星々の中で
いつもありがとうございます。
俺は、果てしなく落ちていく。俺が落ちているのは星の海原の中だ。俺はこの感覚を知っている。これは明晰夢だ。俺は夢と知りながら落ちていく。今度はどこに俺はいるんだろう。それとも俺は誰かの夢の中に入り込んでしまったのだろうか。
「また来たのかい」
声がする。誰だ。姿が見えない。落ち続けながらも俺は耳をすます。
「あ、失礼。こっちの方がわかりやすいかな。」
途端に星々の中に少年の姿が現れる。
「そうか君には少年の姿に見えるのか。おもしろい。」
ここはどこなんだろう。
「ここは、いわゆる、宇宙の、世界の終わりだ。前に来たことあったよね。見なよ。君たちの誰かが言ったように、世界は、派手に終わるのではなくすすり泣きで終わるってね。」
でもなぜ俺はここに?
「君は、今、ほかの人の夢の中に囚われてしまったのさ。まあ、囚われ人になったとしても、その人が起きれば君も解放されるけどね。」
しかし、こんな夢を見る人がいただろうか。俺のほかに。
「よく考えてみるといい。そうそう、わかっているじゃないか。そうだ。」
そうか、わかった。しかし、どうすれば。
「簡単なことさ。この夢が繰り返される原因をとってやればいいんだ。」
俺は、落ち続ける。星の海の中を。
「しかし、起きるって言ったって、どうやって」
「簡単さ、さあ朝だよ」
目を開けるとすっかり朝になっていた。俺は、いつものルーチンをこなすと、ミケにお願いをしに行った。
「ミケ、よく聞いてほしい。」
「ににゃ?ナンダにゃ?」
「あるところに俺たちを飛ばしてほしい。」
「ん?どこにゃ?」
「世界の終わり」
「んにゃ?にゃ?にゃ?」
俺は、ラムダを迎えに行った。ラムダは忙しそうに働いている。
「スミス殿、ちょっとラムダをお借りしますね。」
「い、いいんだな。ちょうど、おやすみしようと思っていたとこなんだな。1時間ぐらい後で帰ってくるといいんだな」
「わかりました。」
俺は、ミケに事情を説明して、ラムダを取り寄せた鉄の家に行くことにしたのだ。
そして、目の前がぼんやりとして、俺たちは、老人の前に立った。
「おや、もう去れといっただろうに。もうこの船ももたんぞ。お、ラムダも連れてきたのか。」
俺はラムダの方を見た。
「渡したいものがあったんだよな。」
すると、ラムダは、ポテトのようなものを手からだして、老人に差し出した。
老人の目から涙がこぼれた。
「最後の最後にポテトを見ることができるとは。しかも、これはラムダが作ったのかい。」
ラムダは、嬉しそうに見えた。そして、ちょっぴり誇らしげだった。
「ありがとうよ。」
老人はポテトを受け取った。
「それからこれ」
俺はあらかじめラムダのポテトで作っておいた料理を取り出して、テーブルの上に並べた。
「宇宙の終わりに、最後の食事が、それもポテトを食べられるとは。もうこれで思い残すことは何もない。」
時間が迫ってきていた。俺は、元のところに戻るようにミケに伝えた。
次の瞬間、全てはかき消えて、俺だけが、星の海の中にいた。
「どうやら終わったようだね。」
前回会った少年だった。
「ありがとう。これで、ラムダも、そしてあの老人も思い悩まなくてもすむよ。」
いやいや、こちも、モヤモヤしていたし、ラムダのこともあったしね。こちらこそ、ありがとう。で、あなたは?
「もうわかっているだろう。」
多分。運命の女神。
「その通りだ。ではまたいつかどこかで。」
俺はまた、起きればいいのかな。
「その通り。」
そして、俺は星を楽しみながら、朝をじっと待った。
これからもおつきあいよろしくお願いいたします。




