第7話 探索
2016/3/29:本文修正しました。
2016/11/3:本文加筆修正しました。
2018/10/2:ステータス表記修正しました。
陽ざしを遮るほど高く聳え立ち生い茂った森の奥、その少し樹々の並木が空いたところにそれはいた。
直径15mはあろうかという輪の中にモフモフした毛溜りがあった。
その輪も奇妙な話で、蛇の鱗を思わせる凹凸が輪の全体にびっしり貼り付いている。
しかし、それらにより眼を惹く存在が輪の中心にあった。モフモフした毛溜まりの真ん中で一人の男が大きな口を開けて寝ていたのだ。気持ち良さそうに。
彼の名は九瑠一。2年程前に大型トラックに撥ねられ、異世界に生霊として転生した30歳独身男。しかし呑気に寝ている彼は、毛の布団とも言うべきものに沈み込んでいるのだ。
レイスにはそもそも実体がない。それなのに彼には実体があるのだ。それこそが彼を異世界で特異な者とする一因であったーー。
◇
ちちちちちっ
小鳥たちが囀り始める。陽が昇った証拠だ。日の出に合わせて鳥たちが活動を始め、ついでに彼らに朝を告げる。1年前からの日課だ。
「ん……ん~~~~~~!」
大きく伸びをして新鮮な空気を肺に吸い込む。今朝も美味しい空気だな。そんなことをぼんやり考えながら目の前に広がる葉っぱの海を眺めていると、大きな蛇の顔が覗き込んでくる。
『主殿、おはようございます』
そう言って、大蛇は僕の顔をちろっちろっと舌で舐めてくる。
『ん、ギゼラおはよう』
それに答えて大蛇の鼻を撫でてやる。そうすると大蛇は気持ち良さそうに眼を瞑るのだった。
一連の流れになってる朝の儀式だ。というか、いつの間にかそうなったんだけどね。大蛇のギゼラに輪を作ってもらい、大うさぎ皆でその中に集まって寝る。すっごい暖かくて気持ち良いんだよこれ。レイスの体だと味わえない至福の時さ。実体化様々である。
僕の眼醒めに合わせて、大うさぎの皆も起き始める。
『『『ルイ様おはよう』おはようです』おはようございます』おは※△○※◇』
まだ寝足りない子もいる。多分カティナだ。
カティナはこの大うさぎ、正確にはデミグレイジャイアント種一家の末の娘だ。と言っても、近々この一家にも家族が増えそうなんだ。だからカティナはお姉ちゃん的な存在になるわけなんだけどね。本人たちの希望もあって、カティナと大蛇のギゼラが僕に付き纏ってる感じであの時からまた1年が過ぎたんだ。
以前に比べて招かれざる客が増えては来てるんだけど、そこはギゼラが丁重におもてなししてくれている。御蔭で僕が吸い取った分はいつの間にか取り戻してたから驚きだね。
僕? あれから戦闘はしてないよ。ギゼラにお任せ♪ ヘタレだね。引き籠もり&モフモフライフ満喫だ。
と言っても鍛錬と検証は続けてる。そこは組み合える相手が出来たから、皆のスキル底上げと僕の実益を兼ねて頑張りましたよ! 引き篭りだけど。
で、今はこんな感じになりました。
◆ステータス◆
【名前】ルイ・イチジク
【種族】レイス / 不死族
【性別】男
【職業】レイス・ロード
【レベル】153
【Hp】96353/96353
【Mp】344000/344000
【Str】3642
【Vit】3461
【Agi】3503
【Dex】2727
【Mnd】2611
【Chr】1451
【Luk】1178
【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、実体化Lv167(+67)、眷属化Lv1
【アクティブスキル】鑑定Lv230(+130)、闇魔法Lv182(+82)、聖魔法Lv180(+80)、体術Lv120(+70)、剣術Lv103(+53)、杖術Lv98(+48)、鍛冶Lv1
【パッシブスキル】闇耐性LvMAX、聖耐性Lv192(+92)、光耐性Lv201(+101)、エナジードレインプールLv10(+9)、エクスぺリエンスドレインプールLvMAX(+9)、スキルドレインプールLvMAX(+9)、※※※※※、融合Lv1、状態異常耐性LvMAX、精神支配耐性LvMAX
【装備】
【所持金】0
うん、基本レベルとスキルレベルの関連性は全くないみたいでね。基本レベルが関係するのはステータス成長だけみたい。だから基本レベル上げなくても、スキルレベルを上げていけるって事。
ドレイン系プールはギゼラとカティナに協力してもらって上げました。エナジードレインでガッツリ吸ってプールをいっぱいにして、それを使ってレベルを上げるというのを繰り返したの。結果がこれ。
エナジードレインプールの方はまだ上限に達してないけど、他の二つはLv10が上限だった。これはこれで良かったんだけど、嬉しい副産物もあったんだ。
ギゼラとカティナのHpがアホみたいに上がってた。ギリギリまで吸って回復魔法かけての繰り返しだったから、ね。二人には本当感謝してもしきれない。何かの形で返せればと思ってるんだけど、まだ形にできてないんだ。
実体化もLv167まで上がって、16時間と少し持続できるようになった。大幅には時間は伸びないみたい。でも、夜寝てる間中モフモフ出来てる事を考えれば贅沢過ぎる悩みであることに変わりはないだろう。
さてと、今日は更に森の奥へ探索に行くつもりなんだ。皆も一緒に行く! って言うんだけど、偵察を兼ねてだからって今日はお留守番をお願いしたわけ。素直に分かりました、と聞く面子じゃないのはここ1年一緒に過ごしてみて解ったこと。
だからこっそり付いてきても大丈夫なように全速力で探索して安全を確保する! というのが僕の密かな目標なのさ。数日前から気になってることもあるし。
『じゃ、何度も言うけど、お留守番頼んだからね。スキルレベルは上がってもメインのレベルが上がってないんだから油断しないように』
『『『『ルイ様は心配性だからね~』だからな~』だもんね』んだ』
んだ? んだってなんだ? まぁいいか。
『ギゼラが頼りだからね。お願いだよ?』
『畏まりました。お任せ下さい、主殿』
とギゼラ。ちろっちろっと舌が出てる。こいつ来るつもりだな。カティナは、草食ってる。予想通りだな。
『【解除】』
どさっと土の山が僕の足元にできる。高速移動には実体化は向かないからね。さてと。
『じゃあ、いってきます!』
『『『『いってらっしゃい!』ませ!』~い!』から!』
から? からってなに? ま、まぁいいか。皆に手を振って、僕はすぅっと森の奥へ移動を始めるのだった。皆から見えなくなった瞬間を見計らって、高速移動に切り替える!
『『あっ!!』』
という声が聞こえたけどそのまま奥に向かう事にする。まずは確かめないと!
◇
10分くらいは飛んできたかな? 生霊の体だと、物理的な障害物は全部摺り抜けちゃうから最短で動けるんだよね。だからあの二人が追ってくっるとしても時間は稼げたはず。
数日前から気になっていた事。それはちょっとずつ森の奥へ探索をしている時に、声らしきものが聞こえたんだ。ギゼラに確認してみたら、聞こえないって言ってた。エドガーたちも聞こえないって言ってる。だから幻聴かな? とも思ったんだけど、僕しか聞こえないという選択肢もあると思い直して来てみたんだ。
当たりだ。
エドガー一家の家族が増えるならより安全な処でと思ってなんだけど、ここはいいかもしれない。でも、森の奥にこんなお城のような屋敷があるとはね。
鬱蒼とした薄暗い森の中に佇む古城。庭木の手入れは長い間されておらず、蔦が屋敷や門扉や外周の塀に絡みついている。屋敷の中に明かりは見えない。というか、周囲の樹がセコイアの樹みたいに50-60mはありそうな背の高い木ばっかりなんだ。セコイアは落葉樹だから冬には葉が落ちるはずだけど、この森はそれがない。つまり常緑樹の森ってことになる。
その木々の間に屋敷がうまい具合にある訳なんだけど、さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。
【実体化】
レイスで行くより、体があったほうが相手も警戒しないでしょ。
実体化した僕は歩いて屋敷の中庭に入り、草を掻き分けて玄関の前に立つ。人気はない、な。
こんこん
両開きの扉についてるノック金具を二回打ち付けてみる。誰かいれば対応してくれるだろうから。反応はない。空家か?
「こんにちは~! お邪魔します~!」
ぎぃぃぃっ
そう挨拶しながら扉を開く。
…………れか…………けて…………い…………
頭に声が響く。数日前から聞こえていたあの声だ。今ならわかる、声の主は女性だと。
さて、どうなるかな?
「どなたかいらっしゃいませんかぁ~? 道に迷ってしまったので、一泊させて頂ければとおもったのです。うわっ!!!」
びっくりした!! 周囲をキョロキョロしながら屋敷の中に入ったのはよかったんだけど、ふと視線を外して戻って来たら血色の悪いメイドさんが目の前に立っていたんだ!? 血色の悪さを除けば可愛らしい女性に分類されると思う。癖のない銀髪を顎の辺りでボブショートにカットしているんだ。よく似あってるんだけど、それと赤い瞳に青白い肌という組み合わせはなんとも言えない憂いを感じさせる。
「えっと。無断で入って申し訳ありません。一晩の宿をお借りできないでしょうか?」
「こちらえどうぞ」
拍子抜けする程簡単に受け入れてもらえた。え? いいの!? ていうかこの娘生きてる?
【鑑定】
《【鑑定】に失敗しました》
はい? あ、失敗することあるのね。と思ってたらメイドさんがくるりと振り向く。ん?
「わたしくしたちに【鑑定】は効きませぬ。どうぞ家の者には【鑑定】を使わぬようにお願い致します」
「あら、【鑑定】したかどうかも分かるのですね。それは失礼しました。誰からも注意されず好きな時にて使っていたので不躾なことをしてしまいました。気をつけます」
ふぇ~。【鑑定】を防げるものがあるんだ。なんだろ? 魔法かな? アイテムかな? というか、僕も随分異世界に慣れてきたな~。だけど、いきなり来て「泊めて下さい」「はいどうぞ」はないと思うんだよね。無表情過ぎる。普通は不審感を出すものだけどそれすらない……。
僕がぺこりと頭を下げて謝罪すると、何事もなかったように案内を始めるのだった。
「こちらが食堂でございます。夕食時にお部屋へ呼びに参りますので、ご一緒にお越し下さい」
すんすん
「はい、分かりました」
う~ん食堂も綺麗だね。でも、少し黴臭い臭いがする? 随分手入れが行き届いてる感じだけど? これ。湿気が多いのかな?
そうこうしてると、幾つかの扉をくぐり階段を上がったところで宿泊用の部屋を見せてもらえた。その間話しかけても無言だったのが辛い。名前すら教えてもらえないというね。いやナンパしようとした訳じゃないんだよ?
自慢ではないが僕のルックスは良く言って中の下、もしくは下の上だ。芸能界でチヤホヤされているイケメンと言われる種族の方に比べれば雲泥の差であることは断言できる。後ろ姿でおっ!? と思われても前に回ると、あ〜……という感じになるといえば分かってもらえるだろうか。言ってる自分が悲しくなってきた。
と言っても日本人の顔ではないらしい。何故かって? 僕もよく知らない。何でも日本が開国した頃に異人さんに手篭めにされた父なし子が系図上に居るとか居ないとか。正直どうでも良い。彫りが深いといえば良いのかな? 日本人ウケする顔じゃないってことは確かみたい。
「こちらでお寛ぎ下さい」
「ありがとうございます。ところで屋敷の主殿に御礼のご挨拶したいのですが、ご在宅ですか?」
「主はただいま取り込んでおります。お会いすることは叶わないかと……」
「そうですか。ではゆっくりさせていただきます」
「……」
う~ん。なにげに怪しいな。メイドさんは考え事を始めた僕の横顔をちらりと見て一礼し踵を返そううとするのだったが、僕に呼び止められてしまう。
「あ、そうだ。こんなに広い屋敷に泊まったたことがないので、屋敷の中を散策したいのですがよろしいですか?」
「はい、大丈夫でございます。ただし、鍵がかかった部屋もございますのでその場合ご遠慮下さいませ」
「分かりました。無理を言って申し訳ありません」
そう言ってまたぺこりと頭を下げるのだったが、メイドさんは微かに微笑んで部屋を出ていったのであった。あ、笑えるんだ。でも何で? 何か変なこと言ったか?
兎に角、屋敷内の散策の言質は取ったから探検開始だ! まぁ、こういうパターンは地下室の入口を探せばね。大きな屋敷を案内されていたにも関わらず他の使用人に遭わないってどういうこと? 危険な香りがするな。用心するに越したことはない。
がちゃ
扉を開けて廊下に出る。こういう時は【実体化】してて良かったなぁと思うよ。風の流れを感じれるんだから。さて、まずは食堂だね。綺麗なのに黴臭いって、ねぇ? それに調理をした薫りもない。ここの人は食事を摂らないのか?
ちょっと迷ったけど、なんとか1階の食堂に到着する。天井を見上げるとシャンデリアが煌めいているのが分かるが。ふと疑問に思う。ん? 異世界にはガラスというものが存在するのだろうか?
ポーションとかの容器もまだ一度も見たことないし、この館の中にもガラス製の調度品は、ない。木か陶器か、という感じかな? であれば、あのシャンデリアの素材はガラスに似て非なるものということになる。
ふ~ん、一度人間の街に行ってみると色々分かるかもね。ただ、あの2人がなんと言うか。そう考えてぶるっと身震いする。気を取り直して、食堂を見渡しながら違和感の正体を突き止めることにするのだった。黴臭い、あの臭いの。
どこだ? どこから漂ってくる?
…………だ……か……す……くだ…………
あの声だ! 玄関に入ってすぐに聞こえてきたものよりも幾分はっきり聞こえた気がしたぞ?
食堂全体を見渡すと、真ん中に長机が1つ。一番奥に主が座る席が1つ。左右に1つずつ。そして今僕が立っている下座。主と対面になり一番遠くの席が1つある。多分夕食の時に案内される席はここだろう。可怪しい。食堂なのに料理の匂いがない。残り香が全く無いってことは普通ありえないだろ? 人が居て生活すれば誰かが料理を食べるはず。
今は11:00。メニュー画面で時間だけ確認すてみる。この時間であれば料理を始めていてもあ可怪しくない時間帯だ。調理の音も聞こえない。
食堂につながる扉は4つ。玄関側から案内された時に通った扉が1つ。今2階から降りてきた処から入ってきた扉が1つ。もう1つは厨房につながる扉で、最後の1つは主の部屋に継がながっているものだろう。片っ端から扉を開けて顔だけだして耳を澄ませてみる。音も匂いもない。
メイドさんは主は今取り込み中だと言った。体調を崩してるとも、出掛けているとも言わずに。つまり、家の中のどこかに居るという訳だ。そしてあの声。
主が誰かを囲っているのか? 誰かに主が囲われているのか?
「どっちにしろ、おっさんとしては女の子の味方をしたいよなぁ」
そんなことを呟いて、食堂の中央に戻って来た僕は主の席の背中側にある暖炉に眼を向ける。その上には立派な|模様を織り出したつづれ織りが壁に飾られていたのだった。蛇を掴む鷲の絵? が縫われている。家紋かな? 見事な刺繍だ。
暖炉に近づいて見上げると、その鷲には後頭部から天に向かって伸びている2本の角があった。あぁ、日本の鷲とは大分イメージ違うけど、ここならこれもありかもね。
すんすん
ん? 黴臭い臭いがきつい気がする。暖炉は。使った形跡がない? 炭もない? それは片付ければ済むか。暖炉の中に手を入れて内側を触ってみる。でも煤もないというのは可笑しい。一度でも何かを燃やせば煤は絶対に付く。付いていないという事は別の目的で利用されているということだ。当たりか?
しゃがむと大人一人は入れる大きさの暖炉だが、暖炉の中は危険な気がするので、その周辺を探してみることにする。暖炉が動いた形跡があるかどうか、だ。
結論から言うと、無かった。壁にも床にも擦れた痕がないんだよね。さてと、ということは腹を括って暖炉の中に行ってみるとしますか。意を決して暖炉の中に入る僕。
カチっ
あーーーー。
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