表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第一部 エレクタニアの開墾 第一幕 黒き森
9/220

第8話 同類

2016/3/29:本文修正しました。

2016/11/3:本文加筆修正しました。

 

 カチっ


 あーーーー。


 カシャーン


 鉄格子が落ちてきて暖炉の前が塞がれてしまいました。罠だったのね……。


 コツコツコツ


 足音に気が付いて()つん()いになったまま顔だけ持ち上げると眼が合った。あ、メイドさんだ。


 「ど、どうもこんにちは。どうやら暖炉の肥やしにされたみたいです」


 「くすっ」


 お、笑った。顔色悪いけど女の人の笑った顔はどれもいいものだね。出してくるのかな?


 「あの」


 「それでは御機嫌よう、旅の御方。食事の前にここに気が付かれたのは貴方様が初めてでございましたよ」


 「助けて下さい」と言おうと思ったら被せられてしまった。いやぁ~~! そのセリフ怖い! にっこり笑いながら言えるなんて、恐ろしさを通り越して尊敬すらします! あ、でも、このままどこかにというパターンだよね? これ。鉄格子開かないんだから。


 ぱかっ


 やっぱり下に開くんかいっ!!


 「御機嫌ようぉぉぉぉ~~~~~~~~!!」


 取り敢えず、実体化は解かないでそのまま落ちてみることにした。こういうパターンは、1.主の肥やしになる。2.主のペットの餌になる。3.外の川なり海に吐き出される。くらいだろうから最悪命を取られることは無いはず。でもまぁ、こっちはレイスだから高所から落ちてぐしゃっってなったとしても平気なんだけどね。


 そもそもこの森の近くに川や海はないのは確認済み。だから3は無い。1か2のどちらかだね。


 そうこうしてると縦穴が次第に曲線を帯びて来、滑り台の要領でざーっと地下室に滑りでたのだった。あぁ、ズボンが擦れてる。この一着しかないというのに。ん? 明るいぞ?


 ぞくっ


 「ようこそ、旅の御方」


 声が聞こえたとお持った瞬間全身が粟立(あわだ)つ。あれ? 男の人の声がする? 女の人じゃないの? どこにいる?


 「ど、どうも。お招きに預かり光栄です」


 キョロキョロしながら一先ず返事だけはしておく。何処に居る?


 「現状を理解しているのかね?」


 「メイドさんとお別れの挨拶を済ませてきた処で、まださっぱりです」


 「ふははははは。なかなか肝が据わった御客人だな」


 上か? 上!?


 どうやら頭上で声がするようなので見上げてみる。おお! 居た! 透き通った半透明の体を持ったおっさんが。ん? 透き通った半透明の体? どこかで見たよ? それ。


 「も、もしかして生霊(レイス)さんですか?」


 「ほほぉ。分かるか」


 「はい。何度か見たことがあるので」


 「ふむ。レイスを見て生き残れたとな? 運が良いのだな」


 「それはどうでしょう? 僕に興味がなかっただけかもしれません。と、ところで、貴方がこの屋敷の主なのですか?」


 同じ不死族(同族)かよ! 落ち着け、騒いだら相手の思う壺だ。思考が動くくらいには冷静にならないと。


 「む? どういうことだ?」


 「いえ、屋敷に泊まらせてもらえるとなったので、御礼をお伝えできればと思ってたんですが、お泊りできるような場所でないので、一応挨拶だけでも、と思いまして」


 「ふはははははは。面白い客人だな。自分がどうなるか知ればそんな余裕もなくなるだろうに。だがまぁいいか。我はこの館の主ではない」


 「では、こんな処で何を?」


 レイスのおっさんはさも愉快そうに僕との会話を楽しんでいる。いいぞ。話から出来るだけ情報を引き出させるんだ。


 「実験だ」


 「じ、実験ですか」


 こんな地下室で!? 人が居ないのはこいつの実験に巻き込まれた所為(せい)なのか!? いや、結論を出すのはまだ早いぞ。


 「聞きたいか?」


 「興味はありますが、なんだか聞いてはいけない気がします」


 何とか会話から糸口を見つけないと。そろそろあの2人もこの屋敷に気づくだろうからな。早くここから帰れるに越したことはない。


 「ふははははは。久し振りに意思が通わせるという事は良いものだな。言葉の掛け合いがこうも高揚するとはな。御客人、貴殿は生霊(レイス)という存在をどう思っているのだ?」


 「レイスですか? 未練が残った存在とか、レイスに殺されてしまった人とか、体を奪われてしまった魔法使いとか、ぐらいしか聞いたことはないですね」


 当たり障りの無い方を言ってみる。


 「以外にまともな答えだな」


 ほっとけ。


 「あと、命を吸い取られる。あ、あの、僕も吸われてしまうのでしょうか?」


 「ふっ。直ぐには吸わんよ。気が変わった。しばらくはお客人と話をしている方が楽しめそうだ」


 結局吸うんかい!! って、レイスがレイスを吸ったらどうなるんだろ? いや、生霊(レイス)だろうと、悪霊(ワイト)だろうと、地縛霊(ファントム)だろうと、死霊(スペクター)だろうと、モンスターには変わりはない。きっと吸えるはずだし、僕も吸われるだろうな。


 【鑑定】を掛けてみたい気もしていたのだけど、先程のメイドさんの言葉が耳に残っていたので今は自重することにする。一先ず間が持ちそうだから良しとするか。しかし、このレイスのおっさんが主じゃないとすればあの声の主が主ということになる、はず。


 「と、処でレイスという存在になられたのでしたら、何を探求しておられるのですか? 実験と言われるには、恨みごととは無縁のような気もしますが?」


 「ほぅ。御客人はなかなか鋭い思考を持っておられるようだ。これは説明のし甲斐がある」


 やめて~! 僕の知識なんか付け焼刃もいいとこなのに、すぐボロが出るよ!


 「か、買い被りです。利口そうに見えるだけです」


 「ふははははは。まぁ良いか。実験とはな。どうやってエネルギーを分類分けして吸い出すかということだ」


 なに?


 「ーーと、言うと?」


 「生霊(レイス)は命を吸う。そこは間違っておらん。だが、それだけか? と思ってな。生命力だけでなく色々なものを吸い取れるのでは? と思い当たったのだ」


 おおぉぉぉい! それ僕がしてることですよね? え? え? それはレイスに普通にできないことなの? いや、これはストレートに聞くとまずい!


 「ですが、伝え聞く処によると、レイスは生命に触れただけで命を吸うと言われてた気がします」


 「まさにそこだ」


 「え?」


 あ~何か言い方まずかった!? バレた?


 「その触れた瞬間に無差別に吸うという行為を進化できれば」


 「進化できれば?」


 「我はこの世界を統べることができる」


 はい、悪人決定ぃぃーーーーーー!! 僕は世界なんか求めてませんから! モフモフさえできれば大丈夫なのです!! 無害なレイス、楽しいレイス、動物を愛するレイスで良いのです!


 「そ……それはまた壮大な研究テーマですね」


 「そうであろう!? いや、この館に留まって200年、ようやく我の理想を理解できるものが現れたは! よし、特別に御客人はレイスにして我の助手を務めさせてやろう!」


 えええええええええっっ!!! こんなおっさんとずっと一緒は嫌だ! ん? ちょっと待て、今聞き捨てならないワードがあったよ?


 「に……200年!? ここで200年も研究していたのですか!?」


 「うむ。驚いたか?」


 僕はまだ2年目ですけど、そんな壮大な目標はありません! だけど、この部屋何にもないよ? これで研究や実験ができたの?


 「は……はい。一口に200年と言われてもピンと来ませんが、こんな何もない処でどうやって研究が?」


 「さもあらん。本来ここは旅の者たちを招待して吸いカスにする部屋だ」


 ひぃぃぃ、怖い部屋だったんだ! 思わず両手で両頬を潰す。


 「実験はこの奥でしておる。ふむ。どうせ助手にするのだ、付いてきなさい。生身で見ることのないものを見せてやろう」


 おっさんレイスはそう言うと奥の突き当たりの壁の前に移動すると、一言。


 「【開錠(アンロック)】」



             ◇




 (とき)は少しだけ(さかのぼ)る。


 「御機嫌ようぉぉぉぉ~~~~~~~~!!」


 眼の前で格子の向こうに()つん(ばい)いになっていた男性が、大きく挨拶を叫びながら落ちていったのを確認してメイドの女性は再びくすりと微笑む。


 その反応に今更ながら気が付いた血色の悪い女性は、思わず左の(てのひら)で口元を隠すのだった。


 「笑ってる……。わ、わたしが!?」


 ガコン


 と暖炉の仕掛け床が戻り、何もなかったように静けさを取り戻す。だが、彼女の胸の内は自身の思わぬ反応で揺れ動いていた。感情を押し殺して200年。この屋敷を維持管理してきた。(おの)が非力を()くことも、嘆くことも、泣くことも、足掻くことも諦めてこれまで悠久と思える時を過ごしてきたのだ。その自分がーー。


 「笑ったの?」


 とくん


 胸の奥で動くはずのない(・・・・・・・・)心臓が跳ねた気がした。


 ー おや? どうかしたのですかな? 貴女にしては珍しいですね ー


 メイドの女性の脳裏に男声が響く。ルイと話し込んでいるあの男の声とは違う別人のものだ。


 「……いえ、なんでもありません」


 ー そうですか? 久し振りに血に与れると楽しみにしていたのですが。先ほどの客人は帰られたのですか? ー


 「いえ。すでにあの男の下に送りました」


 (うつむ)きながら短く答える女性。


 ー 何と!? 来たばかりではありませんか。もしや貴女が? ー


 「そうではありません。あの方(・・・・)が自力で暖炉の仕掛けに辿(たど)り着かれたのです」


 ー あの方? ー


 脳裏に響く男声が(いぶか)しがる。その声にメイドの女性がはっと顔を上げて周囲を見渡すのだった。誰も居るはずもないが、彼女は自分の顔が上気してる事に気が付いたのだ。無意識に両頬を両手で抑える。先程までの感情の起伏が全く無い彼女の素振りからすると、全く正反対の行動に誰もが驚くことだろう。だが食堂に居るのは彼女ただ一人だ。


 「え、あ、いえ、わたしは何を言ってるのでしょうか?」


 ― それはこちらの台詞(セリフ)です。何があったのですか? 貴女らしくない。何者なのですか? その餌食になった訪問者は? ―


 「若い人族の男性です。【鑑定】スキル持ちでしたので、魔法が使えるのでしょう。分かるのはそれくらいです」


 ー 荷物は? 旅の者であればそれなりに荷物もあるはずでしょうし、衣服は(ほつ)れたり汚れたりしているはずです。その辺りはどうですか? ー


 「……荷物はありませんでした。両手は何も持っていなかったのです。背負ってもいません。服も綺麗なままでしーーた」


 ー まずいですね ー


 「まずいでしょうか?」


 ー いいえ。失礼しました。わたしたちからすれば良い事かもしれません。その方は希望(・・・)になり得るかもしれません ー


 どくん


 「どういうことですか!?」


 男声に語調を強めて聞き返すメイド。知らず知らずの内に左手が自分の胸、心臓の上に置かれていた。


 ー これ以上は分かりません。空腹を通り越して動けないわたしには酷な話です。対応したくとも出来ない状況はわたしにとってまずいのです。申し訳ありません今は貴女が頼りです。もしもの時は任せましたよ? ー


 「(かしこ)まりました」


 どくん


 男声に返事を返した瞬間、三度(みたび)鼓動が跳ねる。暖炉の中で照れ笑いをしているあの男性の顔が何故か浮かんできた。胸元を掴む左手が自然と握り締められていく。物静かなイメージを持つ彼女の仮面がここに来て音を立てながら崩れていることに、彼女自身は気付いていない。200年己を殺し続けて来た彼女の中で止まっていた(とき)が動き出そうとしていたーー。




             ◇




 ゴゴゴゴ……


 魔法の言葉が生霊(レイス)のおっさんから発せられると、重々しい音と共に眼の前の壁が動き始めたのだ。後でギゼラに聞いた話だけど、魔法を無詠唱で唱えるというのは直ぐにできるレベルの話ではないらしい。もちろん僕も直ぐにできたわけではない。1年かけてなんだけど、それでも早過ぎるとギゼラは驚いていた。


 このおっさんレイスが無詠唱で扉の魔法を解除したということは、それなりの実力者ということを表しているのだろう。傲りや慢心は致命的なミスを生むぞ? と自分に言い聞かせて、僕はおっさんレイスの後について開かれた壁の向こうに足を踏み入れたのだった。ここで僕は目を疑うことになる。


 そこで見たのは、黒い、いやそれより更に黒い漆黒の鎖に繋がった枷で両手足を繋がれて、中吊りになってる全裸の女性の姿だった。長く伸びた銀髪が白い裸体に絡まり妖艶さを醸し出している。あまりの現実離れした美しさに僕は言葉を忘れただ見惚(みと)れていたんだ。


 不思議と性的な興奮は湧いて来なかった。それは釣り上げられた両手の枷にあたる部分に血糊を見つけたからだろう。僕は自分の中で怒りが湧き上がってくるのを感じていた。


 おっさんは僕の驚いた顔を見てご満悦だ。当然僕の感情には気付いていない。


 そして大仰に舞台俳優でも気取るように、宙で大手を広げ僕に彼女を紹介したーー。


 「紹介しよう。彼女の名はエリザベス・ド・ブラッドベリ。ヴァンパイアにしてこの館の主だ!」






 

最後まで読んで下さりありがとうございました。

ブックマークやユニークをありがとうございます♪


誤字脱字をご指摘ください。


ご意見やご感想を頂けると嬉しいです。

宜しくお願い致します♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ