第43話 雪辱
2016/3/30:本文修正しました。
2016/12/4:本文加筆修正しました。
2017/11/4:本文段落調整し、加筆修正しました。
「さて、ゆっくり味わわせていただきましょう」
「僕を吸っても美味しくないですよ。【鑑定】」
《【鑑定】出来ませんでした》
◆ステータス◆
【名前】ダグレス
【種族】スペクター / 不死族 /
【性別】男
【称号】スペクター・ロード
【レベル】500
【状態】日照弱体化(30%↓)
【Hp】281,700 / 375,500(-93,800)
【Mp】675,000 / 900,000(-225,000)
【Str】450/750(-300)
【Vit】430/730(-300)
【Agi】716/956(-240)
【Dex】616/821(-205)
【Mnd】848/1133(-285)
【Chr】335/446(-111)
【Luk】236/316(-80)
黒竜はダメか。あれ? スキル欄が出てない。レベルが同じだと見れる部分も限られるってことか? スペクター・ロード。僕と似たような称号だな。ただの死霊なら陽の下に出た時点で消滅してても可怪しくないのに耐えれたというのはこういうことだろう。
「くくくっ。それはわたしが判断することです」
【鑑定】されたことに気付いて無いようで、ゆっくりと上空から降りてくるダグレス。嬉しそうだな?
「きっと吸わなきゃ良かったって思いますよ?」
「くはははっ。その状態で何を言っても強がりにしか聞こえませんね」
黒竜の手に抑えられて藻掻く僕を楽しそうに眺めながらダグレスが舌舐めずりをする。どうやら吸収をする時は快楽物質が出てるような感じだ。僕には全く感じられなかったけど。生霊とは言っても僕の場合完全に規格外品だからね。本来アンデッドたちに備わっている感覚というものがないのかもしれない。個人的には喜ぶべき点だけど。
「貴女たちも後で吸って上げますからね」
「「「お断りです!」」」
3人がキッとダグレスを睨み返す。
「くはははは。皆、貴方に似て強気ですね。これから愛すべき人が変わり果ててしまうというのに」
「そこが良いんですけどね。 でも、なんとか吸われない方法がないかと頭を使ってるとこですよ」
「どれくらい掛かりそうですか?」
「明日の朝まで」
「無理ですね。交渉決裂です」
「う〜ん、ちょっと手だけでも動けばいいのにな」
その声が聞こえたのか、黒竜が体を揺らす。その表紙に手の圧力が少しだけ和らいだ事が僕にだけ分かった。ありがたい。ダグレスは気がついてないようだ。自分の優位性を疑っていないのだから気が付く訳もないというのが本当の所だろう。
「あ〜最後に1つだけ質問しても?」
「くくくっ。良いですよ」
「北の魔王様のお名前を教えていただけませんか? 誰の礎になって死ぬのかを知っておくのも粋だとは思いません?」
ここに来てまだそれを聞くのかという顔になったが、ダグレスはすぐに笑みを浮かべた表情を作るのだった。
「魔王ベルキューズ様です。これでお別れですね。貴方を子飼いにとも思いましたが、そうすれば喉元を喰い千切られるのはわたしになってしまうでしょう。貴方はここで始末すべき存在です」
「過大評価ですね」
「竜を投げ飛ばせる人間など生まれてこの方聞いたことも見たこともありません。闇魔法もどういう訳か効かない。適正な評価ですよ。ではお別れです」
僕の諂いにダグレスが冷静に答えながら腕を伸ばしてくる。何処だ?体の何処に触る?額か!?肉体は着けてるけど本来は生霊なんだから掴めるはず!額に向けてダグレスの指先が伸びてきた瞬間その手首を僕は左手で掴んてやった。
「なぁっ!?」
「【汝の力倆を我に賜えよ】! 【汝の研鑽を我に賜えよ】!」
と立て続けに吸い取ってやる。恐らくそんなことも気付かないほど霊体の自分の腕を掴まれたという事実にパニックを起こしていることだろう。
「僕は特異体質でして霊体に触れるんです。言ってませんでしたか?」
「そんな莫迦な!?」
「ダグレスさん、貴方には悪いですがこのまま逃げられると僕も困った事になるので見逃せません。成仏していただきます。黒竜さん、多分もう自由のはずです。この手を外していただけますか?」
ガラッ ガラガラッ
ダグレスの驚愕を余所に黒竜が自分の意志で僕の上から手を退けてくれた。鋭い爪に刺さっていた石などが落ちてガラガラと音を立てている。その様子を見たダグレスが慌ててなんとかしようとするが、何を言って良いのかさえ分からなくなっていた。それはそうだろうスキルを吸い取られたのだから。
「形勢逆転、だな」
「くそっ! 何故従わん! お前もだ!」
手首を掴んだまま立ち上がる僕の顔へダグレスが掴まれてない右の掌を被せてきた。吸われるか!? と思ったのだったけど、スキルを完全に吸いとったのか抵抗できたかで全く吸収の影響を受けなかったのだ。
「何かされましたか?」
「なっ!? 吸収できないだと!? そ んな事が!」
「【汝の露命を我に賜えよ】」
逆に吸い取っておく事にする。聖魔法で消滅させるにしても体力が沢山あれば抵抗されないとも限らないからだ。ん?
エナジードレインでダグレスのHpを吸っていくと更にその半透明の体が透けていくのだったが、心臓の辺りに七色に輝く拳大の水晶玉のような物が目視できるようになったのだ。思わず自由な右手を胸の方に伸ばしてゆく。
「待て! 待ってくれ! それは! それだけは見逃してくれ! 500年掛けて漸くここまで育てたのだ」
「――僕はまだしも、この黒竜やあの娘たちも見逃すつもりがありませんでしたよね? そんな都合の良いことが罷り通るとでも?」
焦るダグレスだったが僕の手を止める手立てもなく、それは取り出すことに成功した。前にエリザベスさんの屋敷で遭遇した生霊は200年と言っていたけど。現に吸収してもこんな水晶玉のような物はなかった。200年位では生成できないということかな?
どくん!
水晶玉のような物が右手の中で脈打つ。まるで取り込めと言ってるかのように。そのまま体に埋め込むのは危険な気がしたので吸収してみることにした。
「や……やめてくれ。お前は何者なのだ。本当に人なのか――?」
「【汝の露命を我に賜えよ】。くっ!」
「あぁぁぁぁ!! わたしの魔核がぁ!!」
手の中から体にエナジーとして吸収されたのだが、体の中で一瞬焼けるような熱が走り回ったような感覚を覚えた。それを見たダグレスが半狂乱になる。悪い気はするけど、食うか食われるかが分かったうえで仕掛けてきたのだから仕方ない。
「悪いね。全部もらっておいたから成仏してください。【浄化】!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
閃光と共に死霊の体が空中に消え去って行く。よし、あとはクライさんの遺体だ。死霊の落とし子って言ってたね。と言うことはアンデッドだろうからこれも成仏させておこう。
「皆、終わったよ! あとはクライさんの遺体を【浄化】しておかなきゃ。何処かに転がってるはずだけど探すの手伝ってくれないかな?」
「はい、マスター♪」「「は、ルイ様♪」」
グルルルルルル……
「「「あっ!」」」
黒竜の唸り声にその存在を思い出した3人の足が止まる。そうだった。僕も完全に失念してた。
「多分、もう何もしてこないはず。大丈夫。先に処理をしてからだよ、皆も手伝って!」
「「「はい♪」」」
グルルル…… ー 感謝する。そして本当にすまなかった ー
竜語は普通に耳にすると唸り声と変わらない。自動翻訳がなければ意思の疎通もできなかったに違いないだろう。クライさんの遺体を探しながら頭の辺りをウロウロしているとそう言葉が聞こえてきたのだ。
戦闘中に頭に響いてきた言葉とは違う感じがする。
ー そこは僕じゃなくて、あそこの梟頭の女の子に言うべき言葉じゃないかな? 何と言っても貴女の爪で瀕死の重症だったんだから ー
ー そうか。あの時の少女か。生きていてくれたのだな ー
「ルイ様ありました! まだ動こうとしています!?」
黒竜との会話にアピスの声が割り込んで来る。彼女のいる方を見ると黒い塊が動いているのが見えた。
「すぐ行く!」
まずは後顧の憂いを断っておかないと後が大変になる。黒竜もこの場から動こうとしてるように見えないから遺体処理を優先させることにした。
アピスの立っている処に近づくと体が腐って崩れ始めているクライさんが居た。もう意識はないだろう。このまま放っておけば死霊が言っていたように屍餓鬼へ変質しかねないので【浄化】の魔法を掛けて塵に戻すことにする。
ダグレスの時のように閃光に包まれた後は灰の山が出来ていたのだが、一陣の風に吹かれれるとサラサラとその形を変えていくのだった。これで一見落着。あとは……黒竜の方だね。そう思って黒竜の方に振り返ろうとした瞬間【浄化】の時より眩しくて強い閃光が辺りを包み込む!
「わっ!」「「「きゃっ!」」」
閃光が晴れて視力が戻るまで1分とかからなかっただろう。でも感覚的にはもっと長く感じた時間が過ぎ去った後、そこに佇んでいたのは漆黒を基調に金の縁取りの意匠が施された全身鎧に身を包んだ金髪の美女だった。左手にはほぼ全身を覆えるかのような大きな西洋凧風の盾を持っている。
それが女性用であることは、胸の膨らみに合わせた曲線が見受けられたり腰鎧がミニスカートを思わせるような装甲の組み合わせであったり、足鎧の踵がハイヒールになっていたりするのを見れば一目瞭然だ。どれにも金の縁取りの意匠が施されているので威圧感よりも高貴さを感じさせるものとなっていた。
兜の面はなく、美しい顔と長い金髪がよく見れる。ただ、兜の頭頂の部分から左右に下がったところから角が背中の方に長く生え出ていた。
「綺麗……」
誰? って声の主を探すとリンがその姿を見てうっとりしていた。梟頭なので厳密にはわからないがそんな雰囲気を醸し出していたと言ったほうが良いだろう。うん、金髪美人と全身鎧という組み合わせは絵になるね。でも、相当重いと思うんだけど。そんなことを思っていると彼女の眼が開いた。
「ふぅ、久し振りにこの姿になるのだが、言葉は分かるだろうか?」
「えっと……黒竜さん?」
「うむ。竜のままでは会話もままならぬと思ってな。この度は助けていただき感謝している。本当にありがとう」
金髪の美女がそう頭を下げてくれた。その動きに|全身鎧がガチャガチャと存在をアピールしている。
「いえいえ、もののついでと言いますか。目的と言いますか」
「わたしを討伐に来たのではないのか?」
「依頼ではそうなってました。ここに居る鳥人のリンや彼女の仲間が襲われて、収める税が払えなくなっているので原因を突き止めて討伐して欲しいと」
「ふむ……その言い方では乗り気ではないようだが? いや待ってくれ、その話の前に一言言わせて欲しい」
金髪の美女はリンの方に向き直ると改めて頭を下げたのだった。
「すまない。操られていたとはいえ、君たちに襲いかかったのは紛れもなくわたしだ。君にも深い傷を負わせてしまった。申し訳なかった」
「……」
リンは只々その立ち振舞を凝視していた。謝罪を受け入れるということではなく見蕩れていたのだ。それには気が付いたのだけど敢えて言わないことにした。見蕩れていると言う事はもう心の中では赦しているという事だ。憎しみを未だに抱いているのなら殴りかかっていたに違いない。そして黒竜はそれを甘んじて受けれたことだろう。
「えっと、まずは自己紹介からだね。僕はルイ。ルイ・イチジク。そして濃い水色の髪をしてる彼女が」
「ギゼラと申します」
「こちらの黒髪が」
「アピスと申します」
「今話しかけた鳥人の」
「あ、リンです!」
「シンシアだ」
僕の紹介で3人が一歩前に出て軽く会釈するのだったが、リンはしっかり90度の角度まで瞬間的にお辞儀してすぐに笑顔をシンシアに向けるのだった。笑顔であろう表情を。
「僕達がここに居るのは山の上にある王宮に人質を取られてるからなんです。人質の命が惜しければ問題を解決してこいと言われたんですが」
「ほう」
僕の説明にシンシアさんの双眸が細くなる。仲が悪いって言ってたもんね。
「先程その原因を成仏できたので、シンシアさんと戦う理由がなくなったんですよ」
「――そうなのか」
何だろ? 残念そうな表情に見えるんだけど。
「はい。鳥人たちがこの洞窟に入ってきてシンシアさんに危害を加えることなど有り得ないでしょうし、逆にシンシアさんが操られていた時のように暴挙に出ることもありませんよね?」
「うむ。それはそうだな」
「……でも何だか釈然としてない様に感じるのは気のせいでしょうか?」
「――そう見えるか?」
「はい、物凄く」
「……」
「ものは試しですが、言うだけ言ってみますか? 無理な事であれば無理と言いますし」
そう言って僕は後悔した。明らかに表情が明るくなったのだ。ちらりとギゼラに視線を流すと首を左右に振っていた。やっぱりか。
「では、ルイ殿。わたしと戦ってくれ!」
「嫌です」
「何故だ!」
「戦う理由がありません」
「わたしにはあるぞ!?」
「どんな理由ですか?」
「竜であるにも拘らずわたしはルイ殿に投げられた! この辱めは雪がなければならん」
「では僕が投げられればそれでいいんですね?」
「それは違う! お互いに正々堂々と戦わねば意味がない!」
はぁ。これはギゼラより何倍も面倒だぞ。さすが上位種。っとそんな事で感心してる場合じゃない。押し問答で正直眩暈を覚えたけど、相手をしないと前には進めそうにない雰囲気だ。態と負けたいところだけどそれじゃあ納得してくれないだろうね。
「はぁ、わかりました」
「本当か! 感謝する!」
「マスター本気ですか!? 相手は竜なのですよ!?」
「心配してくれてありがとう、アピス。でも、こうしないと話が前に進まないんだ。ギゼラはこうなると予想してたみたいだけどね。まぁ、転んでもただは起きないよ。シンシアさん」
「何だ? ルイ殿」
「僕がシンシアさんと戦えばシンシアさんの雪辱を果たせる事になりますよね? 逆の場合、僕には何の利もこの戦いにはないんですが」
「ふむ。確かにその通りだな。では、ルイ殿がわたしに勝てた場合わたしが守ってきた宝をすべて差し出そう」
僕の問掛けに少し考えたシンシアさんは突拍子もない事を提案してきた。いやいや、誰がどう見てもバランス悪すぎでしょ? それに僕が勝てない事前提で言ってません?
「それは公平さに欠けるのでは?」
「構わない。元々それがある所為で狙われたのだからな。では殺ろう!」
はい?
今「殺ろう!」ってなってませんでした!?
ギゼラ!?
「……」
慌ててギゼラの方に振り向くと悲しそうに頷いてくれました。おぃぃぃぃぃぃぃ〜!!
「はぁ。皆巻き込まれないように下がってね。勝負の判定はどちらかが負けを認めるか戦えなくなるか、でいいですか?」
「うむ。依存ない!」
こっちは大有りだってぇの!
皆が距離を取ってくれたので僕はシンシアさんと対峙する形になる。
「ルイ殿。武器は?」
「無手が僕の流儀ですからお気遣いなく。ただし、負けた言い訳にはしませんから」
そう言って僕はにこりと笑った。久し振りの緊張感だ。シンシアさんの剣の力量は相当なものだろう。佇まいから違う。本気で行かないと大怪我するね。魔法の武器だと僕自身も怪我するわけだし。
「ふっ、ならば遠慮無く参る!」
右手に握られた黒光りする刀身の長剣が静かに抜き放たれる。右半身に構えた佇まいから横薙ぎに剣が襲いかかって来る。大きく距離を開けると防戦一方になるので出来るだけギリギリで躱し、チャンスを待つ。
右薙ぎを半歩下がって躱し、その流れで襲いかかる左切上げの刃を右に半歩回転して躱す。
逆袈裟から盾殴り《シールドバッシュ》を左に半歩回転して躱した処に、逆風で仰け反る。これだけでも10秒と経ってない攻防だ。
「「「……」」」
観客と化した3人の口がポカリ開いている。こら、手で口を隠しなさい。
シンシアさんを見ると凄味のある笑顔が張り付いていた。
怖いはっ!
間髪入れずに間合いが一瞬で詰められ、刺突が水月に放たれる。ここしかない!
「ぐっ!」「なっ!?」「「「あっ!!??」」」
刃先が水月に届いた瞬間に体を右に半回転させシンシアさんの握る剣の柄を右手で握り、左腕を彼女の顎の下に差し込みながら左足を踏み込んでいる右太腿の裏に差し込む。
シンシアさんの重心は突きを放ったために前に行ってる。
そこから左腕で顎を持ち上げ重心を崩し、左足で左足の踵を払えば自然に重心が後ろに移り倒れてしまう。あとは奪った剣で喉元に突きつければ終わりだ。10秒とかからない。
ーーーー太刀取り。
「僕の勝ち……ですね?」
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