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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 鷲の王国
36/220

第35話 底辺層

2016/3/30:本文修正しました。

 

 「え? いや、は? ちょっと2人とも何してるの? えええぇぇっっ!!」


 そのまま部屋の奥に引き込まれ扉が静かに閉じられるのだった。


 ばたん


 「ルイ様、どういうことですか? 何故あんな女に情けを掛ける必要があるのですか?」


 とギゼラ。腰まである濃い水色の長い髪の毛を揺らしながら、水色の瞳が食入るように見詰めてる。


 「そうです! ディーの事を告げ口したのは間違いなくあの女です! それなのに!」


 とアピス。同じく腰まである黒髪を揺らしながら、黒い瞳が眉間に皺を寄せて覗き込んでくる。


 僕は今ベッドの上にいる。両手に美女、もといい両側から美女に問い質されているのだ。先程のガレットさんギュッと事件の容疑で。う~ん、何をどう言えばいいのか。一先ずケアが先だね!!


 「「きゃあっ!!」」


 がばっと起き上がって2人の肩をがしっと掴んでそのままベッドに倒れ込んだ。結果として2人を両腕に抱いてる形になる。


 「ごめんね。彼女が絡んでるのは何となく察してたんだけど、悪いのは彼女を使った王様なので、ガレットさんには協力をお願いしたんだ。そうしたらぎゅっとしてくださいと言われちゃってね。あとは知っての通り」


 「もう、ルイ様は女となったら見境ないのですか?」


 「女誑しなのですか?」


 「いやいや、何を言ってるのかな!? ギゼラは兎も角、アピスはまだ人化して数時間でしょ? どこでそんな言葉を覚えたの!?」


 抱かれた事に嫌な気はしてない2人だが、どうやら僕が女の子に片っ端から手を付けているという間違った意識を持っているようで、嫉妬しているらしい。嬉しい悲鳴だけど、もし“森”に帰ったらどうなるのか想像しただけで恐ろしい状態になりそうだ。


 「お詫びに旅の荷物を持って来るまで、こうしててもいいかな? 2人を感じておきたいんだ」


 「「はい♪」」


 うん、これからはこれで行こう! 言い訳するよりかは建設的だね! 現実逃避? いやいや、精神的な安心感を与えることも大事な仕事だよな♪ と言い聞かせて、ギゼラとアピスを両脇に抱いて、腕枕をしてあげたまでは良かったんだけど。


 5分後……2人はスヤスヤと寝始めた。おい! アピス! 杖が寝るのか!? どうなってるんだ? と言うか無駄な力が抜けてるからしっかり決められて動けない。


 10分後……僕も諦めて寝ることにした。そして本気で寝たようだ。


 30分後……更に身動きが取れなくなっているのに気が付いた。羽が見える。羽? はねっ!?


 Oh……。


 僕は現実逃避することに決めた。僕の仰向けに寝ている真ん中。腹部から胸に掛けての部分をガレットさんが占領していたのだ。ノックしてくれたのだろうけど、熟睡して気がつかなかったらしい。生霊(レイス)なのに本気で寝れるってどういう事?


 緊張感ない態度の所為でこの状況を招いたんだけど、翼が良い羽毛布団の代わりになって暖かくしてくれているのだ。ギゼラなどは嬉しい限りだろう。アピスは初めての睡眠を貪ってる。これ2人が起きたときどうなるんだろう、ね。


 そう考えてたんだけど僕は再び意識を手放した。


 さらに1時間後……。恐る恐る眼を開けてみると、涙目で僕を見るガレットさんが両方の頬を引っ張られてた。左右に視線を流すと膨れっ面のギゼラとアピスが定位置にいた。


 『えっと、なぜガレットさんが僕の上にいるのでしょう?』


 『はい♪ 部屋をノックしたのにお返事がないので中を覗きましたら、お腹を出してお休みなられていましたので、お腹を冷やして風邪を召されたら大変! と思い羽毛布団のつもりでお側に参りましたぁっ! おひゃめくらひゃいぃ』


 「「どうして貴女がそこなの!?」」


 いや、そこ突っ込むところ間違ってるし。


 『えっと、今この絵はすごい状況なので、一度皆起きよう。まずガレットさんから』


 『……』


 『う、いや上目遣いをしてもダメです。順次降りてくれないと僕が身動き取れないから』


 『――はい』


 ガレットさん相当嫌そうね? 渋々ガレットさんが身を起こして降りてくれた。が、その瞬間ガレットの短い悲鳴のような声がした。


 『あ!』


 「へへへ♪ わたしもマスターの上に上がりたいです!」


 「いや、だからね、アピスも起きよう。場所取りの遊びじゃないんだから」


 「はぁい」


 アピスも渋々ガレットに倣ってベッドから降りてくれるのだったが。


 『「あっ!!」』


 そうなるよね。ギゼラが腕を首に回すようにして上からギュッとしてきた。いや、それだとマシュマロが顔にね? ベッドから降りた2人から殺気のようなものを感じるのは気のせいか?


 「ほら、ギゼラも」


 「嫌です。このまま一緒に起きてください」


 「何を我儘を。もぉ仕方ないなぁ、よっと!」


 ギゼラの体を少しずらし斜めにしてから上半身を起こした。ちょうどお姫様だっこしてるような状態になる。嬉しそうに僕の顔を見てるギゼラだったが、2人の視線に気がついたのか。誇らしげににやりと笑うのだった。


 「こらこらギゼラも降りなさい。話がややこしくなるから」


 「はい」


 しかし、ガレットさんとは言葉が通じてないはずなのに、こういうことに関しては意思の疎通ができるんだな。恐るべし女子力。ギゼラを立たせた後でようやく僕もベッドから立ち上がる。部屋の真ん中に堆く積まれている旅の荷物が眼に入ったからだ。


 よくそれだけ部屋に運び入れたのに気にせずに寝れたものだ。


 話を聞く限りでは、この宮殿から地上に降り、そこから陸路で10日程森や谷を抜けて目的地に向かうらしい。この宮殿から地上までは転移魔法陣という便利なモノがあるらしく一瞬で行けるそうだ。だから、問題は徒歩ということになる。荷物は僕が持つとして、幾らかはギゼラに持ってもらおう。アピスは杖の姿に戻ってもらおうと思ったんだけど、拒否られた。なんで?


 と言っても持っていくのは翼人たちから見えなくなるまでの話で、あとは僕のアイテムボックスに収めておけば失くすこともない。手ぶらで歩ける。


 考えてみたところ、僕とアピスは食事を取る必要はない。生霊(レイス)と杖だから。必要なのはギゼラだけということになる。なので、10日分帰りの行程を考えて倍の保存食が用意してあるということはとてもありがたい話だ。雨を凌げるようにする為の丈夫な布。地面に敷いて寝るための毛布、簡単な食器や調理器具など旅のセットととしては申し分ない物が備えられてた。


 それが謂わば堆く山になっていたのである。う~ん、アイテムバッグもあるし、そこに入れる振りでこの時点でボックスに入れちゃおうか? でも、アイテムボックスとアイテムバッグじゃ容量違うんじゃ? あ~そこは考えてなかったな。


 『そういえば、ガレットさん服と履く物をありがとうございます。助かります』


 『いやですわ! そんな他人行儀。もっと普通に話しかけてください。ルイ様なら呼び捨ててくださって構いませんのに』


 『い、いやいや、それはこっちが構います!』


 ずいっと体を寄せてくるガレットさんに慌てて自分の胸の前で両手を小刻みに振りながら後退りする。すっと僕の前にギゼラとアピスが体を割り込ませてきた。ぷ~っとガレットさんの顔が膨れっ面になるが、あ、可愛いなぁと思ってしまう僕も居たりする。


 『そ、それより、この高度ではかなりの寒さですが、これから向かう辺りの気候はどうなんでしょう? もし冷えるのであれば防寒対策できるものがあると嬉しいんだけど』


 ぱんっ


 僕の言葉にガレットさんが柏手を打つ。そしてぱぁっと花が咲いたような笑顔で黒色のコートを取り出してくれたのだった。襟ぐりには茶褐色の羽毛で出来たファーが着いている。僕が着ている黒のカシミアのロングコートより光沢も着心地も格段に良さそうだ。


 『これを! ルイ様ならきっとお似合いになると思って持ってまいりましたの♪』


 『え、持ってまいりましたのって、こんな高級なコートがそこへんに転がってるような言い方はしないでください』


 『問題ありません。ルイ様たちにはしっかりとお仕えるすようにとお言葉も頂いておりますので!』


 は? あのおっさん心変わりした? いや、アンジェラさんかな? うん、そういう事にしよう。親切はアンジェラさんから♪


 『で、このロングコート貰っていいの? それとも借りれるの?』


 『これはルイ様への贈呈品です。この旅の道具も全て! どうぞお召し替えください』


 そう言ってファー着きのロングコートを肩を摘んで着やすいように開いてくれたので、僕は今まで着ていたロングコートを脱いでそれを着てみることにした。そもそも袖とか丈が合わないんじゃ、と思ったんだけど。驚いたことにピッタリだった。


 僕が着ていたコートはギゼラがギュッと抱いている。あ、こら、匂いを嗅がないように!


 『「どうかな?」』


 『良くお似合いです♪』「素敵です!」「ルイ様……」


 ギゼラたちに聞いてみたのが、3人がほぼ同時に思ったことを口にしていた。君たちねぇ。


 『あ、これはギゼラ様とアピス様のコートです。どうぞお召しください』


 これこれ、ガレットさんついでにどうぞ的な投げ遣りな感じに渡さないでください。そう言いながらガレットさんは白い羽毛のファーが着いたベージュのロングコートを2着アピスに手渡すのだった。しかしその対応が間違っていたことを知って、ガレットさんが悔しそうな表情をすることになる。


 「ほら、着てごらん。ギゼラから」


 僕にコートを着させてもらえてギゼラはご満悦だ。続いてアピス。杖なのにコートいるのか? と思ったんだけど、まぁアピスの分もある事だし着せてあげることにした。


 「暖かいです」


 「それは良かった。今まで着てたコートは僕が収めて置くから貸してくれるかい?」


 そう言ってギゼラから受取りアイテムボックスに入れておくことにした。このまま不毛な争いが続くのも面倒だったから、彼女たちの確執は放って置いて荷物をアイテムボックスにいれていく。ギゼラとアピスに砦での戦利品であるアイテムバッグを1つずつ渡して、食料を入れてもらうことにする。各人の寝具も入れてもらう。


 15分後、山積みになっていた旅の装備は僕たちの収納に綺麗に収まっていた。もたもたして居れないので、出かけることにする。ただ、その前にディーに声だけ掛けておきたいからといって部屋に連れて行ってもらたのだった。


 部屋の前には完全武装した兵士たち(・・)が物々しい警備をしている。僕を妨害するためかと思ったら、どうやら本気でディーの警護のようだ……。何があった?


 兵士たちは僕の顔を見ると緊張した面持ちになっていたが、何もされないことが分かると安堵の表情を浮かべていた。ゆっくり扉を開いて薄暗い部屋の中を見ることにする。繭になってまだ時間も経ってないのだから出てくることもないだろうけど、心配させたくなかったのだ。


 「ねぇディー、ちょっと頼まれ事されちゃたから出かけくるね。20日くらいで帰って来れると思うんだ。ここに迎えに戻ってくるから何処にも探しに行かないで待っててね! じゃ、行ってきます」


 扉を閉めて兵士たちにくれぐれも宜しくお願いしますと頭を下げてると、意外にも『お任せください!』とか『ご安心を!』とか爽やかな返事が返ってきた。本当、何があったんだろう?


 兎も角、ディーの事は後ろ髪引かれる思いだったけど一度受けた約束は果たさなきゃね、と決意して地上に向かうことにしたんだ。話に聞いてた転移魔法陣で一瞬にして地上に通じる部屋に移動した。


 『わたしはここまでのご案内になります。後の案内はこの扉を出た処に居る者に伝えておりますのでこのち周辺の情報をお尋ねください。ルイ様ご武運を』


 ガレットさんはそう言って悲しげに微笑むのだった。一緒に付いて行きたいけどそうできない何かが彼女にはあるのだ。そう思わせる雰囲気がこの部屋には満ちていた。


 『ありがとう。ガレットさん、ディーの事頼みます。ではいってきます』


 そう言って頭を下げてから、僕は部屋の外に通じる扉に向かうのだった。ギゼラとアピスもその後に続く。何かが違う、そんな気配を彼女たちも感じているのだろうか。じゃれあうこともなく緊張している感じが伝わって来る。


 ぎぃぃぃぃ


 蝶番が軋みながら扉が開く。扉を開けるとむぁっと汗やアンモニア臭が体に纏わりついてきた。ふと後ろに眼を向けるとガレットさんの姿はもうそこにはない。


 『お待ちしておりました。ルイ様とお連れの皆様で間違いございませんか?』


 『うん、間違ってないよ』


 逆に思ってもいなかった方から呼びかけられびっくっと振り返ってしまった。何処か油断していたとこもあったのだろう、気配を感じ取れなかったのだ。でもそれ以上に僕たちは驚くことになった。


 声を掛けてきたのは、鴉の頭を持ち、黒い羽を背中に生やす鳥人(とりびと)だったのだから。


 よく見ると、首から下は人の体だ。そして首に黒い犬の首輪を思わせるような革製の首輪が巻かれている。あまりに違和感のある装飾具(アクセサリー)に僕は【鑑定】をしてみることにした。【鑑定アプリーズ】。


 ◆隷属の首輪◆

 装具者を奴隷状態に置き、その命令を忠実に実行させるよう働きかけるアイテム。契約主の命令に逆らうことはできない。契約主を害することもできない。無理に首輪外そうとすれば猛毒の呪いを受けうことになる。解除には契約主の解除宣言か、死別が必要。何らかの要因で首輪が壊れた場合、解除されることもある。


 「な」


 「マスター」


 僕が言葉を続けようとするとアピスが袖を引いてきた。


 「これがこの国の現状です。わたしが宝物庫で眠る前からこの状況が既に出来上がっていました。前任のマスターもその状況を憂いていましたが、どうすることもできなかったのです。そしてこれがガレットさんだけでなく、翼人が地上にこない理由です」


 「……」


 僕は沈黙でアピスの言葉を受け止め先を促した。


 「卑しい鳥人(とりびと)たちが住まうこの洞窟で共に生活することも、息をすることも嫌……。翼人よくびとたちはそんな根深い上下社会の中で己の優位性を保とうとしているのです」


 「……」


 悲しげにアピスは首を振る。彼女も憂いてはいてもどうしようもなかった者の一人なのだ。そして彼女が決定的な一言を口にする。


 「そしてここが、王国の底辺層なのです」







最後まで読んで下さりありがとうございました。


ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪


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