第73話 偶然の出逢い
「ユリカさん、急いでカーテンを開けます! 手伝って!!」
「お母ちゃん!!!!!」
ユリカさんの悲痛な叫び声が家の2階から周囲に飛び去る。ドタドタと駆け上がってくる足音も聞こえるけど今はそれどころじゃない。明かりの確保と、現状把握だ!
「フルダ! どうした!? 何があった!?」
「部屋に入ってこないように! 邪魔です!」
「なっ!?」
僕の一言にベルントさんが色めき立つ。気持ちは分かるがそこまで面倒を見きれない。ベッドに横たわって居るフルダと呼ばれた女性は、胸元と掛けシーツを血で真っ赤に染めていた。すぐに駆け寄って、口元に耳を寄せて呼吸を確認しながら首の右側から脈を取る。
「脈はあるけど、呼吸がない」
「え!? お母ちゃん!!!」
ユリカさんが僕の反対側からフルダさんを揺するが反応がない。さっきま咳をしていたはず。それに顔色はまだ紫になっていないということは今詰まったか!?
「後でお叱りは受けます! 道具が無いのでフルダさんごめんなさい!」
「「!!!」」
そう断って僕はフルダさんの唇に吸い付いた。そこから思いっきり口の中の空気を吸い上げる。ドロッとした物が僕の口の中に入って来るのを確認して唇を離す。
「おま、やっていい事とわる!?」
「がはっ! ごほっ ごほっ!! はぁっ!! はぁはぁはぁ――」
「お母ちゃん!?」
ぺっ びちゃっ
ベルントさんが僕の肩を引いいて喰いかかろうとした瞬間にフルダさんが咳き込んで、大きく息を吸い込むのだった。それを確認して口から血痰を床に吐き出す。やはり詰まってた。何処かから出血があるってことだよね。気管支か、肺胞からの出血。どちらにしても確認できる道具がない。服を脱いでもらって胸と背中に耳を直接当てると僕はベルントさんに刺されてしまうだろうからね。
「血と痰が一緒に絡まって喉に詰まっていたようです。もう大丈夫でしょう。ちょっとすいません。【治癒】」
「なっ!?」
「えっ!?」
「――あぁ……身体が温かい……」
応急処置で体内の傷はこれで治るはず。あとは、洗浄だね。眼を閉じたままフルダさんが言葉を漏らした。労咳であれば、大分体力が奪われているはず。これから先は精の付く物を食べてもらわなきゃダメだな。
「ユリカさん、急いで血を拭き取れるものを用意して下さい。拭きとった布は燃やすので、燃やしてもいいものを沢山持ってきて下さい」
「わ、分かりました!」
「ベルントさん、すみませんでした。急の事とは言え奥様の唇を奪ってしまいました」
一応謝っておく。何も告げなくしちゃったわけだからね。事前の説明も事前の同意もなし、訴訟になると負けるパターンのやつだ。
「い、いや。ワシこそすまねぇ。おめぇの機転が無かったらフルダは死んでたくれぇ、ワシにも分かる」
ドタドタドタ
「持ってきました!」
階段を駆け上がってくるユリカさんが何やらいっぱい物を持って来た。持ち手が付いた木桶を持っていたのには驚いたけどね。ベルントさんが考案してつけたんだろう。その中に汲んできた水が入ってた。
「水で絞って拭くのはいいけど、この水で洗わないように。使ったものは洗わずに捨てます」
「はい!」
「ベルントさんも手伝って頂けますか? 床、窓、壁を拭きましょう。拭いたら窓を開けて風を入れて空気を入れ替えます」
「おぉさ!」
僕の指示に従ってベルントさん父娘がてきぱきと動いてくれる。15分も経つ頃には随分綺麗になっていた。2人共汗だくだが表情は晴れやかだ。それから一旦僕だけ部屋を出てフルダさんに着替えてもらう。ついでに身体も拭いてもらえば良いと伝えると、ユリカさんが直ぐにお湯を持ってきた。手際がいい。その間に下に降りて口の中を濯いでおいた。エトにキスを迫られたら洒落にならん。
「ルイ様、お待たせしました」
ユリカさんが扉をあけて呼んでくださったので、ゆっくり部屋の中に入ると、ベッドの上に上半身を起こしたフルダさんが優しげな笑みを湛えていた。
「血色が良くなりましたね。あ、初めまして。ルイと申します」
「この度はお世話になりました。治癒魔法まで掛けて頂いて、その――」
「ああ、これはお節介ですからお代はいりません。というか、こちらの無理を聞いて頂いているのでサービスと言った方がいいかもしれませんね」
「「えっ!?」」「な、おめぇ」
「一つ注意して頂きたいのが、この労咳は症状が重くなると人に伝染りやすくなる性質があります。なので、御二人とももう伝染っているかもしれません。わたしも含めてですが」
といって笑うと。どうしよう? という顔でお互いの顔を見合わせ始めたのでつい吹き出してしまった。不謹慎ではあるんだけど……新鮮な反応だったから……。症状が重篤化するということは細菌が身体の中で増えてるということだからね。
「ではわたしの前に並んで頂けますか?」
3人に並んでもらう。フルダさんはベッドのままだ。
「【治療】、【治療】、【治療】、【治療】」
ついでに僕にも掛けておく。結核菌は外から状態異常を引き起こす病だから【治療】の効果が期待できる。抗生物質はなくてもこの魔法があれば何とかなる。ただ、偽装で聖魔法Lv18となってるけど、Lv18では使えない魔法なのだ。本来はLv50で習得できる魔法だから大ぴらには使えない。
「き、【治療】の魔法。大祭司様ですか!?」
フルダさんが恐る恐る尋ねてきた。そんな方に治療してもらったらお金がいくら在っても足らないと思ってるだろう。そうかもね。でも生憎僕はそんな立場には居ない。
「いいえ、只のお節介焼きの変わり者ですよ。あと、シーツに包んで中庭に持って降りたものはすぐに燃やして下さい。記念に取っておいて良いことは1つもありませんから」
「わかった」
ベルントさんが力強く頷いてくれた。これはもう大丈夫だろう。
「お願いします。それと、ユリカさん」
「は、はい!」
「精霊と聞いて驚いて居られましたね? 何か心当たりでも?」
「ユリカ?」
フルダさんが娘の顔を見上げる。そんな母親と眼が合ってにこりと微笑むと彼女は口を開いてくれた。
「この区画の奥に薬師のお婆ちゃんがいるんです。お母ちゃんが病気になってからよく咳止めを買いに行ってたんだけど、3日前に薬を買いに行ったらもう売れないって言われたんです」
「え?」
そりゃまた酷い話なのか。歳だから仕方ないのか。
「どうして? って聞いたら、もうじき精霊たちに愛された御方が来るからその出逢いを大事にしなさいって言われて、何のことか解らずに帰って来たんですが」
「僕が今日来た?」
「はい」
なんだそれ? そんなことがあるのか? ユリカさんの言葉にすくならからず動揺した。それが出来るなら【予知】のスキル持ちという事とになる。逢うだけでも会っておきたい。
「ユリカさん、申し訳ないんだけど、その薬師のお婆さんの所に案内してもらうことってできますか?」
「はい! 良いよね? お母ちゃん!?」
「行って来なさい。ヘクセ様に宜しく伝えてね」
「勿論よ! ルイ様こちらです!」
ユリカは母親に確認を取ると今日一番の笑顔で僕の腕を引っ張ってくれた。2人を2階に残して下の店舗に降りてくる。見るとエトも来ていた。丁度いい。
「エト、待たせてごめん。もう少しここでファビアンと一緒に店番をしててくれるかな? すぐ帰ってくるから」
「畏まりました」
「え、ああ、こんにちは!」
「こんにちは。可愛いお嬢さん」
「え!?」
エト、それはキラースマイルだよ。ナイスシルバーから繰り出される紳士の微笑み。勘違いするって。真っ赤になるユリカさんを見て僕は内心呟くのだった。そんなことを考えながらも、砦でもらった金貨の詰まった袋をアイテムボックスから取り出して3枚程懐に入れ、残りをエトに放る。
「ベルントさんが上から降りてきたらお願いした前金だって渡してね。決して出したものを引っ込めないように」
「承知いたしました。いってらっしゃいませ、ルイ様」
エトが受け取ったのを確認して、その言葉を残して店から足早に出ていく。微かにエトの声が聞こえた気がしたがユリカさんが恥ずかしさを隠すために走りだしたから、一緒に走っていた。
「ふふふ。相変わらず落ち着きのない御方です」
そんな事をエトに呟かれているとも知らず。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ!」
ユリカさんが大きく息を吐いていた。5分位は走っただろうか。怖いもので僕の方は一つも息が上がってない。ステータスの御蔭だね。
「大丈夫? ユリカさん?」
「だ、大丈夫です! それにしてもルイ様凄いです! はぁ、はぁ、あんなに走ったのに息が上がってないなんて」
「うん、自分でもびっくりさ」
ユリカ驚きに肩を竦めて答える。恐らく目的地は近くなのだろう。だから機会を失わないうちに渡しておくことにした。
「ユリカさん、これは御見舞い。お母さんに精の付くものを食べさせてあげて。注文の前金とは違ってるから、一緒に考えないようにね」
そう言って懐に入れてた3枚の金貨をユリカさんの手に握らせる。
「え、でも」
「良いかい、お母さんに今必要なのは遠慮じゃない、美味しいものだよ。早く元気にならなきゃまた悪い病気を呼び込んじゃうから、皆で美味しいものを食べて、いっぱい笑わなきゃ!」
「はい! ルイ様ありがとうございます!」
金貨をぎゅっと握り締め、ユリカさんは目に泪を湛えながら精一杯の笑顔でお礼を言ってくれるのだった。3年も頑張ったご褒美だね。口には出さなかったが僕はそんな事を思いながら笑い返し、彼らのこの先の幸せを願わずにはいられなかった。
「さ、息も落ち着いたとこだし、そろそろ行こうか」
「あ、はい! こっちです!」
ユリカさんの案内で裏路地に入り奥まった所にある1軒の家に案内される。建てられてから随分と月日が経っている事が容易に想像できる外観だ。壁にはびっしりと常緑の蔦性植物が根を張ってもともとの壁の姿を覆い隠していた。
「ヘクセさん、こんにちは〜! ユリカです! お客様をお連れしたんですが居られますかぁ〜?」
いつもやってるのだろう、ノックもせずにがちゃりと玄関の扉を開けて中に入り声を掛けてくれるユリカさん。お店の看板娘だけ合ってよく通る声だ。
「ユリカかい? お入り、お客様も一緒に案内してくれるかい?」
「は〜い!」
奥から微かに声が聞こえた気がしたがユリカさんにはそれで十分だったらしく、にっと口を横に広げながら笑って腕を引っ張ってくれた。あれでいいのか。
こんこん
「お入り」
がちゃ
「失礼します」
「お邪魔します」
1階の奥の部屋に目当ての老婆は居るようで、ノックすると部屋の奥から声が今度ははっきり聞こえた。あ、今度はノックするのね。生活スタイルを知ってるから出来ることだね。扉をあけて部屋に入ると白髪の品の良い老婆が背もたれの長い椅子に座ってこちらを見詰めていた。見た処70代と思しき容姿だがその耳に眼が留まる。屋敷で待つニンフのエレオノーラより、耳が長く尖っているのだ。
「エルフ?」
思わず思ったことが漏れてしまった。慌てて口を噤む。しかし、ユリカさんは「え? 何言ってるんですか?」的な表情で僕を見返している。つまり、彼女にはこの老婆が人間に見えているということだ。認識が阻害されているということか。
「ヘクセさん、こちらが」
「知っているよ」
「えっ!?」
「わたしの使い魔が見てたからね」
あ、あの蜥蜴はこのお婆ちゃんのでしたか。知らなかったとは言え、申し訳ないことをしました。チンピラしか居なかったから、ついそういう人に雇われた人の使い魔かと思うよね?と思っていたら老婆が椅子から立ち上がり僕の方に歩いてきた。そして――。
「御初に御目にかかります、精霊を寵愛せし君よ」
そう言って臍の直ぐ下辺りに両手を重ねて当て、立ったまま腰を90度に曲げて挨拶してきたのだ。チラッとユリカさんを見ると口元に左手を当てて「ええっ!?」って表情になってる。なるよね?そりゃなるよ。君って王様って事だよ!? 驚くって。でもあそこに居た使い魔は1匹のはず。それでこの挨拶?
「ははは。何かの間違いでは?」
「先程貴方様がなれた事の重大さを理解しておられますか?」
逆に質問された。したこと、フルダさんの治療? その前? ……。
「あ」
名前付けたね。いっぱい付けたね。
「気が付いたのは恐らくわたくしだけではありますまい。王都全体、王宮に使える妖精族は皆感じ取ったことでしょう。精霊たちが抱いた怒りと喜びを」
思い当たる節がある。硬い節が。
「まさか。彼らはいまだそれ程大きな力を持っていない精霊たちのはず。そんな騒ぎになることなど」
そう言ってみてヘクセと呼ばれていた老婆の射るような視線で言葉に詰まってしまう。
「事の重大さを理解しておられないようですね。彼らが現れた時はまだ看過できましたが。その後格が上がったのですよ? そんな事はありえない。何をされたのですか?」
「る、ルイ様と精霊がお話してたら、一回り大きく膨らんでから消えてました」
え、ユリカさん、何故それをここで!? 僕に変わってなのか、自分が見たことが役に立てばと思ったのかユリカさんがあの時の状況を老婆に話すと、眼を大きく見開いて僕を凝視した。そこまで言ったら言うしか無いじゃない。
「な、名前を」
「付けたというのですか!? 精霊に!?」
「……」
肯定の言葉を出さずに頷くだけにしておいた。言葉を出すと墓穴を掘りそうで怖いと思ったからだ。
「お、お体の方は……何ともないのですか?」
「少し立ち眩みはしたけど、今は走っても大丈夫。ね? ユリカさん」
「あ、はい! わたしが息切らしてるのにルイ様ケロっとしてるんですから……びっくりです!」
「ユリカ、お前精霊を見たんだね?幾つ精霊が居たんだい……?」
「――10?」
「10!? 10もの名前を付けて立ち眩み程度!?」
僕に聞いてもはぐらかすと思ったのか、エルフの老婆はユリカさんに確認した。その数を聞いて両腕で自分の身体を抱え込むように力を込めたまま僕に振り返る。少し震えているのか? 僕は引き攣ったような笑顔を浮かべるだけで精一杯だった。どうやら盛大にやらかしてしまった感が拭えないからだ。しかし、次の言葉で僕が驚かされることになる。
「デュー坊に聞いていたとはいえ、ここまでの御方だったとは」
「へ?」
◇
時は少しだけ遡る。
「それではシア様、どうぞ馬車へ」
「うむ」
こうしわたしはフェレーゴ伯爵の馬車に乗り込み、一路伯爵の屋敷に向かうのだった。そこで驚きの出逢いを果たすことも知らずに。
ガラガラガラ
石畳の上を転がる無機質な車輪の音が馬車の中に転がり込んでくる。
フェレーゴ伯爵、もといい白豚はわたしの正面に向かい合うように座っていた。先程から舐め回すような視線に晒されている事に不快感が湧き上がり続けている事をこの男は気が付いてないなようだった。
「ぶふ〜。シア様の御主人はどれくらいの期間王都に留まられるご予定ですかな?」
「知らぬ」
「ぶふ〜。これは異な事を。御主人のご予定を把握されておられないのですか?」
「わたしは主殿の執事ではない。そこは与り知らぬことだ」
息苦しそうに言葉を続ける白豚との会話に正直辟易してきた。馬車に乗って数分でだ。わたしの表情が険しままなのを見てか、白豚は自分の背もたれの一部をぱかっとめく葡萄酒を取り出した。無駄のない造りに感心した。そのように収納が造られていたことにだ。白豚ではない。
きゅ〜 ぱこっ
葡萄酒の栓が抜ける音と、甘い薫りが馬車の中に立ち籠める。良い香りだ。
「ぶふ〜。まぁまぁ、シア様。そう御固くならずに。これはお近づきの印です。まずは1杯いかがですか?」
「――もらおう」
正直、わたしは人が呑む酒が好きになっていた。と言っても、鷲の王宮と辺境伯の屋敷で出されたものを飲んだだけだが。主殿からは程々にね? と言われてしまったが。1杯位ならば問題ないだろう。葡萄酒の注がれたグラスを手渡されたわたしは一気に飲み干す。
「ふ〜うむ。旨いな」
鼻に抜ける甘い薫りと喉を焼くような錯覚が心地良い。
「ぶふ〜。これはこれは良い呑みっぷりで御座いますな。ささ、どうぞもう1杯」
「すまぬ」
白豚がいやらしげな笑みを浮かべて葡萄酒のボトルの口をわたしに向けて来た。もう1杯位なら。注いでもらい。一気に煽る。うむ、旨い。
結局勧められるままわたしはあっという間に1瓶を空けてしまった。5分とかかっていないのではないだろうか。そこで気が付いたのだが、白豚は一滴も葡萄酒を飲んでいなかった。
「すまぬ。伯爵殿の分まで呑んでしまったようだ」
「ぶふ〜。いえいえ、どうぞお気になさらず。シア様のように美しい御方が美味しそうに飲んで下さるのを見るだけでも葡萄酒を開けた甲斐があるというものです」
「シア様」
急に白豚のトーンが下がる。いやらしげな笑みは浮かべたままだが、先程よりも眼がギラついている。
「む。なんだ?」
「今宵はシア様や御主人の旅のお話が聞きたく存じます。当家に逗留して頂けませぬかな?」
「それは出来ぬ」
「何故で御座います?」
「逗留先が決まっているからだ」
「ではシア様だけでも?」
「……」
可怪しい。明らかに断れることを前提で話を振って来ている気がする。何故だ? 時間? この馬車で変わったことはなんだ? 葡萄酒か。わたしは飲んだが。白豚は飲んでいない。
「ぶふ〜。そろそろか。景気よく飲んでくれた御蔭で薬も早く効いてくれるわ。恐怖で口も回らぬと見える。何処の馬の骨に仕えてるかは知らぬが、埋もれさせておくには勿体無い。ぶふ〜。どれ儂が味見してやろう」
「そういう事か。気前良く恩を売ったのは、わたしの身体が目的だったという訳か」
「ぶふ〜。媚薬と痺れ薬がたっぷり入った酒を空けたのだ。ぶふふふ!強がっても無駄だ。腰が立たなくなるまで儂が可愛がってやるわい。こんな上玉誰が手放すか。つまらん男など忘れさせて儂が飼ってやる。ぶふ〜! ぶひっ!?」
「生憎だったな。どれが媚薬でどれが痺れ薬か知らぬが、どうやら入れ忘れておったようだぞ?」
迂闊さを悔いたが、幸い身体は何とも無いようだ。そのまま白豚に身体を触られるなどと虫唾が走る。手を伸ばして首を絞めることも出来たが、こちらから触るのもごめんだ。それで少しだけ威圧を白豚にだけ放つことにする。
「ぶ、ぶふ〜! ま、待て儂に手を出せばどうなるのか分かってるのか!? 貴族に手を出して無事に王都から出れると思うなよ!?」
蒼白になって叫ぶ白豚。ふむ。貴族に手を出せば厄介事に巻き込まれるということか。ならばこのままだな。
「何を言っておられる伯爵殿。わたしは指一本動かしてないではないか。伯爵殿に手を上げる?とんでもない。このまま御屋敷でお茶を馳走になるはずであろう?」
そう言いつつもう少し強めに威圧を放つ。
「ぶ、ぶ、ぶひ。そ、そうで御座いますな」
白豚の顔が更に白くになった。あまり威圧を漏らすと馬が暴れるか気絶してしまうだろうからこのまま馬車に揺られることにする。ルイ様の事を馬の骨だの、つまらん男と言ったなルイ様の侮辱は許さぬ。
こうして揺られること半刻。
30分くらいは時間が経っただろうか。その間中威圧されっ放しだったので威圧耐性は獲得したかもしれないが、息も絶え絶えで意識が飛びそうな白豚とわたしを乗せた馬車が大きな門を潜る。
ぱっかぱっかぱっか ブルルルルル
がちゃ
どうやら屋敷に到着したようだ。
「ち、父上!? どうなされたのですか!? 顔が真っ青ですよ!?」
先に降りた白豚に若い男が駆け寄って来た。どうやら息子のようだな。ん? その先に見慣れた顔がある!? 灰色の髪の間から兎の耳が飛び出た、可愛い妹のような存在だ。ルイ様の眷属になってわたしには妹と呼べる存在が沢山増えた。その娘もその1人なのだが、何故? ルイ様と一緒じゃなかったの!?
「カティナ!?」
馬車から慌てて降りてその娘の名前を呼ぶ。すると、見る間にその円な眼に涙を湛え始め、わたしの名を呼びながらわたしに抱き着いて来たのだった。
「シンシアッ!!!」
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