第76話 ライラック侯爵邸にて
※2016/4/30:第76話にするはずの番号を1番飛ばして第77話となっておりましたので訂正しました。順次訂正致します。
「我はライラック侯爵である! ルイ・イチジクという者は居るか!?」
「えっ!?」
デューオ様の根回しの兵じゃないの!? 侯爵って、辺境伯より上の爵位だよね? どういう事!? というかこのままぼーっとしてる訳にもいかないから。
「ぼ、僕がそうですが」
と右手を肩の辺りに挙げてみた。
「む、貴殿がそうか。その後ろの娘達は?」
「あ、僕の家族です。屋敷の門の近くで馬車に乗って居た2人もそうです」
「相分かった。当方の屋敷までご同行願おう」
「御断りします」
「なっ!?」
「貴様、侯爵閣下に向かって何たる無礼な!!」
僕の姿を一瞥してシンシア達の方に視線を向けて来たので身内の安全は確保する為に誰がそうなのかを告げておく事にする。で、侯爵が上から目線で拘引しようとしたもんだから、速攻で断ってやった。そうすると面白く思わない人が出るんだよね。
だって僕この国の王様に仕えていないんだもん。顔も知らないしね。役職に敬意は払うけど従ってやる義理はない。
「理由も聞かせてもらえずに屋敷に来いというのは僕たちは犯罪者扱いと言うことでしょうか?」
「む。いやそうではない」
「失礼を承知で申し上げますが、僕は閣下の部下でもなければ国王陛下に剣を捧げている者でもありません。この者たちもそうです。あとそこに集まっている彼女達ですが、契約を盾に奴隷に落とされています。契約書がある以上無碍には扱えないでしょうが、奴隷解放後もこの屋敷で働きたいと願う者も数多く居ます。閣下の御力添えを頂けると幸いです」
「――ふっ。アッカーソンの申す通り面白い男のようだな」
あれ。やっちゃった?ひょっとしてデューオ様からの口利きだったり?
「――えっと、ひょっとして、デューオ様からの」
「だとしたらどうする?」
「すみませんでした!」
取り敢えず、謝っておく!昔の中国の孔子という偉い学者さんが「過ちては改むるに憚ること勿れ」と宣ったそうな。過失を犯したら速やかに改めるべきだということ。個人的には好きな言葉だから可能な限り実践したいと思ってるんだ。だから自分が悪ければ頭を下げる事に抵抗はない。
「「「「!!?」」」」
「えっ!?」「「ルイ様っ!?」」
「ふはははははは! 面白い! 我の強い男かと思えば謙る事も忘れない。何、悪いようにはせぬさ。ちと話を聞かせてもらえればそれで良い。当方の屋敷までご同行願えるかな?」
「はい」
僕のあまりの変わり身の速さにお付きの人だけじゃなくジル達も面食らっていた。ごめん。騒ぎは大きくなる前に火を消すに限る。そんな僕の態度を見てライラック侯爵がさも面白そうに笑うのだった。改めて御誘いを受けることにする。
振り向いてカティナ達にウインクしながらバツが悪そうに少しだけ舌を出すと、3人に「もぅ」と言う感じに笑顔で溜息を吐かれてしまった。ううっ、ごめん。精霊たちは気が付くともう姿を隠していた。またお礼を言っておかなきゃね。
侯爵の後に従ってフェレーゴ伯爵の屋敷を出る。
「我の馬車に乗ってもらおう。だが全員は無理だな」
「分かりました。ジルは僕と一緒に侯爵閣下の馬車へ。シンシアとカティナはヘクセとエトと一緒にその後に付いて来て」
「承知」「「はい」」
「閣下! 伯爵、子爵を含め私兵たちも気を失ったままですが如何いたしましょうか?」
ライラック侯爵の言葉に3人の美女に指示を出す。と言うのも輓曳馬に曳かれたウチの馬車がこちらに向って来ているのが見えたのだ。当然シンシアとカティナもそれに気付いていた。その間に侯爵の配下の者が指示を仰いで来るのだったが、こちらに聞こえないように指示を出し自らは馬車に乗り込む。その後に僕たち2人も続くのだった。2人でも多いと言われればジルもウチの馬車に乗せるつもりだったんだけど、問題ないみたい。
ぱしっ ブルルルルル
鞭が馬の尻に当たる音がして、侯爵の馬車が動き始める。こちらはアンダルシア系のなんと言うか前髪で眼が隠れてるように見えるイケメン系の黒毛馬に曳かれていた。さすがは侯爵。敷地の門を潜る時にチラッと後ろを見ると問題無く追尾していたのでホッと胸を撫で下ろすのだった。
「時に、汝は国主と聞いたが真か?」
は? 侯爵何処でそれを? 取り敢えず様子を伺わない限り迂闊なことは言えないよね。デューオ様なら人柄も分かってるからある程度はオープンにするけど。
「ふっ、何処から漏れたかと警戒して居るのか?安心せよ。入都時に【魔法による身元照合】を行ったであろう? あの時に立ち会っていたのがウチの兵でな。情報源はそこからだ」
なぁんだ、あそこか〜って、ザルじゃん! 情報の秘匿も隠蔽もさっぱりダメじゃん!! 怖い、王都怖いぞ!
「ははは、そうでしたか。それは御耳汚しで御座いました」
「目的は?」
「引き籠もりの準備です」
「は? 引き籠もり?」
「はい、引き籠もりです」
「その為に何故王都へ来たのだ?それならば引き篭もったままで良かったのではないか?」
「仰る通りです。ただその為には食物が枯渇していまして、食糧の確保と数名の教師の確保の為にアッカーソン辺境伯との縁故を利用させて頂いた次第です」
「ふむ。食べる物がないのは切実であるな。だが教師は? 辺境でも雇えるものが居るであろう?」
「はい、わたしもそう考えました。それでアッカーソン辺境伯に相談した処、王都にならば安心して紹介できる者が居ると言われたのです。それならばと食糧問題解消と合わせて一度に済ませてしまおうと思って家の者たちに動かせていた処、フェレーゴ伯爵、子爵に絡まれてしまったという訳です」
「それは災難であったな」
全くです。という言葉を寸前で飲み込んで頷くだけにしておいた。言葉が多くなれば必然的に間違いも増えて来るしね。
「辻褄は合うな」
いやいや合わせなくても、それが本当のことなんですって! そもそも馬車の中で事情聴取するならあそこで馬車を止めたまま出来たじゃない!? ゔ〜デューオ様の口利きの手前下手なこと出来ないしな。騒ぎが大きくなれば迷惑をかけちゃうわけだし。ここは我慢だ。
ジルの視線に気が付いたのでにこっと微笑んで右隣りに座るジルの左手を握っておく。するとジルから思いもよらない力で握り返されて来た。あ、うん、痛い! っていう程のじゃないからそのままにさせておいたよ。
「教師について聞かせてくれ。何故教師を必要として居るのだ?」
侯爵の視線が僕たちの手に向けられたのは分かったが、気にせずに質問に答えることにした。
「それは、急な成り上がりで宮廷や貴族の作法に疎く、一般常識も薄く、家人の教育、領地の管理も拙い僕が引き籠もり生活を満喫するために、僕の代わりに家の者を教えてくれるならこれ程ありがたいことはないからです」
「な。汝は貴族のことをどう思っているのだ?」
「え。王様と上位の方のご機嫌伺い、下位の者への根回しと弱みの収集。茶会と舞踏会、あとは必要に迫られて戦をする、くらいでしょうか?」
ちらっとジルを見ると「まぁ!?」と口に右手を当てて驚いた顔で僕の方を見ていた。え? そんなに驚くことなの? え? 言い過ぎた?
「酷いいわれようだな」
「あ、す、すみません」
「良い。汝の言う部分も強ち間違いではない。悲しいことだがな」
あらら。当たってたのね。まぁでも。
「アッカーソン辺境伯みたいな貴族もいらっしゃいますから、全ての方がそうではない事も理解しているつもりです」
「ふ、ならば良い。我の屋敷は半刻もあれば着く。緊張するなと言っても無理かもしれぬがゆっくりしておくと良い」
半刻、つまり60分ね。ではそうさせてもらいましょうか。
「御言葉に甘えさせて頂きます。今日一日バタバタし過ぎて疲れているので。ジル。肩を貸してあげるから休みなさい」
「ありがとうございます。ルイ様」
と、ここまでは良かったんだ。ジルに右肩を枕代わりに貸してあげてジルの薫りを嗅いでると僕まで眠くなり、気が付いたら侯爵に身体を遊ぶられて眼が醒めたのだった。oh……やっちゃった。
「何と、本気で我を眼の前に置いて寝て居ったというのか!?」
と呆れられてしまう始末。ほら、車の助手席にぼーっと乗ってると振動で眠くなることあるでしょ? あれだって。馬車に揺られてたのと、ジルの甘い香りを嗅いで気持ちが落ち着いたのと、気疲れも溜まっていたのとで本気に寝ちゃったみたい。侯爵が良い人で良かった。
侯爵の屋敷は流石に巨大だった。フェレーゴ伯爵家の屋敷が霞むくらいの大きさだ。侯爵と伯爵の間の溝は僕が考えているよりかなり深く広いのだろう。ロータリーにて侯爵の馬車から降り、ヘクセ達を待つ。待つこと5分で彼女達も到着する。
エトを馬車の所に残しておいて、僕、ヘクセ、シンシア、ジル、カティナの5人が屋敷に通されるのだった。ヘクセに関して言えばどうやら侯爵とも面識があるようだ。お互いに目礼していたのが見えた。
それで通された客間のソファーに腰を下ろすのは僕とヘクセだけにして、カティナがヘクセの後ろ、シンシアが僕の後ろ、シンシアの右隣にジルが立つ事にした。そう決めて案内されたその客間には先客が居り、こちらに向き直ることもなく窓から外を眺めている所に出食わす。ダブルブッキングか?
身長は175cm前後だろうか。僕より少し低い、そんな印象を受けたからだ。勿論ヒールを履いていればその印象も間違っているのだろうけど、マントの裾がかなり下迄降りてるので詳しくは見れない。フード付きのマントで、その脱いだフードにセミロングのウェーブかかった金髪が覆いかぶさっていた。銀髪が混ざってる感じを受けるので恐らくは年齢もかなり進んでる方だろう。男性なのか女性なのか、後ろ姿だけでは判断がつきかねるがちらっとシンシアに視線を向けてみる。
「主殿、鎧で身を包み、あの年齢で隙のない佇まいを維持できる老媼に初めて出逢ったぞ」
「老媼?」
「ババアと言いたいんだろう?」
シンシアが難しい言葉を使ったから思わず聞き返してしまった。その言葉に外を眺めていた人物が振り返りながら不機嫌そうに声を発する。あ、ご婦人でしたか。見た処50代? 若く見えるけどね。一重の奥に光る神秘的な深い紫がかった瞳。なんて言ったかな。滅紫色か? ただ、前髪が左目側に大きく垂れているため左半分の顔がはっきり見えない。若い時は美人さんだったんだろうな……ということも何となく想像できる風貌だ。それはこのヘクセにも言えることなんだけどね。
「あんたも相変わらずだね……アイーダ」
え!? お知り合い!?
「ちっ、誰かと思えばヘクセかい。50年振りか」
は? 50年振りで50代!? ないない、そんな人間居ないでしょ! 完全にこのおばちゃん人間の枠から外れてる。エルフのような耳はないし。眼が気になるよね。
「ルイ様、恐らくは魔族かと」
ジルがこっそり耳打ちしてくれた。魔族!? ふへぇ〜普通に王都にも普通に居るんだね。あるいは【認識阻害】的なスキルがあるのか。
「ルイ様、この者はアイーダと申しまして、元五柱将軍の1人に数えられていた者で御座います」
「元――」
ヘクセがご老人を紹介してくれた。元ということは。
「三代も前の話さ」
ありがとうございます。数えようとした所でアイーダさんが答えてくれた。元とは言え将軍。お飾りだけでは将軍の1人には数えられないくらい僕にも分かる。結構すごい人なんだ。シンシアが褒めてるだけでも凄いよね。でも。
「アイーダさんが居られて侯爵が未だに不在ということは、僕たちにアイーダさんを合わせたかったのでしょうか?」
「いや、違うね。あたしが頼んだのさ。あんたが魔王かもしれないから連れて来いって」
「「「!!?」」」
その言葉に後ろの3人の雰囲気が変わる。いつでも対応できるように気を張ってくれたのだろう。ただ先走らないように右手を上げて制しておく。
「それで感想をお聞かせ頂けるのですか?」
「いや、正直まだ迷ってるよ」
「正直な方なのですね。アイーダさんは」
間髪入れずに僕の言葉に返してきてくれたアイーダさんを見て思わず口元が緩んでしまった。その瞬間、何かかが僕に向かって飛来する!? が!?
「なっ!?」「「「「!?」」」」
[クェ―ッ!火気厳禁言うてもルイ様に手ぇ出されたら我慢できひんわ!]
[スザ!?]
僕の眼の前でボシュッと燃え尽きてぽとりと炭になった何かが落ちたのだ。火は残ってなかったようで絨毯が燃えることもなかった。僕の眼の前には淡赤い光を纏った小さな赤羽のニワトリ君が浮かんでいる。普通の鶏より尾が長い気がするのは気の所為かな?
「火の精霊だって!?」
「アイーダ、相手が悪い。ルイ様は10種の精霊に愛されてるんだよ。その辺りでやめとかないとあんたの経歴に傷が付くよ?」
「じ、10種だって!?」
アイーダさん、さっきから「だって!?」しか言ってない。ここはヘクセに任せよう。チラッと後ろを振り向いてにこりと微笑んでおく。スザは火の精霊だけあって導火線が短いんだろうね。セイは見た処出てないから、ここは行って来いと許したのかな? そんなことを思いながらスザに手を伸ばしてむんずと首根っこ辺りを掴んで膝の上に連れてくる。
[なぁっ!? ルイ様何すんねん!? クェッ!? クッ……クアァァァァァァ……]
どうやら精霊に触れれるみたいで、スザの首筋とか背中の辺りをワシャワシャと揉んで上げると半目になって気持ち良さそうな声を上げ始めるのだった。面白いので暫く揉んで反応を楽しんでいたら、視線が痛い気がしてふと顔を挙げると「何してるんだお前!?」的な眼で見詰められてた。
ぽっ
思わず頬を赤らめると後ろの3人からぱしっと後頭部を叩かれる。
「「「ルイ様、どういうことですか!?」」」
「え?」
「「「何で精霊に触れるんですかっ!?」」」
「は?」
どういう事?さっきも名前つけた時に触れたよ? キスもしてもらったし。恐る恐るヘクセに顔を向けるとこめかみに左手を当てて難しい顔でこちらを睨んでいた。oh……ひょっとして、またやっちゃった? ヘクセに引き攣った笑顔を振り撒いておく。
「ルイ様」
「は、な、何でしょう?」
「精霊について何をご存知なのですか?」
可笑しな質問だ。それはこっちが聞きたいよ。
「え? え? 何って? え? 自然界に居てバランスを取ってくれてる?」
顰めっ面のままヘクセが尋ねてきたから、聞き返してみる。
「はぁ、無知のなせる業なのか、貴方様が規格外なのか分かりませんが」
規格外の方でお願いしますと、内心突っ込みながら次の言葉を待ってみる。
「そもそもこの世界には物質の体と霊的な体が存在します。わたしたちは互いに触れるので物質の体を持っていると言えます。片や精霊や一部のアンデッドは霊的な体なので、向こうから接触してくるとしてもわたしたちには触ることが出来ません。それ故に畏れられている存在もあるのです」
ああ。そういう事か。だから生霊、死霊、悪霊なんかが恐れられる訳だ。ヘクセとは意味合いが違うかもしれないけど、そういう事だと思う。
「なる程」
「それを踏まえて申し上げると、物質の体のルイ様が霊的な体を持つ精霊をこのように揉みしだく事など有り得ないのです」
有り得ないのだそうだ。でもほら、僕って生霊だし。ヘクセの話を聞きながら後ろの3人に目を向けてみると、それぞれが胸の前で腕組みをして「あ〜そう言えばそうだった」的な感じで頷いていたのだった。いや、そんな反応無いでしょ。
そう言えばと、思い出してアイーダさんの方に視線を移すと。
自分は今何を見てるんだ!? という驚愕の表情で僕の膝の上のニワトリ君に視線を向けていた。僕の視線に気が付いたのか徐々に視線を上に上げていき僕と眼が合う。一拍間が空いたと思ったら、パシッと左手を左の眼から頬の辺りに当てて破顔し哄笑が応接室の中を所狭しと飛び回ったのだった。
「ははははははははっ!!! 面白いっ!! 精霊を素手で撫で回す者など初めて見たよ! 決めたよ、わたしも連れて行きな!!」
「は?」
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