第45話 竜の墓場と財宝と
2016/3/30:本文修正しました。
2018/10/2:ステータス表記修正しました。
ぴこん♪
音と同時にリンの頭の上に光り輝く輪が現れて、一瞬で消えていった。
「あ――」
やばい、このパターンは。
「こぉらぁぁぁぁーーーーーっ!! ルイくん、今度は何したのぉっ!!」
はぁやっぱり来た。
「「「「えっ!?」」」」
「あら? ルイくん可愛い子いっぱいはべらせちゃって、そっちに目覚めちゃったのかしら? 痛い痛い! はなしにゃしゅ○※△◇※ー!!」
僕は黙って可愛らしい小学生くらいの姿をした女神様の頬を左右に引っ張っていた。部外者である4人は何が起きたのかさっぱり分かっていないようで、ただぼーっとしてる。
背中まで伸びている金髪に琥珀色の瞳が収まったくるっと愛らしく大きな目。白い肌に白いワンピースを身に着け、金色の額飾りを着けている。
宙に浮んでいるせいで裸足であることに気が付く。背中に小さな一対の翼があるが大人の肩甲骨くらいの大きさで飾りっぽい。浮いているのは別の力のようだ。前に言ってた神力というやつかな。黙っていればすごく可愛い女の子なんだけど。
「なんで急にほっぺをつねらねなきゃならないの!」
「身に覚えはないんですか?」
「ん? ん〜ないわね?」
「はぁ、聞いた僕が莫迦でした。で、今日は何のようです?」
「あ、ちょっと仕事が忙しくてサボってたら、ぴこん♪ って“布告の光輪”が現れた音がするじゃない。もしかしてと思ったらルイくんだったのよ! こりゃ行って聞いてこなきゃってきゃん!」
僕は黙って女神様の頭にチョップを落とす。前回は気が付かなかったのだが、チョップを受けてもアホ毛がぴこんと跳ね上がってる。寝癖か? それとも前からこうだったかな? 余裕があるせいか細かい処まで観察できたようだ。
「何サボってるんですか。僕の時も大方サボってたんでしょ? ちゃんと仕事してください」
「ううっ。ルイくんは時々わたしが神様だったことを忘れるようね」
「「「「ええっ!?」」」」
その一言に4人が正気に戻る。まぁ、普通はそういう反応だよね? 僕は違うけど。見た目は6歳くらいで背丈が110㎝程しか無い女の子だけど女神様なのです。
「そう言う前に、ちゃんと敬意を払われるような振る舞いをしてください」
「ぶ〜ぶ〜! いいじゃない! ここくらいじゃないと気が休まらないんだから好きにさせてよ!」
「はぁ〜、で、ここに来た理由もう忘れてますよね?」
「はっ!?」
可愛らしい少女がそうだった! とこっちを見る。顔には「なんだったっけ?」と疑問文が書いてあるように見えて眩暈がした。こめかみを抑えながら溜息を吐く。
「梟頭の彼女が角が欲しいなぁって言ってたから、ツヴァイホーンの角を付けてあげたんです。そうしたら例の天使の輪が出たんですよ」
「貴女、名前は?」
「はひぃ、り、リンと申します、神様!」
「うんよろしい、ルイくんもこんなふうに敬意を払っていったぁ〜い!」
ごんと拳骨をお見舞いしてやった。神様にそんなことして大丈夫なんですか!? 的な視線が心地良い♪
「一言多いですよ。仕事してください」
「もぉ〜ルイくんたらどんどんじじぃに似てくるんだから。まあ良いわ。リンと言ったわね。貴女の種族名を言いなさい」
「はい、鳥人族のアウルヘッドです」
リンの答えに女神様は右手をリンに翳して眼を閉じる。
「もぉ、ルイくんの所為で種族が1つ増えてるわ。彼女はアウルヘッドじゃなくて、ベアアウルホーンヘッドになってるの」
「え? そんな事が?」
「え? そうなのですか?」
女神様の言葉に僕とリンが顔を見合わせる。
「今後こういうことが起きないように処理はしておくけど、彼女はアウルヘッドとして種は残せなくなったから、ルイくんが責任を持たなきゃダメよ?」
「……はい。頑張ります。というか、リン【ステータス】見せてもらっても良い?」
「はい!」
「【鑑定】」
◆ステータス◆
【名前】リン
【種族】ベアアウルホーンヘッド(New)/ 鳥人族
【性別】♀
【職業】スカウト
【レベル】30
【Hp】8400/8400(+4200)
【Mp】13886/13886(+6943)
【Str】1348(+674)
【Vit】1092(+546)
【Agi】1312(+656)
【Dex】1082(+541)
【Mnd】1492(+746)
【Chr】1686(+843)
【Luk】796(+398)
【ユニークスキル】夜目、隠形Lv18、無音飛行Lv13、強打Lv1(New)
【アクティブスキル】風魔法Lv25、光魔法Lv1(New)、飛翔術Lv30
【パッシブスキル】風耐性LvMAX、光耐性Lv1(New)、威圧耐性Lv1、精神支配耐性LvMAX
【装備】布の服、キルト、布の下着、革の胸当て、革のサンダル、革のベルト、鉄の短剣
【所持金】0
「色々2倍くらい増えてる気がする。あと、ツヴァイホーンのスキルが付いてるね」
リンの【ステータス】を見て呟くと女神様が呆れたように首を降るのだったが、僕の眼を見てにっこり微笑ってくれるのだった。
「はぁ。ルイくんは規格外だから見てて楽しいんだけど、後始末も大変なのよね。まぁ良いわ♪ 久し振りに元気そうな顔も見れたし、日光の下でも活動出来てるからホッとした♪」
「そこは素直に感謝してます。【実体化】も役立ってます。ありがとうございます」
「本当に感謝してる?」
「してますよ!」
「じゃあわたしにもあの子達にしてたようにぎゅっとしてちょうだい♪」
「はぁ!?」
ただし、子どもじみている所は相変わらずだ。さっきまであった尊敬の一言はあっという間にゴミ箱に放り込んでやった。とはいっても女神様のお願いを無碍に断る事も出来ず、シンシアの時と同じように両膝立ちになってぎゅっとしてあげるのだった。
「ふあぁぁ♪」
「これでいいですか? 神様?」
「う、うん♪ 予想以上に元気がもらえたわ! ルイくんも頑張るんだよ!」
何だか慌てた感じで答えると、隙をついて僕の頬にちゅっとして女神様は消えていくのだった。何気に可愛い所があるねと思いながらくすりと笑って立ち上がるのだったが。
「おわぁっ! びっくりしたぁっ!!」
振り返った瞬間、4人の顔がずいっと寄ってきたのだ。まぁ分からなくはない。
「「「「説明してください! なんで女神様とあんなに仲が良いんですか!?」」」」
うん、当然の疑問だよな。でもまだ話せないか。
「う〜ん、信頼してないからじゃないんだけどまだうまく話せないんだ。時期が来たらちゃんと話すから今日のことはここに居る皆の秘密にしてもらえると嬉しいな? でも、これだけは言える。あの女神様の御蔭で僕は皆に会えたし、こんな力を持つことが出来たって事。あとは、ごめん」
「「「「ずるいです」」」」
そんなっ!? 4人が口を揃えて言うことじゃないでしょ。うっ、上目遣いが痛い。しかもシンシアまで何故に揃う? そんなに仲良かったの? 君たちどうした?
「はい、話はこれでおしまい! 僕が急にレベル上げたりしたし、リンも種族変わったりしてるからそろそろ反動が出る頃じゃないかな? みんな大丈夫?」
「わたしは体が重いです」
とギゼラ。
「わたしはよく分かりません」
とアピス。杖だからか?
「わたしは眠いです」
とリン。うん、きっとそうだろうね。
「わたしは何ともないぞ、主殿!」
分かってる♪ じゃあ、安全なところに案内してもらおうか。
「じゃあ、シンシアはここに詳しいだろうから雨露が凌げて安心して休める場所があれば案内してくれないかな?」
「畏まりました! ではこちらへ」
あるんだ! 言ってみるもんだね。シンシアはそう言うと兜を被り直し盾を拾い、剣を腰に収めると先頭に立って歩き始めるのだった。う〜ん、時間かかるかもね。
「リン、おいで背負ってあげるから背中で寝てなさい」
「え?」
「ほら、早くしないとアピスに場所取られちゃうよ?」
「あ、はい!」
くすっと笑いながら腰を下ろすとリンが嬉しそうに背中に抱きついて来た。うん、近頃の若い子は生育が良い……。 よっと。リンの太腿に手を当てて立ち上がる。ギゼラとアピスは羨ましそうに見ていたけど、我儘は言わないようだ。偉いね。
「あ、シンシアごめん、案内よろしく」
「……主殿は皆に優しいのですね」
「シンシア、違うわ」
ギゼラがさらっと否定する。そこは「そうなの」じゃないの!?
「え?」
「マスターはお節介焼き体質なの!」
ギゼラの言葉を継いでアピスが右の人差し指を立てながら嬉しそうに答えた。
「おいおい、誰から聞いたの? ギゼラ?」
「ルイ様自身も言われてましたし、間違ってないですよね?」
とギゼラがにこりと笑って確認を取る。まぁ、思う所はあるけど本当だから言い返せないというね。リンは安心したのかもう寝ていた。シンシアはやり取りを見てくすりと笑い先導を再開するのだった。
◇
15分後。
僕達が出来てきた所とは違う別の入り口から入った洞窟の奥に辿り着いていた。
眼の前に広がるのは財宝の山と竜たちの遺骨の山だった。
「これは凄いな」
「これが約束の宝です。主殿お納めください」
「はい? いやいやいや、嘘でしょ?」
「いえ、わたしが主殿にお仕えすればここは放棄してゆかねばなりません。そうすればいずれ誰かの手に渡ってしまうでしょう。そうなるのなら主殿にお持ちいただいたほうが主殿も宝も守れます」
「こんな財宝の山産まれて始めてみました!」
「マスター、これは鷲の宮殿にある宝物庫に匹敵します!」
ギゼラとアピスは興奮して手伝いどころではなさそうだ。まぁ、動けるうちに見ておくのもいいかもね。使えそうな武器とかあるのかな?
「何がどれだけあるのか分からないし、呪われたアイテムもあるかもしれないから無闇に触らないようにねーっ! あとシンシアこの遺骨はどうするつもりなの?」
「「はぁ〜い♪」」
遠くから返事が聞こえてきた。お前ら人の話聞いてないだろ。とこめかみを抑えてたら耳を疑うような発言がシンシアの口から発せたれた。
「砕いていこうかと」
「いやいやいや、勿体無いよ! それならこれも僕が保管する。ちょっと使うかもしれないけど、それでいいかな? シンシア?」
「はい! ありがとうございます♪」
竜の骨はRPGの世界では貴重な加工素材であったり武器・防具の素材になっていた。異世界に来てからその要素が強いというのは実感できたからシンシアが砕いていくという発想も頷ける。僕も実物を眼にして試したいという好奇心が疼き始めたのは否定できない。
「よし、探索や検分は明日することにして、休む準備をするよ!」
お〜い、ギゼラ、アピス何処行ったの〜? 返事がない。基本的にトラブルメーカーなのかも? と自分の事を考え始めている僕はあえて行かないことにした。
「シンシア、ちょっと見てきてくれない? その間に準備しておくからさ」
「畏まりました、主殿」
10分後。
首根っこを引っ掴まれたギゼラとアピスが引き摺られて戻って来た。その姿を見て吹き出してしまう。無理やり楽しでいる所を邪魔されて連れて替えられた子どもの様だなって思わず思ってしまうほど微笑ましかったのだ。その頃には寝床も準備して、簡単な食事も用意出来ていた。
アイテムボックス内では無生物に限り時間の経過が無いようなので前に大量加工しておいた具材を保管しておいたのである。命があるのもはまだ試してないからよく分からない。そもそも入らないかもしれないしね。薪も森を歩きながら拾っていたのである程度は補充できてるし。よし食事だ♪
「ほら、二人共ふてくされてないでご飯食べよう。 リンは寝てるから今は気にしなくていいよ。はい、シンシアの器ね」
「「あ、それマスターの!」ルイ様の!」
「ん? いいじゃな? 僕はリンのを使えば」
「「ゔ〜。わたし達だって使わせてもらってないのに」」
え? そこそんなに気にする事なの!? 番号とか順番あるの!? え?
「あ、主殿。わたしはリンの器で結構ですから……」
シンシアのその言葉を聞くが早いかアピスがさっと僕の持ってるリンの器とシンシアが持ってる僕の器を交換してしまった!? あっけにとられる僕を余所に、ギゼラが機嫌よくスープを僕、アピス、シンシアの順番に装ってくれた。
最後に自分のものを注いで美味しそうに食べてくれたのは正直嬉しかった。スープで体が温まったのか、反動のせいなのかギゼラとアピスが船を漕ぎ始めたから敷いておいた毛皮の上に順番に運んで寝かせる。
多分朝まで寝てくれるだろう。前の反動の時がそうだったから。毛皮の毛布を2人に掛けながらそう思った時ふと“森”に居る面々やディーの事を思い出す。皆反動が出てるに違いない。“森”は危険もあるから無事だと良いんだけど。
「主殿?」
背中から心配そうなシンシアの声にはっと我に返る。
「あ、ごめんごめん。ここには居ない人たちのことをふと考えていたんだ。多分同じように反動が出ているだろうから」
「その、【捕獲】されている訳でもないのに主殿との繋がりがそんなに強力なのですか?」
「ははは。どうやらそうみたい。なんて言うのかな。【捕獲】っていうのは強制でしょ?」
シンシアの疑問も尤もだ。僕も確証が有る訳じゃないんだけど考えていることを言葉にしてみる。僕の問に頷いたのを見て話を続けることにした。
「強制的に従えた場合でも恩恵はあると思うんだけど、僕はそれが嫌いなんだ。性分と言ったほうが良いのかな。できれば命令じゃなくお願いしたいという思いがあるの。力の強さ弱さはあるだろうけど、命の価値という物差しで考えれば皆重さは同じなんだ。だから皆とは対等でありたと願ってる」
「……」
「そんな甘っちょろい僕を慕ってくれたのがここに居る3人や、僕達の帰りを待ってる人たちなんだ。その繋がりで【捕獲】のような効果が出てるのかもしれないね。でもまぁ、人とは言うけど実は皆魔物なんだけどね♪」
そう行ってくすりと笑う僕の顔をシンシアは驚いた表情で見つめ返してきた。
「ギゼラは人の姿をしてるけど元はジャイアントフライングバイパーだし」
「えっ!?」
「アピスはトレントの古樹から作られた理智ある杖だし」
「ええっ!?」
「リンは鳥人だしね。ほら人間が誰も居ない」
「魔物誑しというのは本当なのですね」
「いや、そこは否定させて! 誑し込んでないよ! 本当に! 普通に接してるだけなんだから」
否定するために声が大きくなるが慌ててトーンを下げる。シンシア、君までなんてこと言うんだ。
「話は戻すけど、僕はそんなに出来た人間じゃない。慕ってくれる人たちとは仲良くしたいけど、危害を加えてくる者達に対してまで寛容ではないんだ。強制はしたくないけど傍には居て欲しい。自分の意志で僕の元を去るのなら送り出すけど強制させて引き離そうとする者は許さない。我儘で大甘な主だけどよろしくね、シンシア」
「変わった御方なのですね主殿は。そのような考えを持つ方には今まで一人も遭った記憶がありません。支配欲ばかり強い野心家が世界を牛耳っているのですから」
「ははは。規格外だからね僕は。できれば深い森に引き籠もってのんびり過ごしたいのだけど、気が付いたらこんな処まで来ることになっちゃった。御蔭でアピスやリン、シンシアに逢えたんだから感謝しないといけないね」
「主殿……」
「でも主従契約を結んでる訳じゃないんだから、僕の事を主殿って呼ばなくても良いんだよ?」
そう言ってシンシアの金色の瞳を見据える。焚き火の火の光が瞳に写って妖しく揺れた。しばらくの沈黙の後1度眼を閉じたシンシアがゆっくり瞼を開けて思いを口にする。
「正直、初めは掟に従いルイ様にお仕えしなければという思いで居ました。しかし今のお話を聞いてお仕えしたい、お守りしたいという気持ちになれました。ですからルイ様はこのシンシアの主です。どうか主殿と呼ばせてください」
「――女の人にそこまで言わせてしまうというのも罪な話だね。僕で良いのならこれからも宜しくお願いします。ただ、今も話したように変わり者だから」
「はい、そこはギゼラやアピスによく聞いておきます」
「そこも間違った情報源だと思うんだけどな……いあ、まぁいいか。皆と仲良くしてくれると僕も嬉しいし、よろしく。 さてと、皆が寝てる間にもう1つやっておかなきゃいけないことがあるんだ」
これから先が思いやられそうな予感がしたけども、今はそれ以上考えないようにしておいた。今は他にやるべきことがる。
「なんでしょうか?」
「シンシアは精神支配の耐性スキル持ってるの?」
「いえ、ありません。あればあの男に操られる事もなかったでしょう」
「そう……だよね。例えばだけど、僕がそのスキルをプレゼントできるとしたら信じてくれるかな?」
「えっ!?」
そんなことまで出来るのか、という表情で聞き返された。
「逢って数十分だけど、僕を慕ってくれてるのなら早いほうが良いかなって思ったんだ。どうかな?」
「主殿を信じます。それに規格外だと女神様のお墨付きですし」
短い沈黙のあとシンシアはくすくすっと笑ってくれるのだった。うん、やっぱり美人さんの笑顔は良いな。
「じゃあ、左手の籠手を外してくれる?」
「はい」
ガチャ ガコ
手慣れたものでシンシアはものの数秒で外してしまった。黒竜の姿のままの事が多いと思っていただけにその速さに思わず見蕩れてしまったのだ。慌ててアイテムボックスから残ってる僕の左腕を1本取り出す。
「主殿それは」
「これ? 僕の左腕。なんて言うのか、【融合】用の素材だと思って気にしないで」
「――はい」
気にするなって言っても気になるものは気になるよな。気が変わらないうちに僕は左腕をシンシアの左腕に重ねて【融合】と念じるのだった。一瞬の閃光と共にシンシアの腕の一部になる。あとは【ステータス】の確認だ。【鑑定】が効かなかった原因が確認できる。
「シンシア、【ステータス】を見せてもらっても良い?」
「構いませんが、その代わりに主殿の【ステータス】を見せていただけませんか?」
Oh……そう来たか――。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
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