後の上演で俺はヘトヘトになった。ロープ係の新人がやってきた。
そいつは、何も勝手がわかっていないようだった。ちっど素人が!
俺はその新人に目を充血させながら声をかけた。
「おい、新人、しくじったら、殺す!」
新人は俺を見て戸惑っている。説明も面倒なので適当に言っておいた。
「そのうちわかるから、黙ってやっとけ!」
それにしてもアテナ組は仲が悪い!殴り合いの喧嘩がしょっちゅうだ。アルテミス組も掴みかかりの喧嘩がたえない。その度に俺たちが止めなくてはならない。面倒だ。
20回の上演で、俺は舞台監督になった。もうほとんど寝ていない。死にそうだ。
とろとろしている新人がいたから腹いせに尻を蹴っておいた。そいつは驚愕して、俺を見ていた。眠い。ひたすら眠い。
それにしてもここに来て、ヘーちゃん様組の素晴らしさが染み入るようにわかった。みんな仲がよく、和気藹々としている。殺伐なアテナ組、アルテミス組とは大違いだ。
30回の上演の後、ついに俺は、助監督になった。プロ意識がない新人がいたから、脛を思い切り蹴り上げてやった。いい気味だ。
そして、ついに、監督の卒業の時がやってきた。俺は、心から祝福した。涙を流していると、次は俺の番だと言われた。そうだ、次の監督は俺だ!気を引き締めなくては!
監督になって、新人がドジをしないように怒鳴りちらした。馬鹿が!やる気がないやつはやめちまえ!アホが。
そして、最後の瞬間がきた!ああ、これで終わりだ。短かったような、長かったような・・・・。ああ、舞台が成功して本当に良かった。俺は、次の助監に全てを託した。頑張って素晴らしい劇にしてほしい。
そして、俺はなぜか離れたくなくなっている自分に気がつき愕然とした。帰ろう帰ろう!
デメテル様に送っていただいて、ボロボロになったアテナ様、アルテミス様を見て、自分を見た。そして、気がついた。自分もボロボロなのに。
「どう、これ、けっこうくるでしょ!」
「自分に罵られ、ボロボロになるって精神的にもくるのよね。」
「えー、そうかな。楽しかったけどなぁ。」
ヘーちゃん様は偉大なり、俺はこれからヘーちゃん様のおかずを一品増やすことにした、そして、何を言われようともデメテル様の劇には参加しないことを心に誓ったのだった。
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