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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第五幕 王都 
70/220

第69話 仕官

 

 「ですから1年と言わず、「わたくし共の忠誠をお受取り下さい!!」」


 「へっ!?」


 慌てて顔を上げると、そこには(ひざまず)くナイスシルバーの2人の姿があった。え? え? ちょっ!? 何が何だか飲み込めずに、助けを求めてデューオ様に目を向けると笑ってた。あ、何かやったな。


 「デューオ様」


 「何だ?」


 「不躾ながら御尋ねしたいことが」


 「言ってみろ」


 「御二人に出した手紙に何て書いたんですか?」


 僕の質問に更にしてやったり的な笑顔を浮かべて、未だ返事を待って跪く2人に視線を落としながらデューオ様が答えてくれた。


 「老い先短いお前たちの命を燃やし尽くせるやつかもしれん、と書いただけだ」


 「な。そんな過大評価を」


 「そうかな? 俺はあくまで選択肢を用意したに過ぎん。権謀術数渦巻く宮中で数多(あまた)の者を見てきた経験からお前は違う存在だとこの者らに見られたのではないかな? 後はルイ、お前次第だ」


 頭が痛くなる。忠誠をと言ってもハイそうですかって、受けれる立場と状況に僕はいない。だって全員魔物もしくは妖精族だよ? 獣人もいるけど。僕やエト、コレット、リーゼに至っては不死族(アンデッド)。いや不死の者(イモータル)だ。そんな人間の居ない所に2人を。


 「わたくし共の忠誠をお受け取り頂けるならば墓場まで秘密を持って参ります。どうかご英断を」


 僕の気持ちの揺らぎを感じ取ったのか、マンフレートさんが決め文句を使ってきた。老人にこうまで言わせたらね。恥も外聞も捨てて頭まで下げてるだから。


 そもそもグレイシルバーには敬意を払うのが当然だ。それまでの経験や知識故にそうするだけの価値がある。中には例外も居るが、基本僕はそうでありたいと考えていた。今でもそれは変わらない。だから、この状況が辛いのだ。


 僕が決めなきぃけないことは分かっているがそれでも顔色を伺いたくなり、僕の後ろに控えている3人に振り向く。分かっていたことではあるが、3人共頷いてくれた。仕方ない、必要な人材だし口の硬いのは容易に想像がつく。良く考えたら2人だけじゃない。最低でも後3人は雇う予定だからね。後の3人は契約書の作成が必要だ。


 「では、頼りない主ですが支えて頂けますか?」


 「「!?」」


 「何でそんなに驚かれるんですか?」


 僕の言葉を聞いてがばっと面を上げた2人は「え!? いいんですか!?」的な表情だったのだ。思わず突っ込んでしまった。


 「いえ、このような老いた者には用はないと言われる覚悟でございましたから」


 とアーデルハイドさん。用はないどころか大いに有用ですが!?


 「1年でも嬉しい申し出だったのですが、ルイ様の御傍にもっと長く居たい気持ちに嘘は付けませんでした。それでもお許しを頂けるとは思っておりませんでした」


 それなのに、1年って話をまず蹴ったの? マンフレートさんも内側が熱い方なのね。覚悟がなきゃ出来ない話だ。それだけ残りの人生を惰性で生きたくなかったということかな。


 「それで、御二人の返事は?」


 「「老骨に鞭打って残りの生涯をお捧げ致します!!」」


 いや、そこまで過酷なことは求めてないから。


 「えっと、デューオ様、こうなってしまいましたが宜しかったのでしょうか?」


 「宜しいも何も、お前は無位無冠、この者らはリタイア組だ。何処の誰に使えようが俺は全く痛くも痒くもない。ただ」


 「ただ?」


 ただ何でしょう? その間はいりませんって。


 「ただ、無気力のまま朽ちていく姿を見るのは心苦しかったからな。痛くも痒くもないが、働き場を用意してくれたことに感謝しているし、嬉しく思うぞ」


 「いや、それはデューオ様が紹介してくださっただけで」


 「ふふふ、さっきも言ったように決定したのはお前だ。結果お前が働き場を用意したことになるのさ」


 ま、そういう話ならこれ以上は言っちゃダメだな。


 「ふぅ〜。ま、何かあるのは毎度の事だからこれくらいで済んで良かったってことかな。アーデルハイド、マンフレートこれから宜しく頼む」


 「はい、ルイ様」


 「一応紹介しておくね。オレンジの髪の()がジル、兎の獣人の()がカティナ、執事エト。そしてさっきゼンメルさんと一緒に出かけたのがシンシアだよ。他の者も帰ったら紹介するね」


 僕の紹介に5人は黙って会釈する。これから打ち解けれれば良いんだけど、立場というか立ち位置ははっきりさせないといけないだろうね。皆が混乱する。


 「してルイ様のお住まいはどちらに?」


 「辺境の地の森だよ」


 マンフレートさんの何気ない質問にさらっと答える。


 「何っ!?」


 ばん!


 「わっ!?」


 え? 何? 何か変なこと言った!? いきなりデューオ様が両手でテーブルを叩いて立ち上がり、驚いているのか怯えているのかよく分からない表情で問い質してきた。


 「おい、ルイ、今何処だと言った?」


 「へ、辺境の地の森と」


 「我々が王都の帰りに襲われたあの傍にあった“森”だと?」


 「は、はい」


 ちらっとジルを見るが眉間に皺を寄せて小さく首を振った。どうやら僕がやらかしてしまったみたい。これから詰将棋みたいに、手を間違えると厄介なことになるぞ。


 「お前はあの“森”が何と呼ばれているのか知っているのか?」


 なんて言ったかな……。エドガーがギゼラたちに追い駆けられていた時にあの“森”について教えてくれた記憶がある――。


 「“黒い森”とか“帰らずの森”でしたか?」


 「「「!?」」」


 ざわっ


 「!?」


 デューオ様から殺気が放たれる。いきなり警戒レベルが跳ね上がった感じだ。つまり初手から僕がヘマをやらかしたということになる。背後で身構える気配を左手で制しておく。


 「何故その古き名(・・・・)をお前が知っている?」


 あ、禁忌だあったのね。


 「教えてもらいました」


 「何?! 誰にだ!?」


 「このカティナの父親に」


 そう言って振り向いてカティナにウインクしておく。最初はポカーンとしていたカティナだったが思い出してくれたようだ。


 「そうです。わたしたちの聚落(しゅうらく)が魔物に襲われた時に逃げ込んだ先の“森”にたまたま(・・・・)居たルイ様に助けてもらったんです!父上はあの“森”の名前だけ知っていたのでそれをルイ様に話しただけです」


 「獣人であれば、その名を知っていても可怪しくはないか。我らより寿命が長いのだからな。いや、すまなかった。ちょっと勘違いしていたようだ」


 カティナの説明に殺気がふっと緩む。ふぃ〜エドガーありがとう! 君の娘は優秀だよ!


 「だが待て、あの“森”の奥には吸血鬼公が住んでいると言われていたはずだぞ?」


 ふぇ〜そんな話まで流れてたのか。知らないって怖いな。未だに疑いの眼で僕を凝視してくる辺境伯。ここはありのままを話しても大丈夫なところかな。


 「確かに居たそう(・・・・)です」


 「どういう意味だ?」


 「僕がその屋敷を訪れた時には、生霊(レイス)化した魔術師の男が居座っていました。彼の言う話だと、自分が返り討ちにしたのだとか。魔道具を使って」


 「何故お前が知ってるのだ?」


 「眼の前で嬉しそうに講釈してくださいました」


 「は? 眼の前でだと? 生霊(レイス)に吸われもせずにか?」


 「最初はそのつもりのようでしたが、話し相手が見つかった事で(しばら)く猶予がもらえたのです」


 「信じられん。そんな話が」


 アーデルハイドとマンフレートは一応こちら側だ。援護は期待しないが、変なことも言わないはず。黙って耳を傾ける2人ににこっと笑い掛けておく。ぴりぴりした雰囲気だと息が詰まる。


 「信じるも信じないも、僕がここに肉体を着けているということが証拠です。その生霊(レイス)には成仏してもらったので」


 「「「!!?」」」


 その一言にデューオ様、アーデルハイド、マンフレートの眼が大きく見開かれる。耳を疑ったのだ。


 「成仏だと? 生霊(レイス)を浄化したのか? 誰が?」


 デューオ様が喉の奥から苦しそうに声が紡ぎだされる。僕の中の魔物たちのレベルの認識と、王都に居る人間たちの認識の差がかなり大きいようだ。やはり家庭教師は必要だね。出来れば冒険者であった経験を持つ人が望ましいけど。そんな事を考えながら、右手の人差し指を立てて自分の顔を指すのだった。


 どかっ


 「――――――! お前と話していると可怪しくなる! 俺の常識が音を立てて崩れてるんだぞ?! 」


 その様子を見て、デューオ様は自分の椅子に身を投げ出すかのように腰を下ろすのだった。右手でこめかみを抑えている。頭痛いの?え、崩れるって言われてもそんなの知りませんって。


 「ははは、すみません」


 一応謝っておこう。


 「(アーデルハイド、どうやら(わし)らはとんでもない御方に引き会わせてもらったようだな)」


 「(そのようだね。老い先が短いんだから刺激が多いのは歓迎だよ)」


 こそこそとナイスシルバーが耳打ちしている。もしもし〜聞こえてますよ〜。


 「まあいい。今の処、あの“森”は誰のものでもない。我が国の領地内にあるが所有者不在の地だ。お前が居てくれるならそれはそれで助かるか」


 待て待て。つまり裏返すとあの“森”は危険だから今まで放置してた、と言うこと? あるいは隔離する必要があるから誰も近づかなかったってことか? どっちにしてもあの“森”には何かるということなのか。むむむ。分からないものを悩んでも仕方ない。棚上げだ!


 「ではそろそろ鍛冶屋に行ってみたいのですが」


 「おぉ、そうだったな。それなら表に居たファビアンに案内させるか。庭師の紹介も兼ねてな」


 「なる程、それは助かります。家庭教師の方はいかがですか?」


 「それだがな、すまん。断られたと言って良いのかどうか分からんのだが、逢いたければ自分で来いと言われてしまったのさ」


 「お名前や住所は?」


 「すまん。言うなと釘を射された」


 「はい? それでどう逢いに行けと?」


 「俺にも分からん。逢う必要があるのなら何もせんでも出逢う、だそうだ。ルイよ、後は任せた」


 任せたって、丸投げじゃないですか。ヒント無しでこんなだだっ広い王都を探せと? 無理に決まってるでしょうに。まぁ、それも後で落ち着いたら考えよう。一先ず出発だ。


 「エト、馬を回して。ジルはアーデルハイドとマンフリートから色々教えてもらってね。カティナは僕と一緒に鍛冶屋だ」


 「畏まりました」「承知しました」「分かった!」


 「デューオ様、客間をもう1つ用意して頂いても構いませんか?」


 「ああ、構わん」


 「ありがとうございます。エトとマンフリートが同室。アーデルハイドは独り部屋だ。アーデルハイド、僕たちが使ってる部屋3つベッドメイキングを頼んでも良いかな?」


 「お任せ下さいませ。さぁジル、まずは御見送りですよ」


 「はい」


 先に食堂を出て行ったエトの後を追って僕たちも玄関の方に回る。エトが馬車を回してくれる手筈になってるから。デューオ様は他にもすることがあるらしく執務室に行くと言って食堂を後にされた。ま、水先案内人が居るのなら問題はないか。


 玄関を出ようとすると、マンフリートが扉を開けてくれた。う〜ん、これダメになるやつだね。自分で動かなくなって踏ん反り返ってる奴のイメージが浮かんきた。そうはならないように気をつけなきゃ。そう思ってふと玄関の左側の植木を見たら庭師さんが枝を刈っていた。太っているわけではないが痩せても居ない体型の男だ。背は170㎝付近かな。


 「!? えっと、ファビアンさん?」


 「そうですが。このお屋敷では見かけない顔ですね。おや? アーデルハイドにマンフリートもお揃いで何かあったのですかな?」


 「こちらはルイ様。今日からお仕えする運びとなったのです」


 「ほっ、それは羨ましい話だ。その年で仕官が叶うとはね。デューオ様からお話は聞いてますよ」


 アーデルハイドの言葉にファビアンさんは嬉しそうに笑うのだった。そして僕の眼をじっと見詰めてくる。眼は笑っていなかった。眼を逸らさないようにしながらも、ファビアンさんが手に持っていた剪定(せんてい)用の刈り込み(はさみ)に気が逸らされる。鉄製であることは分かるが……鋏の刃の部分の刃紋が気になったんだ――。


 「その刈り込み鋏を見せて頂いても宜しいですか?」


 「ええ、どうぞ」


 何の変哲もない植木を手入れするための刈りこみ鋏。しかしその合わせ刃の部分は違った。


 「これは、鍛造(たんぞう)製の刈り込み鋏ですか。良い(はがね)を使ってますね」


 「!? よく鍛造と分かりましたね、ルイ殿」


 「鋳物(いもの)製だとこう見事な刃紋は現れません。()がれた後に出来る真っ直ぐな境目だけです。ファビアンさん、この鋏を打った鍛冶屋に連れて行って頂けませんか?」


 「これはこれは。どこぞの貴族の方かと思いましたが、あなた方が惚れ込むだけはあるようですね。よろしゅうございます。あそこも偏屈者ですが、ルイ殿との掛け合いを見てみたくなりました。ご案内いたしましょう」


 ファビアンさんがアーデルハイドとマンフレートに顔を向けてにこりと笑うと、2人共この日一番の笑顔を見せるのだった。仏頂面(ぶっちょうつら)だけじゃないのね。とそこえタイミング良くエトが馬車に乗ってきた。


 「「「大きい!?」」」


 ナイスシルバーの3人が声を上げる。馬に驚いたようだ。ま、確かにサラブレッド系のほっそりした馬しか見ない王都で農耕用の輓曳(ばんえい)種のような馬が大きな馬車を引いてるのである。眼に留まらない訳がない。しかも(いわ)く付きの馬だから。


 「じゃ、行ってくるね」


 「「「いってらっしゃいませ」」」


 3人に見送られて、エトが御する馬車が王都へ出て行く。ファビアンさんは御者席のエトへ指示が出せるように小窓が着いた前輪側の席に座ってもらう。僕とカティナは後輪側の席だ。


 「ルイ殿は庭師を探しておられるとデューオ様からお聞きしたのですが、何故わたくしめに声を掛けられたのでしょうか?」


 「正直申しますと、声を掛けたのはわたしではなくデューオ様です。わたしは60歳以上で誰か良い人が居れば紹介して下さいとしか言わなかったのですが、屋敷までお越し下さり感謝しています」


 ファビアンさんの質問したことも分かる。何故年老いた自分なのかということは聞きたいに違いからだ。もし自分が逆の立場ならきっとそう思う。


 「庭師でも60歳を超えれば大した仕事も出来ませんし、時間ばかり掛かるようになります。良い事はないですよ。若い者を沢山雇われたほうが効率も良くなります」


 そうでしょうとも。でも、若い奴は間違いなくウチの娘らにちょっかいを出すだろう。そして下手をしたら殺される。若い方が、だ。そうなれば関係性自体崩壊してしまい仕事どころではなくなる。であれば、年配者のほうが比較的(・・・・・)安心できる。うん、年取っても元気な人も居ることは知ってるから一般論だよ。


 「そうでしょうか? 若ければ仕事は早いかもしれません。体力もあるでしょう。しかし、長年の経験を通して得られる見えない部分に対するこだわりまでは持ち合わせてない、あるいは十分に洗練できてないと僕は思っています。まぁ、若輩者の僕が偉そうなことは言えないんですけどね」


 「……」


 「そしてどちらが好きかといえば後者です。ウチは大きな庭があるのですが、手入れの仕方がよく分からない者が独りで奮闘しているんですよ。若くて体力もあるのですが、まだまだなのでファビアンさんに1年程留まって頂いて鍛えて貰えたらと願っているんです」


 「……」


 「何かお聞きになりたいことがおありですか?」


 「ルイ殿を見ていると、本当に見た目に騙されますな」


 「え……」


 人聞きの悪い事を。建前で話している部分は確かにありますけど、どっちも本音です!


 「いやいや、悪く取らないで下さい。今時そこまで考えている貴族のボンボンどもはおりません。奇抜さや目立つこと、気に入らぬ奴を蹴落とす事と色事くらいしか頭にありませんからな。其奴(そやつ)らに聞かせてやりたいと思った訳です。あ、エトさんその角を左に曲がって下さい。半刻くらいは道なりです」


 「畏まりました」


 小窓を開けてファビアンさんがエトに指示を出す。思った以上に距離がありそうだ。


 「可能であれば1年程来て頂きたいんですが、いかがですか?」


 「ルイ殿は樹木の成長の速さをご存知かな?」


 「いえ、恥かしながら勉強不足です」


 「そこを謙虚に認めることが出来るとうのは年寄りから見ると眩しいですな」


 「(からか)わないで下さい」


 「本心ですよ。物によって成長の速さが違うのです。あるものは1年で指を一杯に開いた(てのひら)1つ。あるものは2つ半から3つ伸びます。全く伸びないものもあるのですよ」


 「――そんなに違いがあるのですね」


 「何が言いたいのかお分かりですかな?」


 ファビアンさんはそう言って優しく微笑むのだった。何が言いたいのか……(しばら)く考えてあることに気づく。それに続いて面映(おもはゆ)くなり顔が上気するのが分かった。


 「つまり1年目で何がどれが伸びるのかを知り、2年目でどれだけ手入れすばよいかを知り、3年目に(ようや)くその経験が活かせる、と?」


 ファビアンさんはその答えを告げる僕の眼を見詰めたまま聞き、聞き終わると眼を(つむ)って大きく1つ頷くのだった。


 「ルイ殿は1を聞いて10を知る御方なのですね。このファビアン、感服致しました。庭の何たるかを滔々(とうとう)と毎日説明していた弟子たちも、初めて聞いてこの答えを告げたものは居ませんでした」


 その言葉を聞いて僕よりもカティナの方が嬉しそうに身体を揺らしていた。僕も褒められたのだから嬉しいに決まってる。


 「いえ、わたしの生まれ育った処では“石の上にも三年”という格言があるのです。冷たい石でも3年間座り続ければ暖まることから転じて、何事にも忍耐強さが大切だということを教える言葉なのですが、ファビアンさんの言葉を聞いてその言葉が浮かんできたんです。それに合わせて考えただけなんです、本当に」


 「ふふふ、ですから1年だけ仕事をお受けすることなど到底出来るお話ではないのです」


 「……わたしの勉強不足でした。申し訳ありません。ではさ」


 と僕が謝罪して改めて年数を切りだそうとした時にファビアンさんに手で制された。


 「この年寄り、老い先が後どれくらいかは分かりません。70迄生きれば大往生と言われているこの世にあって(よわい)64のわたしなど特にそうでしょう。ですから、ルイ様、この年寄りに最後の奉公が出来る喜びを味わわせて下さいませ」


 つまり、アーデルハイドやマンフレートと同じ?黙ったままファビアンさんの次の言葉を待つ。


 「わたしの忠誠を是非ともお受取り頂きたい」


 そうなるのね。でも人の平均70歳の寿命なのか。僕が昭和61年生まれだから、それより10年前くらいの平均寿命ってことになるな。なる程、医療が進歩していない社会で70歳まで生きられるというのは魔法の恩恵もあるんだろうね。


 「僕に仕えると相当苦労しますよ?」


 「刺激は大歓迎ですぞ、ルイ様」


 この御老人も、あの2人もゼンメルさんも大概だな。ま、いいか。


 「であれば頼りない僕を支えてくださいますか?」


 「老骨に鞭打って残りの生涯をお捧げ致します」


 馬車の中でファビアンさんがそう言って(ひざまず)くのだった。またそれですか!? それって老人の決まり文句みたいなものなの?


 などど思いながらもこの日僕は、図らずも3人の家臣を手に入れることになるのだった。雇うつもりだったのだけど、残りの余生で花を咲かせたいと願う気概に負けたと言ったほうが格好が良いかもしれないね。それでも必要な人材であることには代わりはない。お金に代えがたい知識と経験を得ることが出来たのだ。やることは増えたけどね。


 こうして馬車に揺られること1時間、僕たちは目的の鍛冶屋の前に到着した。そこは大通りから2本ほど裏通りに入った寂れた路地の一角に看板を掲げている店だ。ただ、お世辞にも綺麗な店とは言いがたい雰囲気がある。狭い路地だから交通の邪魔にはなるのだが帰りの足も必要なのでエトにそのまま馬車に待機してもらって店の中に入ることにした。


 が、何だか騒がしい?何だ?金物が倒れたりぶつかったりする音がする――。


 ガシャン! グワン!


 「くっそ! 手が付けられねぇ!」「(じじい)っ! 覚えてやがれ!」「いいか! 10日後に取りに来る! それまでに耳揃えて用意しておわーーーっ!!!」


 「「「!?」」」


 店の扉を突き抜けて投槍(ジャベリン)が通りに飛んでいく!?


 ぱしっ


 辛うじて槍の柄尻辺りを掴むことが出来た。おいおいおい、路地に誰か居たら串刺しで死人が出てるよ!? ええええぇぇぇっ!? 何この状況!


 ばん!!


 扉が蹴らぶられるかのように3人のチンピラ風の男たちが飛び出てくる。


 「「「ぎゃあああ!!!」」」


 エトの待つ馬車の方に出たため巨大な馬に驚いて尻餅を()く男たち。エトに悪態を着こうと思ったが追われていることを思い出し、反対方向へと脱兎のごとくに駆け出すのだった。その後を追って投げ斧(トマホーク)片手に店から飛び出してきた60台後半の男が声高らかに叫んだのだ!


 「死にさらせぇぇぇぇーーーっ!!!!」








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