表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 鷲の王国
40/220

第39話 種を残す

2016/3/30:本文修正しました。

2016/12/2;本文加筆修正しました。

 

 「「あっ!!!」」


 そして徐に顔を近づけてきたアピスの唇に僕の唇は塞がれてしまうのだった。柔らかい唇と差し込まれてくる別の生き物のような舌。恐らく一呼吸するくらいの出来事なんだろうけど……。僕には物凄く長く感じられたんだ。


 その隣りで上がったギゼラとリンの悲鳴の様な短い声が僕の耳にしばらく(こだま)していた――。


 はぁ


 唇が静かに離れて行き、唾液の糸がつぅっと卑猥に焚き火の光を反射させる。


 どのくらい経った? 横目でギゼラを見ると、涙目になって膨れっ面になっていた。そうは言うけど、これは不可抗力だよ?


 僕の腰の位置にコートを着たまま跨るように腰を下ろしているアピスは恍惚としており、正直綺麗だった。


 というか、キスだけだよ? キスで終わり? いや、ここで終わった事を喜べ、ルイ!


 キスされた事で気が動転してたけど、これまた結構吸われてるよ? 遠慮なく。経口摂取が必要なのか? それでキス? う、嬉しくないわけないけど。嬉しいけど。ねぇ?


 【ステータス】を確認してみる。Hpが169/127702まで減ってた。Oh……。慌てて【静穏(ペインレス)】を自分に掛けておく。これでひとまず大丈夫かな。


 「ア、アピス、何コート脱いでるの!?」


 正気に戻って自分の腰に跨るアピスの様子が眼に飛び込んできた。コートのボタンを外し始めてるのだ。いやいやいやいや、ここではまずいって!


 「あぁ~これでわたしも役目を果たせました!」


 恍惚とした表情のまま、アピスはそう声を張った。コートの前ははだけてるが下に着ている服まで脱いでいる訳ではなさそうだ。自分の胸の真ん中に両手を重ねて充てる所為でマシュマロが歪に押し上げられている。それにしても大きいね。ギセラもだけど、ジルとも良い勝負だよね。


 だけど、よくその部分に眼を凝らしていると、淡く優しい光が放たれ始めたではないか。え? 何? 何が始まるの?


 2,3分だろうか、胸から放たれる光が強くなっていくのに合わせて、重ねた両手が何かに押し退けられ僕の方へ押し出されてる気がする。


 ぼとっ 


 「うおっ!!」


 いきなり下腹部に結構な重さと衝撃に襲われる。1リットル入りのペットボトルをお腹の上に落とされたような感覚だね。うん、僕の息子と大事な宝玉は無事だ。見ると、アピスが嬉しそうに下着が見えるかどうかのラインまで服を捲くり、それ(・・)を取り出したのだった。


 「タネ?」


 「はい、マスター!これがわたしとマスターの愛の結晶です!」


 はぃぃぃっ!? キスでタネが出来る? キスで子供ができるという御伽噺(おとぎばなし)もびっくりだわ! ギゼラもリンも先程までの狼狽(ろうばい)はなく、眼の前に現れたアピスの両手に優しく握られた1つの種子を凝視していた。


 「そ、そのタネ」


 「愛の結晶です!」


 「う、うん、そのタ」


 「愛の結晶です!」


 はい、種と言ってはダメなんだね。この強情さは最初からブレないよな。


 「はぁ~、その愛の結晶は何なの?」


 「トレントの(たね)です」


 そこは(たね)って言っちゃうんだ!?


 「(しゅ)を残すって、こういうことだったの?」


 「はい。トレントは植物ですから、人や獣、魔物の様に胎を使って子孫を為す事はないのです。ですからすぐ済むと言ったのです」


 恥ずかしげにアピスさんが(うつむ)く。いや、アピスさんこの状態の方がかなり恥ずかしい姿勢なの気づいてないでしょ? 僕としは嬉しけど、そろそろ動かないと? あと、コートの前も締めようね?


 「アピス、いい加減にそこをどきなさい!」


 ほら。


 ギゼラが仁王立ちになってアピスをキッと睨みながら指差す。


 「貴女が(またが)ってる処は胎を使う為にルイ様が情けをくださる大切な場所なのですよ!」


 いや、合ってるけど、合ってるんだけどね、ギゼラ。注意するのはそこじゃないだろ?


 「わ、わたしとしたことが! 自分の事ばかりでマスターにお仕えする事を忘れておりました! どうぞこのまま」


 「ちょっと待ちなさい! 落ち着いて! ギゼラも今はそういうことは言わなくていいから!」


 慌ててガバッと起き上がり、アピスと抱き合うような形になるがすぐにアピスの両脇に手を差し入れてぐっと持ち上げる。先に立たせた後で僕も立ち上がり、腰やお尻に付いてるかもしれない落ち葉を払い落すのだった。


 話を戻さなきゃ後から大変なことになりそうなんだもん。アピスのコートの前ボタンをゆっくり掛けてあげる。まだ手に種を持ったままだから。


 「これ(・・)はどうするつもり?」


 「マスターに御預けします。マスターが良いと思われる地に埋めてください。そこで芽が出てやがてトレントに育ちます」


 そう言ってアピスは僕に種を手渡すのだった。そういう事ならと受け取るのだったが、ずしりと重さが手に伝わってきて改めて責任の重さを感じていた。後は、キスまではしないけど、ケアはしなきゃね。


 「アピスちょっと待っててくれる? あんな事しちゃったら皆気持ちを落ち着かせるのが大変なんだよ?」


 そう言って種をアイテムボックスに仕舞い、ギゼラをギュッと抱き締めてあげるのだった。キスはしません。物欲しそうに見詰めてくるけど、そこは御預け。リンはあわあわして「わたしは大丈夫ですから」と言いながらも、抱き締められると「ふわぁ~~♪」と悶えていた。可愛いね。


 「さてと、アピスも試していいよね?」


 「はい、マスター♪」


 アピスはにこりと微笑み頷いてくれるのだった。それを確認してアイテムボックスから左腕を取り出す。トレントの木を使って作られた木製の杖に肉を融合しても良いのだろうか? と思いながら、左腕を重ねて【融合(フュージョン)】と念じた。


 リンの場合と同じ様に閃光と共にアピスの腕の中に僕の腕が消えていくのだったが、どうなった?


 「アピス、ステータス見せてもらうね?」


 「勿論です、マスター!」


 僕はその答えに笑顔で応え【鑑定(アプリーズ)】と念じるのだった。


 【名前】アスクレピオス

 【種族】トレントの宝杖 / トレント亜種族

 【性別】♀

 【職業】導師

 【レベル】500

 【Hp】59024/59024

 【Mp】125500/125500

 【Str】13039

 【Vit】8262

 【Agi】4427

 【Dex】7021

 【Mnd】12299

 【Chr】5349

 【Luk】6018

 【ユニークスキル】共感増幅、鳥獣語、索敵Lv196、聴覚感知Lv271、剛力Lv283、具現化(人⇔杖)、手還転移

 【アクティブスキル】木魔法Lv500、地魔法Lv325、水魔法Lv239

 【パッシブスキル】木耐性LvMAX、地耐性Lv199、水耐性Lv208、火耐性Lv120、弓矢耐性LvMAX、状態異常耐性LvMAX、精神支配体制LvMAX

 【装備】絹のワンピース、絹の下着、ウルティオ羅紗のコート、ブーツ


 うん。アピスも1回目で着いたけど、なにこの(ハイ)スペック。本当に僕がマスターでいいの?


 「精神支配耐性は着いたけど、アピスは本当に僕がマスターでいいの? アピスは僕より遥かに強いよ?」


 そう言われる事を予期していたのか優しく微笑んでアピスは首を振った。


 「そうではありません。わたしの能力値はマスターのエナジーに依存しているのです。所有者認証時の時に大量のエナジーを頂きましたが、あの時わたしが満足出来るだけのエナジーがなかったなら最低限の能力しか顕現しなかったでしょう。今最大限の能力値で御側に居られるのはマスターの御蔭なのです」


 そうは言ってくれるけど、いつまでもここに居なくても良いくらいの能力には変わりないんだよね。


 「それに、今はそうかも知れませんが、近い将来わたしは足元にも及ばなくなるでしょう。その時にお前は用済みだと言われないように今から努力しているのです」


 「そんな事は」


 沈黙で答えた僕の眼を見ながらアピスはそう言った。僕が捨てる事はない。逆だ。僕が捨てられないように頑張らなきゃいけないのに。


 「それと、今わたしはマスターの一部を頂きました。これは今までなかった感覚です。これが今後わたしを大きく成長させてくれる切っ掛けになる予感がします」


 叶わないな。アピスだけじゃない。ギゼラもリンもディーも、今も“森”で待っていてくれてるだろう皆も僕とは違う意味で強い。逞しいんだ。僕は借り物の力がたまたまあっただけ。だからこの力で僕の周りにあるものだけでも守りたい、そう決めたんだけど。


 なかなか上手くいかないもんだ。


 「皆、まだ頼りないかもしれないけどこれからもよろしくね」


 独りじゃ何もできないことが多い。助けてもらわなきゃいけないことだってある。これからするドラゴン討伐だって敵うかどうかわからないんだからね。


 「はい、マスター♪」「勿論です、ルイ様!」「はい、ルイ様!」


 3人の返事で少し気が楽になった。


 「皆ありがとう。じゃあ、片付けて寝る準備しようか」


 僕はそう言って片付けに取り掛かる。使った木皿を重ねて集め、女性陣に寝床の準備をしてもらうようにお願いして鍋を火から外そうとしたその時だった。


 ぺきっ


 乾いた枝が折れる音が背後でする。


 「「「!!??」」」


 僕とアピスとギゼラがほぼ同時に振り向くが、そこにリンの姿がない。


 「リンは? リンはどこに行ったの?」


 「おしっこしたいから、って」


 ギゼラが僕の問いに答えながら、視界に入ってきた影に眼を奪われていた。勿論、僕もアピスも漏れ無く。


 『こんばんは、ルイ様。随分先に進んでおられたので探すのに手間取りましたぞ?』


 『へぇ? こっちは捜索願出してないんだけどね?』


 そこに居たのはリンの首筋に短刀を突き付けたクライさんだった。思った以上に早い立ち回りだったな。


 『……あまり驚いて頂けなかったようですね? 何処で気づかれました?』


 『強いて言えば、あの日(・・・)の狩猟班()全滅して生き残ったのはリンとクライさんだけだったという話を聞いた時かな?』


 『ほぉ? 興味深いですな。理由をお聞きしても?』


 『普段は一緒に行動しない狩猟班が行動を共にしていた。リンたちの採集班が(ドラゴン)に襲われた時点でなぜクライさんだけ(・・)で救出に行かなければならなかったのか。答えは一つ。どちらの班にも罠が用意されてた。そして、命を本来は失っていたぐらいの傷を負っていたリンに対し、クライさんは無傷。これは怪しんでくださいと言ってる様なものでしょう』


 僕はクライさんの問いに対し、出来るだけゆっくり丁寧に答えていた。それはギゼラとアピスが察して周囲の索敵をしてれるだろうと思ったからだ。こんな時にテレパシーみたいなスキルがあったら便利なのに。


 僕の答えを聞きながらクライさんの鴉特有の黒い眼が大きく見開かれていく。きっと驚いてるのだろう。嬉しいのも悲しいのも驚いているのも正直よくわからない。多分そうだろうと言うくらいなのだ。


 『素晴らしい。追い掛けて来た甲斐があったと言うものです。では今の状況がどういう状態なのか察して頂けますか?』


 『リンを人質にとってるね。それが何か? アピスかギゼラを人質に取るなら兎も角、リンを人質に取ってどれだけ有効と思ってるんですか?』


 『いえ、ルイ様は違います。これで十分効果がある。なんといってもご自分で癒された娘ですからね』


 『――やれやれ、御見通しという訳ですか……。それで開放の条件は?』


 その言葉を待っていたとばかりに鴉頭(からすあたま)(くちばし)の奥からカカカカと笑い声のような鳴き声が周囲に響き渡るのだった。自分の計画通りに事が進むのが楽しいのだろう。


 『これをルイ様の首に巻いてください』


 クライさんはそう言って自分の首に巻いてあった首輪を外し(・・・)、僕の足元に投げたのだ。【隷属の首輪】。確かそういう名前の呪具だったはず。無理に外そうとすると猛毒の呪いが発動する、そう説明にはあった。しかしそう言った状態になっている様には見えない。という事は。


 『初めから拘束されていた訳ではなかった、という事かな?』


 『御明察。その通りです。御蔭でかなりの信頼を勝ち取ることができました』


 『これを着けたらクライさんの言いなりだね。着ければ開放すると言うのは無理じゃないかな?どちらかといえば一石二鳥と言った方が良い』


 カカカカ


 クライさんの口からイライラさせる笑い声が響く。心做(こころな)しか眼が細められているように見えなくもない。


 『恐ろしお方だ』


 『お褒めに預かり光栄です。どうでしょ? やり方を変えては?』


 『と言うと?』


 『僕はリンを解放してもらいたい。クライさんは僕が手駒に欲しい。このままだとそれは無理。じゃあその後ろに隠れている人たちに僕の腕を片腕ずつ極めてもらい、クライさんが首輪をすれば?』


 『!! いやはや驚きましたな。そこまでお見通しとは。いいでしょう』


 「マスター!?」「ルイ様!?」


 僕の申し出にアピスとギゼラが近寄ろうとするのを眼で制した。


 「大丈夫。リンを頼むね? もしもの時は、最大級の魔法を僕に放つんだよ?」


 「そんなわたしなんかのためにルイ様が!」


 「リンも大丈夫。ギゼラとアピスが付いてるから、僕を信じてくれないか?」


 「……はい」


 喉元に短刀を突きつけられている状態でリンも気丈に頷いてくれた。さて、交渉はどうかな? クライさんの返事を聞く前にもう一度振り返って二人に微笑んでおく。多分大丈夫。


 パチン


 クライさんが指を鳴らすとガサガサと2人の黒装束の者たちが茂みから現れる。眼だけは見えるように黒い布が顔にも巻かれている。背中に翼がないところを見ると鳥人とりびとでも翼人よくびとでもないらしい。ただ、人の瞳の様な物はその双眸にはなかった。全体が深紅の単眼だったのだ。


 人外。僕が言うのもなんだけど。人の様な魔物? 明らかに造作が違うよね。


 『ではルイ様、まずはわたしの前に両手をついて両膝も地面に付けてもらえますかな?』


 『分かった。そのタイミングでリンを開放してもらえるなら抵抗はしない。これでどうだい?』


 『いいでしょう。それくらいで貴方が手に入るのならお安い御用です』


 交渉成立だ。まっとうなやつならこんな手を取ることはない。一時的に約束したように見せかせて「残念でしたなぁ」と言いたいタイプの人間だろう。なら逆手を取るだけだ。


 ゆっくりクライさんに近づき片膝ずつ地に付けていき両手も地に付ける。これで尻を足の方に降ろせば土下座スタイルの完成だ。だけど、今はそれが求められている訳じゃない。


 黒装束の者たちが僕の両側にやってきて、それぞれの腕を背中側に持ち上げ関節を極めた。うん、これは確かに動けない。それを見たクライさんがリンの喉元から短刀を離し、ドンと背中を押すのだった。


 よろよろっと前に出たリンは直ぐにギゼラの手に掴まれて僕と距離を置く。ありがとう、ギゼラ。幸い、焚き火の火が弱くなってきたのでそこまで明るさはない。【黒珠(ダークボール)】そう僕とギゼラたちの間に見え難い小さな珠を作り出し壁にする。


 それを感じ取ったのかギゼラがギュッとリンの肩を抱くのだった。


 クライさんが近づいて自分が投げた【隷属の首輪】を手にするためにしゃがむ。


 『どうせ後は何もできないんです。最後に一つだけ聞いてもいいですか?』


 『いいですとも。 わたしに答えられるものであればなんなりと!』


 勝ち誇った声であった。じゃあ聞かせてもらおう。


 『貴方は何処の魔王(・・・)(だま)されてるんですか?』









最後まで読んで下さりありがとうございました。

ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪


誤字脱字をご指摘ください。


ご意見やご感想を頂けると嬉しいです。

宜しくお願い致します♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ