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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第四幕 眷属
54/220

第53話 ヴァンパイアの令嬢との再会


 血色の悪い青白い2頭の馬に牽かれた馬車が古城から出発し薄暗い森の中を走っていた。屋根付きの箱型の馬車だ。横から見るとティーカップのような意匠で背は高くない。その馬車を引く馬の手綱を操る初老の男は左頬だけ持ち上がるように片笑みを浮かべていた。


 「そのような出来事があったのですね。それは大冒険でございますな」


 誰とも無く独り言を洩らす執事風の服装で身を包んだその男は、銀色と灰色が混ざったような髪をオールバックにしていた。よく見ると長く伸ばしており首の付け根で束ねているのが見える。馬車の振動に合わせてその毛先が揺れていた。物静かそうな男ではあるが、左目に掛けた片眼鏡の所為でつい身構えてしまいそうになる雰囲気が醸しだされている。


 「さて、遠くからルイ様を拝見したことがありますが、直にお逢いするのは初めててございますな。誠心誠意お願いすることに致しましょう。ええ、引き続き冒険譚を教えて下さいませ」


 ぴしっ


 初老の男はそう誰かに語り掛けるように呟くと馬に鞭打つのだった。




             ◇




 時は少し遡る――。


 僕たちはいつも固まって休んでいた広場に戻ってきていた。ここでギゼラに輪になってもらって皆で寝てたのが随分昔のような気がする。


 「ここで寝てたんだよね〜。今はギゼラが蛇になれないけど、シンシアに竜になってもらえば問題解決」


 そう言えば、ジルはどうやって寝てたんだろ?


 「シェイラたちはさツインテールフォックスに戻れば問題なかっただろうけど、ジルはどうやって寝てたの?」


 「あ、モフモフのベッドの上に横にならせてもらって寝ておりました♪」


 嬉しそうだね。うん、その気持ちは分かるけど何だかちょっと妬けちゃうな。まぁ居なかったのが悪いんだけどね。


 「そうなんだ。気持ちいいよね♪」


 「はい♪」


 ジルの答えに同意すると満面の笑みを返してくれた。うん、可愛い。おっと、惚気てる場合じゃないか。


 「ねぇ、シェイラ」


 「はい、ルイ様」


 「デミグレイジャイアントとは仲良く出来てたの?」


 「はい。わたしたちは後から割り込んだ者ですのに親切にして頂きました。何でもルイ様が決めた事だから仕方ないと皆笑ってくださってので、わたしたちも気が和みました」


 いや、僕だから仕方ないってどういう受け入れ方だよ!? ま、まぁ問題がなかったのなら良いんだけどね。シェイラの眼を見る限りにはそんな不安めいたものは感じれないし、あとはケアの方かな。


 と思いながらチラチラと左右に目配りするがシェイラとジルは未だにぼくの両腕を開放してくれそうな気配はない。腕組みしながら歩き始めてまだ20分程しか経っていないから、半月近く待たせていた時間を考えると無碍(むげ)に出来ないよねぇ〜。


 「あ、シンシア、そこで竜に戻ったら狭いと思う?」


 エドガーたちに案内してもらっている長い金髪を黒い兜から覗かせた全身鎧(フルプレート)の美女に声を掛ける。僕の声にふと振り向く瞬間が萌えます。いえ、可怪しいな。こんなキャラではなかったはずなんだけど。


 「そうだな。問題ないと思うぞ、主殿」


 その「主殿」という言葉にエドガーたちデミグレイジャイアントの大きな兎の身体が嬉しそうに揺れる。ギゼラが昔使っていた呼び方だからしっくり来るみたいだ。が、突然蜘蛛の子を散らしたように兎たちだけでなく狐たちもシンシアから離れ始めたのだ。


 「あちゃ〜。ジルもシェイラも大丈夫だからね、そのまま動かない」


 「「は、はい」」


 「レアとサーシャもおいで。初めて見るとびっくりするよね」


 あまりの変化についていけてない留守番組を呼び寄せる。ギゼラやアピス、リンはもう元々の姿を見てるから驚くことはないだろうし。問題がないことを共通の認識で持っておかなきゃこれからが大変だ。


 「ふぇぇ〜〜あれはなんですかぁ〜!?ルイ様ぁ〜?」


 サーシャがパタパタと走り寄ってお腹に抱き着いて来る。相変わらず上目遣いのダメージは高い。レアは申し訳無さそうに背中に片手を当てた状態で寄り添ってきた。緊張が伝わってくる。


 「あれが、(ドラゴン)だよ。シンシアは黒竜(ブラックドラゴン)という種族なんだ」


 「黒竜(ブラックドラゴン)……生きてる内に逢えるとは思っていませんでした」


 僕の説明にジルがポツリと呟く。あれ? (ドラゴン)族って稀少種なの? そうこうしている間にシンシアの姿が黒竜(ブラックドラゴン)へと完全に戻るのだった。あの時は落ち着いて観察してる暇なんかなかったけど、全長は25m程だろうか。頭から肩までが5m、胴からお尻までが8m、お尻から尾の先までが12mと言った感じだ。


 大きさから言うと、巨鷲の方が大きいのかな〜。いい勝負のような気がする。羽毛で覆われている分身体が大きく見えるという点もあるけどね。ほら、鳥は冬場と夏場で身体の膨らみ方が違うでしょ? 雪山に行った訳だし……。まぁまた見る機会がれば今度はじっくり観察してみよう。


 「ねぇ、(ドラゴン)族って数が少ないのかな?」


 「どうでしょうか。この地ではあまり見ないというだけかもしれません。わたしは見たことがなかったので」


 ジルはじぃっとシンシアを見詰めながらそう答えるのだった。でも腕は放さないのね。


 「わたしたちの里でも見たことはありません。(ドラゴン)が降りてきた時点で里の全滅は確定ですから」


 確かにシンシアの息吹(ブレス)は危険だったね。シェイラの気持ちもなんとなく分かる気がする。暫くシンシアの観察していると、彼女が何もしないことが分かったのか恐る恐る兎と狐たちが戻ってき始めた。臭いを嗅いでる。そのまま観察を続けてると、1羽の兎がシンシアの背中に飛び乗り背筋を歩き始めた奴が居るじゃないか。


 「「「あっ」」」


 三姉妹が合わせたかのように短く声を出す。あの兎に気が付いたのだ。僕とギゼラには見当がついてた。彼女たちの眼はなんて恐ろしい事を、と物語っている。いや、普通はそうなんだろうけどね。


 「ギゼラ」


 「はい、ルイ様」


 「カティナに怪我すると危ないから降りてくるように言ってもらえる?」


 「ふふふ、そう致します。あの頃を思い出します。カティナが一所懸命わたしの背中に乗ろうとしてたのを」


 「あぁ、そうだったね」


 ギゼラは僕のお願いに笑いながら答えてくれた。確かに覚えがある。僕がギゼラの背中によく乗っていたから自分も乗れるようにすると息巻いて練習していたのだ。確かエリザベスさんの屋敷から帰る時にその姿を見た記憶がある。


 ギゼラがシンシアの胸元の方に近づいてカティナを呼んでるが、どうやらシンシアの背中がギゼラより乗り易く気に入ったようでなかなか降りてこない。思わず吹き出してしまった。でも、御蔭で他の者たちも安心してシンシアの周りで寛ぎ始めたのだから、カティナには感謝しないといけないだろうな。


 ん?


 「アピス、リン」


 「はい、マスター」「はい、ご主人様」


 「悪いけど、こっちの方角を調べてもらえないかな? 何か分かったらすぐ教えて」


 「「はい」」


 両腕が動かせないから(あご)で方向を指す。何か変な気配がする。う〜んそうじゃないな。気配があるものの中を気配のないものが動いている。と言ったほうが良いのかな? 変な感じがしたのだ。


 僕の視線に気付いたジルとシェイラが腕を引く。


 「あぁ、ごめん。何となく気になる気配がしてね。ここで暮らしてる時何か変な事とか起きなかった?」


 その問掛けに2人は首を振る。さてと、じゃあ顔を見てきますか。


 「シンシア!」


 「何だ主殿?」


 「ここを動かないようにね、ちょっと様子を見てくる」


 「承知した」


 「エドガー」


 一際大きいデミグレイジャイアントを呼び寄せる。未だにシンシアの背中から降りてこようとしないカティナの父親だ。兎たちの長でもある。


 「はい、ルイ様」


 「皆を集めておいてね」


 「畏まりました」


 エドガー鼻をひくつかせるとぴょこぴょこと跳ねていくのだった。


 「シェイラとレアとサーシャもお留守番だ。皆を集めておいてね」


 「わたしも」


 「シェイラ、お願い」


 「う、ずるいです」


 僕の回りにいる三姉妹にも残ってもらう事にした。シェイラが何か言いたそうだったけど、眼を見てお願いしたら今回は聞き入れてくれた。あんまり使えないね、この方法は。後は、ギゼラか。


 「ギゼラ、そのままカティナの見張りをお願いね」


 「お気を付けて、ルイ様」


 「ちょっと様子を見てくるね、ジルは来てくれるかい?」


 「はい♪」


 あうっ、三姉妹の視線が痛い。また埋め合わせますから。背中に視線が刺さるのを感じながら、アピスとリンの後をゆっくり追う。皆が集まっていた広場から5分くらい歩いただろうか、アピスが左右の耳に弧を作った手を翳して暗闇の向こうに顔を向けていた。音を拾っているのだ。アピスの持つ【聴覚感知】スキルはこういう時に役立つね。


 リンの姿は見えないなぁと思っていたら、いた。高木(こうぼく)の中程から生え出た太めの枝に乗っている。梟頭の鳥人(とりびと)だから夜目が利くのだ。


 「マスター、馬車のような音が近づいできています。馬は2頭。距離は500m」


 「このような森をのんびり馬車で移動とは……風情があるね。リンは? 何か見えたかい?」


 ばさっ ばさっ


 僕の問掛けにリンが枝から降りてきた。


 「2頭引きの馬車です。おじいさんっぽい人が走らせています」


 相手が到着する前にここまで情報が揃うのも凄いもんだね。


 「じゃあ、ここで待ちますか。皆、僕の後ろに立つようにしてね。特にジル。初対面の相手の眼は見ないように」


 「え、あ、はい、畏まりました。ルイ様」


 そんな事を話していると奥から馬の鼻息が聞こえてきた。暗がりに人の気配がすると普通は緊張した気配が伝わてくるものだけど。平常心だね。怖いな。


 ブルルルルル


 馬の鼻息が眼の前でする。馬車の車輪が止まる直前の軋むような音がした。アピスやリンの言う通り2頭引きの馬車前方の御者席に初老の男が据わっている。カツカツと気の板を踏む音がして、初老の男がゆっくりと馬車を降り僕たちに向かってお辞儀をしたのだった。


 「御初にお目にかかります。わたくしブラッドベリ伯爵家にて執事の職を賜っております、エトと申します。そちらにルイ様はいらっしゃいますかな?」


 エト? ブラッドベリ伯爵家? はい? この奥に貴族が居たの?――あ。


 「ルイは僕だけど。伯爵様とお近づきになった記憶はございませんが、何かの間違いでは?」


 エトという名前には聞き覚えがある。でも名前しか聞いてないから、家名を言われてもね。


 「それは良うございました。いえ、間違いではございません。只今、リーゼ様からルイ様をお招きするように仰せつかったのでこうしてお迎えに上がった次第でございます」


 リーゼ? エリザベスさんじゃなくて、リーゼさん? いや、全く持って知らないし――!?


 「ええと、エトさんでしたか? ルイはルイでも人違いでは? リーゼさんという御方とは遭ったこともありませんし」


 「いえ、間違いでは御座いません。我らはエリザベス様のことを幼少よりその愛称、リーゼと呼ぶことを許されているので御座います。先頃お屋敷にお越しの際に侍女のコレットもエリザベス様のことをリーゼ様と呼んでいたと記憶しておりますが?」


 はい? エリザベスの愛称がリーゼ? それだったらリズとかリサとかライザとか……じゃない? まぁ異世界だしどう読むことにしたって言っても驚きませんけどね。


 「何故エリザベスがリーゼに?」


 でも気になったから聞いてみた。


 「はい、エリザベス様がこれが良いと決められたので御座います。普通では使うことのない愛称では御座いますが、エリザベス様のご希望に沿う形に致しました」


 あ、そうですか。この愛称が可愛いからこれにして! 的な流れなのですね。と言うことはだ、エトさんはあの時(・・・・)エリザベスさんのとこに居て起きてこれなかったもう一人の人ということになるよね?


 「えっと、初めまして」


 「先達(せんだっ)ては美味なるものを頂き、お礼が遅くなった事をお許しください」


 「いえいえ。それより、今お招きとか言ってたように聞こえたんだけど?」


 「はい、申しました」


 「僕?」


 「然様(さよう)でございます。以前お越しいただいた際にお茶に誘ってくださいと仰られていたと聞いております」


 「あぁ〜、言ったね。確かに言った記憶がある」


 (((じぃ〜〜〜〜〜〜)))


 はっ!? 何だ!? 視線が痛いぞ? 慌てて後ろに向き直るとジト眼で見られていた。またですか、という心の声が聞こえて来るような気がする。


 「「女誑し」」


 リン以外の口から危険なワードが這い出してくる。


 「いやいや、何言ってるのかな。エリザベスさん()そうじゃないよ。前に生霊(レイス)のおっさんに飼い殺し状態になってたのをたまたま屋敷に行った時に助けたんだ。それだけだよ」


 (((じぃ〜〜〜〜〜〜)))


 「ほ、ほら、ヘルマとかクラムのお産を安全な所でできればと思って場所を探しに行ってた時だったんだ。ほら、ジルも聞いてない?」


 「そう言えばヘルマさんもクラムさんもそんなことを言って居られました。結局探せなかったルイ様が皆から怒られたんだけどねと笑って居られた気が」


 何だその扱い。ていうか、ジルも笑ってただろその時。そう思ってジルの眼を見返したら逸らした!?


 「まぁ、死霊(スペクター)を滅ぼしてしまえるんですから生霊(レイス)も問題ないでしょうね、マスターなら」


 ありがとうアピス。もっとフォローして!というか、大事な事忘れてた。


 「そう言えばヘルマとクラムのお産は? 終わったの?」


 「いいえ、まだですわ。デミグレイジャイアントは60日お腹の中で育ててから出産だとアニタさんが仰られてました」


 へぇ〜流石皆のお母さん。カティナが唯一逆らえないのがお母さんのアニタだもんな。きっと皆もそうなんだろうな。


 「おほん!」


 あ、忘れてた。


 エトさんの咳払いに引き攣った笑顔を貼り付けて振り向く僕。こめかみがヒクヒクしてるように見えるのは気のせいだろうか。暗がりだし気のせいだよね。


 「すみません。何の話でしたっけ?」


 「リーザ様とディード様がお待ちです。どうぞ馬車にお乗りください。屋敷までご案内致します」


 「え? ディー? エリザベスさんと知り合いだったの?」


 僕も驚いたけど、後ろの3人も驚いている気配がする。まぁそうだよね。


 「わたくしどもがこの森に引っ越して来る迄、懇意にして頂いておりましたから」


 「それってどれくらい前の話?」


 「230年前でしょうか」


 は? 230年!? じゃあ、少なくともディーは230歳って事!? どんだけ長生きなんだ! いやまてまて、僕がこちに来てから平均的な寿命の情報は何処からも得ていない。エリザベスさんもあの時点(・・・・・)で200歳は越えてたわけだし。ヴァンパイアだし。どうなんだ?


 「凄い古い付き合いですね。ちなみにどこから引っ越して来られたんでしょう?」


 「そちらにある魔王領からでございます」


 ひぃ〜っ!? 聞きたくないワード出た! そんな人というか魔物もいるんだね〜。さてどうするかな。


 「誘って下さいと言った手前お断りできないから、一度行ってくるよ。皆は」


 「わたしが一緒に参ります!」


 「えっと、ジル?」


 「伯爵家に参られるのでしたら、粗相があってはなりません。わたくしこう見えても侍女のスキルは磨いております。他の方はまだ貴族社会どころか人間社会にも(うと)いご様子。わたくしこそがお役に立てると思います、ルイ様!」


 急にずいと一歩踏み出して熱く語り出すジル。セミロングの髪が揺れて真剣な表情に見蕩れてしまう。心持ち釣り上がった眼がやる気に燃えていた。そこまで言うなら。まぁ言ってることは正解だから仕方無いね。言われてる方も自覚があるから言い返せないでいるし。


 「じゃあ、行ってくるからアピスから皆に伝えておいてもらえるかな?」


 「はい、マスター。お気を付けて。マスターに何かあったらわたし」


 「ないない。だから安心して!」


 慌てて両手を胸の前で振るがアピスの表情は曇ってる。確かに人に具現化して離れるの今回が初めてだよね。うん、ちょうどいい機会だしちょっと実験してみるかな。


 がさがさっ ざん


 と、足元の茂みを掻き分けて小さな影が僕に向かって飛び掛ってきた!? でも殺気はないから大丈夫かな。ぽふっと胸で抱き止める。ん? 二尾の仔狐?


 「サーシャ?」


 「わたしも一緒に行くのです!」


 「サーシャさん、遊びではないのですよ?」


 「ルイ様遊びじゃないの?」


 「え? いや、お茶会なら貴族の遊びなのでは?」


 「は!? ルイ様が貴族の知識を持っていらっしゃる」


 いやいや、ジルさんそんなに驚かなくても。世界史でちらっと習ったような気がしただけですって。


 「おほん!」


 「あ、すみません。では僕とジルとこの仔狐の3人で伺わせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」


 「勿論でございます。ではどうぞお乗りください」


 いつの間にかエトさんが馬車の扉を開けて待っていてくれた。いや、多分随分待たせたんだろうね。こっちはあーだこーだと話してるけど、ある意味惚気話に近いだろうから。エトさんの忍耐力もよっぽどだね。まあ、何十年も棺の中で寝てたんだろうから、それく比べたらということかな。


 アピスとリンに手を振っておいて馬車に乗り込む僕たち。僕とサーシャ、ジルの順番に馬車に入るとぱたりと扉を閉められた。コンコンと前側の壁がノックされたかと思うと、覗き穴が開かれてエトさんの顔が見える。


 「急いで帰って来いとの仰せなので、少し飛ばします。少々揺れるかも知れませんが我慢してくださいませ」


 「はい、よろしくお願いします」


 そう言えば、ツインテールフォックスにせよ、エリザベスさんたちにせよ、【遠隔感応】のスキルがあったな。エリザベスさんたちはステータス見せてもらってないけど、サーシャたちと同じことしてるからあると思って間違いないだろうね。ん? 揺れない?


 「ねえ、ジル。急に揺れなくなったと思わない?」


 「はい、わたしもそう思ったところです」


 恐る恐るカーテンを引いてみると小さな窓から外が辛うじて見えた。すごい勢いで風景が過ぎ去ってる。これって飛んでる? 馬車が? まさかね。というか今窓ガラスに気が付いたよ、僕。前ガラスあるのかな? って言ってたのに今更気付く? 気付けるタイミング一杯あったよね? というか、至る所に窓あったよね? 阿呆(あほ)だは。


 「ルイ様?」


 ジルが心配そうに声を掛けてくれるが、笑っておこう。自分が阿呆過ぎて情けなくなってくる。


 馬車に乗って5分経ったかな?という時にがたんと馬車が揺れた。お?何だ?


 「到着致しました」


 はい!? 5分で!? あの距離を!? 有り得ないでしょ。何か魔法みたいなもの使ったのかな? 転移魔法ではなかったみたいだけど。じゃないと説明がつかない。馬車から降りてみると確かにあの屋敷の前に着いていた。夢じゃないんだろうね? サーシャの耳を引っ張ってみると触ってる感触がある。


 ばん!


 「ルイ様!!」


 そこへ扉を蹴り破らんばかりの勢いで両開きの玄関扉が開かれ、可愛らしいドレスに身を包んだエリザベスさんが飛び出してきた。うん、元気そうで何よりだね。玄関の傍にコレットさんの姿も見える。半月前だから変わってるはずはないんだけど、変わり無いようでホッとした。


 て言うか、エリザベスさんすごい勢いでそのまま駆けて来てませんか?


 「ルイ様ぁぁぁーーーっ!!」


 僕から10mはまだ離れてるであろう所からエリザベスさんがダイブする!? それに合わせてサーシャが僕の腕から飛び降りるのだった。ジルも引き攣った顔で僕から距離をおいてる気がする!?


 「はぁっ!? いや、そんな所から飛んでどうするの!? あ、サーシャ、何逃げてるの!?」


 「ルイ様、あの人危ないよ!」


 「へ? どぅわぁっべらぁぁっっ!!!?」


 サーシャの言葉に何か返してやろうかと思った瞬間に猛烈なタックルのようなハグに襲われてエリザベスさんと一緒に5mほど後ろに吹き飛ばされてしまった。いやいや、有り得ないでしょ? これがヴァンパイア風の挨拶なの!?


 気がつくとマウントポジションの位置に座っているエリザベスさん。いや、その位置僕的には嬉しいというか、女の子にはアウトでしょ!?


 「ルイ様、お逢いしとう御座いました。もう来て下さらないのかと思って」


 「いや、こんなにすぐに来ることになるとは思ってなかったけど、来るつもりではいたんだよ?」


 「あぁ〜ルイ様」


 マウントポジションのままうっとりされても。僕の方が困るんだけど。エリザベスさんの言葉に何とか弁解しようとするのだったが、そのままエリザベスさんが僕の顔の方に倒れ掛かってきた。えっと、ここは庭なので、人目もあるし、ほら、お互いそうなるにはもう少し良く知り合ってからじゃないと。


 かぷっ


 「あ――」






最後まで読んで下さりありがとうございました。

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