猫カフェたま、火事になる!
鼻水がどまりばせぬ。
俺は、呆然と、すっかり火に包まれた猫カフェたまの前に立っている。早朝出火したのだ。どうしてこうなった????
幻獣は皆スタコラさっさと逃げ出したし、クモ山さんと子供も無事。誰も被害にあってはいないが。不幸中の幸のはずなんだが。お、俺の職場が!!!!
するとミケが後ろにすっと立ってささやいた。
「こういう時の時渡りにゃ!」
そして俺たちは1日時間を遡った。原因を探るために。
夕方に近い午後。いつもの風景だ。1日のうちで暇な時間帯だ。これを過ぎるとダンジョン帰りや、仕事帰りの常連客でごった返すのだが、今は、主婦層を中心とした常連さんたちだ。
カラン、音がして、先生が入ってきた。しかし、誰も先生の方をみようともしない。いつもの風景だからだ。だが、急に皆、ぎょっとした顔をする。なぜなら、女の人の声がしたからだ。
「へえーここが先生のいきつけのカフェなんだ。」
「声が大きいよ。みなさんの邪魔にならないように、もっと小さな声でね。」
綺麗な女性だ。歳は20台後半か、30台の前半というところか。先生にずっとついてきて、一緒の端のテーブルに座る。目立たないようにだ。誰も注目していないが、俺は知っている。みんな、耳をそばだてている。それが証拠に話す人は誰もいない。
先生は、昨日の俺に向かって2本指を立てる。同じものを2つという意味だ。コーヒーが2杯欲しいということだろう。昨日の俺は、コーヒーをいれて、カップを二人のテーブルの上においた。
女性は、一口のんで、おいしいとつぶやいた。
「ところで、いつになったら、私のことをもらってくれるんですか。」
時が止まった。先生は、誰かが聞いていないか、不安そうにキョロキョロする。しかし、みな、猫ちゃんを撫でるのに一生懸命だ。表面上は。
皆、限界まで耳に神経を集中させている。
「卒業したら、って最初はおっしゃって、次は高校の教師を退職したらっておっしゃって、次はいつまで待てばいいんですか!!!!」
「しぃーっ声が大きい。前にも言ったように、君は若い。若すぎるんだ。私はもう引退した見出し、もう余生なんだ。君がこの余生に付き合う必要はない。」
「でも、私は付き合いたいんです。」
そして、女性はわーわー泣き出した。先生は困った顔をしている。あんなに困った顔をした先生は初めて見た。
俺とミケは、窓の外から、この光景を眺めている。あの後、急に女性は、立ち上がって、走り去ったんだっけ。ほら、今、出て行った。
一人残された先生は、ちょっと困った顔をして後を追おうとして座り込んだ。
少しして、立ち上がると我々に向かって言った。
「すみません。お見苦しいものをお見せしました。」
すると、皆んな、全然?え?何かあった?という顔をして、そのまま猫を撫で続ける。
ちょっとして、コーヒーを飲み終えた先生は席を立って、帰宅した。いつもよりちょっと早いが、いつもの風景に限りなく近い。
しかし先生が去ってから、主婦たちがひそひそ囁き出した。エンタメに飢えている主婦には絶好のエンタメであったようだ。すぐ町中に広まってもおかしくはないだろう。
俺は、あの女性が怪しいと睨んだ。ミケも同じ意見だ。
時間を進めると、やっぱりそうだ。あの女が戻ってきた。手には薪を持っている。そして、それに、火をつけた。俺とミケは飛びかかった。
「きゃ!」
「放火するなんて、ひどいやつだ!」「にゃ!」
俺は、女性を引きずって行った。
「どうして火をつけようなんて思ったんだ!」
「そ、それは!憎かったんです。この場所が!」
「ど、どうしてにゃ!ここにきたのは1回だけじゃにゃいか!」
「わ、私の先生が、レン様がここに憩いを見つけていたと知ったから、ここがなくなれば、私のところに帰ってきてくれると!」
先生、名前あったんだ!驚くとこはそこじゃないか。
「火をつけても、物事は解決しないにゃ!」
「わかってます。だからやめようとしていたら、あなたたちが現れて」
「嘘いうな!」
俺は、女を神殿に閉じ込めた。そして、元の日に戻った。
「あの女、嘘言ってにゃかったにゃ!」
目の前には燃え尽きた、猫カフェがくすぶっていた。
「もう一度戻ろう!」
俺は、女が来るのを眺めた。俺たちが止めようとするのを止めて一緒に見た。すると、確かにそうだ。女は薪に火をつけたが、思い直したのか、火を消した。からんと薪を落とすと、立ち去った。おかしい、すると誰が?????
向こうから、誰かがよたよたやってくる。これは、セオドアとケイトだ。酔っ払っている。
「うはははは!俺様がこの国1の剣士様だ、おそれいったか。」
「ふははは、すぐに2番に転落させてやる!」
おまいら仲がいいな。すると、ケイトが薪を見て、つぶやいた。
「こんなところにゴミを落としては、いっけませーーーーーん。」
そして、猫カフェの庭に投げ捨てた。
やつらが立ち去ると、煙が、庭の草から立ち上った。まだ、火はくすぶっていたらしい。
なるほど、こうやって火事になったのか。俺は、火を消してから、2人を追いかけ後ろから思い切り殴り倒した。酔っ払いは崩れ落ちた。悪は滅びた。
翌日、2人は朝、頭がズキズキするといいながらコーヒーを飲んで行った。気が付いたら道路で寝てしまうほど2人とも酔っ払っていたらしい。怖いね。風邪ひくよ。
その日の午後、俺は先生を説得した。案の定、先生は、彼女のことが嫌いではないが老い先短い自分に未来ある若者を付き合わせてはいけないと思っていたらしい。でもよく聞くと、教え子だったらしく、その頃から言い寄られていたんだって。十分、若さを消費させてるよ!先生。そりゃ、17、8から30までひっぱられたら、誰でもキレるわ!俺だってキレる。
先生は、女性が、ローラというらしいが、放火しようとしていたと聞いてショックを受けたらしい。そしてようやく、結婚を決意したらしい。
それから、2人が常連になってくれたのは、いいが、時々、ローラが腹黒い企みをしているように見えてならないのは俺だけかもしれない。
いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。