第56話 眷属化
「僕が生霊になったのはこの“森”でだけど、命を落としたのはこの世界じゃないんだ。僕は――」
驚きが広がっていくのが分かる。だけど誰もが僕の言葉を聞き漏らすまいとしていた。
「僕は異世界で死んで、この世界に生霊として生を受けたんだ――」
「「「「転生者――」」」
何人かの口から「転生者」という言葉が漏れたのが聞こえた。あれ? もしかして異世界からこんにちわ♪ 的な事は結構頻繁に起きてるのかな? もったいぶって話した僕が莫迦みたいじゃん。
「転生者って?」
「マスターのように異世界から時折訪れる者たちのことを言うのです。時折と言いましても数百年に1度という頻度です。ごく稀に数人が一度に転生して来ることもあるようですが、成長するまでその者が転生者だとは気が付かない場合が多く、本当はもっと多く居て気付かれずに生活しているのかも知れないと言われています」
数百年に1度。でも、魔物たちが長寿であることを考えれば生涯中に2・3人に遭遇する可能性もあるという訳か。僕の疑問にアピスが答えてくれた。詳しそうだね。
「わたしの創造主も転生者でした」
「え、そうなの?」
「「え? 創造主?」」
アピスの言葉に違う角度で疑問の声が上がる。一つは僕だ。転生者に創られたとはね。
「ただ、創ったのは良いものの自分も使いこなせない代物でしたので、体良く巨鷲の王家に厄介払いされたのです」
「そうだったんだ。あ、アピスはね今は人の姿をしてるけど本当の姿は杖なんだ。なんて言えば良いのか。そうだね、えっと僕と主従契約を結んでいる理智ある杖だよ」
「「「理智ある杖!?」」」
僕より驚かれてるよ。転生者より珍しいのか。僕の扱いって。ダメだ、深く考えると立ち直れなくなりそうだ。
「論より証拠、アピス元の姿に戻れる?」
「はい。ただ、また人の姿になるとMpが減るので」
「補給でしょ? うん、分かった。話が進まないからお願い」
「畏まりました」
僕の言質を取ったのが嬉しかったのか、アピスはにっこり微笑んで人化を解くのだった。一瞬眩い閃光に視力が奪われるけど、それも長くは続かず眼を開けた時には1本の杖が宙に浮いていた。木に巻き付くフライングジャイアントバイパーを模した杖。
「本当なのだな。流石は主殿」
「アピスが杖とは知りませんでしたわ。ルイも人が悪い」
「わ、わたしも知りませんでした。ご主人様と一緒に居たのに気が付きませんでした」
「「「「……」」」」
「知らないのは仕方ないよ。色々と立てこんでる時に起きた事だからね。だから僕とギゼラしか知らない事だったんだ。ま、忘れてたと言ったほうが良いね。人の姿になってから1度しか元の姿に戻ってないんだし……。あ、もう良いよありがとうアピス」
アピスと付き合いの短い者達は今の状況を理解しよう精一杯のようだ。アピスに礼を言うと、また閃光に部屋が包まれアピスが現れるのだった。そしてそそくさとベッドの上に上がって来て僕の隣にちょこんと座っている。僕はまだ生霊の身体でふわふわしてるんだけどね。
「という訳で話はおしまい! アピスに全部持って行かれた気がするけど、まぁそういう事だからゆっくり考えてみて欲しい。10日後に改めて聞くから。時間を取ってくれてありがとう。アピス、そのまま待っててね。ちょっとエドガーの所で同じ説明して直ぐ帰ってくるから」
「はい、マスター♪」
アピスの返事を背中に受けながらすぅーっと窓を擦り抜けてエドガーたちが集まっている四阿に向かう。背後では始まっていた。うん、三十六計逃げるに如かず、昔の人は上手い事言ったもんだ。
「はい、マスターってアピス、またあれをするつもりではありませんわよね!?」
「ディー、アピスは何をしたのだ?」
「ご主人様の唇を奪ったのです!」
「「「「ずるい!!」」」」
そんな叫び声が聞こえてるようないないような。僕は驚くツインテールフォックスの面々に部屋で説明したのと同じ内容を説明し、期限を伝えた上でお願いしたのだった。どうなるかは10日後だ。まぁ、その間に僕もやらなくっちゃいけないことがある。実験も兼ねて、なんだけどね。
部屋に戻った僕を待っていたのはキス魔と化した娘たちだった。【実体化】したものの、キスで我慢してもらったと言った方が良いかもね。流石に僕も男だ、言い寄られて悪い気はしない。ただ一度に全員頂きます!とは出来ないんだよな〜。ヘタレだから。順番で揉めても嫌だし。なので眷属化が終わるまで一先ず持ってもらうことにした。先延ばしだと分かってるんだけどね。
でもそのつもりなんだ、という気持ちが伝わったのもあって機嫌よく収まってくれたのはありがたかったな。とはいってもベッドで纏わり付かれるという事には変わりなかった。向こうの世界にいた頃なら「リア充氏ね!」と言われて袋叩きに遭っていただろうな。と思いながらそうでない自分に安堵し【実体化】して得られる眠りに身体を委ねたのだった。
翌朝――。
女体に埋め尽くされたキングサイズのベッドの中で僕は眼醒めた。女体とはいっても皆パジャマや際どいネグリジェは身に着けてるから裸ではないよ? おほん。どの道身体を抑えられて動けないから僕はそのまま実験を始めることにした。それは転生して間もない頃Mpを使いきって意識を失った事に関係する。つまり【実体化】してる最中にMpを使い切るとどうなるか、ということ。
Mpを使いきって0になった時、【実体化】を維持するために常時Mpを少量ずつ使っているのであれば土塊の山が出来るはず。そうなれば間違いなく顰蹙ものだ。逆に【実体化】の維持にMpが全く必要ないのであれば土塊が出来ることはない。改めて次の実験が出来る。
というか、【眷属化】の儀式を行うためにはやれる限りしておかなくてはいけないことだ。Mp上限アップだ。これも2年前にMpを使いきった後に気が付いたらMpの上限が3割程度上がっていた事の検証を兼ねてという面もある。出来ることはやっておきたいじゃない? 最後の最後であ〜これしておけばよかったと言うのをなくしておきたんだよね。
慎重なのか臆病なのか、行程重視なのか結果重視なのかよく分からないんだけどベッドの上で魔法を使ってみることにした。
「【黒珠】」
自分の顔の上に1つ魔法で闇属性の珠を呼び出す。それをどんどん小さくなるような意識で魔力を操る事にする。先日まで【黒珠】の大きさがテニスボールくらいの大きさからビー玉くらいの大きさまで圧縮することが出来た。今度はそれから更に圧縮してBB弾くらいの大きさに挑戦だ! それが出来ればまた新しい魔法の使い方も試せる。
「ぷぅ〜っ」
上手くいかない。ビー玉大から1mm縮めれるかどうかで霧散した。ま、それはそうさ。ビー玉大に圧縮するのだって失敗続きだったからね。ただ、成功するまで挑戦すればかなりのMpを消費できる。圧縮と魔力調整は燃費が悪いんだよな。朝食まで時間はあるし、もう少しするか。
気が付くと皆が涙目で覗き込んでいた。あれ? なんだ?
「良かった」
ギゼラの一言に意識が飛んでいたということに気付く。検証成功。【実体化】維持にMpは関係ない。
「あ、ごめん。魔法の使い過ぎで意識が飛んでたみたい」
「心配したのだぞ、主殿!」「ご主人様〜」「ルイ様良かったよ〜」「ぐすっ」
これはまずいな。ベッドでMp消費をすると僕への敬意も消費される事になりそうだぞ? 皆の涙を見て僕は寝室での実験は極力控えようと決めたのだった。
「どれくらい気を失ってた?」
「コレットが呼びに来てから1時間は経ってます」
とリーゼさん。つまり意識が戻る程度までMpが回復するのに90分くらいは必要ということか。【魔力回復補助】を先に掛けておけばもう少し戻りが早いかな? と思いながら身体を起こす。
まだ少しフラフラする気がしたけどご飯が欲しくてベッドから下りようとしたんだ。でも危ないからと羽交い締めにされて皆に止められた。何故に羽交い締め? そこまでは良かったのだが。いや、良かったのか? 皆に一匙づつ食べさせられる羽目になり、やっぱりここでは実験はしない!と決めました。
◇
10日後。
【黒珠】はBB弾の大きさまでは圧縮できなかったが、パチンコ球程度までなら圧縮できるようになっていた。うん、頑張った! といってもこれだけしてなかったわけじゃなく、ディーとリンとギゼラにお願いして屋敷の周辺に目印の杭を打ち込んでもらっていた。
屋敷の裏庭にある人工池の奥の小高くなった所を中心点にして、半径500mの地点に杭を打ち込んでもらい円を描けるようにしてもらったんだ。そ、これも眷属化の準備。
僕はそうしてもらって何をしたかというと、前日迄に【実体化】した状態でリストカットして大量の血を垂らしながら中心点から外周の500m先の1点まで移動する。結構フラフラになったから一度【解除】して再度【実体化】し、またリストカットしてその半径500mの外周を血を垂らしながら一周したんだ。何回【実体化】と【解除】を繰り返したのか分からないけど、半日で歩きまわる事はできたよ。
う〜ん、昔円周を求める計算を習ったけどちゃんと円になるような歩き方ができていれば多分6000m前後の円周を歩いた事になるね。で、その中心点にアピスからもらったトレントの種をこっそり植えておく♪
後は裏庭の四阿に皆を集めてと思っていたら屋敷に来客が現れたんだ。
白い外套を身に着け大事そうに大きな布の包を両腕に抱いた、茶褐色の髪を長く伸ばし意思の強そうな茶褐色の瞳の麗しい麗人と、同じ髪の色と瞳の男が屋敷の玄関の前に立っていた。男の眼光は鋭く周囲の警戒を怠っていない。コレットさんが応対に出てくれたようだ。
「遠路遥々ようこそおいでくださいました。御用の趣をお尋ねしても構いませんでしょうか?」
「ルイ様に御目通り願いたい」
男の声に僕は聞き覚えがあった。と言うか、その声が聞こえてきて顔を覗かせるとそこにはアンジェラ夫妻が立っていたのだ。
「ヴァルさん、アンさん!!」
「「ルイ様!」」
「え? あ、ルイ様のお知り合いの方でございましたか。これは大変失礼致しました。どうぞ中へ」
「いえ、失礼は承知でこのままでお願いしたいのです」
その言葉に僕は彼らには別の目的があるんだな、と気付いた。どうやら眷属にはなって貰えそうにない。まぁ元々無理強いはするつもりもなかった訳だし、それはそれ、これはこれだ。
「どうやら色よい返事はお聞き出来そうにないみたいですね」
「「申し訳ありません」」
恐縮して2人が揃って頭を下げる。
「いえいえ、お構いなく。アンジェラさんは王家の血筋。アンジェラさんにご兄弟が居るのか分かりませんが家を守る立場にあることは何となく察しは付きます」
「そこまでお見通しでしたか」
僕の言葉にヴァルさんがきまり悪そうに笑うのだった。消去法ですけどね。こうなる可能性も考えたから。でも、それを言うためにわざわざ来てくれたの?
「実は先日我が子が産まれたのです」
「えっ!? そんなんですか!? それはおめでとうございます! いやぁ、それは目出度い♪ これでウイングブルグ家も安泰ですね」
「「ありがとうございます!」」
僕の祝辞に2人は破顔する。それは嬉しいに決まってる。だけど、子どもが生まれるってそんなにお腹大きそうに見えなかったけどね。でもまぁ鳥の妊婦さんって見たこと無いし、お腹が大きかどうかさわからないからそんなもんかな。ん?
「と言うか、赤ちゃん放おって2人がここに来てるって事は……死産!?」
「「いえいえ、そうではありません」」
「じゃあ……?」
何だろう?
「我らゴールデンロッドイーグルは子を成す時、卵を2つ産むことがあるのです」
あ、卵なのね。アンさんの説明に思わず納得。
「ゴールデンロッドイーグルの王族とルイ様が知り合い」
後ろでコレットさんの呆れたような声が聞こえる。呆れたというよりかは理解を超えてるのだろう。
「しかし、育てるのはその内1つだけと王家では定められているのです」
「その場合、温められない卵は……死んじゃうんじゃ……?」
「その通りです。わたしの時もそうであったと聞いています。それで折角この世に生まれ落ちたのに儚く命を散らすのであればルイ様の御傍でお仕えする道もあるのではと、ヴァルと一緒に考えたのです」
「つまりそこに抱えているのが」
「我が子です。名は付けておりませんので名付け親になって頂ければ幸いです。どうぞ」
そう言ってアンさんが両腕に抱いていた大きな布の包を僕にゆっくり手渡してくれたのだった。大きい。3歳児が膝を抱えて丸まってるくらいの大きさだ。15キロ近い重さがあるんじゃないかな。布の包を受け取って思わずよろめく。
「我らは眷属にはなれませんが、我が子を眷属の端に加えて頂ければ嬉しい限りです」
そう卵を凝視していた僕にヴァルさんがそう頭を下げてくれた。そんなに気にしなくても良かったのに。でもその気持ちは嬉しい。
「そういうお話でしたら。確かにお引き受けしました。皆と協力して温めさせていただきます」
「いえ、その布が温める作用がありますので、ルイ様だけでお持ちください。くれぐれも他の方にはお預けになられませんように」
「――その理由を聞いても?」
「子は親の影響を一番色濃く受けます。成長や能力に顕著に現れるのです。ですからルイ様以外の影響を受けるとその子の成長が止まってしまうかも知れません」
そんなに影響が出るものなの!? おぎゃーって卵を割って出てきた雛が最初に見た顔が親だと思い込んでしまう刷り込みぐらいのものだと思ってたけど。いや異世界ではそういうものなのかも知れないね。アンさんの願いに応えるくらい問題ない。
「分かった。そういう事なら肌身離さずに抱いているよ。この布は次回逢う時があればでもいいかな?」
「構いません。もともと差し上げるつもりでおりましたから」
「でもこの布も魔法の品でしょ?」
「はい、ですがそれ以上の品をわたくしたちは頂きました」
きっと渡した専用の武器のことだろう。気に入ってもらえたのなら何よりだけどね。それにこの世界は気紛れだから今度逢えるとも限らない。そう思って僕は2人卵を抱いた状態でハグをして別れることにした。森の出口まで送ると言ったんだけど前回飛び立つ方法が分かったから問題ないのだという。
玄関先で2人の姿が見えなくなるまで見送って、僕は準備を始める。皆を人工池の向こう側、エントの種を植えた場所の付近に集めることにしたんだ。いよいよだね。さて上手くいくと良いんだけどな。
◇
アンジェラとヴァルバロッサはゆっくりと森の中を歩いていた。
我が子をルイに託すことが出来た喜びで一杯だった。王家の仕来りで二児を同時に育てることが出来ないのだ。通常であれば卵は放置されやがて冷えた所で食料となる運命だったのである。命を繋げることが出来たのも僥倖だった。
「このまま無事に大きくなってくれればまた逢える時も来るさ」
「そうね。それにしても異様に静かな空間だったわ……」
夫の言葉に頷きながらアンは後ろを振り向く。眷属化の儀式の準備で張り詰めている状況だったのだろう。動物たちの気配も感じ取れなかったのである。明らかに異質だった。立ち止まること無く、何かに追い立てられるかのように屋敷からおよそ15分は歩いただろうか、漸くその異様な雰囲気が立ち込めていた空間を後に出来たのだ。2人はほっと胸を撫で下ろす。
がさっ
「誰だ!?」
茂みの音と気配にヴァルが身構えた。
「す、すみません。道に迷ってしまいまして……」
がさがさと茂みを掻き分けて一人の若い女が現れた。暗がりでよくは見えないが、人とは少し違う雰囲気があるように2人は感じ取る。警戒はしつつも普通に話しかけてみた。
「こんな“森”に独りで何の用だ?」
「実は200年程前にこの“森”で生霊が現れたという話を聞きつけまして、出来れば逢ってみたいと思ったんです。それがこの有り様で、ははは」
フード付きの外套を着、フードを頭からすっぽり被った女はそう言って自嘲するのだった。
「生霊?」
その言葉にアンが聞き返す。
「御二人はこの奥から来られたご様子でしたが、穢は感じられましたか?」
「初対面に聞く質問ではないな。まぁいいか。我らはこの先の屋敷の主人に面会して帰って来た処だが、屋敷でも道中でもそんな気配はなかったぞ?」
訝しげにヴァルはフードの中を伺うが表情までは読み取れない。
「屋敷。そうですか、お止めして申し訳ありませんでした」
「気をつけてくださいね。この“森”は物騒ですから」
「はい」
質問があまりに突飛であったため2人は首を傾げるのだったが、彼女を連れて行くわけでも留める立場にもなかったのでその場を去ることにした。そんなアンの気遣いにフードの下で微かに微笑み女はお辞儀して2人を見送ることにする。2人の姿が暗闇に溶け込んだのを確認して、女は踵を返し彼らが来た道を進み始めたのだった。
◇
[本当に良いのかい?]
僕は宙に浮かぶ色取り取りのテニスボール大の光球に語り掛けていた。淡白く光もの、淡黒く光るもの、淡青く光るもの、淡赤く光るもの、淡黃に光るもの、銀色に光るもの、淡緑に光るもの、淡紫に光りぱりぱりと放電するもの、淡く限りなく朧げな存在で薄く光るもの、淡く虹色に光るもの、全部で10の光球だ。
[これは精霊界の総意だから問題ないよ]
[普通は無いことなんだよ]
[でも僕らは上級精霊じゃないけどね]
[繋がりを持っておきたいってじじぃとばばぁ共は思ったんだろうさ]
[それはあるかもねぇ〜♪]
と僕の周りを賑やかにクルクルと飛び回る10種類の精霊たち。先に上げた色の順に紹介すると、光、闇、水、火、地、風、樹、雷、氷、音の精霊だ。詳しく話を聞くともっと沢山の種類の精霊が居るらしいのだけど恥ずかしがりやで表に出てこないらしい。
5日程前に血のお絵描きを終えた後、精霊たちに眷属化の儀式をする時にこの血で書いた円の内側に現れないようにお願いしておいたのだ。僕の眷属になっても良いという物好きの精霊さんなら来ても良いよと伝えておいた処、10体の精霊がやって来たという訳。これで準備は出来た。
皆に確認を取ってみたが、結論は話を聞いた時から変わらなかったみたい。もうその時に腹は決まってたのだとか。「嫌です」という者も居るかも知れないと内心ドキドキしていたから正直嬉しい結果だった。
「それじゃあ始めるよ。皆誰かの身体に触れるなり手を握るなり、繋がってる状態を創りだしてもらえるかな? アピスは杖になって僕をサポートして欲しい」
「はい、マスター♪」
アピスは僕の求めに応じて直ぐに杖に戻り右手に収まってくれた。その杖の上に10の光球が集まって来る。卵は布に包んだまま僕の首から下げているので妊婦さんみたいな体型に見える。ちょっとかっこ悪い。
一番左手側にギゼラが来ていた。にっこりギゼラに微笑みかけてギゼラの右手を取る。空の旅でのお願いを漸く果たすことが出来るね。そのことを思い出しているのかギゼラの眼も潤んでいた。
「【魔力回復補助】!」
聖魔法だけど、回復魔法じゃないから闇属性持ちだとしても回復を早める効果があることは検証済みだ。範囲を広げで皆に効果が行き渡るように掛けておく。ここからだ。軽く息を吐き吸い込んで眼を瞑る。
「ふぅ。血よ。紅い絲と為りて我と我が愛する者たちを掬び賜え」
そしてゆっくりと眷属化のための詞を紡ぎ始める。それに合わせて中心点に出来た血溜まりの染みが紅い光を放ち始め、垂らして描いた血の線に沿って紅い光が走りだす。
「血よ。我が力を我の愛する者たちに、我の愛する者たちの懐いを我に渡し、解け得ぬ断ち切れぬ大綱と為りて産霊、永遠の契の証しとせよ」
紅い光が血で描いた線の全てをなぞり一段と強い光を発した次の瞬間、一気にMpが吸い取られる感覚に襲われる。それは僕と手を繋いだ皆も同じだった。皆からもMpをもらい、足らない部分を僕のエナジープールを使ってアピスにMp変換してもらう手筈にしている。ドサドサと意識を失うものが何名かいる気配が伝わって来た。皆ごめん、もう少しの辛抱だから!
「【眷属化】!! ぐぅっ、アピス頼んだよ!」
(はい、我が主。術式の発動を確認。術式の完了までのMp不足を確認。エナジープールからの転用を開始します。宜しいですか?)
「頼む!」
(Mpの不足分の補充を確認。術式が完了します)
アピスの声と同時に地面全体から紅い光が溢れ出て、円の内側に居る僕たちと屋敷と森を包み込む。アピスの落ち着いた声が脳裏に響くのを聞きながら急激にMpが消失したことを感じた。プールも空っぽだ。僕が意識を手放そうとした。その時。
ぴこん♪
あの天使の輪が顕れてしまったのだった。あ、ひょっとしてやっちゃった?
「こぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
最後まで読んで下さりありがとうございました。
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