第55話 告白
「わたくしどもがルイ様の眷属になることに問題はないというわけですな」
エトさんの言葉にうんうんと頷いているリーザさんとコレットさんが向かいに居た。
「え?」
今度は僕の眼が皿になる。そんなにあっさり決めてしまっても良いものなの? ヴァンパイアとしての矜持は? 僕の考え方が古いのか? それともいわゆるファンタジーの設定としてはこうあるべきという向こうの世界での刷り込みが邪魔をしてるのか?
「ルイ様。もしわたくしどもの誇りを大切に思ってくださっているのでしたら、そのお気持ちだけありがたくお受け致します。ですがその御考えはどうぞお捨てください」
「……」
僕の考えたかの方が古いというか。こうあるべきという考え方に縛られていたという事かな? 黙ったままお茶を口に運ぶが……冷えていた。左手に持ったカップを傾けて一気に飲み干す。
「誇りだけではこの世知辛い世界を渡ってはいけません。出来るなら強い柱に寄り添いたいというのがわたくしどもの願いなのです」
「無理難題を求めるかも知れませんよ?」
きっとブラッドベリ家の3人は誰か一人が話していたとしても背後で意思疎通ができてる。だからエトさんではなくリーゼさんの眼を見て少し意地の悪い質問をしてみた。
「覚悟の上です。先日はルイ様のお気持ちも顧みずに我儘を申しました。信頼を得るためには何を求められても命以外であれば差し出す覚悟でございます」
追い込みたくはないな。真剣な眼差しでリーゼさんがはっきりと気持ちを返してくれた。後ろの3人とアピスからも緊張が伝わってくる。神経質になる必要はないけど、冷静さは必要だよね。
「……エトさんもコレットさんも、それで構わないのですか?」
どうしても大事な事だから言葉が固くなる。砕けた話し方は出来ない。ま、性格かも知れないけどね。
僕の問掛けに2人は黙って頷くのだった。これは他の皆に意見を求めることじゃなくて、僕が決めなきゃいけない問題だ。だからウチの娘たちに視線は送らない。一呼吸というか少し間を置いて息を吐き出す。こうなったら腹を括らなきゃね。
「――ふぅ〜っ。分かりました。そういう事でしたら僕もその気持ちに応えなくてはなりませんね。改めてお願いします。僕の眷属になって頂けますか?」
「そんな、勿体無いお言葉を! ルイ様はわたくしたちの上に立つ御方。無闇に頭を下げないでくださいませ」
慌てて胸の前で両手を振るリーゼさん。う〜ん……踏ん反り返ってると間違いなく足元を掬われる自信がああるんだよね。だから、あんまりそんな偉そうな態度はしたくない。というか、偉そうな態度をしてた糞教授をぶん殴った経緯があるから反面教師だよな。
「ありがとう。でも、性格的に踏ん反り返ってるのは性に合わないらしい。だからこのまま変わるつもり無いから宜しく♪」
「「ルイ様」」「ルイ」「マスター」
後ろから何か感動して艶っぽい声が聞こえる。うん、何も聞こえないし見えないよ?
「それでは、10日後の儀式までこちらの屋敷に逗留頂けるのですか?」
「ん? 他の娘たちを待たせてるから聞いてみないと」
コレットさんが確認を取ってくれたんだけど、待ってもらってる人たちがいるしね。もう兎も狐も人扱い!意思が通わせれるんだからもう気にしない事にした。
「ルイ様。今シェイラお姉ちゃんから連絡が来て、屋敷の前に着いたって」
「は? アピス?」
サーシャの言葉に思わずアピスを見上げる。途中まで一緒に居たのならこっちに向かっていたということだよね?
「はい。お別れしたあとシェイラさんが来られまして、どうせ待っててもルイ様の事だから何かに巻き込まれるに違いないから皆で行きましょうとなりました」
シェイラ。君とも少し話しあう必要がありそうだね。何故僕をトラブル体質にしたがるんだい?と言うか皆否定しなかったんだね?
「聞くだけ聞いてみるけど、それを否定した人は?」
「いません」
「「「ぷっ」」」
アピスの言葉に後ろの3人が吹き出す。断じてトラブル体質じゃないよ? さっきの感動してた声は何処行った?
「で、そのまま移動してる最中にマスターに呼ばれたのでわたしだけ先に来たという状況です」
アピスも笑いを堪えて状況を説明してくれた。まぁ分かってはいたけど僕の扱いって段々酷くなってきてる気がするよ? というか部屋割りとか考えなきゃね。
「えっと、じゃあ変化出来ない兎や狐たちは適当に休める場所をあてがってもらって、人に変化出来る者は部屋を借りるという流れでも良いかな?」
「畏まりました。リーゼ様」
「それでお願い。コレットもエトも忙しくなるわよ。ルイ様はわたくしの部屋を使って下さいませ」
「「「「「えっ!?」」」」」
リーゼの何気ない一言に他の女性陣が一度に否定的な声を出す。
「え!? だって、一番良いお部屋でゆっくりして頂きたぃ」
尻すぼみになるリーゼさんの声。ちょっと泣きそうだね。
「そんなに皆でリーゼさんを虐めなくても」
「いいえ、ルイ様。ここはちゃんとしなければなりません!」
「そうですわ! リーゼ1人に良い思いなどさせるものですか」
「わたしもルイ様と一緒がいいです!」
「いえ、わたしこそマスターと一緒に居るべきです!」
「わたしもご一緒したいです」
「いやはや両手に華というか、モテモテでございますなルイ様」
「御蔭様で。大して作りは良くないのに好意を示してもらえるのはお世辞でも嬉しでものですよ」
と、エトさんの呼び水に下手に乗ってしまったのがいけなかった。
「「「「「「ルイ様!!」」」」」」
「はひぃっ!? な、何か?」
息のピッタリあった6人の咎める声が僕の背筋を強制的に伸ばす! じ、自爆したようです。地雷を自ら踏んでしまったようです。恐らく白旗は取り上げられるでしょう。
「断じてお世辞なのではありません!!」
「酷いですわ、ルイはそんな風に見ていたのですね」
「いや、そういう訳では」
「どういう訳なのですか!? マスター!?」
「ルイ様はサーシャが嫌いなの?」
「リーゼはこんなにお慕いしておりますのに」
「わたしもお慕いしております」
ちょいちょい小声で自分を押してくるコレットさん。抜け目ないね。いや、今はそれどころじゃない。この失態をどう挽回するか!? 今の一言は金輪際使わないようにしないとね。ここは年の功の知恵をと思い、エトさんに「どうしましょう?」と引き攣った笑いを顔に貼り付けたまま視線で助けを求める。頼れる男性陣はエトさんだけだ。
「皆様、ルイ様が困っておられますよ。そうでございますね。ご一緒したい方が沢山おられても大丈夫なようにキングサイズのベッドをあるだけ並べて使えば宜しいのではないでしょうか?」
エトさん、ありがとう! って、はい!? それは所謂公認ハーレムというやつですか!?
「素晴らしい案だわ、エト。直ぐのそのように!」
いや、リーゼさん反応早っ!?
「は。ただ、そうなりますと御館様の寝室を利用しなければなりません。当屋敷で一番広くて頑丈な造りはあの部屋ですので」
そうでしょうとも、鍵がかかってて使えない部屋もあると言ってたじゃないですかやだな〜。
「構いません。許します。お父様もお許しくださるでしょう」
いや、勝手に許すでしょうか? それはなかなり横暴のような気が。
「ルイ様、今宵は久し振りにご一緒できますね」
ジルが嬉しそうに左腕に絡んでくる。あ……マシュマロと上目遣いが……危険域です。これはかなり危ないぞ。ここに居続けると身ぐるみ剥がされる!
「ちょ、ちょっと外に出て皆に説明してくるね。コレットさん、支度はこのジルも使って」
「ジル、お手伝いね?」
「ルイ様」
「ジル、お願い」
「分かりました! ルイ様のために頑張ります!」
腕を放そうとしないジルにコレットさんのサポートをお願いする。多分他のメンバーは手伝うだけ被害を増やしそうだから却下。エトさんの姿はもう無い。流石仕事に取り掛かるのが早いね。
ジルの背中を押してコレットさんにお願いしてそそくさと屋敷の外に出るのだった。屋敷と言っても向こうの世界で言う中世の小さめの古城のような大きさだ。よくこんな所に建てれたものだと感心する。
「やあ皆、揃ってるね」
「すまぬ主殿、結局こうなった」
「うん、シェイラ」
「はい」
シンシアが声を掛けてくれたからにこりと笑顔を返しておいてシェイラを呼ぶ。バツが悪そうに歩み出て来た。全く、言い過ぎたと感じてる部分もあったのは分かるけど。
「ひひゃいれふ」
「ダーメ。言い過ぎたって思ってるでしょ?」
僕の言葉に頬を左右に引っ張られたシェイラがゆっくり頷く。ちょっと涙目だ。やれやれ。
「はい、これでお仕置き終了♪ 皆を纏めて連れて来てくれてありがとう。助かったよ」
と抱き締めて有耶無耶にしておく。「ずるいです」とか「姉さんばかり」とか「主殿……」とか周りで聞こえた気もしたけど気にしないことにした。一先ずこれからの予定を説明しないとね。
「え〜っと、これからのこと説明するからちょっと聞いて欲しい。今から10日程この屋敷で寝泊まりすることになったから二つに分けるよ。人に変化出来る人はこっちの右側に集まって、出来ない人は左側に集まってくれるかな?」
僕の言葉に顔を見合わせながら左右に分かれていく。デミグレイジャイアントは12羽とも出来ない左側だ。ツインテールフォックスの中の三姉妹以外の5匹とブレイブフォックスになった6匹の11匹が変化出来る右側に集まった。
「人に変化出来る人は屋敷の中に泊まって貰うんだけど、やっぱり皆と一緒が良いという人は左に移動してくれるかな?」
呼び水を与えるとどうなるか。残ったのはブレイブフォックスの6匹、ベス、カルマン、セイル、ライル、ラフ、ロロだけだった。それとシェイラ、レア、ギゼラ、シンシアの4人。まあこんなものかな。
「よし、じゃあ、右の人は変化してシェイラたちと一緒に屋敷に入ってくれるかな? 先にサーシャがいるから食堂に入って待ってて。僕は皆を寝る所に案内するから」
「「分かりました」」「分かった」「お気を付けて」
既に人の姿である4人に見送られて僕は屋敷の裏手に回ってみることにした。特にここをとは言われてなかったんだけど、何となく気になったんだ。裏に回ると中庭が広がっていた。勿論陽が射さないのだから美しさも大幅に下方修正されているのだが、噴水が…噴水というほど吹き出てないな。湧き水が静かに湧き出している人口の池が広がっていた。
「へぇ〜。前に来た時には暗かったからここに気付かなかったけど、水があるなら安心だ【鑑定】」
とは言うものの、水質が気になって【鑑定】を掛けてみる。結論から言うと問題ない。飲水に適しているというお墨付きだ。雨が振っても落ちてくることがないからこれで大丈夫かな。ふと右の奥の小高い丘に眼をやると骨組みだけで壁がない、屋根付きの四阿に気が付く。
「あそこが良いかもね。ちょっと行ってみようか」
皆を促してそこに行ってみる。柱はしっかりしてるし揺らしてもギシギシと今にも倒れそうな雰囲気はない。ここで集まって寝ても良いね。屋敷にも近いし屋敷もよく見える。エドガーに皆の取り纏めをお願いして僕は屋敷に戻ることにした。
部屋割りや内装で少なからず揉めはしたけど、ベス、カルマン、セイル、ライル、ラフ、ロロがそれぞれ個室をあてがわれ、何故だか僕を含め10人が同じ部屋に同衾することになったのだ。コレットさんは泣く泣く別室に……。いや僕はそれが普通だと思うんだけどね。
◇
その夜――。
食事を済ませて身体を拭き、寝室で皆を待っていた。残念ながらこの屋敷ではお風呂という習慣がないらしくそもそも設備として存在していないそうだ。僕も改めて【実体化】すれば身体を拭かなくても問題ないんだけど、用意しくれたパジャマに着替えたかったから♪
【実体化】で分かったことが一つある。それは【実体化】して着替えると次に【実体化】して着替えるまでその服装だということだ。この2年パジャマで寝てなかったし、その誘惑に勝てなかった…のです。それに改めて伝えたいこともあるしね。
一人また一人とキングサイズのベッドが3つ横付けして並べられた部屋に集まってくる。僕はベッドの中央にちょこんと正座している。リーゼさん、コレットさん、エトさん、ギゼラ、ジル、シェイラ、レア、サーシャ、アピス、リン、シンシア。それと話を聞いてもらうためにベス、カルマン、セイル、ライル、ラフ、ロロの6人も部屋に来てもらった。
「皆、集まってくれてありがとう。これから僕の身体の事を話すから驚かずに聞いて欲しい。と言ってもほとんど知ってるんだろうけどね。よっと」
そう前置きしてからベッドから降り、皆が見ている中窓を開け放つ。ゆっくりその窓の桟に足を掛けて上り、その皆に向き直った状態で立つのだった。飛び降りるの!? と心配そうな顔をしている者が何人か居るね。
「大丈夫、飛び降りるわけじゃないけど、僕の本当の身体を見てもらおうと思ってね。よっ! 【解除】」
このままだと部屋が汚れちゃうからちょっと後ろに飛んで【解除】する。
「「「「「あっ!!」」」」」
どさっ
「「「「「「!!!!!!」」」」」」
【実体化】を【解除】した証の土塊が地面に落ちた鈍い音がする。事前の情報を得ている者もそうでない者も、半透明に薄く光るパジャマを着た僕を凝視していた。多分、四阿にいるツインテールフォックスにも見えるはず。あっちはエドガーが説明してくれるだろう。
「とまぁ、僕は生霊なんだ」
ゆっくり浮かんだ身体で部屋の中に戻る。ギゼラに目配せすると、ギゼラがさっと窓を閉めてくれた。
ぎぃぃ〜ぱたん
窓の閉まる音を後ろで聞きながら話を続ける。
「正確には生霊の主というらしい。ただ皆も気付いてるように僕は普通生霊と呼ばれる存在とは規格が違う。僕が誰かを殺めてもその人が生霊になることはないんだ。だから手当たり次第に生霊が増えることはない。その代わりに僕には【眷属化】というスキルがある。そのスキルで皆に僕の眷属になってもらいたいと考えてたんだ。隠し事をしてて虫の良い話かも知れないけど、皆僕の眷属になって欲しい。お願いします」
「ルイ様がレイス・ロード。すごい」
「存在は知ってましたが、初めて見ましたわ」
「死霊が敵う相手ではなかったな」
違う意味で驚いてる気がする?
正直、なんと言って良いのか分からなかった。僕の我が儘であることは百も承知だ。でも一緒に居たいと思ってるのは嘘じゃない。だから自然と頭を下げたんだ。ゆっくり身体を起こすと皆が静かに僕を見詰めてていた。怒りや憎しみや怯えはその瞳からは感じれない。
「「「「ルイ様……」」」」「ルイ……」「主殿……」「マスター……」「ご主人様……」「……」
「それと、もう一つだけ。大切な事を伝えておくね。できればこれは広めないでもらえると嬉しい情報なんだ」
「でしたらわざわざ話さなくても!」
ジルが止めようとしてくれるが微笑みながら首を振って遮る。ここまで言ったんだ。秘密の共有で信頼を得るのは当然だよね。それを踏まえて決めてもらわなくっちゃ。その為の10日間なんだから。後でエドガーたちの処でも同じ説明して考えてもらおう。
僕の眷属になってもらえるのか、ならないのか、この場に留まるのか、去るのかを――。
「これは今まで誰にも話してこなかった秘密なんだ。だから、これを聞いた後で眷属になるかどうかをじっくり10日間考えてみて欲しい。皆にとってじゃなく、周りを気にせずに自分自身がどうしたいか考えて欲しい。答えはすぐに聞きたいわけじゃなよ。正直僕も心の準備したいからね……」
「「「「……」」」」
僕の話を遮りたくないのか皆が静かに次の言葉を待ってくれていた。感情を見だして喚き散らす訳でもなく、泣き出す訳でもなく――待ってくれている。ありがたい。だからこそ裏切りたくない、という気持ちが強くなったんだろうね。
「僕が生霊になったのはこの“森”でだけど、命を落としたのはこの世界じゃないんだ。僕は――」
驚きが広がっていくのが分かる。だけど誰もが僕の言葉を聞き漏らすまいとしていた。
「僕は異世界で死んで、この世界に生霊として生を受けたんだ――」
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