第42話 黒竜
2016/3/30:本文修正しました。
2016/7/1:本文修正しました。
2016/12/3:本文加筆修正しました。
2017/10/20:本文魔法名の修正を行いました。【ストーン→ロック】
2018/10/2:ステータス表記修正しました。
-すまない……。すまない……。頼む。逃げて……-
息吹の闇属性を吸収しながら手が炭化し始めてる僕の耳に声が届いた。いや、頭の中に、と言ったほうがいいのか? というか、そこはこれを乗り切った後!
「アピス! 土魔法で僕の前に石の壁造れる!?」
「はい! 石よ。疾く来たれ。来たりて集い遮る壁となれ。【嵒石の壁】!」
ぐぐぐぐっ
魔法の発現と共に地面が盛り上がり始める。両肘まで炭化した頃にアピスが造ってくれた【嵒石の壁】が黒竜の息吹を遮ってくれていた。
「ふぅ〜。ありがとうアピス。御蔭で消滅しなくて済んだよ。まさか闇属性と火属性の掛合わせ息吹とは思わなかったから」
「マスターが消えたら困ります!」「よくもルイ様を……!」「……」
僕の呟きにアピスはしがみつき、ギゼラは黒竜を睨みつけ、リンは顔を伏せていた。初めて目の当たりにする息吹に腰が引けたのだろう。ブスブスと岩の壁から焼けた音が小さく聞こえてくる。壁は防御として申し分ないが視界が遮られるため相手の動きをすぐに確認できないのが欠点だ。
【治癒】
何かしらの動きがある前にこちらも動けるようにしておく。両腕の炭がパラパラと塗りつけた泥が乾いて落ちるかのように足元に落ちて綺麗な肌が顔を出した。
「ふふふふ。わたしが見込んだだけのことはあります。やはり耐えましたね」
「死にかけたけどね。約束通りカラクリを教えてくれるんだろ? 日光に当たっても平気な理由を」
「そうでしたね。死霊は己が殺したものを死霊の落とし子として憑依できるのです。憑依せずに放っておけば屍餓鬼になりますがね」
「――憑依してくれてありがとう、と言いたいところだな。つまり、憑依している内は陽の下に出ても平気というわけだ」
石壁の向こうに悠然と佇む黒竜の頭の上に立つ鴉頭の鳥人がそう自信満々に語り出す。自分の優位性を疑わないのだろう。それもそのはず、成長した竜相手にたかだか人が3人でどうこうなる問題ではないのだ。
「ご明察」
だが話を聞いて思わず肩を竦めずにはいられなかった。あそこでこの死霊が憑依しなければ今後犠牲者は増える一方だったからだ。不幸中の幸いとはこの事だね。
「3人とも石壁から出ないようにね」
そう言って僕は石壁の前に立ち位置を移す。息吹を防げたとしても、物理的な暴力に長時間耐えれるほどこの壁は強くないのだ。
「それにしてもそろそろ名前を教えてくれてもいいんじゃないかな? クライさんとはもう呼び辛いし。それに僕の名前は知ってるのに僕は知らないって不公平でしょ?」
「ふふふふ。この状況でも軽口が叩けるとはね。良いでしょう。貴方が仕えるようになる者の名ですからね」
「まだ仕えるとは言ってないんだけど?」
「ふふふふ。まだ痛い目に遭いたいらしですね。やりなさい」
そう言うとぱしっとクライさんの遺体を操っている死霊が黒竜の右の角を叩く。20mは優に超える巨体はそこに居るだけで圧力になる。厄介だな。けど今ならーー。
グルルルルルル……
低い唸り声が黒竜の喉の奥から響いているが、どんっと左前足を一歩踏み出した瞬間!?
「【鑑定】。ぐふっ!!!!!?」
《【鑑定】に失敗しました》
「「ルイ様っ!?」」「マスターッ!?」
先程まで何もないのを確認していたはずなのに、体の右側からありえないほどの勢いで不意打ち打が襲い掛かり肋骨を砕き僕を吹き飛ばす。文字通り血反吐を吹き出しながら僕の体は中を舞い、地面を撥ね、ゴロゴロと転がって端まで飛ばされた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
アピスとリンの叫び声が耳に届いたがギゼラの声が聞こえなかったので安心した。大丈夫、ギゼラが居ればあの2人を止めてくれる。
「いったぁ〜……」
「なんと――あれで生きてるとは……。竜の尾撃ですよ? 貴方は本当に人間ですか?」
遠くでクライさんの声が聞こえる。その驚きの色を隠せない声をぼんやり聞きながら仰向けになるように体を動かす。ヒューヒューと喉が鳴ってるところを見ると肺に肋骨が刺さったのかな? と冷静に自分を診断し始めてしまった。内臓も、破裂してるのは間違いなさそうだ。肝臓周辺が特に。
かはっ
咳と一緒に血飛沫が地面を濡らす。黒竜の立ち位置が変わっているのが視界の端に見えた。そうか、体を回転させた一撃だったのか。それにしても切れのある一撃だったな。本体が肉体じゃないからなんとかなったけど、普通なら即死だぞ。【鑑定】が失敗? って事は死霊も黒竜も僕よりレベルが上か、【鑑定】を防ぐスキルを持ってるってことかよ!?
「【治癒】。ふ〜っ。死ぬかと思った。あ、えっと人間から少しだけ足を踏み外してるようで、少し頑丈さは自慢できます」
上半身を起こして胡座をかいて黒竜の方に照れ笑いを溢す。ちらっとアピスたちの方に目を向けると、ギゼラが2人の腕をがっしり抱えて頷いてくれた。ありがとう、ギゼラ。
「ふふふふ。これはとんだ拾い物です。わたしの名はダグレス。この黒竜と貴方を手土産に帰ればさぞ魔王様も御喜びになられることでしょう!」
【鑑定】が効かないならこの名前の真偽も確かめようがない。鵜呑みにするか。
「ダグレスさんね。悪いけど僕は静かに暮らしたいんだ。魔王様と関わりを持つなんてまっぴら御免なの。だから、僕たちもそこの黒竜も諦めて帰ってくれないかな?」
「なんですと?」
「だって嬉しそうに従ってるようには見えないよ? 何かしら魔法で縛ってるんじゃないの?」
「当然です。でなければ誰が竜など手懐けられるでしょう!!」
どうせ碌でもない方法で弱みに付け込んだんだろうけどね。気に入らないな。
「ギゼラ、アピス、リン」
「「「はい!」」」
「このクライさんの体がそっちに飛んで行く事があったら、絶対に触れないで遠慮無く魔法で吹き飛ばすようにね?」
「「「はい!!」」」
これでよし。あとはどうやって陽の下に本体を晒してやるか、なんだよな。
「確かに貴方の頑丈さと聖魔法の力は特筆すべきものがあります」
「それはどうも」
「しかし、その口の聞き方、気に入りませんね。誰が主人なのか思い知らせてやる必要がありますね」
「あ〜……一つ訂正しても?」
「何でしょう?」
「なんで僕がダグレスさんに見下されなきゃいけないのかな? そもそも、まだ虎の威というかこの場合竜の威しか借りてないんですけど。それでどの口が自分は強いと豪語してらっしゃるのでしょう?」
「ぐっ! 減らず口を!」
うん、怒らすことには成功したかな? あとはやれるだけやってみますか。
ぱんぱんとお尻の土埃を払い落して、コートを脱ぐ。だって破れちゃったら替えがないんだよ? アイテムボクスに居れてから僕は黒竜に向けて走りだす。距離はあるけど、黒竜が息吹を吐くことはもう少しないという気がしたのだ。ゲーム中での話であれば再詠唱時間があった。それに近いものがあるのでは? という感覚が体を動かしたんだ。
「【影縛り】! 【槍影】! 何故だ!? 何故当たらないっ!?」
ダグレスが立て続けに僕の体をその場に縫い付けようと魔法を唱えてくるのだったが、残念なことに僕の体は“闇吸収”体質になってしまっているので、闇魔法が当たろうが絡みつこうが一切影響ない。焦っている雰囲気が伝わってくる。焦りが周囲を見せなくさせて、横からの攻撃に対応できなくなるのさ。
「【嵒石の巨槍】!」
「ぐっ! 油断した!」
「!!?」
突如ダグレスの右側から巨大な岩の槍のように尖ったものが、鴉頭の鳥人の翼を抉り取って伸び止まる。慌ててその声の方を見るとアピスが両手を突き出してダグレスをキッと睨んでいた。
うまい。竜には当てずに狙うなんてやるもんだ。武術にしても料理にしても、実験や手術にしてもセンスがあるかどうかである程度伸び代は決まってくる。アピスはセンスがいいんだね。
「ありがとう、アピス! ギゼラとリンで上から押さえつけれそうな風魔法があれば打って!」
「「はい!」」
僕は走りながら2人に呼びかける。黒竜まであと15mと言ったところか。
「させません!」
「それはこっちのセリフだよ! 【聖光の槍】! 【聖光の槍】!」
仰け反らせれればそれでいい。立て続けに直径30cm程の光線がダグレスの体を掠り空に消えていく。横目で2人を見るとそれぞれ詠唱に入っていた。リンは空中で羽撃いている。
「【風打】!」「【風の潰圧】!」
「ちぃっ!」
ガァァァッ!!
仰け反ってバランスを崩したダグレスは黒竜の右の角に腕を回し落ちないように体を安定させようとするのだったが、その間に2人の詠唱が完結していた。普段は霊体であるはずなのだから落ちてもどおって事ないはずなのだが、なまじ肉体の感覚があるために落ちまいとする反射行動が次の一手を遅らせたのである。2人の放った風の魔法を嫌がってか黒竜も吠える。
「リン、ギゼラ、ありがとう! 壁の後ろに戻って!」
御蔭で黒竜との距離を0mにできた。その腹の下に潜り込もうとするのだったが、竜に嫌がられ巨大な左前足についた爪で体を薙ぎ払われそうになる。だが、尾の一撃に比べればかなり遅い攻撃速度だから次の手が打ちやすい。
「ちょっとごめん、よっ!!!」「なぁっ!!??」「「「ええぇっ!!??」」」
色んな感情が混ざった声が耳に届く。今それどころじゃない。
薙ぎ払いに来た爪をギリギリで竜の体側に内回転して躱しその手の一番近い指にしがみついたのだ。つまり左前足を振ったという事は重心が少し頭側に動いたということになる。どっしりと構えているなら無理だけど、動いてるなら。
一瞬体が浮いて一緒に前足の振り抜いた到着点まで持って行かれるのだったが、その慣性の法則を利用してしがみついた指を更に内転させて黒竜の足首に付加をかけ、黒竜の重心をそのまま前側に引っ張ったのだ。
僕の力と、黒竜の振り抜く力、それに慣性の法則が合気の技によって昇華され巨体を前のめりに転ばせる事に成功したのだった。前足を振り抜いて転ぶまで瞬きするくらいの時間しかなっただろう。皆が驚くのも無理はないか。
どぉぉぉぉおぉん
と地響きが周囲に響き渡り、周辺の森から鳥達が慌てて空に飛び出していた。ギゼラの時といい、体が大きい方が合気の効果が出た時の精神的ダメージは大きい気がする。相手側のね。こっちは見て分かるように3人の感歎と驚嘆の入り混じった視線を感じる。けど、千載一遇なのに黒竜の体に伸し掛かかられて身動きが取れないのだ。
なら。【解除】してまずは脱出。前足と体の隙間で【実体化】っと。
ー 人に投げられるとは。何者だ? ー
「それはあと! まずはあいつを! あれ? 居ない? どこだ? アピス【索敵】!」
頭の中に響いいてきた黒竜の言葉を突っぱねてぱしっと腹を叩いてから頭の方に駆け寄るのだったが姿が見えない。だったらとアピスに頼る。
「上です! 体がありませんが!」
「なっ! 死霊は陽の下に出ても消えないのか!?」
アピスに促されて即座に見上げると、半透明の男が黒竜の上に浮かんでいた。クライさんの遺体は諦めたのだろう。あとで処理しておかなくっちゃ。
「――よもやここまでとは……」
それはこっちのセリフ。死霊が陽の下で活動できるなんて聞いてない。
「可怪しいな。生霊は陽の下に出たら消滅しちゃうのに、なんでダグレスさんは大丈夫なんでしょうね?」
「ふん。死霊を陽の下に出て消滅する低級生霊と一緒にしてもらいたくないですね。力は落ちますが、消えることはありません」
そうなのか。一つ勉強になったね。今更どうしようもないのだから自分の体に関しては深く考えないことにした。【実体化】できてるんだからなんの不足もない。ただ……手詰まりであることには変わりないね。仮に【解除】して浮いたとしても逃げられるに決まってる。逃がすつもりは更々ない。
【ステータス】
◆エクスぺリエンスドレインプールLvMAX❶◆
【分類】パッシブスキル。常時発動中。エクスぺリエンスドレインで吸った経験値を幾らか貯めておくことができる。得た経験値は任意の項目に振り分けることができる。スキルレベルのないもの、既にレベルが上限に達しているものには効果がない。現在14873レベル分の経験値の貯蓄があります。利用されますか? はい/いいえ。
はい。
《どのレベルを上げますか?》
基礎レベルだね。沈黙しているダグレスを見ながら、チラチラとステータスをいじる僕。もっと落ち着いてる時にすればよかったといつも思うよね。
《何レベル分の経験値を移動しますか?》
ここでラノベのテンプレだと全部レベルにぶち込むんだろうな。レベル差がありすぎて【鑑定】出来ないのなら上げれば問題解決だ。それに後300レベルを上げれば******のスキルも顔を出すはず! という希望的観測! 他にも色々使いたいけど、余ったら考える! 一か八かだけどいってみよ! でなければ小出しに突っ込む!
《14873レベル分の経験値を利用されますか? はい/いいえ》
ここは、はい1択だ!
《300レベル分の経験値を 基本Lv200 に移動しました。これによって基本レベルが300上がりLv500になります》
「えっ!? 何それ?」
レベルが一気に14,000超えになるんじゃないの!? 予想外の出来事に独りで突っ込んでしまった。
《基礎レベルが上限に達したため、使用されなかった経験値はエクスぺリエンスドレインプールに再度プールされます》
oh……。基礎レベル上限ってそんなオチ要らない。つまり僕は500レベル以上現時点じゃ上げれないってことだぞ!? その状態でこいつらに勝てと?
「――何をしてるのですかな? そんな余裕がまだあるとはわたしも嘗められたものです。黒竜よ、この男を捕まえるのです!」
「うわっ!」
どぉぉん!
ダグレスの命令で黒竜の手が動き上から押さえつけられる形で地面に叩きつけられてしまう。爪が地面に食い込んでいるようなので身動きは取れない。ドレインで乗っ取るつもりか。レベルの上限云々は今考えても仕方ないと割り切り、素早くステータスに眼を走らせる。あった!
【ステータス】
【名前】ルイ・イチジク
【種族】レイス / 不死族
【性別】男
【称号】レイス・ロード
【レベル】500(+300)
【Hp】327802/327802(+455504)
【Mp】1115034/1115034(+666600)
【Str】11901(+7140)
【Vit】11234(+6720)
【Agi】11345(+7076)
【Dex】8834(+5280)
【Mnd】8475(+5070)
【Chr】4713(+2820)
【Luk】3850(+2310)
【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、実体化Lv167、眷属化LvMAX
【アクティブスキル】鑑定Lv230、闇魔法Lv612、聖魔法Lv180、武術Lv151(New)、剣術Lv103、杖術Lv98、鍛冶Lv100
【パッシブスキル】闇吸収、聖耐性Lv192、光無効(New)、エナジードレインプールLv11、エクスぺリエンスドレインプールLvMAX❶、スキルドレインプールLvMAX❶、ドレインガードLv1(New)、融合Lv125、状態異常耐性LvMAX、精神支配耐性LvMAX、偽装Lv243、乗馬Lv146、交渉Lv261、料理Lv80、採集Lv112、栽培Lv156、瞑想Lv383、読書Lv308、錬金術Lv270
【パッシブスキル】で最後まで残っていた*****の欄に【ドレインガードLv1】の文字が見える。すぐさまプールのレベルを1000程突っ込むのだったが1だけしか残らなかったのは驚きだ。でも御蔭でレベルをMAXにできた。どれだけ抵抗できるのかは実践実証だ!
傍から見ると、なんとかして逃げようとしつつも無理だとわかって諦めたように見えただろうか。半透明の男が上から悦に入ったような笑顔でゆっくりと降りてくるのが視界に入ってきた。右手を僕に向けて差し出してくる。いいだろう。再度【鑑定】してやる!
「さて、ゆっくり味わわせていただきましょう」
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