第44話 僕の誤算
2016/3/30:本文修正しました。
2016/12/4:本文加筆修正しました。
「僕の勝ち……ですね?」
「何が起きたのだ? 先程もそうだった。爪で薙いだと思った矢先に投げられていたのだぞ?」
「「「〜〜〜♪」」」
呆然と僕を見上げながら呟くシンシアさん。まぁそうなるよね。合氣道なんて異世界にある訳ないだろうし。3人に向けて笑顔を向けてあげるとぼ〜っとこちらを見返していた。大丈夫かな?
「無手の技です。基本僕が納めてる技は人に危害を加えるというより護身術に近いものですから」
「にしてもだ。ルイ殿の武術スキルはいかほどだ?」
「え、あぁ、151です」
「わたしは473なのだぞ? 3倍の差がありながら勝てないなど」
「それは凄いですね。もう一番試して見られますか?」
なる程、【鑑定】が通らない訳だ。シンシアさんは僕よりレベルが上だと分かる。だけどこの推測には矛盾もある。
「良いのか!?」
「良いも何も。まだ戦う意思があるし戦えない状態でもないでしょう?」
思考を巡らせながらも彼女の嬉しそうな表情を見ると、面倒なお願いごとであるにも関わらず役得だと思っている自分も居て……面映ゆい。
「感謝する!」
この手の人は納得するまで付き合ってあげるしかないんだよね。あ〜服がボロボロになっちゃう。剣をシンシアさんに返して再び距離を取る。同じ手は無理だろう。警戒するはずだ。レベルのことを考えるのは後回しにしないと大怪我をする。
ガラン
シンシアさんが盾を外し両手で剣を握る。さっきより剣速は上がると考えたほうが良さそうだ。誤差はしばらく躱して覚えるしかないね。
ただ、青眼で構えるなら初手は刺突か唐竹割りになる率が高い。刺突からの変化もあるよね。どうくる? ぺろりと下で唇を湿らせて出方を待つ。最初より殺気が強い。
「参る!」
「ひゅう!」「「「!!!!」」」
相変わらず一歩目の踏み込みの速さが縮地かと思えるほどに早い。水月への刺突から上に変化して顎を切上げられる。異世界でのスタータスという恩恵がなければ躱せない速度だ。
だけどその切上げをシンシアさんの懐に吸い付くように躱して僕の背中を彼女の胸鎧にあてる。同じ方向に顔を向けたまま剣の鐔と柄をそれぞれ握り、自分とシンシアさんの間に剣を割りこませるように下から上に左回転させながら、体時計回りにくるっと入れ替えた。
横並びの様にそれぞれが逆の方向を向いたまま肩がぶつかる。背中側に移動した僕がシンシアさんに剣を握らせた状態で腕を背中側に引き内肘に僕の右手を添え極めるようにして肩の裏側へ剣を引く。あとは重心が後ろに移って倒れることになる。これも10秒とかからない。
「僕の勝ち……ですね?」
「……」
「「「〜〜〜♪」」」
更に何が起きたのか把握しきれていないシンシアさんの虚ろな眼が僕の視線とぶつかる。じわっと眼が潤んできた。あ、ダメだこれ泣かせちゃう。でも態と負けれないし。
「も、もう一番如何ですか?」
「感謝する!」
僕の提案に表情を輝かせて立ち上がるシンシアさん。ええいもうどうにでもなれ!
嬉々として剣を構え、斬撃を繰り出してくるシンシアさん。さっきのように出会い頭で瞬殺すると禍根を残しかねないと思い、なるだけギリギリで多くの斬撃を躱す。明らかに魔法の武器と思われる剣だけに簡単に斬撃を受けるというのは正直気が引けるんだよな。
勿論、彼女が手を抜いたと思える仕方での決着を望んでいないことも薄々気付いてる。そんなことをすれば激怒だろう。わざわざ逆鱗に触れに行くつもりはない。
「くっ! 当たらない!」
「冷や汗ものです! 選択を、間違ったら、僕が、死んじゃい、ますから!」
そう袈裟斬り、逆風から胴への右薙ぎ、右薙ぎから首への後ろ回し蹴りの変化を辛うじて躱す。だが、蹴り足はこちらのきっかけにもなる。蹴り足のヒールに頬を切られながらも足首に左手、右手を足の甲の順で掛けて足を外に回すように撚りシンシアさんのバランスを崩すことを忘れない。すれ違い様の攻防だ。
「ちぃっ!」
ちぃっ! てどんだけ殺す気なんですか!? 舌打ちしながらも撚られた方向に体を回しながら横薙ぎに剣を振って来るってバケモノですか!? 貴女全身鎧着てらっしゃることお忘れですか!?
「ふぅ〜、怖いなぁ。全身鎧着ててその動き。僕と変わらないじゃないですか」
「気にするな。これはわたしにとってルイ殿が着ている服のようなものだ」
「ははは。そ、そうですか」
思わず笑いが引き攣る。いやいや服と全身鎧って比べ物にならないでしょ!? 会話の間に息を整える2人。そろそろ終わらせるかな。観客の3人は只々動きにもついていけず、必死に見ようと眼を大きく見開いていた。思わず吹き出しそうになる。
「参る!」
「……」
下段に構えたシンシアさんの掛け声に無言で肯くと重心を少し落とした姿勢を取り次ぎの一手に備えた。
しっ! という吐息と共に繰り出された右切上げが僕の前髪を数本空に舞わせる。息吐く間もなく首を狙った左薙ぎ、眼への刺突、左足への右薙ぎからの胴袈裟を一息で放つとシンシアさんはふぅっと息を吐き出すのだった。
「疾すぎて手が出せませんね」
思わず本音が漏れてしまう。
「いやいや。ルイ殿の化物ぶりは理解しているつもりだが底が見えないとは此の事だ」
そう行ってシンシアさんはにやりと楽しそうに微笑むのだった。躱すことは出来たが文字通り引手が疾いために捉えきれないのだ。対抗策を打ってきたということかな。レベルを500に上げたおかげでステータスも上昇してる。その補正がなければ今頃切り刻まれているはずだ。
「ふふふ。久々に滾る。わたしと渡り合える者はここ数百年居なかったのだから」
いやいやいや、どれだけ好戦的なんですか!? 相手をしてたらこっちの身が持たないですって!
「参る!」
僕の返事は期待してなかったのか再び間合いを詰め、刺突を正確に急所に向けて放ってきた。日月、秘中、左大門、右稲妻、左甲利、そして水月の順に!うわっ、考えてきたな!
次の一撃がどちら側にも放てる状況を創りだしておいての水月は流石に躊躇いが生まれた。ギリギリでシンシアさんの左手側に半回転して躱したのだが、それを読んでいたらしくがしっと右手首を握られてしまった!? だけど、脇を擦り抜けた剣はまだ眼の前にある。勝機!
「「「あっ!!!」」」
自由な左手で剣を握るシンシアさんの右手首を握りそのまま僕の方に引っ張ると同時に、腰を落として僕の右骨盤をシンシアさんの股関節辺りに当て支点を作る。その時に右足は当然彼女の背中側で踏ん張ろうとしている。
シンシアさんの表情がしまった! と変わるがもう遅い。骨盤で支点を作り出してる間に持たれた右手首をシンシアさん側に持ち上げて彼女の肘が曲がるようにし、そのまま剣側の右腕を僕の方に引きながら左腕でラリアットするようにシンシアさんの左肩に押し当てると後は重心が動いて。
「くうっ!」
ガシャン! という鎧の音と共に地にシンシアさんは仰向けに転がっていたのだった。
「僕の勝ち……ですね?」
「「「〜〜〜♪♪♪」」」
「…………」
呆然と空を見上げる彼女の美しい金色の瞳が湧き上がってきた涙で歪む。つぅ〜っと目尻から零れ落ち地面を濡らし始めた。わわわわわ! 泣かせちゃった!? 女の子相手に本気出したから!? どうすればいいの!?
ヘルプを求めて3人に慌て振り向くが3人とも変なジェスチャーで自分でなんとかしなさい的なサインを送ってきた。おいおい!
「あ、あの、シンシアさん?」
「――たのに……」
「え?」
「誰にも負けたことなかったのに……」
「え、あ、うっ。その」
「男も女も関係なく勝っててきたのに……負けた――ぐすっ」
オタオタする僕には全く気づいてないかのようにシンシアさんは泣きながら呟くとムクリと上半身を起こし、ぺたんと鎧を着たままアヒル座りをするのだった。関節柔らか! というか、鎧の可動域もすごくない!?
「わうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 負けちゃったよぉぉぉぉ!!」
「えええぇぇぇぇっ!!」
「マスターが女の子泣かせた!」「「泣かせた!」」
「はぁっ!? いやちょっと待ちなさい君たち!」
先程までの威厳は何処へ行ったのかというくらい可愛らしい言葉遣いで号泣を始めてしまったシンシアさん。そして弄られる僕。
「だってマスター全然手加減しなかったでしょ?」
「うん」
「遠慮無く投げ飛ばしてましたよね?」
「うん」
「攻撃受けてませんでしたよね?」
「はい」
「「ルイ様「マスターが悪い!」が悪い!」」
そんな3人が声を揃えて言わなくてもいいじゃない。でもこうでもしなきゃ延々戦う羽目になってたんだよ? 3人の指摘にしょぼんと肩を落とす僕。
「この度は許して差し上げますから、シンシアさんをぎゅっとしてきてくださいませ!」
「そうです! それしかないですよ、マスター!」
「リンは可愛がってもらえれば何番目でも大丈夫です!」
おいこら、そこ趣旨違ってるだろ!? じ〜っと3人を半眼で見渡すのだったが、しっしっと3人に両手で急かされてしまう。はぁ〜あんまりこのパターンで絡みたくないんだけどな。ぼりぼりと左手で頭を掻きながら未だに泣き止まないシンシアさんの正面に来て両膝立ちになる。
そのままゆっくりと全身鎧に身を包んだシンシアさんの上半身をぎゅっと抱き締めるのだった。
「ふぇぇっ!?」
なんとも気の抜けたような声がシンシアさんの口から漏れる。
「ごめんなさい。シンシアさんを泣かせたいからしてたんじゃないんだけど、泣かせちゃっとことには変わりないもんね。でも、女の子であれだけの剣捌き体捌きができるのはいっぱい頑張ってきた証拠ですね。尊敬します」
「あわわわ! あの、え!? えっ!?」
この時、シンシアさんが黒竜であることをすっかり忘れてしまっていた僕達はこの決定を後悔することになる。
ガラン
ぎゅっと抱き締められている状態にパニクっを超したシンシアさんが身動ぎしたために兜が外れて地面に転がることになる。金髪の中から生え出た見事な黒い角は鎧とマッチして違和感がなかった。なので、角の事は何も考えずに僕はぽふぽふと彼女の頭を撫でてしまったのである。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁっ♪」
シンシアさんとは思えない可愛らしい声にくすりと笑いつつ腕の中から彼女を開放してあげる。うん、もう泣き止んだみたいだね。良かった良かった。 ん?
顔を真っ赤にしたシンシアさんの上目遣いにふと気が付く。あれ? 僕何かしちゃった? の? ギゼラ?
見るとギゼラは右手で顔を覆いながら首を傾けて眼を閉じていた。「あちゃ〜」って口が今動いたよね? 動いたよ? ギゼラ! 僕何したの!? アピスとリンは何のこと? 的な表情だ。つまり、何かしらしでかしたことになる。
「ル、ルイ殿」
「はいっ!!」
シンシアさんの呼掛けに思わず声を裏返らせて返事をしてしまう。
「ルイ殿は今わたしの事を女の子と言われたのですか?」
「はい、言いました」
「わたしは黒竜なのですよ?」
「そ、そうですね」
「なんとも思われないのですか?」
「う、そ、その。何とも思わないというか、僕の眼の前に居るのは全身鎧を布の服のように着こなすちょっと変わった女の子ですよね?」
「わたしに聞くのですか?」
「ううっ、ごめんなさい。あと美人さんです」
「〜〜〜〜〜〜♪」
「でた、ルイ様の魔物誑し攻撃」「「え?」」
そこ、聞こえてるよ。ギゼラの呟きにアピスとリンが反応する。3人で顔を寄せてこそこそと密談を始めたのだが、アピスが「あ〜わかる〜♪」とか言ってるところを見ると今の一言の解説だろう。リンもうんうんと頷いている。
照れているシンシアさんはやっぱり可愛かった。美人さんには笑顔がよく似合うというのは異世界に来てからの僕の哲学になりつつある。まぁ実際そうなのだけど、美人率が高いのは何故だ? そういう世界なのか? それとも魔物には美人さんが多いとか。
「竜族には掟があるのです。生涯で初めて角を晒した者に頭を撫でられたのならばこれに仕えねばならぬ、と」
「え? は? はぃっ!? いや、死霊さんにも触られたよね?」
シンシアさんの一言に耳を疑う。最近耳が遠くなったかな? 何その取ってつけたような掟。今咄嗟に考え出したんじゃない!?
「あれは違います。角には触られましたが、こうやって角を晒してはいません。それに、撫でてもらえるとこんなに心地良いものとは思いませんでした」
と頬を赤らめるシンシアさん。可愛い。というか、整理してみよう。兜を落としたのは僕が抱き締めたからで、その後確かに頭から角が生え出てるの見たよね? 見たけど頭を撫でたよね? 僕。
「――えっと……誰に仕える……と?」
「――不束者ではございますが、宜しくお願い致します。主殿」
「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」」
正座をして頭を下げてくるシンシアを見て3人が一斉に声を上げた! こんな展開になるとは思っていなかった! というのと、また増えた! 的な響きを含んだものがあったような気がする。
「か、確認だけど、その状態でまた誰かに撫でてもらったらその人に仕えるの?」
「いえ、生涯一度だけです。わたしは今まで兜を人前で脱いだことがありませんでしたから。それに主殿はわたしよりも強い。そんな御方にお仕えできるのです。もう他には望みません」
にこりとするシンシアさんの笑顔の向こうに“森”で待つ皆の顔が見えた気がした。なんて説明しよう。ディードは辛うじて面識あるけど、アピスにリンにシンシアさん。ハーレム作る気はないんだよ? いや、男の浪漫であることは否定しないしラノベにこんな展開があったのは知ってるけど。いや〜これはないでしょ。
「主殿?」
「え? ああ、何でも無いです。そもそも僕がしたことには変わり無いですもんね。頼りない男ですがこれからよろしくお願いします」
「はい! その、夜伽もがんばります!」
「いや、そこは置いておこう!」
「そうです!」「わたし達だってまだしてもらってないのに!」「です!」
「そうなのですか? その、女性がお嫌いなのですか?」
「いや、断じて違う! 僕はノーマルだから! 普通に女の子に興味はあるし、仲良くなりたいと思ってるし、人並みに色欲もある! ただ、今じゃないってこと!」
な、何を言わせるんだぁぁぁ!! キッと3人を睨むがささっと視線を外されてしまった。こいつら。
「良かったです♪ 可愛がってくださいね、主殿」
にこっと笑うシンシアさんの笑顔にはかなりのダメージを受けることが分かった。このままではむっつりだと思われてしまう。いや待て、まだその時じゃない。ふと見るとリンがうっとりとシンシアさんの角を眺めていた。
「いいなぁ〜♪ 角。綺麗だなぁ〜」
「ふふ。角には力が宿ると言われて恐れられるものだが、綺麗と言われたのは初めてだ」
その言葉にふと思いつく。
「ねぇ、リン。竜の角じゃないけど、ツヴァイホーンの角持ってるからシンシアさんみたいに頭につけてあげようか?」
「え? ルイ様本当ですか!?」
「主殿、さん付けは止めていただきたい」
おっと口調の戻ったシンシアさんの一言はどきりとするね。リンが嬉しそうに梟頭をずいっと近づけてくる。うん、近いよ。リン。
「え、あ、分かった。シンシア、でいい?」
「はい♪ 主殿♪」
あうっ!そのキラースマイルはきついね。ツンデレなのか、クーデレなのか、その辺りに疎い僕には分類がよくわからない。でも笑顔が素敵です♪ 嬉しそうにぴぃぴぃと喉を鳴らすリンを抛っておいてアイテムボックスからツヴァイホーンの角を2本取り出す。シンシアと同じ位置くらいに付けてあげるとおそろいに見えるよね?
「シンシア、角の生え際見せてもらうね?」
「え? あ!? ふぁぁぁぁぁぁぁっ♪」
唐突にシンシアの頭を撫で回す。というか生え際の位置を確認しようとわしゃわしゃと頭の両側を触ったのだけど、シンシアには刺激が強すぎたようだ。でも御蔭で分かった。
人の頭の上半分の骨は前頭骨と頭頂骨が2つ後頭骨の4つからなっている。簡単に言うと、耳の上辺りから亀裂が入ってそこから前頭骨と頭頂骨に分かれてるのだけど、ちょうどその辺り頭頂部に近い辺りから2本の角が生え出ていたのである。眼の延長線と耳の延長線が交わったとこと言っても良いかも。
梟の頭蓋骨は人のそれとは形が違うのだが、基本的に構造物としての意味合いは同じなので同じような位置につけてみることにする。僕の腕を【融合】してみた時も全く変化がなかったから今回も多分大丈夫だよね?
「じゃあ、リンこっち来て」
「はい、ルイ様♪」
「主殿は何をするつもりなのだ?」
「マスターは変わったスキル持ちなので内緒にお願いしますね?」
「いずれは話してくださると思うので、それまでは辛抱してくださいね」
「うむ。分かった」
そんな会話を耳にしつつ角を生やしたい位置に置き角度を整え【融合】と念じるのだった。ピカっと閃光が走り去った後には梟頭に2本の角が見事に生え出ていたのである。
だが――。
ぴこん♪
音と同時にリンの頭の上に光り輝く輪が現れて、一瞬で消えていった。
「あ――」
最後まで読んで下さりありがとうございました。
合気道の動きを文章で表現する難しさを知りました。
技名だけだとピンと来ないのに、文章でもピンと来ない……。
難しいですね……。
ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見やご感想を頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します♪




