第92話 我が家
2016/6/7:本文及び誤字修正しました。
「ルイ様、血の匂いが致します。ご注意下さいませ」
南門から出て30分も経っていない。遠くに城壁が見えるものの眼の前には雑木林が広がっている事からして犯罪の臭いがする。エトが血の匂いというのだ100%間違いはないだろう。待ち伏せか、それこそ犯罪の後なのか分からないがまずは安全を優先する。
「エト、一度止まってくれ。僕とシンシア、ギゼラが荷馬車に移動する。アピスはこの馬車をギゼラは荷馬車を風の壁で覆って飛び道具に備えてほしい」
「畏まりました」「承知」「はいマスター」「はいルイ様」「わたくしは?」
「ディー待機だ。必要があれば糸で縛ってもらうか、遊撃してもらう」
「分かりましたわ」
ブルルルルル
エトが手綱を引き馬車を止める。その間に素早く馬車から降りベルントさんたちを僕たちが居た席に押しこめエトに合図をだすのだった。それに合わせて風の壁が展開される。用意が整った状態で長く待つ必要があるかと思ったけど、僕の心配はすぐに解消されることになった。
「待ちな!」
がやがやと雑木林からガラの悪い男たちが現れる。その数16人と行ったところだろうか。ギゼラが言うには陰に5人居るとのこと、手の混んだ襲撃と見たほうが良さそうだ。それなりに武装してるし。初見の対応はエトに任せてある。お手並み拝見だ。
「何か用でしょうか?」
「は、何か用かときやがった! 金目のもん置いてささっと都に帰んな。じじいに用はねぇ! 金目と女は頂くがな」
「はて? 女性と申されましたか? そちらでお亡くなりになられる方はご婦人とお見受けしますが」
相変わらず胸が悪くなる。殺人ご法度の社会でまっとうに生きてきただけあって、死体がゴロゴロ転がっていても可怪しくない世界の常識にはなかなか慣れない。2年も経つというのに。医術で人を助けようとしたものの力及ばず患者が失くなるという場面に遭遇することはあったが、不条理に命が奪われる環境に居た訳ではないんだ。
妹の本棚に収まっていたラノベの主人公は直ぐに環境に対応して何の苦もなく人を殺せるようになっていたケースが多かった気がする。僕はそれに該当しない。スロースターターなのか、大甘なのかーー多分後者だろうが、そんなに簡単に割り切れないんだよな。そりゃストレスも掛かるさ。
「へっ。ちょっと仲間と楽しんだら死んじまったのさ。よくあることさ」
「然様でございますか。こちらにはご婦人も多数お乗りいただいておりますので、手荒なことはしたくありません。出来れば見逃していただきたいのですが?」
「おい、お前ら聞いたかよ!」
「へへっ、そりゃ仲良くなってもらわねぇとな」
品の悪い笑い声が馬車に降り注ぐ。
「そうですか。仕方ありませんね」
ぱしっ
エトの言葉と同時に鞭が打たれる音が小さく聞こえた。ぐぐっと馬車が動き始める。つまりのんびり押し通るという訳だ。エトもなかなかえぐいことをするじゃないか。これでこいつらが大人しく引き下がれなくなったぞ?
「なっ!? てめぇ!!」
「こちらの願いを聞いて頂けないようですから、押し通らせて頂きます。あ、馬の前に出ないでくださいね。危ないですから」
「良い馬だがな! 首を切っっちまえば言うこと聞くだろうがよ!! ぎゃぁぁぁぁぁーっ!!」
ブルルルルル
踏まれたらしい。僕らが居る荷馬車は布1枚で外と仕切られてるだけだ。ドン、という音に続いで硬いものが砕ける音と悲鳴が上がればそりゃ、ねぇ。御愁傷様。血を吸うことはないだろうけど、気性は荒いだろうからね。
「手を出してこられたのはそちらで御座います。当方は火の粉を払っただけ。更に頭を下げたのもこちらで御座います。野盗ごときに非難される謂れは御座いません。お下がりなさい」
あまりの出来事に呆然としている野盗に向けてエトが静かに宣言した。ああ、これだな。僕はベルントさんが高利貸の所から帰って来た時の様子を思い出し苦笑した。こんな調子で事を済ませて来たんだったらベルントさんの表情も頷ける。怖いは、エト。
「じじい1人に何ビビってやがる! 数で押せがどうってことねぇ!!」
「クソジジイが!!」
「ぶっ殺しってやる!!」
「やれやれ、人の言葉が通じないというのは困りますね。ルイ様長剣がありましたらお貸し頂けませんか? どの道、生かしていても後から通る旅人の禍根となりましょう」
「分かった。任せる。ベルントさん、剣を1本お借りしますよ?」
「おう!」
ベルントさんの返事で荷馬車に積んである長剣を1本手に取りエトに放る。黒騎士の戦闘スタイルというか、それまでエトが戦っている姿を見たことがなかったので自分が手を出すより任せてみることにした。正直、好奇心に勝てなかったということだ。僕に比べれば悪党を殺すことくらい屁でもないだろうけど。
「ぐえっ」
「ぎゃっ」
「ひぃっ」
短い断末魔を残して露と消える野盗たち。荷馬車の御者席に出て様子を眺めていたが、「これはーー」と言葉を失うような立ち回りっぷりだった。シンシアの顔をちらっと見たら薄笑いを浮かべていたので慌てて眼を逸らす。つまり、立ち会いたいと思わせる程の動きだったということだ。無駄がなく、1人1振り、もしくは1突きで絶命させるその剣技は凄惨な状況であっても優雅さを漂わせていたのだった。
「予想以上に凄いな」
「うむ。我もエトがこれ程とは思ってなかったぞ、主殿」
同感だ。スキルレベルに現れない何かが加味されているのだろうけど、並の腕では太刀打ち出来無いだろうと思わせる殺陣なのだ。気が付くとそこに立っているのはエトだけになっているではないか。返り血も浴びずに佇む老紳士の姿は、彼が【真祖】に近づこうとしているヴァンパイアの上位種であることを思い出させるには十分な成果だった。
「何だ!? か、体が!」
「や、やめろ! 撃つな! 仲間だぞ!!」
「違う! 俺じゃねぇ! いや、勝手に体が動いちまうんだよ!!」
「ぎゃああっ!」
雑木林の奥から更に声が響く。ギゼラが教えてくれた隠れて居た者らだろう。どうやら同士討ちを始めたみたいだが誰が一体。
「エトがしてるのか?」
「いえ、わたしではありません。恐らくディード様かと」
「ディーが?」
そんな隠れスキルがあったんだ!?
「もうエトったら、おしゃべりは嫌われましてよ?」
「申し訳ございません」
馬車の中からディーの声がする。注意したということは間違いなくこの仕業はディーが何かしたということか。人を操るとか凄すぎるでしょ。でも感心してばかりも居られない。黒幕が居るなら叩いておかないとこれじゃあ蜥蜴の尻尾切りだ。
「1人は殺さず生け捕りに。黒幕を聞いておかないとな。ま、単なる野盗という線もあるけど」
「畏まりました」「分かりましたわ」
ステータスの差があるとここまで違うのかというのを見せつけられた気がする。フェレーゴ伯爵邸での一件は完全に頭に血が上ってたから冷静に分析してないけど、今は違う。俯瞰するまではいってないが、高い場所からエトの動きを見ることが出来た。魔族、魔物を人間が恐れる理由も頷ける。単純に力の差が恐怖に繋がるのだ。引き籠もって静かに暮らすのが良いな。
「ルイ様、捕らえました」
「くそっ! 放しやがれ!!」
罵声の御蔭で意識が内から外に向けられる。見ると一味の中で一番高価そうな装備に身を包んだ男が馬車の前に立たされていた。教えて下さいと言っても、実はですねと莫迦丁寧に喋る奴は居ないだろう。エトとアイコンタクトを取って頷く。任せたからには僕はしゃしゃり出ない。
「貴方は何処の手の者ですか?」
「はぁっ? 俺ら“ケルベロスの牙”が誰かの手下だと!? ふざーー」
エトの問掛けに激昂する男だったが突然言葉を失い、ぼ〜っと呆けた顔になる。眼に力がない。エトは背を向けてるので何をしたかまでは断定できないけど、恐らく【魔眼】だろう。リーゼが僕に使った事を思い出してみると、その効果は色々ありそうだ。
「もう一度聞きます。貴方は何処の手の者ですか?」
「俺らは“ケルベロスの牙”だ。盗賊でもあり、傭兵でもある」
なる程。金を積まれれば、と言うことか。
「では聞き方を変えましょう。誰に雇われましたか?」
「フェレーゴ伯爵様だ。男は殺して金目の物は俺らがもらい、女は届けることになってる」
相変わらずだな。それを考えると、ベルントさんたちを連れて帰るのは正解ということか。もうあんな状況は耐えれないだろう。今度はフルダさんまで脅されてしまえばもうどうしようもない。
「貴方たちが殺したこの人たちは誰ですか?」
「知らねぇ。通りがかりの旅行者か王都に帰る途中の者だったんだろうさ、楽しませてもらったがな」
「エト。そいつをフェレーゴへの使者にできるか?」
「勿論でございます」
使い道は決まった。人を殺すことを躊躇うとはいえ僕は聖人君子だとも思ってない。郷に入れば郷に従え、ではないけど割り切ることも必要だというのがよく分かった。人を殺すことをその辺りに居る虫を殺す程度の認識しか無い者に情けを掛ける気は更々無い。久し振りに胸が悪くなった。
「これは警告だ。ルイ・イチジクに連なる者、関係者に手を出せばこうなる、と言葉を持たせて行かせろ。そのあとどうするかはエトに任せる」
「は」
「あ、任せると言ったが、眼だけは潰させておくように。調べる術があれば何をしたのかが分かってしまうだろう」
「仰る通りにいたします」
舌打ちをしたくなる気持ちを抑えて荷馬車の中で腰を下ろす。エトが何かを伝えてる声は聞こえるがもう良い。シンシアは事の顛末を見届けるためかまだ御者席に出たままだ。僕の性格をカティナに次いでよく分かってくれてるギゼラが黙って右肩に体を預けてくれる。ふわっと薫るギゼラの体臭が甘く感じられた。
「ルイ様。男をフェレーゴ伯爵のものとにゆかせました。残った遺体をどう処理致しましょうか?」
5分程経った頃エトが声を掛けてきた。自分で考えろと言いたくなったが、そもそもこの状況を創りだしたのは僕だ。殺害許可を出したのだから。それに気になることもある。
「遺体を野に放おって置くとどうなる? 土に還るだけか?」
腰を上げて外に出た。新しい血の匂いが立ち込めている。
「土に還る場合もございます」
エトの答え方は別の結果があることを暗に示していた。僕の存在が答えなんだろうけどな。そうは思いつつも確認を取る。
「そうじゃない場合は?」
「“穢憑き”になります。マスター」
そうだよな。エトの言葉を受けてアピスが説明してくれた。馬車の扉が開いてアピスとディーが外に出てくる。
「動く死体系になるという理解で良いのかな? 腐朽者とか腐食鬼とか」
「骸骨もそうですわ」
なる程ね。RPGの中でアンデッドと呼ばれていた部類はこうやって産まれるということか。その中で力をさらに得たものが上位種になるという流れか。わからないもんだな。ま、それは置いておいて、問題はこれだ。
「これを僕たちが処理すると、僕たちがやったと疑われることになる。となれば、一度南門に戻って一緒に出直すかな。リューディアはどう思う?」
外に出て来てはないが、開いた扉から顔が見えたので確認を取ってみたのだ。
「それが宜しいでしょう。それもできるだけ早くが宜しいと思います。“穢”が何時現れるか分かりませんから」
それも一理ある。
「分かった。折角ここまで来たけど、これからの事もあるから一度南門まで戻ろう。【浄化】」
範囲を広げて周辺を【浄化】しておく。“穢”というからには浄められた場所で直ぐ現れることもないだろう。勿論、2頭の召喚された輓曳馬へ掛からないように注意しておく。
帰り道はエトの【念動力】で馬車と馬を地表から5㎝程度浮かせ、南門の手前1km辺りまで移動させることが出来たので10分とかからなかった。そこから詰所で盗賊に襲われて返り討ちにしたが、旅人の遺体もあったので報告にここまで戻ってきたことを告げ、対応を頼むことになる。先行して衛士たち10名が馬に乗って現場に出向く事になった。それに続いて僕たちと一緒に幌の付いていない荷馬車が2台現場に向かうことになる。
本来であれば詰所で色々と調書を書かされることになるらしいが、王命で顔パスと言われている御蔭で疑われることもなく逆に感謝される始末だったのだ。正直ありがたい。おまけに盗賊を倒した場合その装備品を貰える権利があるということだったので、砦の時と同じようにアイテムバッグの中身を全部衛士たちに渡してアイテムバッグだけ貰って帰ることにした。アイテムバッグはあって困るものでもないしね。それより装備品を衛士たちに渡したことでかなりの好印象を図らずも得ることになる。普通は何一つ残さないのだとか。
ま、それで生活の糧が増えるならそうだよな。僕の方は人から貰ったもので生活してるから「ごめんなさい。ヒモです」って言うしかないというね。誰もそんなこと思ってないんだろうけど、実質僕の稼ぎはその中に入ってないから何処かで引っ掛かってるんだよ。言うと心配されるか怒られるかのどちらかだろうから表には出さないけど。
「ご協力に感謝致します。どうぞ道中お気をつけて!」
「ありがとうございます」
「しかし本当にこの夜道を帰られるのですか? 都まで一度帰られて出直されたほうが」
「お気持ちだけ頂きます。この件をお伝えしたいので一度戻っただけで、本当は急ぎの用があったものですから」
「そうでしたか。それならば何も申し上げることはございません。万事上手くゆくように祈っております」
このまま夜の森を抜けることに難色を示した衛士たちに適当な理由を述べておく。夜じゃないとシンシアが元の姿に戻った時にバレるじゃないか。その理由づけで納得してもらえたみたい。特に追求されることもなく見送ってくれた。巻き込まれて命を落とした旅人も身分証明証があったようで衛士たちで対応してくれるとのこと。ありがたい話だ。
「ありがとうございます。ではこれにて。エト」
「畏まりました」
馬車に乗り込んで覗き窓からエトに声を掛けると、鞭の音と共に馬車がぐっと揺られて動き始めるのだった。
夜の闇の中を走り、ベルントさんの荷馬車をアイテムボックスに収めて、僕とディーが馬車の屋根にアピスとギゼラが御者席へ座り空の旅を代わる代わる満喫する。どうやら行きしなと帰りしなで順番にではなく、その都度ということらしい。僕としては嬉しいんだけどね。
“森”まで1時間のフライトを楽しんだら荷馬車を連結しなおして、僕の膝を満喫した面々は荷馬車の何へ移動し、シンシアが僕の膝の上を独占することに。これは仕事の報酬も兼ねてなので荷馬車の3人も文句を言うことはない。
リューディアは使い魔の目を通して見知ってるから表面的には驚いているようには見えないが、ベルントさんたちは明らかに何処に来たんだ? 的な状態になっている。眼が泳いでるのだ。いや焦点が定まってないと言ったほうが良いのか? 苦笑しながらも自力で落ち着くまで放おって置くことにした。
当然エトを通してリーゼやコレットに連絡が入ってる訳で、領地の城に着いた時には玄関の扉が開け放たれて一同が迎えに出てきていた。
「な、な、な、な、何じゃこりゃ!?」「ええぇぇぇぇ!?」「お城!?お城だよ!!」
ベルントさん一家が思った通りのリアクションをしてくれたので、思わず頬が緩んでしまう。
「皆、ただいま」
「「「「「「「「「「「「「「「おかえりなさいませ!」」」」」」」」」」」」」」」
アイーダを除く女性陣のお出迎えは圧巻だった。思わず僕も引いいてしまうくらいに。ふとベルントさんたちを見ると見蕩れてたよ。3人ともね。うん、アーデルハイドは年齢からして外すとしても皆それななりのレベルだもんな。兎耳も狐耳もみんな侍女の服装だから萌える。僕だって30とはいえ、正常な興味も欲求もある。最近暴走気味であることは否定できないけど、眼からも楽しみたいじゃない。フルダさんとユリカちゃんに冷たい目で見られそうだけどね。
「エレン」
「はい、我が君」
僕の呼び出しに、列の先頭に居た長い藍色の髪を後頭部でアップに纏めていている麗人が1歩前に出てお辞儀をする。うなじが綺麗な人だ。顔を上げた時にその金色の瞳が少し潤んでる気がした。どうした?
「この3人が領地に住むことになった。主のベルントさんに、奥さんのフルダさん、娘さんのユリカちゃん。部屋に案内してくれるかい?」
「畏まりました。ガルム」
「……」
優雅にお辞儀をして、一人の男の名前を呼ぶ。その呼び出しにドワーフの男が列を掻き分けて出てくるのだった。相変わらず無口というか、口が重いようだ。まぁ、恐らく変わらないだろうけどな。
「貴男のお隣様です。ご案内を」
「ーーこっちさこい」
ドワーフというだけでも驚いているベルントさんたちが、声も出ないままカクカクと首を縦に振って応えている。一緒に居ないほうが親切だよな。
「ああ、そうだった。この後ろに繋いである荷馬車もベルントさんのだ、後でいいから届けてあげて」
「それはわたくしが」
列の後ろの方に居た銀色のショートヘアーの侍女が1歩前に名乗り出るのだった。真紅の瞳に白肌が屋敷の中からの光りに照らされて妖しく映る。コレットの隣りにいたオレンジの髪の美女が「しまった!?」という顔をした。ジル、競争じゃないんだからさ。
「コレット。じゃあお願い。場所は分かるよね?」
僕の問い掛けに頷くと手際よく馬車との連結を外し、ひょいっと花カゴでも持ち上がるような感じで荷馬車を持ち上げてスタスタと歩いて行くのだった。
「「「!!!?」」」
ベルントさん一家の眼と口が皿のように大きく見開かれ、僕とコレットを見比べたのでにこっと笑ってガルムの後に続くように促しておいた。うん、今までの常識は通用しないと思ってもらったほうが後々いいだろうな。黙ったまま油灯を翳して家へと続く石畳を歩くガルムの後を追って3人が小走りに去っていく。ファビアンも居るから説明は任せるか。
「アーデルハイド」
「はい、ルイ様」
「少しでも鍛えてもらっていて助かったよ。ありがとう。引き続き宜しく頼む」
「ありがとうございます。ルイ様の御役に立てるのはこの上ない喜びでございます」
切れ長の二重の老侍女が一番綺麗な姿勢でお辞儀をする。後頭部で纏められた白髪と相まってより動きが優雅に見えるのだった。確か、編んだ髪をお団子状に纏めたんだっけな。
「それと、今日から僕の家庭教師として来てもらったリューディアだ。見知ってるものも多いだろうけど仲良くやって欲しい」
前回は食堂で紹介したんだけど、ベルントさんを紹介した手前ついでに紹介しておいた。内々だからそんなに格式張らなくてもいいだろうしね。
「こんな婆さんだけどよろしく。アイーダが居ないね? 全く危険察知だけはいっちょ前なんだからね」
は? 危険察知? 何かするつもりだったって事か? 何となく安堵の溜息が聞こえていたような? 3日空けただけで溜息を吐かれる生活態度ってどうなんだ?
「あ〜やっと我が家に帰ってこれた。他人の家はどうも落ち着かないよな。色々在ったけど、領地の件も無事に纏まったしこれからは引き籠もるぞ!」
このために今まで頑張って来たと言っても過言じゃない! トラブルに巻き込まれはしたけど、基本的に静かな生活を送りたい気持ちは最初からブレてないんだよな。生霊が怖い? じゃあ表に出なけれ良いじゃないか。僕の宣言にも似た独り言に出迎えてくれた面々が微笑むのだったが、その微笑みが凍りつく。
「それは良うございました。ルイ様、明日からみっちり座学ですのでそのおつもりで」
優しい声が背中越しに投げかけられた。あれ? 座学? 何それ?
「えっ!? 僕の言う引き籠もりはそうじゃなくって」
引き籠もりというのは、確か辞書の定義では「根本は社会と一線を引き、自分の殻(空間)に閉じこもること」だったはずだろ? 確かに自分の空間だけどさ、僕の中での引き籠もりはのんびりだらりなんだぞ? は? 座学?
「みっちり座学です」
頬を引き攣らせながらゆっくりと振り返ると、優しい笑顔で短く宣言された。
「え? リューディア、あのね? ほら皆も、あ、こら、待て! 何で逃げる!?」
味方を探そうとすると、皆、優雅にお辞儀をして蜘蛛の子を散らすように屋敷の中に消えていく。薄情者!残ったのはアーデルハイドとマンフリートとリューディアとーーーー僕だった。
「文字、歴史、社会常識、法律、冒険、貴族、魔法、種族など色々と学んで頂かなければならないものばかりです。そのおつもりでわたしを召されたのでしょう? ルイ様?」
「え、あ、ははははは、そ、そうなんだけどね」
リューディアさん、仰ることは良く分かりますとも! その大切さもよぉ〜く! でも、引き籠もりと言ったらーー。
「ルイ様」
優しく語りかけないで下さい。心が折れそうです。
「はい……」
「明日からみっちり座学ですのでそのおつもりで」
のぉぉぉぉぉ〜っ! 心の中でスパルタ気質全開のリューディアに叫びながら、ガクッとその場に両手を着く。きっとアイーダはこの優しい宣告に抗えないんだ。そして現時点で僕も無理っぽい。
「さ、ルイ様、まずは温かいものをご用意しておりますので冷めない内に」
「あ、ありがとう。アーデルハイド」
老侍女に抱え起こされながら、辛うじて笑顔を向ける。これからのことを想像するだけで思いやられそうだぞ。
「全く、あの娘たちにも困ったものです。罰としてルイ様と一緒に座学に参加させますので、ご容赦下さい」
罰? 罰なのか? それを受ける僕の立場はーー?
むにゅ
「!?」
「ルイ様、おかえりなさいませ。わたくしもお付き合いいたしますのでお力を落とされませんように」
柔らかい感触が右腕に伝わってきた。驚いて見ると頬を赤らめながら僕の腕を抱くコレットの姿がそこにある。ああ、ベルントさんの荷馬車を届けてきてくれたのか。ん? 座学に付き合ってくれるの!?
「心細かったから嬉しいよ。ありがとう、コレット」
「ん……」
お強請りの部分もあるのかも知れないけど、素直に嬉しかったのでお礼がてら感謝のキスをしておいた。それにしても僕が考えていた引き籠もり生活とは随分様相が変わりそうだな。
コレットを右腕に絡ませたまま食堂に入ると、リーゼやカティナが「あーっ!」と声を上げていたがこれは仕事を買って出たご褒美要素が高いから放おって置くことにした。足掛け3日しか空いてないのだけど、出先で起きた内容が濃かっただけに随分時間が経った気がする。和やかに美女たちの談笑へ耳を傾けながら、用意された食事に手を付けるのだった。
食欲をそそる香り、彩り、艶を楽しみながら料理を口に運び味う。
そのうち、誰が始めるともなく「わたしが食べさせて差し上げます」と張りあうようになり、アーデルハイドから雷を落とされる始末。
そんな他愛のない様子を楽しんでいると、我が家に帰って来たという実感がふつふつと湧いてくるのだった。やるべきことは沢山あるけど、出来ることから済ませるか。そうも思えた瞬間だった。
何でも無いこの瞬間を大事にしたいなーー。
異世界に転生して2年目に入った頃、漸く僕は夢にまで見た引き籠もり生活? を始めることができたのだった。
本当に名ばかりのーーーーーー。
ーーーーーーちくしょう。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
これで第一部が終わります。長いですよね。テンポが良い話の方が読者受けも良いと思ったんですが、クロニクルと銘打った以上じっくり時間の流れを紡いで行ければと思いこうなりました。全体的に第一部は内政というか異世界での基盤造りと言った位置づけになるかと思います。
第二部はより冒険色を出せたらと考えています。でもその前に、一部で登場したキャラの一部を纏めたものを間に挟んで整理しておこうと思います。時間が在りましたら冷やかし半分でご覧ください。これからもまったりゆったりお付き合い頂ければ幸いです。
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