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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第五幕 王都 
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第89話 おまじない

 

 「王城から帰って来てからな」


 「あ……」


 そうだった。


 「まだ日も高い、これから支度して出掛けるぞ。今回は誰を連れて行くのだ?」


 そう言われて時刻を見ると、午後2:53だった。1時間以内で胆嚢・胆管の結石除去手術が出来たことになる。上出来だ。それと同伴者か。悩むな。


 「顔を見知ってもらうというのも良いと思いますので、今回一緒に来たメンバーで登城できればと思いますが如何(いかが)ですか?」


 前回シンシアは行ったからと言って留守番させると()ねるだろうから、やはり全員がベストだ。帰り道も飛んでもらわないといけないから、少しは甘くてもいいよね?


 「好きにすればいい。今回は俺もお前の馬車で行くぞ?」


 となると、僕、シンシア、アピス、ギゼラ、ディーで5人。それにデューオ様で6人か。リューディアは留守番だな。今日はエトは上がらなくても馬番してたらいいだろうし。この構成で行くか。


 「ルイ様、宜しいですか?」


 「ん? 何?」


 「先日の話の続きであれば、ルイ様の御名前をサインする必要が御座います。失礼ですが、筆記している姿を御見掛けしたことがありませんので確認させて頂きました」


 oh……。ここに来てサインとか(いじ)めですか?書けるわけ無いだろ?練習すらしてないのに。いや、デューオ様「何だお前、字が書けんのか?」って眼で見ないで下さい。心に刺さりますから。


 「あ、ありがとう、リューディア。ちょ、ちょっと部屋に戻って話そうか」


 「畏まりました」


 静かにお辞儀をするリューディアを見ながら僕の笑顔も引き()ってる気がする。う〜ん、リューディアには感づかれてるっぽいな。「分かっておりますとも」的な微笑みが気になるし。ま、バレてたとしても口外はしないだろうからこのまま乗り切る! 領地に帰るまで押し通す。“けがれ”は撒き散らしてないにしても、無害な生霊(レイス)として僕を受け入れてもらえるか?と考えたら速攻で否とい答えが弾き出される。


 生霊(レイス)の存在自体知られているものの、そんなに頻繁に出現していればどういう存在かというだけでなく人格を持つとか色々なことが分かってくるはずだが、一切聞かない。聞こえてこない。裏返せば生霊(レイス)が出た!討伐開始!となるのが目に見えている。交渉の余地もないだろう。ならば安全な土台固めと信頼の構築に(いそ)しんで、時が来たら「実は……」とい話で行こうじゃないか。その頃には晴れて引き籠もりライフを満喫してるはずだ。おっと。


 「デューオ様、支度をしてきます。皆、部屋に戻るよ。じゃあ、石はエルマー様に見せて上げて下さい。道具は……あ」


 「拭き終わりました。ルイ様」


 道具も後で届けてと言おうとしたら、ウチの()たちがせっせと血を洗い落として拭いてくれていたようだ。道具入れに収めて巻いたものをギゼラが手渡してくれた。仕事が早いな。


 「あ、皆ありがとう。助かったよ。じゃあ、一度部屋に戻ろうか。では、デューオ様また後ほど」


 「ああ。四半刻(しはんとき)したら出る。そのつもりでな」


 「分かりました」


 30分後ね。それまで練習だ!女性陣を引き連れてそそくさと部屋に戻るのだった。


 ぞろぞろと僕に充てがわれている部屋に戻り、テーブル席に着く。そこでリューディアに僕の名前の手本を書いてもらい。ひたすら練習に明け暮れる。明け暮れるというのは語弊があるか。30分しか時間無いわけだし。


 こちらの世界の文字。違うな。この国の文字は向こうの世界のジョージアやアルメニアと言った中東北部あるいはヨーロッパの端と言ったほうがいいのか? スタン系国の上にある国が使うようなアルファベットともアラビア文字とも違うような字体だった。なので、それを羽ペンで書くもんだから更に難しい。


 練習を始める前に「早く覚えれるようになるおまじないです」っておでこに唾を付けられたけど、その御蔭かな? 何とか「これなら問題ないでしょう」とリューディアから太鼓判を押してもらえた所でタイムリミットが来た。


 皆で揃って部屋を出、エトが待っている馬車に乗り込む。席順は来た時と同じだ。そこから2時間掛けてがたごとと馬車に揺られ王城を目指すことになる。中世のヨーロッパもこんな感じにのんびりと時間が過ぎていったんだろうけど、感覚的に時間の流れが早く感じられる現代日本(異世界)からきた者に取っては苦痛以外の何物でもない。()(かく)暇なのだ。


 綺麗所(きれいどころ)(はべ)らせて飲んで騒ぐ日本の夜の集会所みたいなノリはこの馬車の中にはない。他愛もない話を二言三言話して、(しばら)く沈黙。それを何度か繰り返して居眠り逃避行へとなる。勿論エルマー様の体調についてとか、エルマー様の食事についてだとか、エルマー様の手術跡についてだとか、エルマー様の――それしか話題がないのか!? と突っ込みたくなったのは事実だが、ぐっと我慢して居眠り逃避行を敢行した。ウチの()たちは早々に退散してたけどな。少しはこっちに気をつかえ。




 2時間後。


 ブルルルルル。


 王城へ続く門を(くぐ)り、前回と同じ場所であろう所で馬車を降りる。当初の予定通りエトは馬番として馬車の所で待っていてもらうことにした。機嫌が良いの悪いのかわからないが、馬車を引いてくれた二頭の輓曳馬(ばんえいば)が鼻を鳴らす。そう言えばこの子たちは触ったこともなかったな。ふと思い出して2頭の首筋を軽く撫でてからデューオ様の後について、再び裏口入城を果たすのだった。


 時刻は夕方5:12を回っている。


 歩くこと10分。前回に比べて格段に早く目的の広間に案内されるのだった。それだけ信頼されたということか、あるいは事前に約束があったからということかな。


 前回とほぼ同じ顔ぶれと見知らぬ顔が3つそこにあった。玉座の隣りに立つ影武者さん。玉座に向かって右手側にエーレンフリートのおっさんに、ギュンターのおっさん。あとおっさん達より若めの男性が2人と女性が1人。テオドール大公と王様はまだ来ていない。デューオ様は玉座に向かって左手側、前回と同じ辺りに立っている。ウチの()たちは、僕の後ろに横一列で並んでいた。


 ガチャ。


 左手側の扉が開いた音がし、足音の先触れを伴って王様と大公が入ってきた。広間の雰囲気が緊張したものに変わる。大公の眼が「これはこれは」というように僕の後ろで品定めを始めていた。あげないよ。


 「久しいな。と言っても3日程しか経っておらぬか」


 「はい。御約束通り、エルマー様の治療後に(まか)り越しました」


 あんまり敬語を使う機会がないからこれで良いのかと気が気じゃないけど、おっさんたちが目くじらを立てない処を見ると大丈夫なのだろう。


 「うむ。首尾はどうじゃ?」


 「は、ルイ殿が申すには7日もすれば普通に生活しても支障はないとのことでございます。陛下」


 王様の問いに口を開きかけた処でデューオ様が代わりに返答していた。その答えに細くなった双眸(そうぼう)を大きく見開いて僕の顔を静かに見詰める。何も語ることなく。


 「エルマーの病気は治ったという事なのかな?」


 代わりにテオドール様が僕から目線を切らすことなく尋ねてきた。どうやらエルマー様はテオドール様の妹いう位置で良さそうだぞ。


 「はい。再発する危険が失くなったとは言い切れませんが、その危険は今後の過ごし方で随分減ると思います」


 「宮廷治癒師も(さじ)を投げたあの病を?」


 まあ、治癒魔法しか使えない人には酷な症例だと思うけどな。


 「はい。今回の病は治癒魔法でどうにかなる(たぐい)ではなかったということで御座います」


 「へぇ。君はどうにかしたということだね?」


 「幸い、その(すべ)を知っていたというだけで御座います」


 何だ? 嫌に食い下がるな。喉に魚の小骨が刺さったかのような気持ち悪さを感じたが、他の面々が口を挟むことはない。それでテオドール様の質問は終わった。僕の勘ぐり過ぎか?


 「ルイ殿」


 「はい」


 「我が娘を救ってくれたこと礼を申す」


 「「「「「!?」」」」」


 王の言葉に右手側の5人の顔色が変わる。鷲の王宮であったことと比べてもそこまで気にするほどじゃないな。ただ「何だこいつは?」的な視線が痛い。特に新顔の3人からの視線が。説明してくれてるんじゃないのかよ?


 「勿体無い御言葉に感謝します」


 一先ず回避だ。無難な言葉を選んでおく。


 「さて本題に入るか。ここに顔を出せたということは用意が整ったと言うことであろう?」


 「陛下の御慧眼、恐れいります」


 普通は気が付くだろうけどな。ただこんなに早く、とは思わないだろうけど。


 「それで領地の名は何となった?」


 「“エレクタニア”と呼ぶことに致しました、陛下」


 「エレクタニア……か。それも良いかも知れぬな」


 その一言が引っかかったけど、次の手順で立ち止まって考えてる暇がない。


 「領旗をこれへ」


 「あ、はい。お願いします」


 王様の言葉に玉座の隣りに立つ影武者のおっさんが大きなお盆をもって眼の前にやってきたので、アイテムバッグから出すように見せかけてアイテムボックスに収めている大きな旗を取り出すのだった。取り出したことではなく、その領旗を眼にして一同がざわつく。仕上がりが良いもんな〜。何せ神様(エレクトラ)作だもん。


 「こ……これは。神旗(じんき)……」


 は? 今なんて? 神旗(じんき)


 王様の眼が皿のように見開かれてるんですけど? これってやっちゃったパターンですか? やり過ぎですか? 張り切りすぎて良い物を作ってしまったんですね。エレクトラ様は――。


 「ル、ルイ殿この旗を何処で?」


 そうなるよな。当然、そこに行き着くよな。


 「申し訳ございません。とある方に作って頂いたとしか申せません」


 「陛下の答えられぬと申すか?若造」


 む。右手側から今まで黙っていた1人男性が口を開く。殺気と共に。それに反応して後ろで身構える気配がするので眼で制しておいた。止めて下さい。ウチの()血の気が多いんで。それにレベルまだ1のままだよね? まずいって。


 「そこは何と言われようともお願いした方との約束ですから、お譲りできません」


 「粋がるなよ、若造」


 「ヨアヒム、良い」


 「しかし!」


 「この旗が今直ぐ掲げられることはない。掲げられることもないかも知れぬ。その為の場であることを忘れたか?」


 ヨアヒムさんね。先日のおっさん達2人と並んでいるということは、あそこの5人は同列の位だと考えたほうが良さそうだな。(たたず)まいからして文官ではなく武官。懐刀ということであれば将軍の線が高そうだ。怖い怖い。将軍なんかに目をつけられた日にはおちおち外を歩けもしないぞ?


 王様に(たしな)められて渋々引き下がるヨアヒムさん。目付きは厳しいままだけど、気にしないことにした。さっさと調印しておさらばしたいよ。


 そうこうしていると何やら紙が2枚持って来られ、王様に渡される。それを見た王様が頷くと玉座の肘掛けから肘掛けにテーブルのような板が渡され、その上で王様が羽ペンを走らせ始めるのだった。ああ、取り立てて宣言するわけでもなく始まってたのね。


 王様が書き終えると、僕の前にテーブルと椅子が用意される。テーブルの上にはインクの入った小瓶と羽ペンが挿してあり、2枚の契約書のようなものが置いてあった。むむむ。これは困った。


 何故なら自分の名前は書けるようになったが、眼の前の契約書の文面を読むことが出来ないのだ。ずらずらと文字が並んでいるのは分かるけど、内容はさっぱり。このまま内容を確認せずにサインをぽんと書いてしまうには状況が余りに整いすぎてた。


 王様の驚き具合、側からの圧力、部下を落ち着かせておいてからの契約。冷静に物事を考えられないようにした上で契約と来たもんだ。怪しむなという方が無理な話だよな。さて、どうしたものか。僕はそう思いながら取り敢えず意味の分からないミミズが這ったような文面とにらめっこすることにした。


 (ーー様。ルイ様)


 ん? 何処かで声がする? 何処だ?


 (ルイ様、わたくしです。思っていた通りになりました。領地と自治を認める代わりに王に仕えるという一文が加えられています)


 何だって!? 頭の中に聞こえてきたリューディアの言葉に慌てて文面に目を凝らす。うん、さっぱり分からん。この文面の何処がそうなんだ?


 (ペンにインクを付けて下さいませ。今から言う所にペンを置いて二重線を引いて下さい)


 分かった。


 一先ず最悪な結果を避けるためにリューディアの言葉を信頼することにする。ここに居る面子に比べたらリューディアの方が信頼できるというレベルなのかも知れないけど、今は頼りたい。言われるがままに二重線を引いたところで署名するように促され、練習通りに王様の名前の下にペンを走らせるのだった。


 2枚とも名前を書き終えた瞬間、契約書が光を放ち。何もなかったようにテーブルの上にあった。そのうちの1枚を王様に、もう1枚を僕に渡す影武者のおっさん。渡しながらにやりとした処を見ると、これは分かった上で仕掛けてきてたということだ。こいつ。契約書が光ったということは魔法で縛るという事か。危うく永久臣下にさせられるところだったかも知れない。


 それにしてもリューディアはどうやって文面を見れたんだ? と契約書の写しを受け取りながら少し思い巡らせてみる。見当がつかない。(いぶか)しげな視線を王様に送りつつ反応を待つ。


 (ルイ様、おまじない(・・・・・)の効果がそろそろ切れてしまいます。この後は自重して速やかにお帰り下さい。では)


 あ、おまじない(・・・・・)か! あの時に。名前の練習をする前に何やら呟いて唾を付けてくれた事がここで生きてくるとは。年の功と言うと怒られるだろうけど、信頼できる事を積み重ねてくれようとしてるのかな? もしそうなら、僕も彼女らを信頼しているということが伝わるように行動しなくては。


 「残念でしたね、父上。字が読めないという線で罠を仕掛けてあわよくばと思ったのに、最後でサラリと(かわ)されましたか」


 おいおい、この巫山戯(ふざけ)た文面は大公の悪知恵かよ。()びれもせずにネタばらしとかどれだけ神経図太いんだ。


 「(かわ)せてホッとしましたよ」


 取り敢えず敬意は示せそうにないな。


 「はははは。まぁそう言わないでくれよ。君を臣下に入れておけば何かと心強いという評価の下にしたものだからね。君の力を買ってるのさ」


 「買い被り過ぎです。そもそも僕には宮廷勤めは向きませんよ。なにせ引き籠もり生活を愛して止まないんですからね」


 いつの間にか素の自分で話して始めていた。そんな僕の横顔を鋭い視線で右側に居る面々が射抜いてくる。いい加減うんざりだな。どれだけ疑っているのか知らないが、そもそも宮廷にも国政にも王様にも何かを起こす気は更々無い。あの“森”の自治権さえ認めれ貰えればそれで足るのに、なんだこの仕打ちは。そんな気持ちが言葉に現れた所為か、言葉が乱暴になってる気がする。


 「今回はこちらの負けさ。大人しく引き下がるよ」


 今回はって、これで終わるつもりはないってことじゃないか。出来ればもうここには来たくないな。


 「出来ればこの先ずっと引っ込んでおいて頂けると嬉しいですね」


 「貴様っ!」「若造が!」「無礼な!」「口の聞き方を知らんのか!」「これだから田舎者は」


 僕の言葉に将軍たちであろう面々が気色ばむ。冷静さを欠かせて事を上手く運ぼうとしたのならば、自分たちもそうされても文句ないよな。大公の双眸(そうぼう)がすっと細くなったことに気が付いたけど、無表情(ポーカーフェイス)に徹する。出方を見極めようということか? 売られた喧嘩を買うことは滅多に無いが、振りかかる火の粉は即座に払い除けるよ?


 「若くて口が悪くて申し訳ありません。どの道田舎に引っ込む予定ですのでお気になさらず。精々余生を謳歌(おうか)して下さい」


 油を注いでみた。案の定よく燃える。僕たちは帯剣を許されていないので無手だけど、将軍たちは腰の剣に手をやるのが見えた。さて、どうしたものか。テオドール様とデューオ様は口を挟みそうにない。傍観だ。と言うことは、影武者のおっさんと将軍の5人か。


 「シンシア、アピス、ギゼラ、ディー。何か起きても消して手を出さないように。直ぐ僕と距離を開けて。巻き込むと動きが悪くなるから。その代わり、振りかかる火の粉は払っていいから。殺さない程度に」


 「「「「はい」」」」


 これで良いか。さぁどう出る? 王様も僕の実力を見るつもりなのか静観を決め込んでるようだぞ? 将軍たちは腰の剣に手を掛けたが、抜剣はしない。あれか? 「殿中でござる!」的な流れなのか? それならば出方を待ってからでも遅くはないな。


 一歩前に踏み出て両手を上げ一先ず敵対の意がない事を示しておく。


 「僕としては事を荒立てる気は更々ありません。そもそも挑発してこられたのは大公閣下ですから。今の時点では領地も自治権も認めていただきましたので感謝こそすれ、禍根を残したいとも考えていません。皆様はいかがお考えですか?」


 「う〜ん、確かにこれ以上は手に余るね。父上?」


 「痺れを切らして誰か剣を抜くかと思ったが。なかなかじゃな。ヨアヒム」


 「は」


 「抜剣を許可する」


 やっぱり。王宮内での帯剣はOKだけど、抜剣はペナルティ付きということだな。許可を受けて最初に食って掛かって来た。ヨアヒムと言うなの中年が抜剣して前に出る。僕より年上だろうということは予測に過ぎないが、白髪交じりの茶髪に(しわ)の刻まれた顔はこの人物が叩き上げの戦士であることを静かに物語っていた。抜剣したまま王様に一礼してこっちに向き直る中肉高背(ちゅうにくこうぜい)の将軍。


 「存分に斬り捨ててご覧に入れます」


 そうなるよな。ま、考え方だな。1対6が1対1になったということだ。やれやれ面倒だぞ。次は俺が!わたしが!とかは勘弁して欲しいんだけど。


 「こちらにはそれにお答えする理由もないんですけど?」


 やんわり断ってみる。


 「ならば黙って斬り捨てられるんだな。後ろの娘どもは俺が引き取ってやろう」


 「――ふぅ」


 自分の事は少々我慢できるんだけどね。どうもウチの娘たちになるとダメみたいだな。ゆっくり息を吐いて落ち着かせようと思ってもどうも上手くいかない。


 「「「「「「「「!!?」」」」」」」」


 「言っておきますが、殺し合いを望んでいるわけではありませんのでこちらは無手でいかせていただきますよ」


 威圧が漏れているのはこの際仕方がない。フェレーゴ伯爵の屋敷の時よりは抑えめだから実害はないだろうけど、デューオ様意外明らかに上から目線だった面持ちが緊張感を漂わせ始めた。デューオ様といえば「ほら言わんこっちゃない」という感じで右のこめかみを抑えている。


 ゆらりと更に一歩前に出て後ろとの距離を取る。両手は下げたままだ。


 「むぅっ!」


 その動きに付いてこれなかったようで、ヨアヒムという将軍は慌てて剣を身構えるのだった。そう言えば転生してきた時に神様(エレクトラ)が何か言ってたな。




             ◆




 Lv10というのは達人のレベルなんです。お強いんですね!




             ◆




 だったか。つまり人間のスキルレベルでLv10を超えていたとしても、今の僕のようにLv150を超えるスキル持ちだとその達人レベルを遥かに超えてしまっていることになる。達人の上はなんだ? 武人か? そのうち分かるか。まずは、眼の前の厄介事を済ませる事に集中することにした。


 「何処の馬の骨とも解らぬ奴がこれ程……」


 「その何処の馬の骨とも解らん奴に喧嘩をふっかけてきたんですから、負けても誰も信じませんよ。ご安心下さい」


 そう言って、僕は無造作に見えるほど自然にヨアヒムさんの懐に歩み寄る。


 「なっ!?」


 慌てて剣を振って来るが、もう遅い。懐に吸い付くように(かわ)して僕の背中をヨアヒムさんの胸にあてたまま剣の(つば)(つか)をそれぞれ握り抑える。自分とヨアヒムさんの間に剣を割りこませるように下から上に左回転させながら、(たい)時計回りにくるっと入れ替えた。


 横並びの様にそれぞれが逆の方向を向いて肩をぶつかり合わせる。背中側に移動した僕がヨアヒムさんに剣を握らせた状態で腕を背中側に引き、内肘に僕の右手を添え極めるようにして肩の裏側へ剣を引く。あとは重心が後ろに移って倒れるからそのタイムングで剣を奪う。シンシアの時にやった剣取りという技だ。一連の動きは10秒とかからない。


 「ぐはっ!?」


 殺すつもりはないけど、変な動きをされるのも嫌だからヨアヒムさんの喉元に奪った剣先を突き付けて動きを止めるのだった。一瞬の事で周りの面々もよく分かってないようだ。ディー以外はあの時の事もあり驚いてはないようだけどね。


 「さて、どうされますか?」







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