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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二部 アーブルフェリックの泪 第一幕 港街
98/220

第96話 契りを約める

※2017/3/4:本文誤植修正しました。

 

 そしてゆっくりと真紅の口蓋(こうがい)と白い牙を見せながら(あぎと)を開くのだったーーーー。


 「待て、待ってくれ。我だ」


 【聖なる矢(ホーリーアロー)】をスタンバイさせて針鼠にしてやろうと思った居た矢先に、黒竜がそれを制した。ずんずんと僕の方に歩み寄って頭を垂れてくるじゃないか。“(けがれ)”を(まと)ったままーー。


 「へ?」


 どういう事? 助けを求めてナハトアを見るが、目を逸らされた。一先ず危険なので【聖なる矢(ホーリーアロー)】をキャンセルさせて、黒竜の言葉を待つことにした。説明してもらわないと理解(わか)る訳無い。


 「まず、我を迷宮から開放してくれたことに礼を言う。ありがとう。そして我の忠誠を受け取って欲しい」


 「御断りします」


 「「「「「えっ!?」」」」」


 「は?」


 躊躇(ちゅうちょ)せずに断った。アンデッドの臣下なんて敵を作るにはもってこいの口実だよ。そんなに懐に炭火を集めたいとは思わないね。5人と黒竜は断ると思ってなかったらしく言葉を失っていた。


 「え、ルイさん、黒竜のアンデッドが下僕(しもべ)になるんですよ?」


 アレクセイが考えなおしたら? という表情で勧めてくる。


 「本気?」


 マーシャ、君は僕のことをどう思ってるんだ?


 「そんなに欲がないとは思ってみませんでした」


 聖人君子ではないけど、要らないものは要らないと言える子です。


 「俺だったら直ぐにでも受け取るがな」


 そうだろうね。それから後悔が始まるんだよデニスくん。


 「あのね君たち、僕は生霊(レイス)でアンデッドだけど、生きてる人たちと上手くやっていきたいって思ってるの。そこを“穢”をぷんぷん撒き散らすこんな図体の大きなアンデッドを連れてたらどうなるか分かるでしょ?」


 まず考え方を変えてもらう必要があると思って、思考を促そうとしたんだけどーー。


 「わ、我は必要ではな無いのか……」


 肩を落とす黒竜。


 「落ち込んでるわね」


 とマーシャ。


 「酷いですね」


 アレクセイ、君はどっちの味方なんだ?


 「酷いな」


 デニスくん、君が言うのか?


 「助けておきながら無責任よね」


 クリチュカ、僕の時のように浄化という選択肢は浮かんでこないのかい?


 「う……なんだか酷い言われようだな。迷宮から開放しただけでも十分だと思うんだけど?」


 随分責められた感じがするぞ? え? これ暗に責任取れよって事なのか? ん〜確かにこんな図体(なり)のアンデッドが自由に動き回っていたら自然破壊もいいとこだな。現に黒竜の足元は腐食が始まってるし。待てよ?


 「せめてその大きな体はどうにかならないのか? ウチにも黒竜の()が居るけど人化できたぞ?」


 「!!」


 「「「「「ウチにも!?」」」」」 


 そこ!? そっちに喰い付くのか!?


 「あ、いや、その、言葉を間違えたよ。知り合いにって言おうと思ったんだ」


 この状況で実はハーレム持ってますというのは100%ドン引きだろう。ナハトアが僕に持つ印象は一気にマイナス領域に突入してしまう。それは避けないと。5人の信用してないジト眼に(さら)されるも、気付かないふりで押し通す。


 「黒竜だと!? 誰だ?」


 「同種だし分かるかな? シンシアって言うんだけどーー」


 「何と! シンシアは息災だったか!」


 知り合いらしい。そりゃそうか、竜族って人みたいに沢山居るわけでもないだろうし、寿命も長いから同郷であれば尚更か。


 「どれくらい前の話?」


 「そうだな。我をアオニア(・・・・)にある“竜の郷”で見送ってもらってからだから、200年は経つか。不思議と迷宮に囚われておる時も時間の流れだけは分かったのだ」


 どういう仕組みだ? それにしても200年前ね。やっぱりシンシアの年齢を聞くのもご法度(はっと)だな。「主殿、最近剣の腕が錆びててな」なんて笑顔で言われそうだ。口は災いのもと。怖や怖や。


 「シンシアの兄ではないんだ?」


 「兄? いや、違うな。兄のように慕われはしたが、シンシアには姉が2人居たはずだ」


 お姉ちゃんね。いや竜の気質がシンシアに見えたものもと同じなら、基本力比べ(ガチンコ)で判断されるんだろうな。面倒な国民性というか気質に見えるのは僕だけか?


 「で、シンシアにできてあんたに出来ないって事はないよね?」


 何て言えばいいか解らななかったからつい、あんたって言っちゃったけど怒ったか?


 「可能だ。見てるが良い」


 怒ってはないけど、疑われたことの方が嫌だったっていう感じだな。そう思った瞬間、(まぶ)しくて強い閃光が辺りを包み込む!忘れてた。シンシアの時もそうだった!


 「「わっ!」」「「「きゃっ!」」」「くっ!」


 閃光が晴れて視力が戻るまで1分とかからなかっただろう。でも感覚的にはもっと長く感じた時間が過ぎ去った後、そこに佇んでいたのは漆黒を基調に銀の縁取りの意匠が施された全身鎧(フルプレート)に身を包んだ黒髪の美丈夫だった。何故かエルフの男は見たこと無いけどきっとこんな感じなんだろうな、と不思議に納得してしまっていた。ひ、(ひが)んでるんでも(ねた)んでるんでもないから!


 シンシアと同じように左手にはほぼ全身を覆えるかのような大きな西洋凧風の盾(カイト・シールド)を持ち、腰に長剣を帯剣していた。兜と一体化した40㎝程の黒い角が2本背中側に伸びている。


 「黒髪。皆が金髪じゃないんだ」


 思わず(つぶや)いたのだったが、黒竜にはそれが(こた)えたらしい。


 「そうか、“()ちる”とはこういう事か。我も昔は金髪だったが、“(けがれ)”を(まと)った今その影響で変色してしまったようだ」


 そういうこともあるのか。ん?


 「「〜〜〜〜〜♪」」


 マーシャとクリチュカが黒竜に見惚れているのに気付く。お前らな。デニスくんとアレクセイが()ねてるぞ。ナハトアはやはりイケメンには免疫があるようだ。取り立てて見惚れることも動揺することもな行く普通に立っている。やはりエルフ男イケメン説は真実だったか。おほん、取り敢えずこいつらは放おって置いて黒竜だな。

 

 「こう見ると個体差はあるんだろうけど、黒竜は戦士の種族のようだね。いや騎士と言ったほうが良いのかな?」


 「その理解で間違ってはいない。我等は仕えるに足ると認めたものに従う性があるからな」


 やっぱりな。それならシンシアのあの気質も理解できる。あの(・・)掟も存在するんだろな。さて。


 「あんたの事をなんて呼ばばいいかな? まずはそこからだ」


 「我が名はヴィルヘルム。この姿を見せ、名乗ったからには我の主になる覚悟が出来たということか?」


 僕の問いに答えると、ずいっと乗り出してくる。それを制しながら簡単に自己紹介を済ませることにした。


 「あ〜その前に、僕はルイ・イチジク。見ての通り少し変わった生霊(レイス)だけどよろしく」


 さっきと同じ(てつ)は踏まない。と言うか、あのテンプレは封印だ!5人の顔には明らかに、普通の挨拶で面白くないって出てる。放っといてくれ。だいたい君たちは僕に何を求めてるんだ?お笑いなら勘弁してくれ。そんな才能は欠片(かけら)もないぞ。


 「先に、ルイ殿は我が小さくなればと言った。小さくなったぞ?」


 「そうだね。えっと、ヴィルヘルム。あんたは僕に忠誠を受け取って欲しいと言ったよね?」


 それに似たことは言ったな。でも確認しなきゃいけないことがある。


 「ああ、その通りだ」


 「それは一時の感情? それとも負けたから? あるいは、迷宮から連れ出したお礼のつもりなのかな?」


 「どういう事だ?」


 「いや、シンシアの時はそんなに簡単に折れなかったからね。拍子抜けしてただけさ。それとも何かい、僕の臣下になるように迷宮(・・・・・)から頼まれたとか?」


 「「「「「なっ!?」」」」」


 「それこそ意味が理解(わか)らぬな。迷宮からだと? 我を200数十年も縛り付けておった迷宮からそんな事を頼まれるなどと考えただけでも虫唾(むしず)が走る」


 ふむ。さてどうするかな。


 「少し考える。待ってもらえるかな?」


 「無論」


 実直でシンシアよりもお堅い感じだな。でも、僕は万能じゃないから違う角度の意見も欲しい。


 「ナハトア、ちょっといいかな?」


 「はい?」


 ヴィルヘルムから距離を取り、ナハトアを呼び寄せる。


 「どう思う? 誰かに(そそのか)されている可能性があると思うかい?」


 「ーーいえ、無いと思います」


 「その根拠は?」


 「あの黒竜の気質を考えれば策を打つには真っ直ぐ過ぎますね。これで演技だったら向こうが1枚も2枚も上手だったと諦めるしかありません」


 確かにな。


 「その意見には賛成だな。僕もそう思う。だけど手放しで良い駒が手に入ったとも思えないんだよな。何か良い手がないかい?」


 「ーーあの、良い手かどうか解りませんが」


 僕の問い掛けに両腕を自分の体に巻きつかせて答えてくれてたんだけど、その腕を解いて真っ直ぐ僕の眼を見てきた。何か策があるということだな。


 「続けて」


 短く促す。


 「はい。わたしの職ですが」


 「ああ、死霊使い(ネクロマンサー)か」


 「際限なく増やせるというものではありませんが、死霊魔法に【従者契約(バレットコントラクト)】というものがあります」


 ナハトアの職がそうだったはず。その証拠に(うなず)いて肯定してくれた。それにしても【従者契約(バレットコントラクト)】とはね。【眷属化】の劣化版みたいな理解で良いのか?それでも効果があるなら使わない手はないな。


 「どんな魔法なんだい?」


 そこで簡単にナハトアから【従者契約(バレットコントラクト)】の説明を受ける。(まと)めるとこうだ。死霊魔法の描いた魔法陣の中で対象となるアンデッドと術者の従者になることに合意すれば、この魔法契約は成立する。成立した証拠に術者が身に着ける魔力を帯びた装飾品(マジックアイテム)が同時に精製され、従者は召喚されるまでその中に居るということだ。【眷属化】とは少し(おもむき)が違うな。結局、それ以外に有効な手立てを思いつくこともなかったので、聞いてみることにした。


 「それで話は(まと)まったのか?」


 「一応ね。その前にもう一度確認させて欲しい」


 「構わん」


 「体を得た段階でここを飛び立つことも出来たはずなのに、何故僕に忠誠を、と思ったの?」


 「またそこか」


 「うん、でもその理由は譲れない」


 「シンシアの名前が出た今、どういう理由を付けても言い訳にしか聞こえんだろうな」


 固執してるかのような態度を見せるのは逆上するかどうかを見る為でもあるんだけど、僕自信が聞いてみたいという欲求に従ってる部分もあるんだ。


 「そこを判断するのは僕だから気にしなくても大丈夫」


 だから、そのまま続けるように促す。


 「うむ、真そのとおりだな。“竜媚香(りゅうびこう)”という竜族が特別に出す香りがあるのだが、聞いたことがあるか?」


 「“りゅうびこう”? いや、初耳だよ」


 シンシアは何も教えてくれてないしな。どういう香りだ?


 「できれば、シンシアには内緒で頼む。竜族の雌は、求愛行動の際に“竜媚香(りゅうびこう)”という雌しか出さない特別な香りを出すのだ。その香りを帯びている者であれば、竜に対して偏見もなく対等に見てもらえるだろうと思ったのが理由だが……これで良いか?」


 なる程、確か爬虫類には鋤鼻器(じょびき)ともヤコブソン器官とも言われるフェロモンを感じる器官があったはず。僕には理解(わか)らなくてもヴィルヘルムには気づけたというのも(うなず)ける。十分な理由だな。これで演技だったら、ナハトアの言うようにヴィルヘルムが一枚上手だったということだ。諦めも就く。


 「ありがとう。シンシアには黙っておくよ。ヴィルヘルムの言葉を受け取ります」


 と言いながら、シンシアが纏わりついていた左腕をクンクンと嗅いでみたけど僕には理解らなかった。ヴィルヘルムは苦笑いしてたけどな。


 「では、改めて我の忠誠を受け取ってもらえるな?」


 「その事だけどね。その忠誠を受け取ったとして、僕の願いで誰かを守ってもらうということは可能なの?」


 「是非もない」


 本当にブレないというか、躊躇(ちゅうちょ)なく即答するね。


 「分かりました。ヴィルヘルムの性格だと何をどう言っても折れないだろうからね。僕の負けです。こんな変わり者ですが、よろしくお願いします」


 とふわふわ浮きながら頭を下げると、突然(ひざまず)いたのだった。そして兜を脱ごうとするので。


 「その挨拶は(・・)は不要です! というか、【実体化】出来るようになるまであと3日待たなければいかないから、正式な挨拶はその時にでも良いですか?」


 「うむ。そういう事であれば我からは何も言うことはない。よろしく頼むルイ殿」


 しかし、君たち竜族は皆そうなの? それは頭を下げてるという事にはならないよ? まぁ種として上位種になるから上から目線なんだろうけど。誰かに仕えるというならその辺りをーーって無駄か。シンシアですらアーデルハイドの(しご)きに耐えても基本治ってないんだから。あと、あの挨拶(・・・・・・)をするつもりであれば誰かの眼に(さら)したくない。


 「じゃあ、僕からのお願い聞いてもらえるかな?」


 「聞こう」


 「僕の臣下として、ナハトアと【従者契約】をして彼女を守ってもらいたい」


 「理由を聞いても良いか?」


 「勿論。僕も散々聞いたしね。まずヴィルヘルムの(まと)っている“(けがれ)”は生きてる者に恐れられているので、そのまま旅に同伴させるには火種を増やすことになるということが1つ」


 ヴィルヘルムの問に答えていると、少し離れた所で4人がウンウンと頷いている姿が見えた。僕の指摘は間違っていないらしい。


 「このナハトアは死霊魔術師(ネクロマンサー)なので、彼女の従者として共に動いていれば野放しにされた不死族というレッテルを貼られずに済むというのが2つ」


 「なる程」


 立ち上がって、大盾を足に立て掛け腕組みをしつつ僕の話に耳を傾けるヴィルヘルム。えっと、腕組みは無意識に話を拒否しているサインなんだけどな。納得してないということか?


 「そしてこれが肝心な事なんだけど、ナハトアを僕が守りたいと思っても必ずしも彼女の傍に僕が居る訳じゃない。不測の事態で離れ離れになることだって起き得る。そんな時にヴィルヘルムがナハトアの従者であれば安心できるんだ。どうだろう?」


 恐る恐るヴィルヘルムの表情を伺うが、両目を(つむ)り何かを思案してるのか、今聞いた話を反芻(はんすう)しているのかよく読み取れない。遠巻きの4人は事態の進展に関心はあるものの、わざわざ危険を犯してまで首を突っ込もうとは思っていないようだ。何やらコソコソと井戸端会議を始めていた。


 理由を説明してからゆっくりと10数えた頃、ヴィルヘルムが眼を開く。


 「つまりこの者を我が守れば」


 「この者ってナハトアね」


 「うむ。このダークエルフを我が守れば」


 「ナハトアってちゃんとした名前があるよ」


 「う、うむ。な、な、ナハトア殿をわ、我が守ればルイ殿の命に従っていることになる、そう言いたいのだな?」


 何? 照れてるの? 男の僕の名前を言うのは平気みたいだけど、実は女性に免疫がないとか? 既に死者であることはどう転んでも覆らないし、現時点で使える聖魔法の中に【蘇生】【復活】と言った魔法は存在しない。だから、照れていたとしても頬に朱が走ることはないんだ。でも、余りに反応が面白すぎるよね。


 「(ナハトア。恐らくだけどヴィルヘルムは女性が苦手みたい。苦手というか、どう接してらいいのか分からないんだと思う。ベタベタしないで甘えてみてくれるかい?)」


 と耳打ちしてみた。「え゛!?」っとあからさまに嫌な顔をされたけど、にっこり黙殺してナハトアの背中を押す。いや、押すとすり抜けちゃうので促す、が正解だな。「できるだけ可愛く」と追い打ちを掛けておいたらキッと睨み返されてしまった。はははーー。お手並み拝見といこうじゃないの。


 「あの、ヴィルヘルムさん。ナハトアと申します。エルフは魔法には長けているのですが、接近戦を挑んでくるものにはどうしても遅れを取ってしまいます。非力なわたしですが、お守り頂けませんか?」


 両手の指を組んで伏せ目から上目遣いへのお願い攻撃(コンビネーション)を繰り出すナハトア。ベタ過ぎる気もしたけど下手に小細工を打つよりかは直球が良いかもな。


 「うむ。我に任せておけば良い。ナハトア殿には指一本触れさせぬ!」


 効果覿面(こうかてきめん)だったようだ。ちょろい。鼻息荒く剣を抜いて高々と掲げながら声高らかに宣言してるイケメンがそこに居た。迷宮に囚われたのってーー始めは「お願いします」と甘い声で強請(ねだ)られたのを安請負しちゃったからじゃないのか? 不安になってたら、引き()った笑顔で「どうするのこれ?」という表情でナハトアが助けを求めているのに気づいたので手を振っておいた。


 「す、少しルイ様と話をするので」


 「うむ。行ってこられるが良い」


 ものすごい速さでナハトアが僕の所に戻ってきた。そのまま行くのかと思ってたのに。


 「好みじゃなかった?」


 「そうじゃないでしょ!? 【従者契約】の説明をするのを手伝ってくださらないのですか!?」


 おっと、余りに予想が的中しすぎて面白がってた。


 「ごめんごめん、そうだったね」


 「人事だと思って面白がってましたよね?」


 「……」


 「人事だと思って面白がってましたよね?」


 「ごめんなさい。真面目しにます」


 今までにない気質の()が眷属になってたんだな。そんな新鮮さを感じながらヴィルヘルムの所に戻る。これからの段取りを伝えるためだ。


 「すまない。ヴィルヘルムが納得してくれたようなので、改めて頼むよ。このナハトアの従者として彼女を守ることを命じる、これで形としては良いかな?」


 「気を遣わせたな。承知した。このヴィルヘルム、身命を()してルイ殿の命に従おう!」


 もう死んでるんだけどな、とは思ったけど敢えて言わないことにしておいた。今の雰囲気に酔ってるようなのでーー。ナハトア、こんな面倒なものを押し付けるんですか? という眼で僕を見るのは止しなさい。そこは契約主の手綱の取りようだと思うぞ?


 「話は(まと)まったから、【従者契約】を済ませよう。竜牙兵ドラゴトゥースウォーリアーより強力な従者が手に入(護ってくれ)るんだから喜ばないと」


 と出来るだけポジティブに考えれる部分を前面に押し出しておいた。それにこの件だけで時間を潰すわけにもいかないだろうから。


 「はぁ。ではヴィルヘルムさんこれからわたしと【従者契約】を結んで頂きます。魔法契約なのでわたしが主という立場になることをお忘れになりませんように」


 「無論だ」


 「契約完了する際に、ヴィルヘルムさんだけに聞こえる最終確認の問い掛けがあります。そこで必ず合意して下さい。そうしなければ【従者契約】は成立しません」


 「承知した」


 何も溜息を()きながら説明を始めなくても。思わず突っ込みたくなったけど、説明が終わった瞬間空気が張り詰めたものに変わりそんな気持ちも吹き飛んでしまった。正直、死霊魔法なんてこれまで見たことがないんだからこれから起きることに好奇心が騒ぎっ放しだ。


 周辺に意識を向けるが、取り立てて可怪しな気配はない。迷宮も静かだが、“迷宮”の存在自体リューディアから教えてもらってるわけじゃないから正直得体が知れないと感じてる。先程のヴィルヘルムとの遣り取りで“迷宮”には意志があること分かったから、余計に気になるもの事実だ。そんなことを考えていると詠唱が始まった。


 「詠唱文(えいしょうもん)を詳しく聞いておきたい処だけど、邪魔が入らないようにしてあげる方が親切だよな」


 ゆっくりと2人から距離を取り、眼の前に広がる森より上へ出ないように上昇して周辺に気を配る。動く気配はない。あれだけ大きな“穢”を纏った者が現れたんだ、本能的に危険を察知する野生動物はここから一目散で逃げたしたに違いない。もし居るとすれば、魔獣や魔族の類か冒険者か、あるいは不死族ーー。


 視線をナハトアとヴィルヘルムに向けると、足元に4重円の幾何学模様が描かれた魔法陣が現れていた。


 「(ちぎ)りを(つづ)める……か。今思えば【眷属化】の儀式は神様(エレクトラ)が来なければ無防備だったんだよな。よくもまあ勢いでしちゃったもんだ」


 ………猫………


 ん? 猫? 何だ? ここには居ない声だぞ? 何処だ? 何処からともなく頭に響気渡った声に、ゾワゾワっと悪寒が走り生霊(レイス)であるにもかかわらず肌が粟立つ感覚に襲われる。


 ………泥棒猫。(わらわ)の可愛い黒蜥蜴(くろとかげ)を寝取ろうなどと、100年早いですわ。(おの)が浅はかさを悔いなさい………


 例の4人組も何処で声がしたのか分からないようでキョロキョロしている。声は聞こえていたということか。泥棒猫と黒蜥蜴の隠語でピンと来るのはこいつらではなく、今まさに【従者契約】を結ぼうとしているあの2人だ。


 「まずいっ!」


 「「「「えっ!!!!」」」」


 思考の所為で一瞬だけ反応が遅れた。


 その(しばた)く程の(わず)かな時間を縫って、迷宮の入り口から一条の光の槍がナハトアとヴィルヘルムを襲ったのだーーーー。








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