第77話 真夜中の謁見
※2016/4/30:第76話にするはずの番号を1番飛ばして第77話となっておりましたので訂正しました。順次訂正致します。
※2016/12/22:本文の句読点・記号修正しました。
「ははははははははっ!!! 面白いっ!! 精霊を素手で撫で回す者など初めて見たよ! 決めたよ、わたしも連れて行きな!!」
「は?」
「「「えええっ!?」」」
「本気かいっ!?」
アイーダさんの言葉に5人が耳を疑う。いやいやいやいや、聞いてないしお願いしもしてないし、更には押し売り!? 驚いているとスザが我に返って小さく[クェッ!]と鳴いて消えて行く。逃げたな。そこへ。
がちゃり
扉が開いて笑顔のライラック侯爵が入ってきた。
「待たせてすまない。何やら騒がしかったようだが何かあったのか?」
「カール! 今まで世話になったね! あたしはこの子に付いて行くことにしたよ!」
「おぉ! そうでしたか! それは寂しくなりますな」
あ、このおっさん僕にこのおばさん押し付けたな。一瞬だけ僕の眼を見た侯爵の眼が笑っていたのだ。つまりこういう事だ。先にアイーダさんを客間に通しておく。僕たちをそこに入れて興味をもたせるように仕向ける。まんまと興味を持たれてしまったとう訳だ。押し付けるという位だからそれなりに困ってたと見る方が妥当だね。
侯爵の名前を呼んでいるという事は幼い時からの知り合い。師弟? 王族? いや王族はないな。将軍であったとしても、だ。師弟関係であれば扱きか?
「もう少し引き止められては如何ですか? 元将軍が御屋敷にいらっしゃるだけで随分と兵も鍛えられるでしょうに」
「い、いや、その通りであるがアイーダ様の行動を束縛するつもりはない。我が屋敷にも長く逗留してくだされたのだ。新たな出逢い、新たな刺激が在っても良いだろう」
「あんたも分かってるじゃないかい!この屋敷の男どもは根性がないんだよ。鍛え甲斐がありゃしない!」
当たりだ。確信犯だ。侯爵、いや、このおっさん僕の視線を外らしやがった。理由はこのおばちゃん鬼軍曹よろしく鬼将軍の扱きからの開放ぽいね。元将軍という肩書は伊達じゃないということかな。それにしても。
「(アイーダさんてどんな人なの?)」
とこっそりヘクセに耳打ちしてみる。
「(戦闘莫迦です。戦闘狂と言っても良いでしょう。ただし、その分武器全般の扱い、武術、戦術・戦略・攻城戦の才は特筆すべきものが御座います)」
と教えてくれた。う〜ん、裏を返せば手が早いと言うことだよね? 僕が御せるのかな? 訊けば確かに欲しい武術師範的な存在ではあるんだけど。後ろの3人は僕の決定に異は唱えないだろうけど、この人柄がどうかな? チラッと3人の顔色を覗ってみる。3人共笑顔だった。老人だからか? そこら辺の判断が良く分からないけど、ひとまずは大丈夫そうだな。
「えっと、アイーダさん?」
「なんだい?」
「本当に僕の処に来るつもりですか?」
「そうだよ?」
「僕がこの国の人間じゃないとしてもですか?」
「あたしもそうだよ。先々代の王と懇ろになっちまってね。泣きつかれて将軍になったのは良いけどこの国に縛られちまった。まぁそれは別に良いのさ、好きな男の役に立てるんだからね。けど、好きな男も死んでこの国に未練はなくなちっまたよ。あの人の孫には良い部下もついてるから今のあたしは寧ろ邪魔な存在なのさ。カールには世話になったけどね」
以外に熱い人なのかもしれないね。僕の問に答えてくれながら、アイーダさんは乱暴な言葉使いとは裏腹に艶のある笑顔をライラック侯爵へ向けるのだった。その笑みに侯爵も言葉を詰まらせて何をどう言えばよいのか分からない様子だ。
「分かりました。一般常識はヘクセに教えてもらうことになったから、アイーダさんには武術師範として来て頂けますか?」
「本当か!?」
「他に行くとこないんでしょ?」
「ゔ……」
「何となくそんな気がしました。その代わり、僕の言うことには従ってもらいますよ?」
「分かった」
「ぷっ」
「!!」
僕の申し出に破顔するアイーダさん。意外に可愛い面があるようだ。僕の注文にしおらしく頷くアイーダさんを見てヘクセが思わず吹き出したのだった。それに気付いたアイーダさんの顔が恥ずかしさなのか、怒りなのかで赤くなる。結局僕は予定外にもう1人雇い入れることになったのだった。
ふぅ、エトに話して人が増える事と屋敷の増築を伝えておいてもらわないといけないな。さてどうなることやら。そんなことを考えていると慌ただしく兵士が応接室に走りこんで来、侯爵に耳打ちするのだった。その様子に和んでいた部屋の雰囲気が一瞬にしてぴりっと緊迫したものに変わる。
アイーダさんの一重の眼も状況を観察してどうする必要があるのかを考えているような目付きになった気がする。実際は分からないけど、ヘクセの言うことが正しければそれくらいはするのでは?と思えたんだ。
「国王陛下が御逢いになられるそうだ」
「は?」
厳しい表情で僕を見ながらそうライラック侯爵が言葉を紡ぐ。今国王陛下って言わなかった?
「誰とでしょうか?」
一応確認を。
「陛下がルイ・イチジクとの謁見を望まれておる。直ちに登城せよとの通達だ」
「嘘でしょ。王都に来て2日目にして王様への謁見だなんて横暴すぎる」
「何を言って居るのだ? 国王陛下に御目通りが叶うなどと普通では有り得ぬことなのだぞ!?」
「だったら、有り得ない方でよかったのに」
引き籠もり生活を満喫するために王都にやって来ただけなのに、ここでもトラブルメーカー的な存在感を発揮してしまってるのはカティナではなく僕の方だった。なってこった。
あまりのショックのあまりその場に崩折れている僕をジルとシンシアが抱き起こしてくれた。カティナはというと。
「ルイ様、こうなったら毒を喰らえば皿までだよ!」
と僕の前でぐっと両拳を胸の前で握りしめて励ましてくれた? いやカティナ、王様は毒じゃないよ? 面倒臭いとは思ってるのは確かだけどね。ほら、侯爵のこめかみがひくついてるから、それくらいで。アイーダさんもヘクセも顔を背けて笑ってないで止めて下さい!
「そこの兎耳の娘よ。陛下は毒ではないぞ」
「うん、分かってる! でも面倒臭いって顔に書いてあるルイ様には同じだよ!」
ひぃ〜カティナ、君って娘はどうしてそう僕を追い込む発言をしちゃうんだい!? 面倒臭いという言葉が出た時点で侯爵にはアウト判定だよ。ほら、右のこめかみだけだったのが左のこめかみもピクピクしてるじゃない!?
というか、カティナの中では国王陛下より僕の方が上の地位になっちゃってるから、失礼極まりない発言がバンバン飛び出してるのだ。なんとかしなきゃ。
「我はまだフェレーゴ伯爵の件で後処理がある。幸いアイーダ様とヘクセ様も居られるから王城までの道案内には事欠くまい。くれぐれも言っておくが、陛下の機嫌を損ねるとこの王都に入れなくなるぞ? 直ちに向かうように」
ライラック侯爵はそれだけ一方的に僕に告げて身を翻して兵士を従わせて応接室を出て行くのだった。拒否権が発動できない時点である意味死刑宣告みたいな感じなんですけど。
なんて思ってたらある事に気が付いた。ヘクセ様? 様? 侯爵が様付けする人物を2人も雇ったってこと!? 恐る恐るヘクセに視線を移すと、ゆったりと優しく微笑まれた。品があるよな〜。
「陛下をお待たせする訳にはまいりません。直ぐ出発しましょう」
「う、うん。こうなったら仕方ない。何がどうなって謁見になったのか解らないけど、皆もう少し付き合ってね」
「うん!」「承知」「畏まりました」
「丁度いい! あたしも暇乞いが出来るってもんだ。まだ馬車に空きがあるだろ? 乗せて行っておくれ」
何とか立ち直り3人にお願いしているとアイーダさんも口を挟んできた。まぁ、元将軍だしさっきの話だと王族ではないものの王家と浅からぬ縁があるみたいだもんね。必要な手続きに付き合うと考えておけば少しは気が楽になるかな。今度はエトも入らなくちゃいけないだろうから、馬の事もちゃんとしておかないといけないね。
こうして6人に増えた僕たちが侯爵の屋敷から出て馬車に乗り込む。順番がと気になったようだけど、前輪側に奥からアイーダさん、カティナ、ヘクセの順に入り、後輪側にシンシア、僕、ジルの順で座ることにした。とは言いながら、エトに話しておかないといけない事があるからと先に乗り込んでもらったのだ。
アイテムボックスから以前に切り取っておいた僕の右腕を3本程取り出して馬車の屋根に置く。
「このガラは捨てずに回収するから、放り投げないように。それとリーゼに連れて帰るのは6人になったと伝えてくれる? エレンにその準備をするようにって」
「畏まりました」
「王城へはエトも入ってもらうから、これでちゃんと馬たちに言い聞かせておいてね?」
「勿論でございます」
紳士の笑顔でエトが一礼する。こういう時が危ない気がするんだけど。「バレないようにね?」と小声で耳打ちして御者席から降り僕も馬車に乗り込む。馬車の扉をジルが閉めたのを確認して、エトが鞭を振るうのだった。暗闇に複数の蹄鉄が地面を蹴る音と車輪がガラガラと石畳みを踏み敷く音が吸い込まれていく……。
半刻後……。
漸く王城に辿り着く。
気性が荒いので扱いに注意して欲しいと馬車の留守番を申し出た兵士に厳重に言い含めておく。噛み癖があるので不用意に馬の前に出ないように、出させないようにという注意も忘れずにして僕たち7人は王城の中に案内されるのだった。
ただ、正面からという訳ではなく真夜中という時間もあって城の裏口のような所から通され案内されることになる。しかし熟思うのは向こうの世界の便利さだ。車、電車という科学技術の結晶が如何に恵まれた道具であったか……と。馬車に揺られてる時間だけで今日は5時間を軽く超えている。体感時間もゆったりとしたものになるはずだよね。
王城というのは実は広かった。広かったよ。RPGゲームでトコトコと入って階段上がったら直ぐ謁見の間というイメージのままだった僕は精神的に疲れていた。1人で帰れる自信がない。いや、1人で帰る必要も無いんだけどね。アイーダさんが帰り道分かるだろうし。
王城に着いたのは夜の11時頃だったんだけど、お城の何処に連れて行かれたのか分からないくらいくねくねして上がったり降りたりしたもんだから、それらしき部屋に着いたのが11時半を回っていた。勘弁してよ。
こんこん
「陛下、到着されました」
「入れ」
「陛下の御前である、くれぐれも粗相のないように」
僕たちの到着を告げた侍従のような身形をしたおっさんが、そう注意してくる。粗相が無いようにって言ってもこんな夜中にしっかり意識を保てというのが土台無理な注文だ。と思ったら、やばいな。眼が醒めた。
内開きの扉がゆっくり開き始めると中から殺気が漏れ出てきたのだ。侍従と距離を置いて4人に目配せする。手を出さないようにね?アイーダさんとヘクセは害されることはないだろうから。そう気持ちを締め直して謁見に望む。
部屋の奥行きは薄暗くてはっきり見えないが、入り口から奥の玉座迄50m位はあるだろうか。向こうの世界の教会の作りを思わせるような長方形の間だ。勿論長椅子は並んではいないけど天井も高い。支柱となる柱に松明が灯されて謁見の間の中央のラインを照らしている。柱の影に居るね。
「やれやれ漸く来たか。待ちくたびれたぞ」
知った声が左手側から聞こえてきたので見るとデューオ様が居た。あれ? 侯爵の屋敷で姿が見えないと思ったら、こんな所に。
「何分慣れていないもので時間がかかってしまいました」
「「「…………」」」
デューオ様以外に左右に分かれた人影が3つ。玉座に座す人が1人とその隣りに1人。少人数だね。ま、どうせ非公式な謁見なんだろうから人が居るだけでも珍しいのかな。3人の人はそれなりの雰囲気があるから、将軍とか、護衛隊長とかその辺りの人だろうね。
「よく参られた。余がゲオルグ・フュルスト・フェン・レルヒェンフェルトである」
Fの字が多くて噛みそうになる。いや、間違いなく噛むね。玉座に座った人がそう名乗る。
「ルイ・イチジクと申します。真夜中に陛下の貴重な御時間を頂き感謝に耐えません」
当たり障り無く口上を述べ、45°のお辞儀をして様子を見る。気色ばむ輩が居るのかどうか。
「陛下の御前であるぞ! 何故膝を付かぬ!?」
居たね。暑苦しいおっさんが。鷲の宮殿で出て来たグスタフさんに通じるものがあるな。
「さて? これは異な事を仰せられますわたくしは陛下に御挨拶申し上げただけです。なぜ臣下でも無いわたくしが臣下の振りをして陛下のお心を騒がせなくてはならぬのでしょうか?」
「ぐっ、屁理屈を」
僕の言葉におっさんが気色ばむが、デューオ様や僕の後ろにいる面々からは「始まった」とばかりに寛いだ雰囲気を醸し出し始めていた。ここでそれは勘弁してよ。取分けデューオ様とアイーダさんは胸の前で腕組みをしてニヤニヤし始める始末。はぁ〜。
「ルイ・イチジクと申したな」
「はい」
怒り心頭のおっさんの隣りに立つ男が代わって声を掛けてきた。
「ここに呼ばれた事の重大さは理解して居るのだろうな?」
「それがさっぱりです」
「「ぷっ」」
デューオ様とアイーダさんが同時に吹き出す。嫌ぁ〜〜!止めてぇ〜〜〜!
「何だと!?」
「先刻までライラック侯爵閣下の御屋敷に居りましたが、そこで言われたのは直ちに登城するようにという一言でした。いくら想像力豊かでも身に覚えのないことまでは皆目見当が付きません」
僕の言葉にキッとデューオ様を睨みつける男。だけど全く動じてなかったのは流石です。
「俺は陛下が逢ってみたいと仰られたのでその旨を伝えたにすぎん。他に何を告げると言うのだ?」
「ぐ、貴様。言うことに事欠いて陛下の名を出せば逃げおおせるとでも思ったか?」
「別にそんなつもりはさらさら無い。本当の事を言っているのだ後ろめたい所は一つもないぞ?」
「良かろう、では卿に代わって問い質してやろう」
その言葉にデューオ様は肩を竦めて同意の意を示されたから……次はこっちに来るね。
「貴公には魔王の嫌疑がかかっておる。何の目的でこの都に来た? 何者だ!? 先程の気勢は何だ?」
またこれですか。いい加減に同じ事を言うの疲れたんですけど。といっても他に言うこともないんだけどね。
「はぁ。僕はルイ・イチジク。引き籠もり生活に憧れるしがない男です。この王都にはその引き籠もり生活を満喫するために必要な食糧の買い付けと家の者の教育係を数名雇うために参りました。気勢の事ですが、そもそもよく分かりません」
あ、気が抜けて素が出ちゃった。
「なっ!?」
「「「ぷっ……くくくっ」」」
デューオ様とアイーダさんだけでなく、デューオ様の隣りにいるもう1人の人まで吹き出して笑いを堪え始める。何を笑われてるのか解らないけど。本当の事だからね。最後のは胡麻化す! 証拠がないもんね。
「ギュンター、そちの負けだ。真にデューオの申す通りの者であるな」
「は。直ぐ顔に出る男ですので裏表はないのですが、見ての通り勤勉な者からすると不埒に見えてしまうのです」
ギュンターと呼ばれた2度目に問い質してきた男は黙って引き下がり、王様の言葉を受けてデューオ様がその場でお辞儀をする。
「ルイ殿」
「「陛下!?」」
「控えよ。ルイ殿は余の臣下ではない。小国の主であるぞ? 礼を尽くして何が悪い?」
ギュンターのおっさんと、最初の難癖つけてきたおっさんが口を挟もうとするのを制して下がらせる。流石は王様。その横に居る人は一言も話さないけど。眼光が気になるな。
「ルイ殿は“森”に居を構えていると聞く。それは真か?」
王様のその質問に謁見の間の雰囲気がざわつく。夕方に食堂で見せたデューオ様の反応が間違ってないことを知ることが出来た。あの“森”には何かがあるということらしい。今の僕には知るすべはないけど、ヘクセかアイーダさんに後で聞いてみよう。
「はい。ひょんなことからつい先日、森の中の一角を引き継ぐことになりました。その際に勝手にモナークという称号が付いたのでそのままにしていた次第です」
「引き継ぐとな?面白いことを申される。あの“森”は数百年人が住めぬ程荒んでおったのだぞ?」
「はぁ、然様でございますか。そんなに昔のことは知りませんが、2年程前に僕が“森”に辿り着いた頃は巨大な魔物が闊歩するわけでもなく、光の届かない広大な森があるだけでした。それは今も変わりません」
「なんと、そうであったか」
「逆にお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「許す」
やはり鷲の王国の時と同じ感じに接しておけば問題なさそうだ。さて、僕としては事を荒立てたくはないけど、こればっかりは譲れない。これから先あそこで生活していくためには言うべき事は言わないとね。折角王様が居られるんだから!
「あの“森”はこの国の領地内にありながら、領地ではないという話を耳にしました。であるならば、このまま僕があの“森”に住み、モナークを名乗ることをお認め頂けますか?」
「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」
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