雨とダンマスと勇者
勇者、イケメンいくない!
今日は、珍しく朝から雨なので少し憂鬱だ。雨は大好きなのだが、雨になるとハンモックで外でサボ・・・・・思索に耽ることができないからだ。そうなのだ!
まあ、冒険者にとっては、ダンジョンの中なのでそんなに関係ないが、古傷が痛むという理由で家でまったりする人も多いらしい。まいまはダンジョンの繁忙期でもないしな。
ダンジョンも実は、ダンマスのさじ加減だし、中のモンスターも契約制で、消えても死ぬわけではないし、冒険者も、お金を全部差し出せば生き残れるので、そんなに危険な商売ではない。まあ、大人の事情だ。まあ、持ちつ持たれつの関係なんだな。で、ダンマスも大会があって、繁忙期になると、結構危険になるようだ。俺には関係ないけどね。
カラン、ドアが開く。おや、あれは、この近くのダンマスじゃないか。
「あれ、おひさしぶり。こんな時間に油売っていて、いいんですか。」
「やあ、タクト君かい、困ったことが起きてねえ。」
「はあ。」
ため息をついた のは、短髪黒髪のイケメンのヒロ君だ。メガネ男子としても、頑張っているらしい。メガネ、この国では貴重なんだよね。セリーヌみたいな大金持ちでない限り持てないしな。まあ、ぶっちゃけ、魔法で目は、よくすることができるんで、ファッションなんですけど。後、小金持ち宣言。
「勇者がこっちに来ちゃってさ。もう、儲けが全部取られちゃって。大変だよ。」
「あちゃー。困りましたねえ。」
どうやら、勇者は、最近名を売ってきた隣国のイケメンらしい。うーんイケメンいくない!
しかも、そのパーティー、どうもハーレムパーティーらしいんだな。でもさ、ぶっちゃけ、魔王が不在の現在、勇者なんてやることないから、ダンジョン攻略で名をあげるしかないんだよねえ。でも隣国まで来るなんてえぐいよ。多分、向こうで嫌われて、こっちに来るしかなかったんだろうけど。
「でさ、これは相談なんだけど、あ、あくまでビジネスね。その勇者を追っ払って欲しいんだけど。」
「えーと。でもいま、結構忙しいし・・・・」
「お任せください。おいくらお支払いが可能ですか?」
サーシャ、お前いきなり、びっくりするだろうが!
「今、財政が厳しいんだよね。まあ、金貨10枚ってとこかなあ。」
「それだと厳しいですね。じゃ、例えば、金貨はいいので、勇者とパーティーの装備では?」
「うーん。でも、それだとちょっとなあ。勇者たちの装備が宝箱にあるって知ったら、みんな来てくれるだろうし。金貨10枚と、勇者とパーティーの装備の半分では?」
どうも、この2人で交渉を始めてしまったようだ。やれやれ。働くのは俺なのに・・・・・・。
小一時間話していて、どうやら、やっとまとまったらしい。
「じゃ、悪いけど、明日来てくれるかな?」
「明日と言わず、今から行きますよ。勇者たちはどこらへんにいまいるんですか。」
「確か、地下30階ぐらいじゃなかったかな。そこのクリスタルゴーレムさんが、いい仕事をしてくれて、止めてくれてるんだ。でも、時間の問題かな。」
はぁーっとヒロ君ため息をついた。気の毒に。
「善は急げ。私たち、支度を整えるから、コーヒーでも飲んで待っていて。これは奢りよ。」
お、珍しい、サーシャ、お前もいくんかい!しかし、ここのコーヒー代、俺が負担することになるんだぞ。もう!
「おい、サーシャ、お前、勇者だぞ、大丈夫か?」
「心配ない!ぴょん子さん、カモン!」
すると、ぴよん子さんが、現れた。うさカフェの衣装を着ているということは、仕事の途中だったんだな。
「お呼びでありますか。店長殿!」
「あ、いまから、私とタクトで悪者をやっつけに行くから、ついてきて。」
「悪者ですか。」
「そう、勇者をかたるニセ勇者。しかも、女の子たちを騙して、ハーレムを作っている極悪人!」
「ああ、タクト様のような方ですか。」
ち、ちげえし、俺はハーレム作ってねえし。ほんとだよ!
俺は、コシチを呼んだ。こいつは極悪火力持ちなんで、問題ないだろう。
コシチ!
「ごし人さま、ここにいるろ!」
いきなり、頭の上に、ぽん、と乗った。オッケー、準備は整った。
俺たちを見て、ヒロ君はすごく戸惑った。
「えっと。勇者はフルパーティーなんだけど、どうして、3人?」
「ちょっと待った!この子を忘れているぞ!」
俺は、コシチを両手で持って、ヒロ君の前に突きつけた。
空気を読んでコシチがにやーとなく。
ヒロ君は机に突っ伏した。
「まあ、やらせてみてよ。これでダメだったら、もっと連れてくるから、様子見ということで。」
「え、でも失敗してもこの分は、ださなくてもいいよね。いいよね、いいよね!」
サーシャ、お前、どんだけヒロ君を追い込んだんだ。
「も、もちろんよ。」
お前、絶対払わせる気だったろ!
ヒロ君が、手を前に掲げると、ぶん、と音がして魔法陣が現れた。
「じゃ、行きますかね。言っとくけど、このパーティーは、勇者、賢者、魔法使い、剣士、武闘家の5人パーティーだから。」
「およ?商人は?」
「あ、そっちは、洞窟には入ってきていないし。最後に、ダンマスを追い詰めて、交渉するのが商人の役目だから。」
「オッケー!でもそいつとは気があいそうね。まあ5人じゃ、このメンバーでもオーバーキルね。」
ヒロ君は、疑わしそうに俺たちを見たが、何も言わなかった。
気がつくと、31階にいた。
「この上です。では、ご健闘をお祈りします。」
ヒロ君、サササと逃げていった。まあ、相手が勇者だからね。
俺たちは上にいった。ちょうど、クリスタルゴーレムさんが追い詰められて、消されそうな場面だった。俺は、コシチに合図した。
すると、コシチは張り切って、障壁をはって、かつ、クリスタルゴーレムさんの体力を回復させた。
「新手?」
魔法使いが叫ぶ。ふりふりのフリルが入ったゴスロリっ子だ。
「これは相当の使い手よ!障壁に不干渉域が設けてある。信じられない。私でも突破できない。」
魔法使いが驚いて叫ぶ。
「だから、魔法なんて、たるいものより、拳が一番さ!」
なんだか、コスプレパーティーにいるような気分になってきた。こいつは、なんだか嫌な気分だ。
しかしコシチの障壁を破れるなんて拳は、この世に存在しないので、もちろん弾かれてしまう。
頭にハチマキを巻いてインチキな武道着を着た武闘家は驚愕の表情を浮かべた。
「これは、私の仕事らしい!」
金髪で長い髪をした剣士がゆらりと、歩み出し、剣を走らせた。それなりに鋭い。でもコシチの障壁はね。やぶれませんよ。
「何をやってるの。もう、それでも勇者パーティーなの?」
お決まりの聖衣を身にまとった女性が立ち上がった。あ、俺あの人知ってる。結構えらい神様の神官長だ。
呪文をいうけど、あれ、多分間違っているぞ。あれだと効果も半減以下だ。そして、当然、傷すら着けられない。
すると、勇者がついに剣を抜いた。あ、あれ、結構いい値段のする聖剣だよ!いいな。
「さあ、知恵と武の神よ、その力をこの剣に宿したまえ!」
えーとそれアテナ様のことだから、しかも、そんなんじゃ、力、宿んないから。
案の定弾かれた。よかった、折れなかった!しめしめ。
すると、ぴょん子がタタタタタ、と出て行く。
「この偽物勇者め!おしおきです!」
「はあ、私たち、本当の勇者パーティーだし!」「子供は、帰ってねろ!」「おじょうちゃん、おっぱい飲みたいの?」
ひどい言われようだ。ところが、ぴょん子がチョップをすると1人、また1人と倒れていく。
勇者は驚愕の表情を浮かべた。
「あんた、帰った方がいいわよ!怪我するわよ!」
サーシャが余裕で腕組みをする。
「ふ、お前らはなぜ俺がハーレム勇者と呼ばれるか知らないようだな!これを見ろ!」
勇者は、指輪を掲げた。あ、あれ、多分魅惑の指輪だな。全然きかんよ、あれって格下にしか効かない武具だし。
案の定、何もおこらないはずだった。ところが。
「きゅいーん、勇者様、スキスキスキ、結婚して〜ん!」
ヒロ君、なにやっちゃってくれてますか。どうやら、後ろで見ていたらしい。アホだ。
勇者男にぺろぺろされて嬉しくなさそうだ。
ていっと、ヒロ君を気絶させたサーシャ。そして、勇者もパシっとぴょん子にされて、気絶した。
俺たちは、入り口で待っている豪華な馬車に乗り込んだ。
「えええー、勇者様たち、まけちゃったんですか。信じられない。」
「こいつ弱すぎだろ!本当に勇者なのかよ!」
「ま、それは本当なんですが、魔王もいない昨今世知辛くて。」
「それで、相談があるのよ!」
サーシャと商人の子が、悪そうに話している。どうやら、俺たちの誰かが魔王の代わりになって戦う代わりに、売り上げの80%を渡せということらしい。
「えー、そこは、せめて60%でしょ!」
「じゃ、70%と、スポンサー料!」
「スポンサー料の方がずっと、賞金より多いんですよ。」
するとにやっと、サーシャが笑った。じゃ、賞金は、こちらの丸取り、そして、スポンサー料はあなた方でどう?
「ううううううううん。まあ、いいかあ、このままだとこっちもジリ貧だし!」
ということで、新たな商売がここに誕生したようです。
勇者の装備はそのままにしてくれと泣きつかれたので、馬車にあった、全ての宝はいただきました。結構、いい武具もあったし、まあ、いい売り上げかな。
「じゃ、これから、宜しくお願いしますぅー。」
「あ、みんな、こいつの魅惑の指輪に騙されてんだけど、いいの?」
「あ、そんなのみんな知ってますよ、ぶっちゃけ、勇者様が一番弱いんですから。」
衝撃の事実!
「まあ、みんな幼ななじみで気の毒な勇者を助けてあげてんです。実は、賢者以外、みんな恋人いますし。賢者は、勇者に本気ですから、いつか結婚に持ち込むと思いますよ〜。」
知りたくなかった、この事実・・・・・・・。賢者黒いぞ。今度の神官長の集まりで、もう顔を正面から見ることができなくなりそうです!
俺たちは、洞窟に帰った。
「は。僕は一体?」
「もうダンマスのくせしてだらしないんだから。はい、これ売り上げ!」
サーシャ、お前、それ、多分今日の手取りの10%もないぞ!
「あ、ありがとう、こんなにもらっていいのかい?」
「それにこれが伝説の武具よ!」
ちがーう、それ、多分隣国のダンジョンに落ちてたやつだ!
「こ、これが、ありがとう、ありがとう!」
次の日、伝説の武具が手に入るというので、大勢の冒険者が、冒険者飯を買って行ってくれた。嬉しい。でもあの武具、伝説のじゃないけど、性能は同じぐらいだから、いいか。
それにしてもサーシャよ、お前、がめつくないか?結局全て、金庫行きだよ。こういうやつだよ、サーシャは。結婚資金ってなんだよ!
亀です。コメント、ブックマーク、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。