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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第四幕 眷属
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第60話 名付け親

  

 『初めまして御父様』


 「お……御父様!?」


 唐突に発せられた鷲の言葉に思わず聞き返してしまった。「え? 何?」という反応がアピス以外がらあり、わらわらと僕の後ろに群がってくる。あのね、君たち。


 『漸くご挨拶出来ました。私を温め(かえ)して下さったのですから、御父様とお呼びするのは当然の事です』


 やっぱりそうなのね。今気が付いたのだが、首にあの時包んでいた魔法の布がマフラーのように巻き付いているのだ。それがまた似合ってるから取り上げるわけにもいかない。アンさんとヴァルさんにはこの子に上げたからと言って許してもらおう。それにしても。


 『マスター、何か言ってあげてくださいな。困ってますわ』


 『私の言葉が分かるのですか?』


 『ええ、マスター以外には今の処わたしだけかな? 話せて理解できるのは』


 『では、教えてください。どうして御父様は黙ってしまわれたのでしょうか? 私が何か失礼な事をしてしまったのでしょうか?』


 『はっ!? 待って、直ぐそう短絡的にならないで! 怒ってないから。アピスは皆に内容を()つまんで伝えてくれるかい?』


 『はい、マスター♪』


 『申し訳ありません』


 鷲が頭を下げる。いやいや、参ったなこれは。声を聞く限り僕が預かり受けたのは“姫”だったようだ。まぁもう“王家”では死んだことになってるだろうから立場はどうってこと無いんだけどね。


 『さてと。色々聞きたいことがあるけど、まだ名前がなかったね』


 『!!』


 「(マスター、名付けは“力”がいる作業です。今の体調で行っても大丈夫ですか?)」


 「(え? そんなに大それた事なの?)」


 腕に触れている状態でアピスが語り掛けてきた。口は動かしておらずどうやら【共感増幅】スキルの御蔭らしい。簡単に出来ると思ってたけどどうやらそうではなさそうだ。


 「(“名付け”は魔物の生涯を左右します。大きく成長できるかは“名付け親”の力にかかっているからです。その分、“名前”には力が宿るので、子どもが産まれた時親は体力が満ちてから名を付けるのだそうです)」


 事前に聞いてみるもんだ。でも、こんなに「えっ!? 良いんですか!? 名前、付けてもらえるんですか?!」的な視線に耐えれるわけ無いでしょ……。


 「(ま、じっくり寝たし大丈夫でしょう♪)」


 「(危なくなったら直ぐに言ってください。サポートします)」


 「(ありがとう、その時はよろしくね)」『君は女の子だからね、女の子らしい名前が良いね』


 『御父様が名前を下さるのですか!?』


 『うん、ちょと待っててね。考えるから』


 『はい♪』


 周りの娘たちには鷲が嬉しそうに身体を上下に揺らしたり、くるるるるるぅと機嫌良さそうに鳴いているくらいしか分からない。ただ、アピスの説明で「えっ!?」という雰囲気が生まれた。やはりそれだけ大変なことなのだろう。知識がないと蛮勇が出来る。ま、早めに済ませるかな。


 『短くて覚えやすくて、品のある名前にしよう。そうだね、君の名は“アルマ”だ。今日から君を“アルマ”と呼ぶ事にする!』


 その瞬間、鷲の身体が閃光で包まれた。


 「ぐっ!?」


 リーゼたちの吸血とは違う吸い取られ感が身体を襲い、思わず声が漏れてしまう。


 「「「「「「「「ルイ様!?」」」」」」」」「ルイ!?」「主殿!?」「ご主人様!?」


 一斉に声が上がるけど手で制する。大丈夫。吸われる感覚に驚いただけで、そこまで大したことじゃない。閃光は一瞬で、それが晴れて眼の前に居たのは茶褐色の羽毛で身を包んでいた大鷲ではなく、翡翠色の羽毛で身を飾っていた大鷲だった。oh……久々にやってしまったか?


 引き()った笑顔でアピスを見ると、笑顔のこめかみがぴくぴく動いていた。やり過ぎてしまったようです。天使の輪は出てないからまだセーフ!


 『アルマ! なんて素敵名前。御父様ありがとうございます! 大事にいたします!』


 『う、うん。これからもよろしくね、アルマ。処で羽化したばかりなのにどうしてそんなに成長が早いの?』


 『御父様は気付いておられないのですか?』


 ほえ? 何だ?


 『私の成長も、この土地の成長(・・・・・・・・)もこの建物の成長(・・・・・・・・・・)もトレントの成長もエレクトラ様の加護の御蔭なのです』


 何の事? という表情をしているとアルマがそのまま言葉を続けてくれた。アピスが皆にそれを訳してくれているようで、それを聞いた面々は一人残らずうんうんと頷くのだった。確かに「【状態】加護」を【鑑定】した時“中和”という言葉にかなり意識が引っ張られたが、「加護により全属性の耐性が小上昇し、成長促進補正が小程度かかる」という説明を呼んだ記憶がある。成長促進補正……。大事なことに気が付いた。


 「ちょっと待って、今アルマがこの土地(・・)もこの建物も成長(・・・・・・・・・・)してるって言ったけどどういう事!?」


 くるるるるるぅ


 アルマが嬉しそうに鳴いている。


 「それについてはわたくしが説明します」


 後ろからリーゼの声が聞こえて振り向く。僕の左手はアルマの翼辺りを無意識に撫でていた。


 「と申しましてもわたくしたちが眼醒めた時はこうなっていたとしか言えません。わたくしたちが眼醒めたのはほぼ同時した。時間にして丸1日程度だったと推測します」


 「その根拠は?」


 「はい。約1日持つ真新しい大きな蝋燭に火を点けて、眠りに入ったのですが、眼醒めた時燃え尽きた蝋燭がまだ燻っていました」


 「なる程……」


 僕のメニューは時計を組み込んだけで実は日にちは出ないのだ。今が何の何年で何の月かさえわからない。よくもまぁこんな状態で2年も過ごしてきたなと我ながら思う。


 しかしそれとこれとは話の次元が違うわけで――。1日そこらで卵が孵り、屋敷が本当に城のように姿を換え、土地の形状すら変化するか? 普通。ありえんだろ。 ん? 何か忘れてないか?


 「アピス」


 「はい、マスター♪」


 「間違ってたら悪んだけど、あの池の小島に生えてる樹って?」


 「はい! わたしとマスターの愛の結晶です♪」


 腕にマシュマロを押し付けながら言うのは止めてください。鼻の下が伸びてしまいます。


 「「「「「「愛の結晶!? どういう事ですか!?」」」すの!?」よね!」」


 よね? よねって何だ? 誰の声だった?


 「アピス誤解のないように後で説明をお願い。その前にトレントもあんなに早く成長するものなの!?」


 「いえ、通常であればあれほどの大きさになるのに20年以上は掛かるはずです。ですからマスターの違和感は正しいと思います」


 そうだよね? そうだよね? というか夢続きかと本当に思っちゃうよ。美女に囲まれて1日で様相を変化させる建物や土地、植物。どうなってるんだ一体?


 「混乱してきた。取り敢えず、アルマの寝るとことが欲しいね」


 『御父様、私当分はこのバルコニーで構いません』


 『え?』


 アピスが通訳してくれたらしい。助かる。でも夜露に濡れるでしょ? 天井の棚がないんだから。


 『夜露に濡れるくらいは何ともありません。もうしばらくすればあのトレントに寝床を創らせてもらえるでしょうし』


 『そっか、予定が立つのならアルマの好きなようにすればいいよ』


 『ありがとうございます、御父様』


 〈主様――〉


 はい?


 「だれ?」


 何処かから声が聞こえて来た。声の出処を探そうとキョロキョロするが分からない。精霊たちではなさそうだ。他の娘たちは「何ですか?」という感じで怪訝そうに僕を見ている。これまで何の出番もないディーが更に腕に力を入れて見上げてきた。安心させるように微笑み返しておく。


 〈もう一度バルコニーの先にお越しいただけますか?〉


 ん? 戻る? アピスとディーを腕に絡ませたままアルマの居る所に戻る。アルマはというと僕が戻って来てくれたと勘違いしたらしく嬉しそうに鳴いてくれたから、アピスから腕を開放して首筋を撫でておいた。


 〈主様、池の方をご覧ください〉


 「池、まさかね。あ、ごめん、直ぐ戻るから皆は先に部屋に戻っておいてくれる?」


 もぅルイ様は、的な目で見られはしたんだけど、これ間違ってなければ心配をかけることになるから。アピスは僕の脇をくぃくぃっと引っ張る。目が合うとアピスは首を振るのだった。あ、気が付いてる訳ね。それで戻ろうとした時に渋ったのか。


 〈主様、どうかわたしにも“名”を頂けないでしょうか〉


 〈控えなさい! お前は誰に向かって声を掛けていると思ってるのですか!〉


 どうしたアピス!? というぐらい強い叱責の声がアピスから放たれる。何? とこちらを気にする娘が居たので手を振っておく。何とか誤魔化せたようだ。


 〈お許しください母上〉


 は、母上!? そうか確かに彼女から出た種だったね。そうか、アピスが母上なのか。じゃあ、間接的にも力を渡した僕は父上という位置付けになるのかな?


 〈マスターから御声を掛けて頂くのを待つならいざ知らず、図々しくも自ら歩みを妨げるなどと恥を知りなさい〉


 〈アピス。落ち着いて〉


 こんな時は本当に自動翻訳をもらっておいて良かったと思える瞬間だ。ディーは何か起きてることは分かるが何を話しているのかが分からないので不安そうだ。少し、ディーの腕巻きから開放してもらう。「あ」という顔をしたけど、険しい表情のアピスを見せるのも嫌だったからディーの肩に腕を回して抱き寄せておく。これで良し。


 〈申し訳ありません、マスター〉


 〈いいんだ。アルマが名を付けてもらってるのをあそこで見てたんだ、そう思わないほうが可怪しい。アルマも、あの子もまだ産まれて間もないんだよ? 大切なことはこれから時間を掛けて教えていけばいいと思うけど、アピスはどう思う?〉


 〈――マスター〉


 〈ごめん。責めてるんじゃないんだよ?〉


 涙目になってるアピスにドキッとして慌ててアルマから手を離してアピスを抱き寄せる。


 〈それにね、アピスがお母さんなら僕はお父さんじゃない?〉


 〈え? マスター?〉


 〈間接的にとは言え、僕の力を使ったんだからね。だから、僕もあの子の行く末には責任があると思うんだ。その責任の一つを果たしても良いと思ってる〉


 〈でも、今アルマに名前を付けけたばかりなのに〉


 心配そうに顔を寄せてくるアピス。まぁ、そうなんだけど何とかなるんじゃないかな?


 〈うん、そうだね。でもアピスの困った顔や怒った顔はあまり長く見ていたくないんだ。とは言っても、あの子を甘やかすつもりはないよ?〉


 心配そうなアピスに微笑んでからコツンと僕のおでこをアピスのおでこにぶつけるのだった。


 〈もう、マスターったら。分かりました。もしもの時はわたしが支えます〉


 僕の気持ちが変わらないことが分かったのか、溜息を付きながら微笑み返してくれる。


 〈君もアルマと同じくここを見護り支える勤めがあるそれは分かっているのかな?〉


 〈勿論です。父上。わたしはここで育ちこの森を司り、父上や母上、皆様をお守りします〉


 あ、主様から父上に変わった。話を理解できたってことかな。理性と知能があるというのはありがたい話だね。


 〈うん、期待しているよ。じゃあ、今日から君の名は“ベネディクト”だ。幾年月も健やかに聡明で、穏やかであり、知識を賢く用いる大樹となりるように願っているよ〉


 〈マスター、条件を付け過ぎです!〉


 〈へ?「うぐっ〉」


 〈マスター!!〉


 「ルイ!?」


 先程以上に持って行かれる感があった。ディーが涙目で見上げている。大丈夫だからね。ぽむぽむとディー後頭部を優しく叩いておく。アピスも悲壮な表情で僕を(のぞ)き込んでいるが、大丈夫だと分かってほっと気を抜いてくれたようだ。


 その向こうで閃光が燦き、更に倍ほどに成長したトレントが小島の中央で悠々と生い茂っていた。


 〈父上、母上! 御二人に恥じぬように責務を果たしてまいります! 若輩者の我儘(わがまま)を聞いて下さりこの御恩は生涯忘れません〉


 〈忘れたらわたしが火を点けます!〉


 「おいおい、それは冗談に聞こえないって」


 「本気です、マスター!」


 母は強しということかな。ま、頑張れよ。ベネディクト、いやベンでいいな。二人の時はベンと呼んでやろう。と言っても目が醒めたばかりでこんなにハードワークだと先が思いやられるよね。


 ぐぅぅぅぅ〜……


 と思ったら腹が鳴った。うん、お腹空いたね。でも【実体化】してる時もお腹空いたという感覚はなかったんだよ? 食事を出されたら食べる……程度だったんだけど。ん? ディーとアピスがにこにこしながら僕の顔を見上げていた。身体が元気そうだということが分かっただけでも安心材料になるのか。


 「さぁて、お腹も空いたし食堂に降りようか」


 「「はい」」


 2人に引っ張られるようにして部屋に戻り、お腹が空いたことを告げると皆で食堂に行くことになった。コレットも正気に戻ったようで先に厨房に向かうと言い残してそそくさと下階に降りていく。しっかし広くなったな。この調子だと謁見の間とかもありそうだよね。あんまり広くなりすぎるのも管理が大変だろうけど。みんなが部屋でゆっくり出来るくらいが理想かな。


 既に何部屋あるのか分からない状態だからまた探索してみないとね。それにしても人が増えたわけだから、コックとかハウスキーパーとか。管理の仕事が出来る様にならないと大変そうだぞ? これ。と言っても素人に毛が生えたくらいの知識と技術じゃどうにもならないからな。何処かで雇うか。これも皆と相談だね。


 僕が居た部屋はどうやら3階だった事に気付く。下に降りる階段が1階分多かったのだ。建て増しとか無いでしょ。食堂に漸く辿り着いた時、エトとコレットと見知らぬ長身の女性が給餌をしていた。あれ? 誰だ? ギゼラといい勝負だ。ただマシュマロの軍配はギゼラに上がった。でもお尻はこちらの勝ち。でも、全体のバランスがいいから大きさというよりも見た目の造形美がいいよねぇ〜。長い藍色の髪を後頭部でアップに纏めていてうなじが綺麗な人だ。


 「「「ルイ様!御眼醒めになられましたか!」」」


 グレイの髪に兎の耳を生やせた中年の男女に若いカップルが2組食堂に入ってくる。若いカップルの内2人の女性は妊婦だ。お腹が大きい。と言うことは。


 「エドガー、アニタ、ジャックとヘルマ、クラムとヒューゴだね!そっか、獣人になるとヘルマとクラムは妊婦さんになる訳だ。気をつけて動いてよ?」


 「「はい、ルイ様」」


 妊婦さん2人も、アニタも含めてそこそこの美しさだ。上の下と言った所か。ギゼラ、アピス、シンシアが居なければ上位に食い込めただろうが、基準点がそこにあるので評価はそこからマイナスになってしまう。何様のつもりだと自分でも思うよ。


 「「「「「「ルイ様!」」」」」」


 向日葵色の髪の隙間から狐耳を生やした、6人の人狐(じんこ)も入ってくる。3人が男で3人が綺麗どころだ。彼女たちも上の下の辺りだろう。ごめん。3又の狐の尾がそれぞれのお尻から生え出て揺れていた。きっと嬉しいのだろう。他の者たちが入ってこない処を見ると、人型を選んだ者はここに居る25人となるのだが、僕は最後の1人が誰なのか思い出せずに居た。


 「あの、エトの隣りに立つ人は誰ですか? 誰か教えてくれない?」


 「お初にお目にかかります。我が君(マイ・モナーク)。わたくしは名も無き(・・・・)館の管理者でございます」


 名も無き(・・・・)という部分が妙に強調されていたような気がするのは気のせい? ん?


 「館の管理者? あれ? 前から居たの? リーゼ?」


 「いいえ、わたくしちたちもつい先程逢ったばかりです」


 僕の質問にリーゼが答えてくれる。エトとコレットからの情報を下にしてこの答えなんだろう。つまり【眷属化】後に現れたということになる。


 「館の管理者って何をするの?」


 「はい、我が君(マイ・モナーク)。館の内観外観を維持管理し、機能美を追求しながらも遊び心を忘れず、我が君(マイ・モナーク)の要求に御応えしてゆく下僕でございます」


 こんな城みたいになったのは貴女の遊び心!? しかも館の管理者といいてる処を見ると、土地の管理者も居るように聞こえるんだけど。なんて考えてたら眼が合って優しく微笑まれた。もしかして考えてること伝わってる? と試しに聞いてみると、ちょうどいいタイミングで小さく頷くのが見えたよ。確定。あ〜!! その前にかなり批評してたよ!? ごめんなさい。他の人には何のことだか分かっていないようだけど、僕にはそれで十分だった。小さく首を振ってくれたから。


 「館の管理者というのは役職であって名前じゃないよね?」


 「「「え!?」」」「またですの?」「マスター今も2つ名付けて来られたのですよ!?」「じゃあさっきのも」


 皆の気遣いが伝わってきて嬉しいね。館の管理者かぁ〜何だか支配人って響きだよね。


 「うん、でも管理者さんとか管理人さんって呼ぶのも嫌だし。皆はさ、自分だったら役職名でずっと呼ばれたいと思う?」


 「う……」「それは嫌ですわ」「嫌です」「嫌だな」「……」


 反応はまちまちだけど言いたいことは伝わったみたい。さて、どんな名前がいいかな? と思ってじっと館の管理者の顔を眺めていたら、赤面された。意外と打たれ弱いのかな?


 「そうだね。凛として芯があるけどはにかむような可愛らしい面もあるから、君の名前は“エレオノーラ”だ」


 「ぐっ……」


 名前を告げると同時に館の管理者と名乗った女性が閃光を発する。それと同時に再び吸いだれれる感覚に襲われた。ベンの時ほどじゃないな。あれは酷かった。(まばた)きを数回すると眩しさも薄れエレオノーラの姿が飛び込んで来る。先程と変わった様子はない。いや、瞳の色が金色になったね。さっきは確か青っぽかった気がしたけど。


 「斯様(かよう)下賤(げせん)の身に“名”を賜われるとは。この御恩は決して忘れません。もとよりこの身も心も我が君(マイ・モナーク)のもの。差し出せるものは何も御座いませんが、いつなんどきでもご随意にして頂きとう御座います」


 眼の前で(ひざまず)かれ胸の前で指を組むお願いポーズのまま潤んだ眼で求められても対応に困る。好きか嫌いかといえば好きだよ? 男の子だもん。正常な欲求がある。ここに来てそれが顕著に出始めてる気もするけど、時と場所は選びたい、よね?


 「あ、ありがとうエレオノーラ。今は何かお腹が膨らむものが欲しいかな」


 変に気持ちを読まれても嫌だから、何も考えずに注文してみた。


 「こ、これは私としたことが大変失礼致しました! すぐさま我が君(マイ・モナーク)と皆様に御用意致します」


 と慌てて厨房へ走りこんでいった。えっと何時からこうなった?


 「エト、エレオノーラを手伝う事は?」


 「先程から断られっ放しでございます」


 「そんな気がしたよ。じゃあ、何か来るまで皆席につこう」


 「時にルイ様」


 エトに確認を取るが想像通りだった。取り仕切りたいのだ。エレオノーラは。さてさてと思って席に着こうとしたらエトに止められる。


 「ん? 何?」


 「席順ですが如何致しましょう?」


 「席順? 適当に」


 「そうは参りませぬ。流石にここはルイ様でも譲れませぬ。格式は必要でございますれば」


 はぁ〜出た格式。苦手なやつだ。何をどうすればいいのか手順が決まってるって言う(たぐい)のものは覚えれない。いつも怒られてばっかりだった。なんて言うか必要を感じないんだよね。でも決めろって視線だね、皆。


 「ちなみに僕はこの世界の習慣に(うと)い。だからどういう順で考えればいいのか誰か教えてくれないかな?」


 「僭越ながらわたくしめが。まず暖炉側が上座です。当家ではルイ様の席になります。あの後は序列で順に高い方から右左に分かれます」


 エトが手を挙げて説明を続けてくれるくれる。皆もそうだったのか。頷いていた。まぁ皆素は魔物だしね。リーゼ達ヴァンパイアが、いやリーゼは知らないだろうな。エトとコレットが知ってるくらいか。


 なるほどね。実際に王侯貴族の食事の場に行ってるわけじゃないからこれが正解なのかわからないけど、日本の上座下座という考え方はある程度当てはめても良さそうだね。と言ってもよく間違ってたから自信ない。こうなれば。


 「じゃあ、ここにはまず僕が座るとして」


 そう言ってエトに引かれた椅子に腰掛ける。そして危険だがてっとり早く決めるために自己申告制を試みてみることにした。


 「我こそは僕の次、という人は手を挙げてくれるかな?」


 「「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」」








最後まで読んで下さりありがとうございました。

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