第93話 引き籠もり生活の終わり
ここから第二部の開始です。
ルイたちがどう動いてくれるのか、わたし自身も楽しみながら執筆していきます。
どうぞお付き合い下さい。
小鳥たちが囀る爽やかな朝。
朝露が陽の光を反射させて燦めく中、僕は歪な杖を振っていた。引き籠もり生活を始めて7日程経った頃からの習慣だ。早朝の時間を使って杖術の鍛錬を1年ほどしてきた。手にしている杖はアピスではない。最近は人の姿に慣れた所為かあまり杖の姿を見たことがないんだよな。
「ふっ!」
短く息を吐きながら杖を振る。
感触を忘れるのが怖いからと頼み込み、一度杖に戻ってもらった状態で粘土を使って型を取り、鋳物の杖を造ってもらったんだ。それに不格好な重りを付けて振り回してるという訳さ。
実は杖術というのは奥が深い。古い口伝に「突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも外れざりけり」というものがある。つまり、使い方一つでその幅が広がる武器なんだ。だったら折角ある技術を遊ばせておく理由はない、という結論に至った結果がこれ。
杖に付けてもらった重りは装着面に遊びがあるので振れば微妙に重心が動く設計だ。ガルム様々なんだけど。あ、ガルムはね、もともとドワーフというのもあったんだけどベルントさん一家が移住してくれた御蔭でメキメキ腕を伸ばして、今では師匠といい勝負さ。お互いに技を競い合ってる感じなのは僕としても嬉しい。
あ〜どこから説明すればいいかな。朝練に付き合ってくれるのはいつもアルマだ。体も名前を付けた時に比べて2倍の大きさになってる。もう欄干には乗れない大きさだ。だから屋上に降りて毛づくろいをしながら朝の時間を楽しんでるみたい。
で、半年くらい前に僕が生霊だって告白したら、誰も驚かなかった。「ルイ様はルイ様ですから」って一蹴されてしまったんだよな。引っ張ってドキドキしてた僕が莫迦みたいだったよ。
そこから“眷族”になるかどうか選んでもらった。
ん〜。
誰か一人くらい拒否する人居るかな? とは思ったんだけど、断る理由もないしという軽い理由であっさり“眷族”になっちゃったよ。え? それでいいの? って確認したんだけど覆ることはなかったな。正直興味もあったのは否定できないんだ。
人間が“眷族”になったらどう変化するんだろう? って。どうなったと思う?
「ふーっ」
杖を振る事から、ゆっくりと型という姿勢を取る動きに変えながら呼吸を整える。
順を追って話すと、アーデルハイドとマンフリートは刺激が欲しいと言って人→魔人(魔族)に進化しちゃった。おまけに人と魔族の年齢比率の違いが作用して若返ったというね。無いでしょそれ。で、目出度くゴールイン。それまでの立場と年齢とで踏みきれなかったんだと。
ゼンメルとファビアンはランクアップを選んだみたい。そしたら人→仙人に変わったよ。外見は変化なし。寿命が伸びたことと、所謂仙術が使えるようになったみたい。シェイラも持ってる【アクティブスキル】だな。人の姿のまま自分の持つ可能性を何処まで極めれるか、という目標が生まれたそうだ。頑張れ。
アイーダはランクアップを選んで、下級悪魔→上級悪魔に昇格。悪魔だったのね、というのがここで判明したわけさ。てっきり淫魔か? と思ってたから。乱れっぷりがね。
リューディアも同じくランクアップを選んで、エルフ→ハイエルフになる。これまた外見は変化なし。本人曰く、精霊に対する感受性や影響力、魔力などが随分上がったと教えてもらった。何かしら恩恵がないとな。それと“ヘクセ”と最初に呼んでいたのはエルフ語で“魔女”という意味らしい。称号だから変な名前のように聞こえたんだ。
ベルントさん一家だが、親子で決定が割れてしまった。まずベルントさんとフルダさんは目出度くドワーフに進化を遂げる。どちらも面影は残ったものの縮んだね。そしてここでも人とドワーフとの年齢比率の違いが作用して若返ってしまったのだ。つまり、ガルムとベルントさんのダブルドワーフ鍛冶師を手に入れたことになる。フルダさんは可愛らしいドワーフの女性だ。ドワーフの女性も色んなタイプがあるらしいが、可愛いのを選んだと後で教えてもらった。
娘のユリカちゃんだが、なんとまあそんなのありなの? と言いたくなるような変化を遂げる。人→木の精霊になっちゃったんだ。何でそんな決定を? と聞いたら、どうやらウチの息子といつの間にか恋仲になっていたというね。お前も男の子だったのねと嬉しくはなったが、そのカップルは成立するの? なんて変な心配もしたものだ。見た感じは人の時とさほど変わったようには見えないんだけど、少しだけ耳が尖ってるかな。今は見守ることにしてる。
「ふぅ〜」
杖を振り終わった僕は、欄干にかけてある布を取り汗を拭う。気持ち良い。欄干から城の下に広がる池に眼を下ろすと、今朝もユリカちゃんがトレントの樹に背中を預けている姿が見えた。
「人の事を言えた立場じゃないけど、仲が良いことだ」
口元が緩むのを感じながら、特製の杖をアイテムボックスに収めるのだった。
クルルルルルル
翡翠色の羽根で身を覆ったアルマが嬉しそうに鳴く。首筋を撫でたのだ。いつものスキンシップを済ませて部屋に戻り、朝食の前に汗を流すためにお風呂に向かうことにした。朝風呂で誰かを連れ込むことはしない様に心掛けている。これも1年前から続けていることだ。夜は楽しむけど、早朝はアーデルハイドの扱きと言う名の訓練があるから邪魔しないようにしたんだ。
食事を取った後はリューディアの座学が待ってる。1年掛けて社会の仕組み、貨幣について、歴史や法律、冒険をするにあたっての注意事項、ギルドのことや魔法概念などを学ぶことが出来たのは大きかった。あと、ある程度だけど文字も書けるようになったのは収穫だな。
毎朝の風呂の際には順番で2人が僕の世話のために扉の前で待ってる。
「おはよう、シンシア、ディー」
今朝はこの2人。彼女たちだけじゃなく、皆アーデルハイドの訓練に耐え抜き及第点を貰えるまでになったのは驚きだ。
「「おはようございます。ルイ様」」
この時だけは口調を気をつけているようで、いつものような話し方は影を潜めている。そこまでしなくても、とアーデルハイドに言ったこともあったんだけどね。基本が出来れば好きにすれば良いが今はダメだと斬り捨てられた記憶がある。でもこの時は基本を守ってるみたい。
脱がす側も脱がされる側も慣れたもので、僕も違和感をかんじなくなった。ダメな大人になりつつあるなとも薄々気付いてるけど、そのままだ。領地内で外観内観が変わった所は殆ど無いかな。殆どというのは、増えたものがあるからなんだけどね。
「あ〜気持ち良いなぁ〜♪」
お風呂でお湯を溢れさせながら朝練の疲れと汗を流す。シンシアとディーは脱衣場で立ったままだ。呼べば来てくれるのは分かってるけど、それはしない。
増えたものの続きだけど、居住区が出来たんだ。ガルムの家の隣りにベルント一家の家、ジャック一家、ヒューゴ一家、エドガー夫婦と一列に並んでる。並んでると入っても日本のベッドタウンのような狭い感じじゃないよ? 戸建てで二階付き、家と家の間隔が10mは空いてるかな。その向かいに鍛冶場と革工房と機織り工房が並んで建ってる。だから二列だな。
ん? そうそう、クラムとヘルマは無事に出産したんだよ。進化したのが妊娠中だったこともあって、それぞれ生まれてきた4つ子の内2人が獣人で、もう2羽がデミグレイ・ギガンティックラビットの姿だった。そんなこともあるんだね。で、兎の方は叔父のゴーラたちへ里子に出すことになったらしいんだ。家族で話し合った上での決定なら僕が口出しすることじゃない。今は4人が子育て真っ最中。じいじとばあばは孫が可愛くて仕方ないらしい。それは何処でも同じリアクションなんだなと笑ってしまった。
「ふぅ、さて朝ごはん食べに行くかな」
朝風呂は汗を流すのが目的だから10分入ってれば良い方だ。お風呂から出て2人に水気を拭きとってもらい、新しいシャツに腕を通す。このシャツ、ディーの出す糸で織った特性のシャツなんだよ?特性は内緒。
「ありがとう、さ、朝ごはん食べに行こう」
「ん……」
「ん……」
服を着せてもらって、お礼のキスを返してから食堂に上がる。恒例の両腕ホールドは健在だ。引き籠もり生活というのは名ばかりで、領地から出てないだけど言うね。その他の時間は忙しくしてるからまったり感がないんだよ。シンシアたちに腕を取ってもらうと言う機会も実はそんなに無い。だから、順番で朝の時間を堪能するんだとか。
お風呂への道は相変わらず食堂を抜けていかなきゃいけないから、僕がお風呂に向かうと同時に食事の準備が始められる。準備と言っても、僕のだけ出来立てをという心遣いらしい。そんなに気を使わなくてもいいのにと言ったら、ゼンメルに怒られた。「料理人を甘やかさないでもらいたい!」だってさ。気難しい男だよな。
「皆、おまたせ。揃ってるかな?」
扉を開けてもらって食堂に入る。個人宅がある面々はここには居ない。というか来るなって命令を出したんだ。家族で食事を取れるならそっちを優先しろと。だから、席順もまだいじってない。6人分席が空いたからそこにリューディアとアイーダを充てがったんだけど、ウチのわんこはそこはダメらしい。エト、コレット、マンフリート、アーデルハイド、エレンは別室でまかない朝食を済ませてスタンバイ中だ。徹底してるよな。
「いただきます」
「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」
相変わらずこの食前の挨拶はやってる。そして、僕の足元にペタンとアヒル座りをして見上げてる美女が居るのもいつもの光景になっていた。アイーダだ。眷族になった途端にデレ具合が更に悪化した。うん、悪化で良いな。僕が居ない時は鬼軍曹のように皆を訓練してるんだけど、僕が視野に入るとダメらしい。らしじゃないな。使い物にならなくなる。兎に角じゃれるてくるんだ。ご主人様大好き座敷犬のように。
「あむ。むふふふ」
本当に食卓から座敷犬におやつを上げるような感覚で、適当に料理の切れ端を口に運んでやるとそれはもう子どものような笑顔でもぐもぐと食べるのだ。それでよく体型が変わらないなと思うくらい。最初は他の女性陣が苦情を申し立てていたんだけど、無駄だと諦めたようでこの状況は暗黙の了解になってる。あのリューディアですら匙を投げたんだ。御蔭で僕の皿には毎回アイーダに食べさせるものと僕用のが混在してるというね。
あ、そうそう、実は皆に感謝を込めて貰ったオリハルコンで指輪を造ったんだ。お風呂の奥の部屋に一緒に入ってる娘たちの指輪は完全に事切れてる時にサイズを測って鉄で制作練習さ。1年以上一緒に居る人立ち全員に指輪を造ってプレゼントしたんだ。所帯持ちや僕と関係を持ってないメンバー、あと同性には右手用にサイズを測って作成して渡しておいた。勿論、本人と僕の血と指輪を【融合】して所有者指定のオンリーワンリングにしてだけどね。
「エト、今日の予定は?」
フォークで食事をする事にも慣れ、零すことなく口に運びながらエトに確認を取る。
「本日は昼間でに領内視察、午後からは座学でございます」
そう、時々森の状態を見て回ってるんだ。森の中は所謂里山的な感じになってるので、低木や藪があまりないんだ。出来るだけそういうものが建物の傍に無いようにしてるのと、山菜採りを兼ねて回ってる。農園とは呼べないけど、小さな畑もあるよ。理由は葉物野菜が欲しいからだ。肉ばっかりは流石に飽きるんだよな。あと時間を見つけて縫合の練習もしてる。腕が鈍るからね。
あ、そうそう、指輪の話。お風呂の隠れ部屋にてにゃんにゃんしてる女性陣には、1人ずつお持ち帰りして始める前に、本人と僕の血と指輪を【融合】して所有者指定を済ませてから左手の薬指に嵌めて上げたよ。向こうの世界では独身だったけど、どうせ帰れないならこういう関係もありだなと腹を括ったのもある。異世界の習慣ではそういうのはないらしいんだけど、身分証明の発行というシステムがある御蔭でお互いの関係を証明できるのだとか。
兎に角、1人ずつベッドの端に腰掛けてもらった状態で僕が片膝を付き、左手を手にとってプロポーズなのか、説明なのかよく分からない言い回しで言い切ることができた。生まれて初めてすることだから緊張したよ。え?なんて言ってかって?
おほん。「この指輪は僕が居た世界では“花嫁”になって欲しい女性に贈って左手の薬指に嵌めてあげる習慣なんだ。良ければ貰ってくれないか?」と。恥ずかしな、これ。
まぁ、こういうことに免疫のない者は僕だけじゃなくていきなり告白された面々もそうなだけどね。でも、泣きながら「よろしくお願いします」と言ってくれたのは僕にとっても格別な瞬間だった。その後にしたことといえば、想像の通りなんだけどそれからお互いに力を分け合う作用が大きくなった気がする。ん?そう、お持ち帰りは14人。最低だという誹りは甘んじて受けます。誰か1人なんて選べなかったんだよ。
完全に読まれてたと思うけど、一通り終わって余韻に浸ってる所で14人に詰め寄られて誓約させられる羽目になりました。自業自得ではあるんだけどな。このメンバーのハーレムは許すが、これからハーレムを増員する場合14人全員の許可がなければダメだと釘を刺されたって事。鬼気迫る懇願に命の危険を感じた僕は、高速で頷く事で乗り切ることに成功したんだ。生霊だから物理的なダメージを受けないはずなんだけど、素手でも危険な気がしたんだよな。
指輪に関して僕の指輪は?と声が上がったけど、神様から貰った指輪を使いまわすことにした。それだと芸がないのが分かってるし、ハーレムの女性陣からすれば「女神から貰った指輪でしょ!?」ということになる。それで、僕の血と彼女たちの血を1滴ずつ指輪に【融合】させて証明というか、誓約の証拠とすることで納得して貰えたよ。甘く見てたね、女の人の気持ちというのを。
本来一対の形が軋轢の少ない夫婦像だし、その形を求めているのも理解できる。でも大甘で選べない僕は敢えてハーレムにした。面白くないに決まってる。それを承知でこのメンバーならと許して貰えたんだから、僕にはその信頼に応える義務があんだ。いや、義務じゃない。応えたい!だな。
「ふぅ、美味しかった。アイーダももう良いかい?」
「ん。お茶が欲しい」
この調子だ。もう気にしないことにしてる。アーデルハイドが2人分のティーを入れてくれたから、受け皿と一緒にティーをアイーダに渡し、僕もティーを口に運ぶ。旨い。他の娘たちもお茶の腕を上げてるのだけど、まだアーデルハイドに及ばない。それに続くのがマンフリート、エトだ。まだまだ先が長そうだね。
「ふぉっふぉっふぉっ、どれ儂にも一杯馳走してもらえんじゃろうか?」
「「「「「「「「「「「誰っ!!?」」」」」」」」」」」
食堂に居る全員がこの場に居るはずのない老いた声の持ち主を凝視する。視線の先に居るのは天井付近に浮かぶ老人だった。
突如現れた得体の知れぬ老人に対してざわりと空気が緊迫する。それも当然の反応だ。招かれざる客なのだから。緊迫した雰囲気はやがて息苦しくなるような殺気に満たされていく。
「ふぉっふぉっふぉっ、お主は皆と同じように緊張せぬのじゃな」
背の曲がった老人は右手に白木の杖を持ち、左手で長く伸びた白い顎髭を撫でながら楽しそうに笑うのだった。頭髪も長く頭角を表す程には額が侵食してるが、禿げてはいない。見事な白髪だ。
「ええ。完全に気配を読めませんでしたから。何をしても無駄だと思っただけです。その気になれば僕の首などあっという間に取ることが出来るくらいの実力でしょうに」
そうなんだ。誰にも気付かれずにのんびり天井に現れるくらいなら、ばさっと首を刈ったほうが効率が良い。そうしなかったのは戦う意志はなく話をしに来たという事だろう、と当たりを付けてみたんだ。
「ふぉっふぉっふぉっ、相変わらず聡いのぉ。じゃが今日来たのは茶を飲むためではない」
「まだ誰も用意してなさそうですけどね」
「寂しい限りじゃがな」
「何処の誰とも分からない方をホイホイもてなせませんよ」
「然もあらん。ならばこれはどうじゃな?」
老人は宙に浮いたまま食卓テーブルの下座上空に移動すると、杖で空間をノックするように動かすのだった。ぐにゃりと空間が歪む。
「「「「「「「「「「「「えっ!!!」」」」」」」」」」」」
歪んだ空間が背後の景色を乗りつぶし、全く違う様子をそこに映しだしたのだ。驚かないほうが可怪しいだろう。頭では違うと理解ってはいても、僕にはそれが映画のスクリーンの映像のように見えてならなかった。それほど鮮明だったんだ。
そこに映しだされたのはシンシアより巨大な黒竜に対峙する深手を負った女ダークエルフの姿だった。
「お主の“眷族”じゃよ」
「なっ!?」
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