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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 鷲の王国
35/220

第34話 討伐依頼

2016/3/30:本文修正しました。

 

 『依頼というのはだな、(ドラゴン)を1頭倒してきてもらいたいのだ』


 『はい?』


 僕の耳が遠くなったか? それとも難聴か? 幻聴か? 今竜って言わなかった?


 『依頼というのはだな、(ドラゴン)を1頭倒してきてもらいたいのだ』


 『聞こえてます。と言うか何故一字一句同じ事を』


 今のは分かっててやったよね? このおっさん質悪(たちわる)いな。


 『飛竜(ワイバーン)族と我らが相容れぬというのは』


 『アンジェラさんから聞いています』


 『うむ。実は我らがここで生活するためにはどうしても食料が必要だ。それは命あるものの定めだが、我らがゆけぬ場所には翼人たちにその仕事を分担してもらっているのが現状だ』 


 分担? 命令してるの間違いじゃない? 分担なら対等だけど、今まで見る限り翼人(よくびと)はあんたたちに仕えてるという姿勢だよ?


 『そなたたちが食べた料理の素材も多くは彼らが収穫したものだ』


 あ、なる程美味い料理を食べさせたのはそういう事か。食料が足らなくなる、と出てくる?


 『あれだけものもを集めるにはかなりの労力が必要でしょうね』


 『そうだ。昨今、地表で収穫を行っている者たちが襲われていてな。思うように食料が集められていないのだ』


 その襲ってる者が(ドラゴン)だと? はぁ~面倒な。あの(ドラゴン)でしょ? 首が長く胴体が太く大きな翼で空を飛び、角が生えててブレスを吐くと言う、あの?


 『その襲って来る者の正体は正確に分かっているのですか?』


 『それが(ドラゴン)だ』


 『その証拠は?』


 『生き残りの証言と傷だ』


 それなら間違いないですね。飛竜(ワイバーン)の生活圏は基本空中、地表近くに来ることはあの空中戦を見る限り稀だろうね。それこそ獲物を取りに地表に爪を立てるくらい。そうすると危険が増すから普通は空で獲物を探すよね?


 『それを僕が倒せると?』


 『できぬのか?』


 『できませんね』


 『何故だ? そなたほど力があれば容易たやすいであろう?』


 『そもそも飛竜(ワイバーン)に逢ったのもここに来るの時が初めてだと言うのに』


 冗談じゃない。何を好き好んで竜退治などしなきゃいけないんだ。静かに暮らしたいだけなのに。


 『そなたにはその宝杖ほうじょうがあるではないか。その杖の力は持つ者の力を引き出し、格を上げると言い伝えられてきたのだ。その恩恵に与っていると見るべきではないかな?』


 なるほどな。今度は使える内は骨までしゃぶると言う訳か。


 『そこまでしてお受けする益が僕の方にあるのでしょうか?』


 ん? アンジェラさんがそわそわヴァルバロッサさんの方を見てる。何か知ってるのか? いや、また何か仕掛けてきたのか? 男の翼人が松明を片手に食堂に入ってくる。


 『あるとも♪ 大切な繭が灰にならずに済むではないか』


 『なっ!?』


 あの松明は脅しか!? 部屋の前にもあるぞという。おっさんの顔が嫌らし気に歪む。アンジェラさんは鋭い目つきで父親を睨んでいるようだがどこ吹く風だ。ヴァルさんは飛び出さないようにアンジェラさんの腕を握ってる。ふぅ。落ち着け、此処で感情を乱したら思う壷だ。僕はゆっくり眼を瞑った。


 ざわっ


 周囲の兵士たちが色めき立つ。各々武器を振るえる様にその腰を低くしてゆく。ゆっくり呼吸しながら久々に怒りを抑えていた。威圧が漏れているのは分かるが敢えてそのままにする。時間を掛けて眼を開け、静かに感情を殺した声色で確認する。


 『何を、どうすると仰られましたか?』


 『『『ひぃっ』』』


 給仕や兵士たちの中から引き()った声が漏れたが知ったこっちゃない。おっさんたちの顔には笑顔がなかった。アンジェラさんとヴァルバロッサさんは驚いた顔でこちらを見ている。


 『良いでしょう。竜の討伐の件受けしましょう。ただし、ディーに何かあった場合それなりの覚悟はしておいてください。五体不満足だった場合、王妃の片脚を折ります』


 『ひぃっ』


 おばさんが引き攣る。知らない。


 『ディーが死んだ場合、王と王妃の片翼をもぎます』


 『わ……分かった。何事もないように厳重にみ、見守っておこう』


 おっさんは辛うじて威厳は保てたようだ。ふん、僕の家族に手を出すものは容赦しないって決めたんだ。さて、旅支度をさせてもらうかな。


 『では、旅支度をさせてください。よもやこんな寒空に薄着一枚で食料も持たずに案内もなくあてもなく彷徨えといわれませんよね?』


 『も……勿論だ。ガ……ガレット!旅の支度を手伝って差し上げなさい』


 静かに席を立つと、がちゃがちゃっと周りで金属が擦れる音がしたが動きはないようだ。僕の確認におっさんは声を裏返らせてガレットさんを呼ぶ。大きな身振りで彼女を呼び寄せると案内を委ねたのだった。僕が席を立ったのに合わせて2人も席を立つ。表情は険しけど。僕が何もしないのでなんとか感情を押し留めてくれているようだ。


 そっか、皆と一緒にいるときに僕が感情的になれば皆の歯止めがきかなくなる恐れがあるってことか。眷属化したあとは特にその傾向が強く出るかもな。気を付けないと。でも、それはそれこれはこれだ!


 ガレットさんが来てくれたので、おっさんたちに一礼しアンジェラさんには心配させないようににこっと笑顔を送っておく。そして背を向けて威圧を収めてガレットさんの後について食堂を出ることにした。


 『畏まりました。ルイ様。ギゼラ様、アピス様こちらへ』


 『ガレットさん、騒がせてすみませんでした。気を悪くなさらないでくださいね?』


 ギゼラとアピスが何も言わずにそれぞれの側の腕にしがみついているのだけど、なにか言わなきゃ……と思って前を歩くガレットさんに声を掛けた。あれ? 反応がない。怒らせてしまってるのか、怖がらせてしまったか、どちらかだろうな。あれでは。


 これ以上絡むのもどうかと思い僕は黙ったままその後ろに付いて案内されることにした。




             ◇




 少しだけ時は遡る……。


 『父上、あれほど申したではありませんか! ルイ様を侮ってはなりませんと!!』


 ルイたちが食堂を出た後、アンジェラが父親に食って掛かっていたのだ。ヴァルバロッサももう止めてはいない。恐らく彼女と同じ気持ちなのだろう。苦々しい表情のまま直立している。


 『あの威圧はなんだ!? あれが人が放てるものなのか!?』


 『貴方! わたくしは脚も翼も折られたくありませんわ! 脚が折れたら生きていけません』


 『わ、分かっておる! そうならぬ為に』


 『何故そうなる前に止めてはくださらなかったのですか!?』


 両親の狼狽えぶりを振り払うように娘が()える。彼女は後悔していた。もう少し自分が強く彼らを擁護できてさえいれば、と。それに食堂を出る前に自分とヴァルには笑ってくれた。つまり、心配させまいという配慮の表れだ。


 『礼を持って接すれば礼を持って快く協力してくださったでしょうに、()(まま)では禍根(かこん)を残しかねません!』


 『何故そなた等は人風情の肩を持つのだ!?』


 娘の罵声に父親も声を荒らげて問い返す。自分たちは誇り高き空の王者だ。それが地を這う人間になぜ頭を下げねばならぬ。そんな意識が彼の奥底に蠢いていたのだ。


 『ルイ様はもしかすると、人ではないかもしれないからです』


 『『なっ!?』』


 『帰参の途上で飛竜(ワイバーン)たちに襲われる前、ルイ様を背中に乗せているのにその重さがなくなった瞬間がありました。ルイ様自身は笑ってはぐらかされましたが、ヴァルが見ていたのです』


 アンジェラはそう言って夫を促す。


 『それは偶然でした。何気なく視線をアンジェラの方に向けた瞬間、ルイ殿の体が砂の像のように崩れ風に攫われて飛んでいったのです。そこに残っていたのは半透明な姿をしたルイ殿でした。それもほんの一瞬ですぐ体を付けていたのです』


 そう、ルイはあの瞬間見られていたのだ。


 『ヴァルと話したのですが、その時点で日は昇り太陽の光が降り注いでいたので生霊(レイス)ではありえないと。それにアンデッド特有の(けがれ)は初めからありませんでした。ですから、ルイ様は人を超えた何かではないかと、わたしたちは考えているのです』


 『それならば何故それを最初に言わぬ!?』


 『言おうとしましたが、父上に幾度も遮られました。口惜しい』


 『……』


 娘はギュッと唇を噛み締めて、父親と母親を睨みつけるのだった。昔からそうだったがこの2人は力で他の物を測る傾向が強い。こういう時が来なければと思っていたら一番来て欲しくないタイミングで自分の眼の前にやって来たのだ。遣る瀬無い気持ちで一杯になる。元々は不治の病にかかっていた故にもう関わる事はないと思っていたのだが、今できることをしなければ。そう心を決めて2人に背を向けるのだった。


 『行きましょう、ヴァル。わたしたちだけでも出来ることを考えなければ』


 『そうだな』


 アンジェラの言葉に短く応じると、ヴァルバロッサは義理の父と母に一礼して妻の後を追うのだった。


 『――マーサよ。我はどこで道をたがえた……?』


 『……貴方――』


 娘夫婦の後ろ姿を力なく見送る父親はポツリと妻に問うのだった。人質か?彼処まで冷たい圧力を掛けられるように仕向けてしまったのは、その不用意な一言だった。娘の言うように脅しに脅しを持って応えられえる羽目になってしまった。下手をすると妻の命を失うことになる。鷲が脚を折られるという事はそういうことだ。


 『グスタフ、厳重にあの部屋を警備せよ。何者も立ち入らせてはならぬ』


 『はっ。アンジェラ様がお越しになられた場合、いかが致しますか?』


 『――娘に限っては許す。だがヴァルバロッサはダメだ』


 『畏まりました。では直ちに警備を始めます』


 『うむ。宜しく頼む。それと武器の携帯を禁ずる』


 後ろに控えていた逞しい体の翼人の男に王は命令を出すのだった。朝令暮改も甚だしいが、今はこれ以上状況を悪くさせないことが優先される。それを察してか、グスタフも一礼して部下に指示を出しながら食堂を後にするのだった。給仕たちもただただ起きた状況を飲み込めず震えている。


 『ゆこう、マーサ。我らも考えを改めねばならぬ……』


 『はい、貴方』


 王に肩を抱かれた王妃がゆっくりと食堂を退場してゆく。彼らの姿が通路の奥に消えた後、給仕たちが起きた事を口々に話しながら片付けを始めるのだった。だが興味深いことに、その多くはルイの方を贔屓目(ひいきめ)に見ていたのであった。人徳の成せる(わざ)か。




             ◇




 僕たちはディーが繭になってる部屋とは別の部屋に案内された。そこにはお願いしていた服や履物が綺麗に並べて置いてあった。寝室も兼ねているのか、奥にベッドもある。


 そう言えば翼人たちはどうやって夜寝てるのだろう? 翼があるから仰向けだと辛いだろうな。となると(うつぶ)せ? 慣れなんだろうけど辛そうだ。


 ギゼラとアピスをベッドに腰掛けさせて待って貰うことにし、部屋の外で待つガレットさんに声を掛けに部屋の外に出る。


 『ガレットさん、ありがとうございました。ここならゆっくりできそうです』


 『……』


 ガレットさんは黙って(うつむ)いたままだ。


 『ガレットさん? いあ、あの、さっきはお仕えしてる方をなじってしまってすみませんでした』


 『……』


 ガレットさんが首を振る。あれ? それで怒ってるんじゃないのか。まぁ、そこが分かっただけでも良しとするかな。


 『どうしてですか?』


 『え?』


 ガレットさんの質問に慌てて聞き返す。何についての「どうして?」なのかがいまいち掴めてなかったのだ。威圧したこと? 脅したこと? 色々条件をつけたこと? う~ん、どれだ?


 『どうしてわたしをお責めになられないのですかっ!?』


 そう言ってガレットさんはキッと気丈な表情で僕の眼を見た。赤く腫れてる。泣いてたのか?


 『――なんで責めなきゃいけないの? 何をどう命じられたかは僕には分からないけど、起きた結果に対して責任を負うのは命じられた人じゃなく、命じた人だよ?』


 『……』


 『僕はそう考えてる。だから気にしないでって言うのは、卑怯な言い方かもしれないけど、そうだなぁ。ガレットさんに今回の件で後ろめたさがあるのなら、それを払拭する為に僕らの為に動いてくれないかな?』


 『!!』


 ガレットさんの眼が驚きで大きく見開かれると、見る間に潤んで来た。あ、泣かせちゃった?


 『いや、あの、裏切ってという話じゃないよ? 僕たちが旅の準備をするのにちょっと色を付けてくれれたら嬉しいなぁと言うくらいで』


 『――ルイ様は狡いです……。んなこと言われたら断れないじゃないですか』


 あれ? またこのくだり? 何した僕?


 『いや、何というか自覚はないんだけど?』


 『やっぱりルイ様は女誑しです』


 うへっ! そんな称号いらないんですけど。そもそもそんなつもりでお願いしてる訳じゃないだけで。う~ん、なんだ。異世界(こっち)の人は基本惚れっぽいのか?んな訳ないよな。


 『う~ん、あんまり嬉しい評価ではないんだけどね。はははは。まぁ、色は付けてもらえそうだからよろしくお願いします』


 『分かりました。でも一つお願いがあります』


 乾いた笑いで誤魔化しておくけ。何となく収まりそう? と思ったらお願いときた!


 『えっと、お願いとは?』


 『わたしもギゼラ様やアピス様の様にぎゅっとしていただけませんか?』


 あ~被ダメージでっかいの来た! ツンデレに近いガレットさんの上目遣い攻撃もやばい。スレンダーだけどそれはそれで美人さんだからって! そこっ! 扉を薄く開いて覗いてるの誰だ!?


 内開きの部屋の扉が内側に少しずれてることに気付いた僕! 縦に光る眼が2つ。2人とも縦に並んで見てるのね。あ~後でケアしなきゃ。


 『うん、今回だけですよ?』


 『あぅっっ!』


 背中に刺さる視線を無視してゆっくりガレットさんの背中に手を回して右手をガレットさんの左脇から翼と翼の間に、もう左手を右側から腰に回してガレットさんをギュッとしてあげた。ガレットさんは僕の胸に顔をうずめて恥ずかしそうに悶えたけど、10数えるくらいの長さをギュッとしてあげた。


 その間扉が開いて中から手が伸び、僕の髪の毛を引張たり背中を抓ったりしてくれたもんだから集中できなかったのは言うまでもない。


 ガレットさんが僕の胸元から離れたとき、後ろの悪戯者たちはさっと部屋の中に退散していた。あいつら。


 『あ、あの、ルイ様、ありがとうございました♪』


 『あ、うん、これくらいでよければ。誰かに見られてなければいいんだけどね?じゃ、よろしくお願いしますね』


 『はい♪ ではしばらくお待ちください! 準備してまいります!』


 モジモジするガレットさんは可愛らしかったのだけど、周囲の眼を気にして僕がキョロキョロしてしまった。あんなに落ち込んでたガレットさんが元気になったのは良いんだけど、ちょっと違う意味で危険が増した気も。


 「「ルイさまぁぁ~~。ちょっとお話がぁぁぁ~~」」


 機嫌よく小走りに去っていくガレットさんを見送っていると、両耳を急につままれた!? そのまま部屋の中に引き込まれる僕。


 「え? いや、は? ちょっと2人とも何してるの? えええぇぇっっ!!」


 そのまま部屋の奥に引き込まれ扉が静かに閉じられるのだった。


 ばたん






最後まで読んで下さりありがとうございました。


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