第38話 案内人
2016/3/30:本文修正しました。
「あ~……夜が明けるね……」
「そうですね」「もう食べられません」
僕の言葉に、僕の腿を枕に横たわるギゼラとアピスが夢見心地で返事をしてくれた。アピス、それは寝言だろ? そんな反応にくすりと笑い、それぞれの頭を撫でてあげる。どこかで温泉とかあれば髪を洗って上げれるんだけどな。旅の間は無理か。ごめんね二人共。
「「~~~~~~♪」」
「さて、皆がまだ夢見心地のうちに出掛けるよ? ギゼラもアピスも起きて」
これ以上はここに愛着が生まれる。頭は鳥だが人間味あふれる鳥人たちを僕は好きになっていた。だから、別れをはっきりさせない形で去ろうと考えたんだ。
僕の気持ちを察してか、2人が体を起こす。さて、誰か一人だけでも案内役が見つかればいいんだけど。そう思って隣りに居たであろう村長の姿を探す。だが居なかった。仕方ない。
「ゆっくり村の入口まで移動するよ?」
僕の言葉に2人が静かに頷く。正直まで眠そうだけど出発した後でまた休めばいい、そう考えていた。
誰かに見咎められることもなく村の入口に辿り着いた時、そこに村長の姿を見つけた。どうやら見抜かれていたようだ。
僕たちの姿に気づいた村長がにこりと笑うように口開け軽く会釈する。その後ろにもう一人の人影が動いた。ん?
『やはり皆で話していた通りでしたな』
『ははは。読まれていましたか。湿っぽい別れと賑やかな別れは苦手なもので……』
村長の言葉を適当にはぐらかす。村長の頭は隼のそれであった。鷲や鷹に似た顔つきだがどことなく頭部が小さく瞑らな黒目が特長だ。その黒目が見透かすように僕を見つめていたのである。
『きっとルイ様はそうされるだろうから、くれぐれも宜しく伝えて欲しいと皆から頼まれました。ここはいつでもルイ様のお帰りを待っていると。できれば土産付きで』
『ははは、土産ね、次があればお酒を忘れずに持って来るよ。でも、順当に行けば帰り道にもう一度寄ると思うからその時は手ぶらでもいいかな?』
『勿論ですとも、ルイ様はいつでも歓迎いたします。土産がなくともね』
そう言って村長はクワクワクワと笑うのだった。そして、1人の少女を引っ張り出す。
『リン?』
『ルイ様、この子を案内人として付けます。どうか使ってやってください。自ら志願したのですから』
『え?』
『他の男衆たちが我こそは!と手を挙げてたのですが、家族持ちに危険なことは任せれない、自分なら一人だからと説き伏せたのです』
なんとも健気な……。そんな悲しいことを理由にしなくてもいいのに。そう思いながらリンの方に眼を向けるとモジモジしてた。ん?
『精一杯案内いたします。ど、どうぞか、可愛がってください!』
『は?』
『竜と遭遇した場所は勿論、この森の事にリンは詳しのです。きっとお役に立つことでしょう。それにリンはまだ未婚です。お情けを掛けて頂ければ幸いです』
「「それはダメです!わたしたちだってまだなのに、それを差し置くだなんて!」」
うん、そこでハモる必要はないよ? 最後の一言にずいっと前に出てくる2人。う~ん「まだなのに……」という事はそういう事なのかな? 嬉しいような、責任重大な。というか、君たち鳥人の言葉も分からないでしょ? 翼人とよく似た言語使ってるんだから。これが女の勘という物なんだろうか?
『わたし三番目でも四番目でも構いませんから!』
『いや、そう言う事じゃなくて』
『ルイ様はわたしのことお嫌いですか?梟の頭だから?』
『えっと、リン、そこから一回離れようか。僕はリンが梟の鳥人だからって差別してるわけじゃないよ?充分可愛いと思う。羽毛だって艶々してるしね』
そう言いながらリンの首筋を撫でてあげる。
『~~~~~♪』
「「あ、ルイ様!それがダメなのです!ほら、リンがもう落ちてしまいました」」
「え――?」
2人の言葉でリンを見ると、くるくると喉を鳴らしながら眼を閉じてるリンの姿があった。うん、僕は何もしてない。何も悪くない。ただ撫でただけだよ?
『お気に召していただけてなによりです。リンよ、ルイ様の事くれぐれも頼むぞ』
『あ、はい! お任せ下さい!』
村長の声に我に返るとリンは満面の笑顔だろう勢いで返事をしたのだった。鳥人の笑顔はいまいち分かり辛い。
こうして僕たちは水先案内人を得て、一路リンが竜に出会した場所に向かうのであった。リンが言うにはその場所まで3日の距離だとのことだが、翼も使っての距離だと言うので恐らく徒歩では5日はかかる距離だろう。
だけど、腑に落ちないこともある。村長の視野から完全に離れた辺りで僕はリンに尋ねてみることにした。
『ねぇ、リンたちが採集に出かけるときは沢山の人と一緒に出掛けるの?』
『いいえ、村から離れるので経験を積んだ人の中から選ばれた人しか出掛けれないんです。いざという時に逃げれないので』
『そっか~。その一人にリンは選ばれてたってことでしょ? 凄いね』
僕の言葉にリンが照れる。もじもじと体をくねらせるので分かりやすい。表情は読めないんだけどね。
『わ、わたしは夜目が利くので採集班の警戒役なのです。でもあの時は』
『あの時は、気付かなかった? 夜だったの?』
『……』
リンは多くを語らずに頷いた。暗闇とは言え何に襲われたのかくらいはその刹那に見えたはず厭な事を思い出させちゃったな。そう思ったとき自然と手が伸びてリンの首筋を撫でていた。
『辛いこと思い出させちゃってごめんね。ちょっと気になったことがあったんだ。もう少しこの話を聞かせてもらってもいい? それとも少し時間を開けようか?』
『~~~~~♪あ、大丈夫です』
眼を細めてくるくると喉を鳴らすリンに尋ねると、我に返って応じてくれた。歩きながらでもいいかな。ギゼラとアピスに視線を移すと無言で頷いてくれる。こうなると止まらないことを理解してくれてる証拠だ。ありがたいな。
『じゃあ、立ち話は時間の無駄だから、歩きながら聞かせてもらおうかな』
『は、はい!』
『採集班は選ばれた人って言ってたよね? いつも行く人は決まってたの?』
『はい。怪我を負わない限りいつも決まった顔触れで採集に出掛けていました』
『長くに村を空ける訳だけど、出掛けるのは採集班だけなのかな?』
『いえ、狩猟班も一緒に出ることもあります』
『へ~出ることも? って事は、いつもじゃないんだ』
『はい』
『あの日はどうだった?』
僕の質問に、首を傾げながらリンはあの日の事を思い出してくれた。
『あの日は狩猟班と一緒に村を出ました。確か、2日は同じように行動して、3日目だけ別行動でした』
『ふ~ん。狩猟班と何日も一緒に動くことは良くあるんだ』
『それが、滅多にない事なんです。いつも別行動の狩猟班が2日も一緒だなんて変だな~って思ったのを覚えています』
『ちなみに、クライさんはその狩猟班にいたの?』
『はい。クライさんは索敵のスキル持ちなので、狩猟班の斥候です』
『索敵。それは珍しいスキルだね』
『そうなんです! その御蔭でわたしたちが襲われたことに気付たみたいで、こうして今居らるんです』
索敵ね。その効果範囲がどれくらいに広範囲に調べられるのか。ん? 待てよ?
『ねえ、採集班で唯一の生き残りはリンでしょ? 狩猟班はどうだったの?』
『それが』
おや? 何かにヒットしたかな? リンが言い淀んだので、大丈夫? と問掛けるような表情で覗き込んでみる。
『あ、昨日の祭りの時にヘイザさんから聞いたのですが、狩猟班もクライさん以外全滅だったそうです。クライさんがわたしたちの班の異常に気付いて採集班の処に合流する前には、全員無事だったそうですが』
全滅? そんな話はあの時全く出てなかったぞ? リンの事だけしか聞いてない。これは先手を打ったほうがいいかな?
まだ村に近いから思惑があるのなら仕掛けてくるはずはない。来るとすれば明日以降。今夜辺りで試してみるか。リンに礼を言って一旦話を打ち切ることにした。夜までにかなりの行程を進んでおきたかったから速度を上げることにする。
道中たわいも無い会話をしつつ、遭遇する獣や魔物を屠りながら一日の行程が消化できそうな日の傾きになってきた。まだ明るい内に火を起こさないと完全に落ちてからは色々と困る。2人1組で枯れ木を集め横なれる場所を見付ける事ができた。背中を守れる大きめの樹を背に火を起こして簡単な調理を始める。こういう時に料理スキルがあってよかったなぁと熟思う。
料理をしている間ギゼラとアピスにお願いして枯れ枝を集めてもらい、細かく20㎝程の長さに折って背後の枯葉の上へ撒いてもらっておいた。これで気配を消していても体重が消せない限り踏み折る事になるだろう。
簡単な干し肉のスープとパン、干し肉の炙った物を4人で味わいながら食べる事ができた。うん、我ながらいい味付けだね。ソースがないのが残念だけど。それは贅沢な話だ。それより、大事な事をやっておかなきゃ。
「アピス、『リン話があるんだ」』
「はい、マスター」『はい』
『「試したいことがあるんだけど。特にアピスには大きな変化が出るかもしれないからちゃんと説明するね」』
食事が終わってホッとした所で話を切りだす。まだ実体化のリミットまでは時間があるけど、そう長くもない。
『「これから先、場合によっては誰かが人質に取られて精神支配を受ける可能性が出てきたんだ。だから、そうなる前に手を打ちたい。アピスは言ってること分かるよね」』
「はい、マスター。ギゼラやディーさんと同じことを試すということですね?」
「そう。でも、それは今までのアピスじゃなくなることを意味すると思うんだ。異物を体に入れることになるんだから。だからそうする前に何かしたい事があれば言って欲しい」
そうアピスの黒い瞳を見詰めながらゆっくり話し掛ける。僕の言いたい事を察してくれるであろうと期待しながら。リンの方は問題ないようだ。梟頭がもじもじするのは可愛いのでついくすっと笑ってしまう。
『わ、わたしはルイ様に捧げるつもりですので、如何ようにも!』
『うん、まずそこから離れようか。そうじゃない事をこれからするからね?』
『は、はい!』
「マスター、まずリンさんから先にお願いします。わたしの願いはその後で」
アピスの優しい笑顔に思わず見とれてしまうが、慌ててリンの方に振り向く。アイテムボックスに収められている僕の左腕を1本取り出して見せた。
『これは?』
『うん、僕の左腕。ちょっとリンの左腕出してもらえる?』
『は、はい』
リンの眼はこれから何が起きるのかという不安と期待と生左腕が重なるという気持ち悪さで何とも言えない雰囲気を醸し出していた。口が開いたままだよ?リン。【融合】。そう念じるとリン左腕が一瞬閃光に包まれ、光が消えた時には彼女の腕だけが差し出されている状態だった。
『リン、ちょっとステータス見せてもらうね?」』
『え?あ、はい、どうぞ』
【鑑定】
【名前】リン
【種族】アウルヘッド / 鳥人族
【性別】♀
【職業】スカウト
【レベル】30
【Hp】4200/4200
【Mp】6943/6943
【Str】674
【Vit】546
【Agi】656
【Dex】541
【Mnd】746
【Chr】843
【Luk】398
【ユニークスキル】夜目、隠形Lv18、無音飛行Lv13
【アクティブスキル】風魔法Lv25、飛翔術Lv30
【パッシブスキル】風耐性LvMAX、威圧耐性Lv1、精神支配耐性LvMAX
【装備】布の服、キルト、布の下着、革の胸当て、革のサンダル、革のベルト、鉄の短剣
う~ん。何でディーの時はすんなりいかなかったんだ?
リンのパッシブスキルに精神支配耐性の文字を見て僕はほっと胸を撫で下ろした。でも、久し振りに違う意味でほっとできるレベルだよな。
『よし、リンはこれで大丈夫だよ♪』「じゃあ、アピスのお願いを聞かせてもらおうかな」
そう言ってリンの首筋を撫でてあげる。どうやらリンはこうされることが好きみたいで、撫でてる間は眼を細めてくるくると喉を鳴らしてるんだ。見た目は梟頭の女の子なんだけど……仕草がなんというか可愛いんだよね。目の上に羽角があるからかな? 撫でながら、アピスの方に視線を移す。
「マスター」
何だか深刻そうだよ? お願いにもよるけど、アピスさん?
「うん、何かな?」
「わたしが古いトレントから採られたとお聞きになってますか?」
「うん、それはあのおっさんから聞いた」
「ぷっ」
即答した僕の言葉にギゼラが横で吹き出す。おっさんが誰の事か見当が付いてるからだろう。うん、それでいいよ、ギゼラ。リンは何のことか分からないらしいけど、うん、知らない方が良い事もあるのだよ、お嬢さん。
「トレントは種を残すことが得意ではありません。数か少ないと言う事もありますし、そばに番いが居る訳でもないからです」
う~ん、つまりトレントの存在意義は?
「わたしもその大きな意思を継いでいます」
えっと、それはつまり種を?
「平たく言うと、種を残すということです」
やっぱり。
「マスターの肉体を受けるという事は純粋なトレントとしての種を残すことはできません。それで、その前に種を作りたいのです」
アピスの言葉にリンがあたふたしてるし、ギゼラはと言うと袖をくいっくいっと引いてる。うん、貴女なもなのですね?
「あの、アピスさん? ここで?」
「はい、マスター♪」
いやいや、それはないだろ? こんな寒い森の中で? 隣りにギゼラもリンも居るんだよ?
「気持ちは分かったけど、その願いは簡単に叶えられないんじゃ」
「そんなことありません! すぐです!」
ずぃっとアピスが正面にやってきて正座する。うん、眼は本気だね。リンは両手で顔を隠してるけど指の隙間から眼が見えてるよ。ベタだね、それ。ギ、ギゼラ、そんな物欲しそうな顔で僕を見ないっ!?
「ちょ、ちょっと落ち着こうか、ほら、寒いし、ギゼラやリンも居るしさ」
「大丈夫です! わたし気にしませんから! あぁ、マスター!」
正座からそのままの勢いで僕に凭れ掛かって来たアピスの体重を支えきれず、僕たちは落ち葉の上に倒れ込む。アピスの柔らかい感触が体に広がってくるがそれどころではない。女性に伸し掛られる事自体初めてなんだ。どう対応すればいいかなんてわかるわけない!
「「あっ!!!」」
そして徐に顔を近づけてきたアピスの唇に僕の唇は塞がれてしまうのだった。柔らかい唇と差し込まれてくる別の生き物のような舌。恐らく一呼吸するくらいの出来事なんだろうけど……。僕には物凄く長く感じられたんだ。
その隣りで上がったギゼラとリンの悲鳴の様な短い声が僕の耳にしばらく谺していた――。
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