第83話 アイーダの素顔
朝――時刻は8:16。
湯殿に隣接された隠し部屋のキングサイズのベッドの上で3巡もしてしまい、再び後悔の内に頭を抱えている僕がいた。
どうしてこうなった?
何があったかをゆっくり思い出してみることにする。アイーダさんを慰めたのか慰められたのか分からない状況でベッドに居た僕たちを見て対抗心を燃やした女性たちに求められ、応え、取り合い、求められ、応え、の繰り返しだったね。
「はぁ〜前回も思ったけど、どうなった僕の身体? どんだけ絶倫だよ。しかし、アイーダさんは予想以上に可愛かったな。さてと、皆、お風呂に浸かってるから、起きたらお風呂においで」
そう言ってベッドから降りお風呂に浸かることにする。
ぱしっ
「!?」
「可愛かったはないだろう?ん……」
と思ったら突然横合いから手首を掴まれて唇を塞がれた。アイーダさんも起きてたようだ。何処に居たんだ?
「ははは、すみません。つい♪ よっと!」
このままこの部屋に居ると残り香に当てられて流されること請け合いだったので、アイーダさんを再びお姫様抱っこして湯殿に出ることにした。
しかし、今肌を接してみて思うのだが、更に張りが出て来たと感じるのは気の所為だろうか?
「あの、アイーダさん」
「折角の気分を壊すんじゃないよ。あたしもあんたを呼び捨てにするから、あたしもそうしておくれよ」
その甘え方につい笑いが漏れ、あどけなく微笑むのだった。その顔をアイーダがぽーっと見詰めていることに気がつく。ん?と思ったら目を逸らされた。
「何んで目を逸らしたの? アイーダ?」
「な、何でもないよ」
「ふ〜ん、可愛いとこあるよね」
「なっ!?」
「ん……」
慌てて顔を向けてきたので取り敢えず唇で塞いでおいた。そのまま湯船に入り、腰を下ろしてゆっくり唇と体をお湯の中に開放してあげる。
「――はぁ……天下の将軍だったあたしがこんなひよっこに」
「はいはい。処でさ、この傷大事に守りたい傷なのかな?」
そう言いながらアイーダの左胸に触れて傷跡をなぞる。肌を重ねながらどうにかならないかな? と片隅で考えていたんだ。殆ど思考がピンク色に染まっていたのは否定しないけどね。
「どういう意味だい?」
僕の質問の意味を図りかねて問い返してくる。まぁ、それが普通だよな。
「ん〜上手く言えないけど傷跡を残すことで昔の人への想いを大事に守ろうとしてるのかなって事さ」
「妬いてるのかい? 嬉しいねぇ」
「な、茶化さないで答える! まぁ、今となったら全くないというと嘘になるけどな。ん……」
僕のその答えにアイーダは悪戯っ子のような目付きで微笑むと短く唇を重ねてくるのだった。こりゃ、恋人って感じに見られるよな。歳の差カップル。いや、この関係は嬉しい関係だけど。起きてきたら、ね?
「そうだねぇ、先々代の王が死んでから140年以上経っちまったからね。正直顔も思い出せなくなってきてるのさ。思い出はあるけど、傷がなくなったらそれもなくなる訳じゃないからね。ま、要するに問題ないってことさ」
「そっか。ま、アイーダがここにずっと居てくれるかどうか分からないけど、嫌な思い出だけはここで残して欲しくないからなぁ〜。あ、これからする事は出来れば内緒にね? 【静穏】」
「ふん、どうするかはあたしが決めるよ。ぐっ、ぐあっ、あんた、あたしに何したんだい!!?」
「ルイ様!?」「マスターッ!?」「主殿!?」
【静穏】の効果が出始めてアイーダが苦しみ始め、何をするのか告げていなかった僕に掴みかかってきた所をリーゼとアピス、シンシアに見付かってしまうのだった。
「大丈夫、落ち着いて。体が再生の反応にびっくりしてるだけだから。ほら、体が冷えちゃうから浸かった浸かった♪」
僕の体に爪を立てて痛みに耐えるアイーダの眼に怒りとも戸惑いとも付かない色が浮かんでいた。その様子を見ながら3人が湯船に入ってくる。3人にも軽く口付けして朝の挨拶完了♪
10分後――。
湯船に浸かったまま喘いでいるアイーダの姿が在った。背中からは蝙蝠を思わせる折畳まれた翼。後ろ巻にカーブし尖った先端を頬の横に突き出してる羊の角に似た角が左右の耳の上辺りから伸び、お尻の尾骨の先端から大蛇の尾を思わせる尾が伸びていた。
角度をずらして左側を覗いてみる。左胸の傷跡も完全に消えており、乳房再建も完全に仕上がっていた。うん、完璧♪
ぱしっ
「あたっ」
「あんたねぇ、こんな事するんだったら一言おいい! 死ぬかと思っちまったじゃないかい!」
涙目で睨みつけてくるアイーダの平手が頭を軽く打つ。まぁ、これくらで済めば御の字か。拳骨が来るかと思ったけど。ま、何にせよ良かった良かった。
「再建するのにアイーダ自身の肉を使ってるから、しっかりご飯食べてね? というか、まだ寝てるの?」
アイーダにそう言いつつ。シンシアたちに話を振ってみる。
「あの、前回の時よりも“力”を沢山頂けたようで。その反動で起きれないのかと」
とリーゼがもじもじしながら答えてくれた。ん? どういうこと? ここで【ステータス】開くのは止めてた方が良いか。リーゼの言葉に顔を赤らめながらアピスとシンシアが頷いていた。どういうこと?
「どうりでね。わたしも力が湧いてる訳だ」
だからそれどういうことかな?
「どうやらわたしたちはマスターのお情けを頂けると少しずつ力を増すことができてるようです。人によて何処にその影響が顕著に出るのか違ってるので、一言では難しいのです」
なる程。それはきっと良いことなんだろうね。あれ? アイーダの左眼はどうなった?
ころっ
湯の底で何かが脚に当たる。当たったものを持ち上げてみると、アイーダの左眼に入ってた“魔道具”と言ってた水晶玉だった。【鑑定】。アイーダに渡す前に【鑑定】しておく。うわ…これ国によったら国宝とか言いそうな代物だよ?
◆ステータス◆
【アイテム名】ウアジェトの眼
【種類】魔導具
【効果】装具者に【看破】のスキルを付与し、聖魔法【再生】の使用を可能にする。
【使用者】アイーダ
「あ、左眼、見える!? 左眼がある!? 嘘だろ? あんた何したんだい!?」
「おわっ!? ちょっ、落ち着いてアイーダ!」
僕の右手に左の眼窩に嵌っていた物がころっと転がっているのを見て、アイーダは慌てて左眼で周囲を確認する。今まで無かった視力が戻り、視野が広がったことに動揺して僕の両肩を掴んで揺さぶるのだった。僕の眼の前でアイーダの形の良いマシュマロも揺れている。眼福眼福♪
「160年以上も昔に着けられた眼だったんだよ? 受け入れろっていうのが可怪しいじゃないかい」
「いや、両目が見えたほうが良いに決まってる。冷静になって。折角うちに来てくれたんだし成り行きとは言え一夜を共にしたら他人行儀なことは出来ないでしょ? それにここでの思い出は良いものにしてもらいたいしね。奮発して治しちゃったよ♪」
そう説明してアイーダに唇を横に引っ張るように伸ばして笑ってみせるのだった。その笑いを見てシンシア、アピス、リーゼも優しく微笑む。アイーダはというと抱き着いて来た!?
「「「!?」」」
「えええっ!?」
「どうしてくれるんだい! 遊びのつもりだったのに本気になっちまうじゃないかい!」
そ、そんなこと言われても。助けを求めて3人に視線を送るがしっしっと手で追い払われた自分でなんとかしなさいってことか。
「えっと、頼りないかもしれないけど、皆と一緒に支えてくれると嬉しいな。宜しくね、アイーダ」
とだけ言ってぎゅっとしておいた。さてこの“眼”どうするかな。所有者はアイーダのままだし。僕が持ってるのも変だろ?なんて考えてたら力一杯抱き締め返された。く、苦しい。とても200歳超えとは思えない力だよ。もう年齢で判断するのはやめよう。こっちの世界では命取りになる。
「あ、アイーダ。この“眼”だけど、体に着けてあげれると思うけどどうする?」
「!?」
その言葉にがばっと体を離して僕を凝視してくるアイーダ。
「この魔道具所有者アイーダのままだしね。僕が持ってるよりアイーダが持ってる方が有効利用できるだろ?」
「着ける!? 着けるって何処にだい!?」
「う〜ん、額とかどうかな?第三の目とか?」
「「「「!?」」」」
その言葉に4人の眼の色が変わる。あれ?何かまずいこと言っちゃった?地雷踏んだ?
「え、何?」
「その、第三の眼というのは魔族にとって格を表すものでもあるのです。力のない魔族は第三の眼を開眼できませんから」
とリーゼが説明してくれた。伊達に長生きはしてないということか。つまり、アイーダはそこまで力がなかったということ?チラッとアイーダを見るとふっと目を逸らされた。気にしてたって事かな?と言うか、僕より随分年上でしょうに。
「アイーダ、こっち向いて」
「な、何だ急に」
「良いからこっち向いて、ここ座って」
こうなれば強制装備だ! どうやら年下であろうが好きになってしまった者の言葉に弱いようで、言いなりだ。この性格が災いしたのかもしれないね。僕の前に座らせる。本当に200歳超えてるのか?と言いたくなる熟女で、他の若い肌と違って。おほん、そうじゃない。“眼”の装着だ。
「ちょっと眩しいと思うから眼を瞑ってくれる?皆も」
4人が眼を閉じたのを確認し、魔道具を額に当てて【融合】と念じる。予想通り閃光が辺りを包み込み、それが消えた時には“眼”が額に埋まっていた。うん、ちょっと怖いくらい似合ってるね。しかしこの【融合】も熟チートだよな。御蔭でまだ試してみたいこと増えたし。
「皆、いいよ。アイーダ僕に向けて【看破】使ってみてくれるかい?」
「――!!」
アイーダの表情が驚きに変わる。どうやら上手く言ったようだ。さて、他の娘たちは仕方ないからそろそろ朝ごはん食べるかな。神様が言うには【看破】されないはずだからね。
「よし、上手く言ったみたいだし朝ごはん食べに行くよ。ゼンメルの朝ごはん楽しみなんだよね」
ざばっ
湯船から上がり用意されている布で体を拭こうとしたら、シンシアたちに取り上げられた。なのでそのまま拭いてもらうことにする。これもまだ2回目だから慣れなくてそわそわしちゃうよ。そもそも慣れることがあるのかな?とも思う。
水気を取り服を身に着けて上に上がると、アーデルハイドが仏頂面で出迎えてくれた。ま、まぁそうなるよね。明日の朝からと言いながらあの部屋に居た女性陣はまだ誰一人として上がってきてないのだから。エレンも含めて。南無。と心の中で手を合わせておく。
「おはようございます。ルイ様。お食事をお持ちしても宜しいでしょうか?」
「ああ、頼む。!?」
厨房へ続く扉を開けて去っていくアーデルハイドを見送った後食堂を見渡すと、侍女が6人立っていた。その内2人はお腹が大きい?
「は? アニタ、ヘルマ、クラム、ベス、ロロ、セイルなの?」
「「「「「「おはようございます、ルイ様」」」」」」
「何と言うか、皆良く似合い過ぎてて新鮮だよ。ヘルマとクラムは無理し過ぎないようにね?」
「「「「「「〜〜〜〜〜〜♪」」」」」」
褒められ慣れてないせいだろうか、皆デレるね。まあ、昔からだけど。スカートの後ろに空けてもらったのだろう穴から出てるそれぞれのしっぽがぴくぴくふさふさ嬉しそうに動いてる。
食事が運ばれてくる間にリーゼ、アピス、シンシアが、そして少し遅れてアイーダが上がってくる。あれ?そう言えば鎧蜥蜴何処行った?なんて思ってたら、暖炉の上で動く影があった。居た居た。でも、一番の驚きはアイーダの変化だろう。
「あ、そこアイーダの席じゃないから勝手に座らないように」
「何で駄目なのさ〜、良いじゃなないかい。めし食う時くらい傍に居てもよ〜」
「ダーメ、席順は決まってるの。一緒のタイミングで座って食べるんならアイーダの席は一番向こうだよ」
「何だい! ルイと離れちまうじゃないかい! やだよ、あたしはここが良いんだよ。ここに座らせておくれよ〜」
「駄目ったら駄目。そもそも武術師範で呼んでるんだから仕事しなきゃ席もないよ?」
「何でそんなに薄情なんだい! あんなに熱く求めてくれたじゃないかい?」
「それはそれこれはこれ。そもそもアイーダは国の役職で上に立ってたんだろ?順番が大事だって分かるだろうに」
「ゔゔ〜……」
「でもまあ、床に座ってるんだったら横にいてもいいよ?」
「本当かい!?」
その一言でアイーダが破顔するのだった。蛇の尾が小気味よく跳ねてるのが眼に着く。
「ルイ様!? アイーダ、端ないですわよ。しっかりしなさい」
「良いじゃないかい。あんたに迷惑かけてないだろ? アルチェ? ルイも良いって言ったんだからさ」
ハイジが愛称じゃないんだ。アーデルハイドはその一言で左のこめかみに左手を添えるのだった。うん、気持ちは分かるよ。
こんな感じで勝手に座ろうとして僕に窘められ半べそをかきながら甘えてくる姿は、昨日の挨拶の時の姿からは想像できないデレっぷりだ。若かりし時先々代の王と恋仲だったというが、ひょっとすると鬱陶しくなり過ぎて怪我を理由にホッとした処を淑女の魅力に撃ち落とされただけなのではなかろうか? とさえ思えてくる。
普通ならアピスやシンシアが何か口を挟むところだが、どうやらデレっぷりに呆れて次の言葉に繋がらないのだろう。あるいは触らぬ神に祟りなしと傍観を決め込んでいるのか。なんだろう。後者の気がする。
加えてアイーダの姿も変わってる。来た時には人だと言っても遜色なく受け入れられただろうが、完全に人外スタイルだ。アーデルハイドに至っては食堂に戻って来て眼が合った瞬間、暫く空いた口が塞がらなかったくらいだからね。笑えたけど。
食事を取りながら、他の者は昨夜少し乱暴に扱い過ぎたようで起きて来れないみたいだとアーデルハイドに伝えておいた。間違いではない。自覚は――ある。本来は朝からのつもりだったけど、今日は出来る範囲から順次始めるようにお願いしておいた。夜には出発するから。
そうこうしてるとぞろぞろとぽーっとした顔のまま、ジル、エレン、ギゼラ、ディー、シェイラが上がって来た。丁度良い。
「皆おはよう。昨日は乱暴に扱ったみたいで悪かったね」
「「「「「〜〜〜〜〜♪」」」」」
顔を赤らめて5人とも挨拶そっちのけで首を振った。ま、それはそれで嬉しい反応なんだけどね。エレンはそそくさと厨房の方へ入っていった。
「今夜にはまた王都に戻るよ。その時のメンバーはシンシア、アピス、ギゼラ、ディーと僕、そしてエトの6人で向かう。アーデルハイド」
「はい」
「皆の食事の後でいいから、出掛けるまでの間にシンシア、アピス、ギゼラ、ディーに最低限のマナーと常識を教えておいて欲しい」
「畏まりました」
「4人ともちゃんと教えてもらうんだよ?」
「承知」「分かったわ」「はい、マスター」「はい、ルイ様」
うん、個性派揃いだ。チラっとアーデルハイドを見るとこめかみがぴくぴく動いていた。ひぃっ!? お手柔らかにお願いしますね?
「さてと、僕は外観がどう変わってるのか見てくるから、ゆっくり食事をしてね。アーデルハイド、ゼンメルにスープが美味しかったと伝えておいて欲しい」
「畏まりました」
「外に出るのかい? あたしも行くよ!」
これは、犬だね。主人が大好きでたまらない飼い犬のリアクションだ。蛇に似た尾の先が嬉しそうにぴこぴこぴこぴこ跳ねるように動いてる。ギゼラの時のリアクションとは違うね。でも魔族が犬って。「お主も大変だのう」と遠くで笑ってる先々代の王が一瞬見えた気がしたぞ!? 席を立って食堂を出る。
立ち上がった所に鎧蜥蜴が居たので摘み上げて僕の頭に載せておいた。リューディアも外の様子も知りたいだろうしね。
そんなこともお構いなしに嬉しそうに僕の腕に腕を絡ませてくるアイーダ。そうかこれが素顔なんだな。そう思うことにした。
ぱたん
と静かに扉が閉まる音がしたと思ったら――。
「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」」」」」」」」」
と大きな溜息が食堂の中で響いていた。
おいっ!
最後まで読んで下さりありがとうございました!
ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見ご感想を頂けると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします♪




