第80話 遭遇
※2018/10/2:ステータス表記修正しました。
エレクトラ様も状況が飲み込めたようで声に焦りの色が聞こえたんだけど……僕の体がどんどん薄くなっていき、しゅっと大地に吸い込まれてしまった――。
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「ルイくんっ!?」
◇
これ消滅したな。名付けで消滅って哂えない。2年の異世界生活だったか。思ったより早かく終わったな。でもまぁ、美味しい思いもしたし――ん? あれ? 待てまて。消滅したのなら何で思考が出来るんだ? もしかして僕まだ生きてる?
周囲を見回すが暗黒だということしか解らないも空間に居た。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。そんな場所だ。一先ず周囲の確認が出来ないなら自分の確認だ。【ステータス】と念じてみる。
◆ステータス◆
【名前】ルイ・イチジク
【種族】レイス / 不死族 / エレクトラの使徒
【性別】♂
【称号】レイス・モナーク
【レベル】1
【状態】加護
【Hp】1/3000
【Mp】1/8000
【Str】119
【Vit】112
【Agi】113
【Dex】88
【Mnd】85
【Chr】47
【Luk】39
【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、実体化、眷属化LvMAX(範囲眷属化)、強奪阻止
【アクティブスキル】鑑定Lv230、闇魔法Lv612、聖魔法Lv180、武術Lv151、剣術Lv103、杖術Lv98、鍛冶Lv100
【パッシブスキル】隠蔽LvMax、闇吸収、聖耐性Lv192、光無効、エナジードレインプールLv11、エクスぺリエンスドレインプールLvMAX、スキルドレインプールLvMAX、ドレインガードLvMAX、融合Lv125、状態異常耐性LvMAX、精神支配耐性LvMAX、乗馬Lv146、交渉Lv261、料理Lv80、採集Lv112、栽培Lv156、瞑想Lv383、読書Lv308、錬金術Lv270
【装備】カシミヤセーター、綿の下着、ウルティオ黒羅紗のコート、ブーツ、アイテムバッグ
【所持金】0
oh……。ギリ生きてる。回復も出来ないから何か攻撃受けたら終わりだ。
纏わり付くようなねっとりとした暗黒の中でふと流れがあることに気づく。
あれ? 流れというか、揺らぎがあるよな。見ることが出来ないのだが物質のものではない霊的な流れなんだろうと思う。その場に留まっていても現状は変わりそうにないので直感を信じて闇の中をふわふわと進んで見ることにした。
時間的な感覚はあってないようなものだから、時間は見てない。ここは感覚的だけど外の世界とは違う場所だ。地下なのかどうかも怪しい。そう考えながら揺らぎの発生している辺りに辿り着いた。発生している向こう側に回りこんでも特に変わったものはないし、何も反応しない。
ええい、ままよ!
そう意を決して発生場所に手を突っ込んでみた!
おわっ! また吸い込まれる!? 正真正銘これで終わりか!?
◇
その頃地上では――。
「ど、どうしようルイくんが……消えちゃった――」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
エレクトラ様が半泣き状態になってた。さっきまで上機嫌だったのにルイが消えたことへのショックが大き過ぎたようだ。勿論、その場に居合わせた美女たちも例外ではない。名付けで力が奪われることはこの世界の常識だ。その最中に消えたという事が何を意味するのか解らない訳ではない。
「どう言うことですか!? エレクトラ様!?」「どう言うことですのっ!?」
「マスターは!? 何処に行かれたんですか!?」「ま、我が君!?」
「ひぐぅっ……」
しかし女神に詰め寄らざるを得なかったのだ。勿論詰め寄られた側も答えがある訳ではない。みるみる幼女の円な瞳に泪が溜まっていく。彼女とて例外ではない。自らの使徒として好意を寄せるに足る人物を今この瞬間失ったのかもしれないのだ。冷静で居れば気づけたことも多くあるのだろうが……今の彼女には無理な相談であった。
「「「「「「「エレクトラ様!!!」」」」」」」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!! ルイくぅぅぅぅん〜〜〜!!!」
◇
――うん、まだ生きてる。あ……、生霊なのに変な確認だな。でも、明るいぞ? おわっ!!?
突然巨大な右手と左手が眼の前に現れて僕を優しく包み込み体の部分があるであろう所に抱え込まれた。恐らく掌を広げると186㎝はある僕の体を超えるくらいの大きさだ。
2mは超える大きな手であることには変わりないのだが、人の身長は概ね右の指先から左の指先までの長さに比例すると言われている。その時の基準が指先からシャツの袖がある辺りまでを基準の長さにして8を掛ける計算になるんだけど、この手の場合2.5mはありそうだ。
その比率で全身を考えると20mは超える大きさだぞ!? いやその計算、8頭身前提だろ! って突っ込まれそうだけど。その比率の人が多いような気がするから、なんとなくね。
指の隙間から虹色の光が溢れてくる。さっきまで居た暗黒の空間に比べれば雲泥の差だ。白磁を思わせる手の色と形状からして女性の手のようだし……。閉じられた手がゆっくりと開かれて、差し込む光の量も増えてきた。御蔭で眼を慣らす時間はある。
ん? 手をすり抜けようとも思ったんだけど――出来ないんだよね。つまり同じ霊的な存在なのか、それ以上の存在ということになる。
手が開かれた処で見たのは巨人であることも忘れて見蕩れてしまうほどの麗人だった。さっきまでの暗黒空間を思わせる漆黒の黒髪が長く胸や背に垂れ、双眸には薄群青色の瞳が涙を湛えて僕を見下ろしている。背中にある大きな折りたたまれた翼は黒く艷やかな光沢を煌めかせていた。
誰だ? 何処かで見たような記憶がある。こんなに大きな女性には逢ったことないけど、大人の女性、しかもこんなに美人だと忘れるはずもないだろうに。気の所為かな。自分の母親の顔を忘れるわけもないが、こんなに美人だったという記憶はない。綺麗な人だったけどね。
ぽたっ
大きな眼から零れ落ちた虹色の泪が1粒僕の顔に当たる。
結構な衝撃だ。いくらかは口を開けて呆けていたせいで口の中に入り、そのままの勢いで呑んでしまった。大丈夫か?
それに合わせるかの様に美しい口元が動くが僕には言葉が聞こえない。音も聞こえない。伝わってないのが分かったのか、巨人の麗人は僕を口元に運び上げた。え、食べちゃう気? 嘘でしょ?
と感じたのは僕だけで、彼女はそうするつもりがなかったようだ。柔らかい唇が僕の顔に優しく触れると何だか温かい気持ちになった。そのまま彼女は両手に僕を載せたまま更に上に持ち上げると。
しゅるっと虹色の光の向こうの暗黒に吸い込まれてしまった。
◇
「うわぁぁぁぁぁぁん!!! ルイくぅぅぅぅん〜〜〜!!!」
しゅぽん♪
「はい?」
「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」
何だから分からないけど大泣きしているエレクトラ様の前に現れた僕。あれ?さっきまで何処に居たんだ?誰に逢ってた?――誰かに逢ってた記憶があるけどその時の様子がすっぽり抜けてる。
がしっ すかっ すかっ すかっ すかっ すかっ
「おわっ!?」
「良がったぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!! ルイくんいぎでだぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
エレクトラ様は生霊の僕でも関係なく抱き締めれるようだけど、他の娘たちは泣きながら迫ってきても【実体化】してないから掴むことすらできないでいた。あう、これ相当まずいパターンだよね?
「と、取り敢えず、エレクトラ様も落ち着いて下さい。ちょっと記憶が混乱してて何がどうなったのかわからないんですが、僕は大丈夫ですから」
何がどうなった? 土地に名前を付けて、吸われて、吸い込まれて、誰かに逢って――。
ズキンッ!
「ぐっ!?」
「ルイくん!?」「マスター!?」「我が君!?」「ご主人様!?」「「「ルイ様!?」」」「ルイ!?」
がんと頭を殴られたような頭痛が一瞬襲ってきた。脳出血?いや、死んでるから関係ないか。と言うことは記憶障害。で、気が付いたらここに戻ってたってことだよな。痛みで頭を抑えると皆が集ってきた。心配を掛けたということはこの状況を見れば嫌でも分かる。それもかなり酷いやつだ。
「【実体化】」
触って貰うだけでも心配が和らげばね。そう思い【実体化】する。あれ?そう言えばHpもMpも1だった記憶があるよ? 【スタータス】!エレクトラ様ごと揉みくちゃにされながら、胸の奥に燻る疑問の答えを求めて【ステータス】を開く。
◆ステータス◆
【名前】ルイ・イチジク
【種族】レイス / 不死族 / エレクトラの使徒
【性別】♂
【称号】レイス・モナーク
【レベル】1
【状態】加護+(New)
【Hp】3000/3000
【Mp】7000/8000
【Str】119
【Vit】112
【Agi】113
【Dex】88
【Mnd】85
【Chr】47
【Luk】39
【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、※※※※※(New)、実体化、眷属化LvMAX(範囲眷属化)、強奪阻止
【アクティブスキル】鑑定Lv230、闇魔法Lv612、聖魔法Lv180、武術Lv151、剣術Lv103、杖術Lv98、鍛冶Lv100
【パッシブスキル】隠蔽LvMax、闇吸収、聖耐性Lv192、光無効、エナジードレインプールLv11、エクスぺリエンスドレインプールLvMAX、スキルドレインプールLvMAX、ドレインガードLvMAX、融合Lv125、状態異常耐性LvMAX、精神支配耐性LvMAX、乗馬Lv146、交渉Lv261、料理Lv80、採集Lv112、栽培Lv156、瞑想Lv383、読書Lv308、錬金術Lv270
【装備】カシミヤセーター、綿の下着、ウルティオ黒羅紗のコート、ブーツ、アイテムバッグ
【所持金】0
回復してる……。【実体化】の消費分で1000Mpが消えてるから、全快だ。名付け前と同じ状態ってこと? いや、違う。何だ? 「加護+」って? それに見間違いでなければ「※※※※※」が1つ増えてる。後で考えよう。今はこっちが優先だ。
「本当、心配かけてごめん。もう大丈夫。消えることもないから皆落ち着いて。まずエレクトラ様、すみません。ご心配をお掛けしました」
「ううん、良いの。わたしが名前付けようって言わなければこうならなかったんだから」
「何言ってるんですか。遅かれ早かれ付けることは決まってたんですから、名前も付けれて僕も元気でここに居る。結果オーライですよ!」
まだぐずぐず鼻を鳴らしている幼い女の子ににぃっと歯を見せて笑いかけてみた。その笑顔につられてエレクトラ様も笑顔を見せてくれたので一安心だ。そのまま抱き着いて貰ってても良かったんだけど、この娘たちのケアも要るからと一度離れてもらい、1人ずつ長めのハグとキスをしておいた。彼女達の処方箋はこれでいいらしい。
【鑑定】。皆が落ち着いてきたので土地に再度鑑定を掛けてみる。
◆眷属地エレクタニア◆
【備考】ルイ・イチジクの眷属化に伴い眷属となった大地。眷属主の成長に合わせて成長する。また眷属主及び眷属のHp・Mpの回復、状態異常の回復を早める力を持つ。眷属主及び眷属が修練に励む時成長を助ける働きがある。自我はない。
名前も問題無く付いているな。今度帰ってきたら念入りにケアしなきゃ納得してもらえないだろうね、きっと。
「うん、問題なし」
「皆、今日は本当にごめんなさい。お詫びと言っては何だけどここはわたしの名前が付いた初めての土地です。ですから今日のこの日より、わたし“エレクトラの聖地”と認めます!眷属であるあなた達にはこの地に居る限り多くの恩恵を受けることでしょう」
幼女姿の女神様がそう宣言すると大地が再びドクンと鼓動を打つように光を放つのだった。今回は誰も吸い込まれない。あれは何だったんだ?でも、気にはなるから現状の確認をする。【鑑定】。
◆聖地エレクタニア◆
【備考】ルイ・イチジクの眷属地でありながら、女神エレクトラの聖地ともなった大地。聖地内に限りエレクトラのファミリアに以下の恩恵を与える。ルイ・イチジクの成長に合わせて聖地は成長する。女神エレクトラのファミリアの加護を強め、身体能力を1.5倍高め、Hp・Mpの回復、疲労・状態異常の回復を1.5倍早める力を持つ。女神エレクトラのファミリアが修練に励む時成長を助ける働きがある。女神エレクトラのファミリアが創りだす品々の完成度が上がる。自我はない。
はい、聖地頂きました。身内びいきもいいとこだね。まあ、正直ありがたいけど。
「じゃあ、皆いちど王都に戻って帰ってくるから良い子にしててね?エレクトラ様お願いします」
僕の言葉にエレクトラ様は黙って頷いて僕の右手に手を置き再び転移して屋敷に戻った、と思ったら、雲の上だった。あれ? 違うんじゃ? と恐る恐る、エレクトラ様を見てるとまた泣いてた。顔を下に向けて無言てポタポタと涙を垂らして。
「エレクトラ様?」
「怖かったの」
「えっと」
どう言うべきか悩む。大丈夫だという言葉はさっき使ったがそれでも払拭しきれてないということだから。
「ルイくんが居なくなると思ったら怖かったの」
「……」
こういう場合、何も言わないほうが良い。問わず語りで自分の中が整理できるならそれに越したことはないからだ。だからそのまま放おって置く訳ではなく、空いた左腕でエレクトラ様を優しく引き寄せて背中を擦って挙げることにした。
何も言わずに僕のお腹に顔を埋めて両手でセーターをそれぞれぎゅっと握りしめるエレクトラ様。やっぱりさっきの1件がかなり堪えているようだ。
「どうすれば良いのかも解らなかった。神力を使ってルイくんを探すことも、助けてあげることも出来なかった。ただルイくんの顔が見れなくなるはヤダって思ったの」
「ありがとうございます。そんなに心配してもらえるのはすっごく嬉しいです。でも、エレクトラ様は女神様ですよ?」
「でも」
「本当だったら、どんと構えとかないといけないのに人の心配ばかりして、上で見て居られるおじいさんに怒られちゃいますよ?」
「ゔ」
「でも、それも含めて可愛いと思っちゃってるんだから仕方ないですね」
「え……?」
「ほら、可愛い顔が涙と鼻水で台無しですよ?」
僕はそう言ってアイテムボックスからハンカチを1枚取り出す。旅の準備をしている時に少しずつ貯まって来てたんだ。こっそり荷物の中に紛れ込ませてあると言った方が良いかもしれないけど。そう言いながらハンカチを受け取るとエレクトラ様はチーンと鼻をかむのだった。両手が話されてストーンと地上に向かって急降下かと思いきや浮かんだままだったのでちょっとだけ胸を撫で下ろしたのは秘密だ。
「エレクトラ様は責任を感じてらっしゃるんでしょうけど、そこは違います」
「え」
「名前を付けるということがどういう事か僕も知っていました。それなのに準備を怠って惰性でしてしまった僕の方に責任があります。名を付ける前に皆から力を分けてもらうことも出来たのにそれをしてなかったですから」
「……」
「ちょと焦りましたけどね」
そう言いながら小さく舌を出してあどけないく笑ってみせた。
それを見たエレクトラ様は何も言わずにぽかぽかと僕のお腹を叩き始める。うん、心配かけたんだからこれくらいは受けなきゃ駄目だな。気が済むまで叩いてもらおうと思ったら、10回程度でピタリと止まった。あれ?
「許さない、許さないからね!ルイくん!」
「ええっ!?」
何でそうなるんですか!?と言いたくなるのを辛うじて抑えこむことに成功して3mm程右頬を動かして微笑んだ。微笑んだと言えるのかどうかわからないけど、微笑もうとしたんだ。そしたら。
「眼を瞑りなさい! わたしが良いと言うまで開けては駄目です!」
「え」
何でそんな面倒なことを。
「良いから瞑りなさい! わたしを心配させた罰を与えます!」
「はい」
所謂、神罰というやつね。どんな罰が来るか。心配させたのも事実だし、泣かせたし、怒らせたし、僕の弁解の余地はないな。ここは腹を決めて受け入れるか! そう腹を括りゆっくりと眼を閉じる。
次の瞬間、僕の唇は震える小さく柔らかいもので塞がれていた――。
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