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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第五幕 王都 
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第68話 老獪な客

 

 「分かりました。では腕の良い鍛冶屋へ僕を連れて行って下さい」


 「おぉ! 引き受けてくれるのか!?」


 「乗りかかった船です。それに王都にご一緒に来なければ、エルマー様にお逢いすることもなかったでしょう。僕の引き籠もり生活のために口を利いてくださる閣下の為に働けるのは光栄です♪」


 といって、にやりと笑ってみた。それを見てデューオ様もにやりと笑い、ばしっと背中を叩かれた。熱い人なのですね。体育会系というのはこういう人のことを言うのでしょうか。僕たちの遣り取りを見て夫人とアガタさんが涙目でくすくすと笑っていた。うん、笑えるというのは良いことだね!


 ばん!


 「御母様!!」


 おわっ!! またこの登場の仕方かい! 勢い良く扉が開いたかと思った瞬間元気な女の子が駆け込んできた。


 「コネリア! ジル!?」


 「御無沙汰しております、奥様」


 周囲に眼もくれず母親のベッドに直行したコネリア様は、大好きな母親に抱き着くのだった。その後ろで扉を閉めたジルと眼が合う。寝れたようだね。そう思ってジルに微笑んでおく。


 「あらあら、いつの間にこんな甘えん坊さんになったのかしら? コネリアは? それにジル、綺麗になったわね。その髪の色も素敵」


 「ありがとうございます、奥様」


 「は〜ウチの旦那様も素敵だけど、貴女を繋ぎ留めておくには物足らなかったのね。惜しいことをしたわ」


 ジルを見ながらエルマー夫人が溜息を()きながらぼやくのだった。


 「おいおい、何も今ここで言わんでも」


 「良いじゃない。それに、貴方と出逢う前にルイくんに出逢ってたら、わたしも分からなかったわよ?」


 悪戯っぽく笑うエルマー夫人は魅力的に見えた。最近はそんな素振りも出来なかったのだろう。2人の掛け合いを見ながら涙を拭いているアガタさんを見ていると、そんな事が脳裏を(よぎ)るのだった。


 「な!?」


 ちょっと奥様、火種をばらまかないで下さい。デューオ様の眼が怖いんですけど! 冗談と言うには度が過ぎてますって。それにルイくんて!?いつの間にかフレンドリーになってますよ!? こういう時は。


 「デューオ様、鍛冶屋の他にもお紹介して頂きたい方々いるのでご案内をお願いしても宜しいでしょうか?」


 三十六計逃げるに如かず。


 「あ、ああ。分かった先に用意していてくれすぐに行く」


 デューオ様の許可を取って、コネリア様にも確認を取っておく。


 「分かりました。コネリア様、少しの時間ジルをお借りしても宜しいですか?」


 「あ、はい、ルイ様!」


 「ありがとうございます。じゃあ、ジル、食堂まで案内してもらえるかな?昨日迷子になったから」


 コネリア様に微笑んでおいて、ジルにお願いするとぱっと笑顔が咲いた。うん、やっぱりジルは笑顔が似あうね。その様子をエルマー夫人がじ〜っと見ていることにも気付かず。僕たちは部屋を後にしたのだった。


 一先ず、部屋を出て扉を閉めたら抱き締めた。ううん、抱き着かれた。ある意味禁断症状だね、これは。恐らく原因は2つ。1つに長く逢えなかった。もう1つは砦の外での別れ方が衝撃的だったので、それが焼き付いたようになり情緒不安定にさせている原因でもあるんだけど。じっくり治していくしかない。


 他の()たちにも似たような症状が出てることを考えると、あまり“森”の方も長い時間は空けれないなと思ってしまうのだった。左腕をジルに明け渡した状態で食堂まで案内してもらう。


 食堂に帰り着いた時、そこにはエト、カティナ、シンシアの他にもう独り初老の男が席に着いていた。


 「ルイ殿であってますかな?」


 「はい。失礼ですがどちら様で?」


 「申し遅れました。わたしはゼンメルと申します。10年程前まで王宮の料理長を努めておりました」


 きたーっ! めちゃめちゃ好物件!!


 「もしかして、デューオ様のご紹介でしょうか?」


 「そのつもりで参りましたが、ここまでお若いとは思ってもいませんでした。(いささ)か拍子抜けしているところです」


 「ははは、どんな感じに拍子が抜けたのでしょうか? 差し支えなければ教えて頂けませんか?」


 「覇気がない」


 要りません。


 「綺麗所を(はべ)らせて愉悦に浸っておられる」


 間違いではない。


 「貴様、言うに事欠いて」


 シンシアが声を上げたが、他の2人も同じく殺気立ってきたので手で制す。


 「そのような若さで果たして権謀術数渦巻くこの社会を乗り切るおつもりですかな?」


 乗り切るというか、端から同じ流れには乗らない。


 「まず、経歴は申し分ありません。しかし思い違いをしておられるようなので、少し訂正をさせて頂いても宜しいですか?」


 「お聞かせ願いますかな?」


 ゼンメルさんは60台後半であろう風貌と痩身には似合わない迫力を漂わせていた。多くの人間を使っていただけあってそうした部分の違いを肌で感じることが出来るのは収穫だね。鋭い目つきで僕の一挙手一投足まで見逃すまいと見詰めている、そんな怖さを感じる。


 「まず、僕は権謀術数渦巻く海原に乗り出すつもりはさらさらないので、乗り切る必要はありません。そもそも舞台が違う。誰がそんな火中に栗を拾いに入りますか。綺麗所を侍らせているのは人徳のなせる技です。神様に感謝しなければなりません。小鳥たちには休むための枝が必要なのです。覇気がないのは、そんな疲れることを常時出しっぱなしにしてたらおちおち休めやしない。無難が一番。そんな引き籠もり生活を支えてくれる者たちの教育係として期間限定でお雇いしたいのです。1年程来て頂けませんか?」


 「クリ!? 今ルイ殿はクリとおっしゃったか!?」


 はっ!? 今までの流れは? 僕の話の中で拾ったのは食材の言葉だけ!? 栗ってこっちの世界でもあるのね。(ことわざ)として使えるみたいでよかった。


 「え、えぇ、言いました。火中の栗を拾うつもりはないと」


 「クリの性質もご存知とは!? 生栗を火に()べると()ぜてしまいますからな! 言い得て妙な使い方! このゼンメル感服致しましたぞ!」


 どうした? 何があった? 眼を泳がせて助けを求めるが、皆視線を()らしやがった。君たちね。あ、この人関わったらダメな人だと本能で察したのだろう。誰か僕の気持ちも察してくれ。


 「そ、それはどうも」


 「それでルイ殿はクリがどのようになるのかご存知ですかな?」


 は? こっちの世界の実り方なんて知らないよ?


 「どうって、樹になるんでしょ? 雲丹(うに)みたいに針山で」


 「ウニ!? ウニとはどういうものなのですか!? ルイ殿!?」


 あ〜分かったかも。典型的な料理莫迦(ばか)な人なんだ。知らないことが許せないというか。知りたい味わってみたいという好奇心に忠実なのね。話が咬み合わないはずだわ。そのくせ我が強いと来たもんだ。嫌われるわな。


 「海の中にいて海藻を食べる栗みたいな生き物ですよ」


 「ルイ殿の所で働けば、そういうものも食べれるのですかな?」


 「今は無理です。ルートがない。でも、いずれはと希望してますけどね」


 「決めた! ルイ殿! わたしを雇って下さい!!」


 え? あ? さっきの覇気がないとか、綺麗所がどうとか、権謀術数がどうとかは? もういいの? そっち? 判断基準は知らない食材があるかどうかってことなの!?


 「ははは。冷静に考えて下さい。まず、宮廷料理のレクチャーとそこに住む者たちの食事、そして食材の管理と食材の調達の手配をしていただくことになります。お金は有限です。ケチではありませんが倹約を期待ます。それでいて味と量を希望します。できそうですか?」


 最後の一言は経歴を聞いた上での殺し文句だ。こちらの要求することは列挙した、後はゼンメルさんがどう判断するか、なんだけどね。「できそうですか?」と言う言葉を聞いた瞬間、ゼンメルさんの双眸(そうぼう)が一瞬細められたのを僕は見逃さなかった。多分、釣れた。


 「良いでしょう。そこまで言われて引き下がるわけには参りませんからな。要求が多ければ多いほど燃えますぞ!」


 「では、最初の仕事をお願いしても?」


 「何なりと!」


 キィンッ


 その言葉を聞いて僕はゼンメルさんに向けて古代ファティマ金貨を1枚弾く。金貨はゆっくり弧を描いてゼンメルさんの手に収まるのだった。


 「そのお金で何処かに広い倉庫を借りてください。その倉庫に余ったお金で80人分計算で何日も(まかな)えるだけの食材を買えるだけ買って詰め込んで頂けますか?」


 「こ、これはファティマ金貨!?」


 ゼンメルさんがその金貨を見て眼を丸くした。そんなに出まわらない金貨なのかもしれないね。でも使える金貨なんて(ほとん)ど無いし。


 「それを使えば目立ってしまうでしょう。でもゼンメルさんが持っておられるルートならそこまで騒ぎにならないかと思います。でも、鼻が利く(やから)は居るでしょうから――シンシア」


 「はい、主殿」


 驚いているゼンメルさんを余所に、シンシアの眼を見る。察してくれてるようだ。


 「ゼンメルさんの護衛をお願い。その角は目立つからフード付きのマントを借りて隠すようにね。あと、殺しはダメ。なるだけ目立たないように対処して。そして大事なことだけど、ゼンメルさんと別々のルートではいかないように。別ルートで襲われてしまったら護衛の意味がない」


 「承知した」


 快諾してくれた。助かる。


 「ジル、シンシアの為に借りてもらえるかな?」


 「畏まりました。それでしたらカティナも分も借りておきましょう。その耳も目立ちますから」


 「あ、そうだね。助かる」


 「では」


 ジルにお願いすると気を利かせてくれた。助かるね。にこりと笑いながらお礼を言うと、ジルも笑い返してくれ、そのまま会釈して食堂を後にするのだった。ゼンメルさんも席を立つので、それに合わせてシンシアも席を立つ。あ、そうだ。


 「ゼンメルさん、買い物をする時に僕の名前は伏せてもらえますか?主人に頼まれたとだけ伝えるくらいで止めてもらえると助かります」


 「それが宜しいでしょう。では、シンシア殿の準備が整いましたら出掛けて参ります」


 「よろしくお願いします。シンシアも油断しないようにね?」


 「うむ」


 こうしてジルからフード付きのマントを2着借りてもらいフードを被ってもらう。視界は狭められてしまうが、角は隠せるから幾分目立ちはしないだろう。外套(ローブ)と違って袖を通す必要もないからマントの方が護衛にうてつけだ。でもあの顔だ。何となくは予想できるけど…あしらわれる側の身を案じずにはいられなかった。


 ゼンメルさんとシンシアが揃って屋敷の玄関を出た時に通りから戻って来た馬車がある。見るとフィデリオさんが手綱を持っていた。いつの間に。


 かっぱかっぱかっぱかっぱ ブルルルルルル


 玄関の前で馬車を回せるように、環状の石畳道形の上を馬車が歩いて来て玄関の前で止まる。遠くに見える門扉の周辺の垣根を誰かが手入れしているのが見えた。朝早くから熱心だね。


 フィデリオさんがさっと御者席から降りると、馬車の扉を開くのだった。そこから出てきたのは初老の男女。ゼンメルさんも痩せ型だったけど、更に線が細い2人だ。恐らくだけどデューオ様の紹介して下さろうとしてる方だと感じた。


 「調度よい所に帰ってこられた。フィデリオ殿、ルイ殿に頼まれて食材を仕入れなければならん。わたしとシンシア殿を市場まで運んでくれぬか?」


 「それは良う御座いました。ゼンメル様の活躍の場が見つかったようで上々に御座います。そうでしたらお送りいたしましょう。どうぞお乗り下さいませ」


 「ではルイ殿、行って参る」


 「お願いします」


 ゼンメルさんには手を貸さなかったけど、シンシアには手を貸して馬車にエスコートしておいた。これくらいはしておかないとね。はにかんだシンシアの顔も可愛かった。さて。


 ぱしっという鞭の音と共にまた馬車が動き出す。それを見送ってから2人の男女に向き直るのだった。


 「御初に御目にかかります。ルイと申します。立ち話も」


 「そこのオレンジ頭の娘」


 「!?」


 初老の女性が鋭く言葉を発する。慌てて女性とジルを見比べるのだが。


 「立ち姿は侍女として申し分ありません。ですが、主自らに名乗らせるとは何事です!」


 「も、申し訳ございません!」


 一言でジルが恐縮した。凄いな。というか厳しいぞ? かなり。


 「ほれ、お前さんもじゃよ。お前さんもルイ殿の執事じゃろ?」


 「然様(さよう)で御座います」


 「立ち振舞は良いが、なっとらんな。これは先が思いやられるの、アーデルハイド」


 アーデルハイド!? このおばちゃんが!? あのアルプスの山でおじいさんと一緒に暮らすことになったあの国民的アニメの少女と同じ名前!? いや、名前だけだ。同じ人物ではないぞ。落ち着けルイ。


 「不調法をお許しください」


 とエトもタジタジのようだ。エトに限って言えばヴァンパイアの中での対応は完璧だったに違いない。ただ、現人間社会の作法となると勝手が分からないのも当然だ。


 「良いかの。分かっておるとは思うが、お主らの粗相は全てルイ殿の恥となって帰ってくる。そして足を引っ張りたい(えから)からは得てしてそういう所を突付いてくるものだ」


 「えっと」


 「(ルイ様、カティナあのおばさん苦手)」


 カティナが後ろからこっそり(ささや)いてくるが、どうすれば良いのかわからない状態なのだ。


 「何をしているんだい。執事のあんたがエスコートするんだよ」


 「これは鍛えがいが有りますな」


 エトが珍しくバタバタと僕と2人の客を食堂に案内するのだった。応接間を使う許可をもらっていないから仕方ない。それも言われそうだけどね。ジルとカティナがその後に続く。


 「食堂に案内されるとはね」


 「エトと言いましたな。事前に家主に許可を何故求めていられない?そんなことをする時間が無かったのかね?」


 「弁解のしようもございません。わたくしめの落ち度でございます」


 ほら来た!


 「それと、そこのフードを被った娘!」


 「ひっ!? あたし!?」


 「そう、貴女です。なんですか! 主と同席とは無礼にもほどがあります。フードを取って後ろにお立ちなさい!」


 「は、はひぃ!」


 あ、これカティナとリンとサーシャはきついかも。ディーは、反骨精神で耐えれるかな……? アーデルハイドさんに指摘されて、慌てて席を立つカティナ。何だかピリピリしてる所へ気を利かせてジルがお茶を運んで来た。少し離れた所でティーポットにお湯を入れ、カップを温め、お茶を入れるジル。見た感じ減点はないように見えるけどどうだろうね。


 緊張した面持ちでジルがお茶を配っていく。初老の男、アーデルハイドさん、僕の順に。お客がお茶を口にしたのを見て僕もお茶を口に運ぶのだった。うん、美味しい。


 「熱い」


 「――」


 と、アーデルハイドさん。何ですと!? ジルを見るとえっ!? という表情になってる。うん、気持ちは分かる。何が悪いのかが分からないよね……。貴女の本当の名前はロッテン○イヤーではないのかと言いたくなるような仕打ちだ。


 がちゃ!


 そんなタイミングで食堂の扉が開きデューオ様が入ってきた。その姿を見た瞬間に2人が席からすっと立ち上がり見事なお辞儀を披露したのだった。何が何だか分からないうちに。


 「アーデルハイドにマンフリートよく来てくれた。庭にファビアンの姿もあったな」


 「ご無沙汰しております。デューオ様」


 「元気そうで何よりで御座います」


 エトが上座を引き、デューオ様の席を用意する。エトの対応力半端ないな……。こっちのおっちゃんはマンフリートさんね。ファビアン? 庭師? ひょっとして遠くに見えてたあの人の事?


 「うん、上手いな。だがアーデルハイドの入れたお茶には劣るな」


 「勿体無い御言葉でございます」


 ジルがデューオ様にもお茶を出すのだったが、評価は覆らなかったようだ。それにしても屋敷に呼んでるならそう言ってくれればいいのに。


 「まぁ立ち話もなんだ、座れ」


 「「失礼致します」」


 ふえ〜凄いもんだな。アーデルハイドさんとマンフレートさんの洗練された動きに僕は眼を奪われていた。それにしても御二人の話と話してないのに、話が進んでいる気がするのは僕だけだろうか……?


 「それで、見た感想はどうだ?」


 にやりとデューオ様が僕を見て笑う。あ、端からこうするつもりだったんだ。本当、人が悪い。


 「王の若き頃を思い出しますわ」


 「鍛え甲斐もありそうですし、良い勤め先を紹介していただき感謝しておりますぞ、若様」


 王って、アーデルハイドさん。え? 若様?


 「え? と言うことは?お二人とも来て頂けるのですか? 詳しい話もまだ何もしていないのに!?」


 「若様は止めてくれ」


 僕の問い掛けに2人のナイスシルバーが頷いてくれたその横で、デューオ様が恥ずかしそうに頭を掻く。どうやらマンフレートさんとは幼少期からの顔見知りのようだ。


 「ある程度の内容は若様からの御手紙で承知しておりますわ」


 「それで我々は、ルイ殿の所でいかほどの期間働かせて頂けるのですかな?」


 「まず、アーデルハイドさんにお願いしたい点は、屋敷の女性たち全員が一通り侍女としての作法を身に着けるように教育していただきたいのと、最終的に屋敷付きとして選んだ侍女たちを残った時間で洗練して頂きたいのです」


 「選ばれなかった娘らはどうされるおつもりですか?」


 流石にアーデルハイドさんは突っ込みが鋭い。マンフレートさんは黙って聞き耳をたてているようだ。聞きながら情報を整理してるのかもしれないけどね。


 「選ばれなかった者たちは僕に伴って屋敷外で活動します。時には侍女としての仕事が求められることもあるかもしれませんが、基本旅の同伴者です。なので一般的な作法、マナーが身に着けば及第点だと考えています。1年で出来る事は限られているでしょうから」


 「1年!? たった1年でものにしろと?」


 「無理でしょうか?」


 その言葉にアーデルハイドさんはにやりと笑ってデューオ様の方を向く。


 「なる程、若様の言われる通り面白いお方のようですわ」


 「だろ? 何せ俺を前にして引き籠もり生活を満喫したいと言い切れる男だからな」


 え? デューオ様のは一体どういうお方なのでしょう? 若様とか、よく分からないんですけど。


 「アーデルハイドの方は分かりましたが、わたくしめは何をすれば宜しいのですかな?」


 アーデルハイドさんの要件が終わったと判断して、マンフレートさんが口を開く。無駄がないとはこのことだね。


 「マンフレートさんにもお願いしたい点は同じことです。とは言っても、ウチの屋敷に居る男は僕を除いて5人だけどね。エトには執事の洗練を、あとの4人は外に出しても恥ずかしくない程度に訓練していただければと考えています」


 「わたくしめも1年なのでしょうか?」


 「うん、そのつもりです」


 「その理由をお聞きしても?」


 マンフリートさんも的確な言葉を選んでくる。僕の答えに興味があるのはバレバレだ。アーデルハイドさんもデューオ様もどう答えるつもりなのかと僕を凝視してる。参ったな。


 「3年や5年という長さで訓練をお願いしたとしても、きっと双方が間延びしたり険悪になって終わる可能性が高い。それよりも1年という比較的短い期間であれば、多少きついことを言われたりしごかれたりしたとしても先が見えてる分頑張れるだろうし、お互いが成果を出そうとするでしょ? 後は、きついことを最初にこなしておけばその後きついことが来ても対処できる、と思ったんだけど」


 僕の言葉に段々と3人に驚きの色が浮かんでくる。


 「ならばファビアンやゼンメルの場合も1年だと言われるのですか?」


 「ファビアン? ああ、庭師さんですね。庭の手入れ、料理もそのつもりです。と言っても料理は侍女たちの誰かが掛け持ちで訓練を受ける必要があるので、何処まで持つか、ですけどね」


 「それだ、そんなに急いで詰め込んでも使い物にはなるまい」


 デューオ様も心配そうに口を挟んできた。まぁ、気持ちは分かる。ただそれは1年間ぶっ通しで休み無くした場合の話だ。そんなことはしない。


 「その点ですが、6日働いいたら1日は休暇を取るサイクルで行おうと考えています。何処かで頭を整理しなければ使い物にはならないでしょう。後は、女性特有の月の物が始まった場合は、軽減するか強制休暇にするか考えなければなりませんね」


 「男は?」


 「男は月の物はないですから、6日に働いたら1日休みを延々行いってもらいます。まぁ病で倒れたら男でも女でも休養は必要ですがら、例外も考えないといけませんけどね」


 「ルイよ、何処でそんな知識を? 先程の見立てといい、どうなっている?」


 あれ? やり過ぎた? ちょっと引いてる感じがするのは気のせいかな? やっぱり辞めますって言われたらどうしよう。異世界(こっち)は曜日という概念がない可能性があるから、日曜日は休みって言わないようにしたんだけど。まずかった?


 「ははは……」


 曖昧な笑顔でデューオ様には返事を返したことにしておく。アーデルハイドさんとマンフレートさんは顔を見合わせている。そして頷きあったかと思ったら立ち上がり僕の前にやって来た。たらっと嫌な汗が背中を()う。好物件だけに断られると正直痛い。


 「申し訳ありません。1年で成果をというお話でしたが、それだけわたくし共を高く評価して頂いていることは伝わって参りました」


 あ、これ断り文句の前振りだわ。アーデルハイドさんの眼を見ながら彼女の言葉を待つ。


 「ですが、1年だけという話はお受けいたしかねます」


 あ〜……残念――。眼を見る限りでは冗談を言っているようには見えない。本気だね。僕のプレゼンが間違ってたか、弱かった、ということか。本当に文無しの好物件だったのになぁ〜。ふぅ〜と溜息を()きながら一瞬2人から眼を離して床に視線を移した瞬間、その視界に2人のシルバーグレイの頭髪が飛び込んできた。え!?


 「ですから1年と言わず、「わたくし共の忠誠をお受取り下さい!!」」


 「へっ!?」






 



最後まで読んで下さりありがとうございました。

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