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雨の日

イギリスの食事のことを悪く言う人が多いのですが、本物のフィッシュアンドチップスはすごくおいしいのです。

今日は朝から雨だ。ダンジョンに潜るのに雨なんか関係ないと思っていたのだが、実は古傷が痛むという理由で携帯用食料の販売はぐっと落ちる。その代わり店内でまったりくつろぎたいという客が増えるので、雨の日は意外とお客さんが多い。


今日も朝から雨が降り始めたので、冒険者飯の売れ行きは悪かった。クラシック冒険者飯ときたら、スミス殿以外誰も買ってくれなかった。げせぬ。


ランちゃんは忙しそうにお客さんの間をまわっている。俺はといえば、憂鬱な気分で外を眺めている。こんな日は庭でゆっくりハンモックに揺られることすらできやしない。


「店長!ごめんなさい。ラムダが外に出っ放しだから中に入れてあげてぇ〜」


ランちゃんが俺に向かって叫んだ。おっと、ラムダが外に出たままだったか。朝、るーたんとぽちを神殿に送って行ってもらった後、外の警備をお願いしておいたんだったけ。俺はラムダをカフェの中に入れてあげようと思って外に出た。


ラムダは外で濡れそぼってしまっているかと思いきや、なぜかラムダの上で雨が消失している。どういう理屈なんだろう。しかも、足元の周りも濡れていない。


「おいで」


俺はラムダを奥の部屋に連れて行った。そういえば、机の上には、謎の石が置いてある。


最近、日記だと言われたこの石をどうすれば、読めるのか考えていたのだが、あれはただの夢でもっているのは、単なる石だったのではと、思い始めていたところだ。


うーん、と唸っていたら、ふと、俺はラムダならこの読み方がわかるのではと思い、ラムダに石をわたした。


「ラムダ、これの使い方ってわかる?」


まあ、わかるわけないよな、そう思った時、ラムダがその石に触れた。その瞬間、石が消失したと思ったら、俺の中に日記の内容がどんどん入ってきた。なぜかポテトのことが何度も何度も執拗に言及されていたのだ。面白いことにこの日記、男の人の声と、画像まで頭に入ってくる。演劇みたいだ。これで、あの鉄の家が何かわかるかもしれない。そして、あの世界の終わりというのが何かがわかるかもしれないのだ。


私にとっての人生最大の悲劇が起こった。やはり、船にポテトを積み込むのを忘れてしまったようだ。あの最後に残った荷物の中にポテトが入っていたとは何たる不運なんだろう。これからの残りの人生をポテト抜きで過ごさなければならないとは一体誰が想像したのか。こんなことなら、来るのではなかったかもしれない。ポテト抜きの人生など考えられないと思って生きてきて、どうしてこんなことになったのか。やはりこの世には神などいないようだ。


うーん。どんだけポテトが好きなんだろう。


ポテトで作ったスターチを見つけた。私は、血眼になって、全ての食料品をチェックした。文字通り、全ての品物をチェックしたのだ。そして、やっと見つけたスターチだったが、いかせん、量が少なすぎる。しかし、これが最後の希望だ。ここから模造品でもいいからポトテを再生できないものか。神よ助け給え。


あれ?神はいないとか言っておきながら何故、神に祈っているのだろうか???


これからの人生ポテトなしで毎日乗り切らないといけないかと思うとイライラする。生きていることがストレスだ。何故、こんなことになったのか。神を呪う!しかし、その時、私に、天啓があった。そうだ。ラムダに成分分析をして、生成させればいいのだ。何故、こんな簡単なことを考えつかなかったのだ!ハレルヤ!!!!ポテトのスターチをラムダに成分分析をしてもらい似たような製品を化学的に作り出した。成功だ。オリジナルのポテトスターチは大切にしまうことにした。神よ感謝します。


祈ったり、呪ったり、感謝したり、忙しいな。


ああ、今日は絶望でしかない。オリジナルの大切にとっておいたスターチの入れ物を倒してしまった。その瞬間に、清掃機が起動して、スターチをゴミだと思って吸い取ってしまった。この清掃機め。お前の方がゴミだ、とばかりに蹴ったが、どうやら足を痛めてしまったようだ。私の人生は苦難の連続でしかないのか。神よ!あまりにもポテトがなく幻影を見るようになってきたので、しばらく冷凍催眠で10年ぐらい寝ようかと思う。


よくわからないが、ポテト愛だけはよく分かった。


冷凍睡眠中は夢を見ないと聞いていたのに、ハンバーガーの横にあるカリとしたフライドポテトの夢や、ほくほくと蒸したポテト、ベーコンポテト、ポテトチップス、じゃがバターなどの夢をずっと見ていた。おかげで最悪の目覚めになった。終わりのない長い長い悪夢だ。私は起きてしばらく、打ちひしがれて動くことすらできなかった。ああ。普通に寝ていれば、起きれば夢は消えてなくなるが、冷凍睡眠の時の夢は、目覚めることのない悪夢だ。必要なければこれからは、できるだけ冷凍睡眠をしない方向でいきたい。


どんだけポテトに取り憑かれているんだ。


私にとって、人生最良の日がやってきた。ついにラムダに、フライドポテトの素材を生成させることに成功したのだ。ポテトスターチを成形し固まらせて、その上に、ポテトスターチを染み込ませて、油であげてみた。ちょっと味は違うが、紛れもなくフライドポテトへの道を歩みだしたような気がする。ここから仕上げていこう、ここからがスタートだ。


おお、これはなんだか共感できるぞ!俺のたこやき愛に似ているではないか。


何故だ!マッシュポテトは簡単にできるのに、何故、フライドポテトに手間取るのかがわからない。神は完全に私を見放したのか。いや、そんなことがあるはずはない。ポテトがポテトさえできれば、私はなんとかすることができると思う。その瞬間、私を更なる天啓が訪れた。そうだ。ラムダに今ある野菜のDNA組み替えを行わせて、擬似ポテトを作り出せば良いではないか。何故、最初からこれを考えなかったのだ。神は艱難辛苦を私に与えたが、最期は恵みをもたらしたのだ。ああ、喜びと不安の二つが交錯している。しかし、やり遂げるぞ。


誰かがラムダを盗んだ。やることがなくなった。絶望だ。もう寝る。冷凍睡眠だ。


起きた。やることがない。ポテトもない。もう偽物でもいいから食べよう。


今日も偽物のポテトしかなかった。フライドポテトはできなかった。


フライドポテトはない。


ふらいど


ぽて


俺は非常に悲しい思いに包まれた。これは、もしかしたら俺のせいではないのだろうか。いや、違うよな。うん。


ラムダを見ると何故か得意げに手からポテトのようなものを出して俺に、とれとれとせがむ。すまん。やっぱり俺のせいのようだ。俺は逃避するために寝室に行き、ベッドに倒れこんだ。ぐー。


お読みいただきありがとうございました。

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