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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 鷲の王国
32/220

第31話 宝杖

2016/3/30:本文修正しました。

 

 『人よ。よく参られた』


 うん、高い処からのアングルで今の様子を映したら嘸かし絵になるだろうね。そんな風景だった。だけどそこに居合わせた僕たちにはそんな余裕はない。押し潰されるかと思える程の威圧が放たれているのだ。これ耐えてると良い事あるのかな?


 【パッシブスキル】、威圧耐性を獲得しました。


 突然脳内にアナウンスが流れた。あった、良い事!


 「二人とも、威圧に負けないように耐えてね?」


 「くっ無茶をおっしゃいますわ」「が、頑張ってみます」


 二人にしか聞こえないような声でお願いしておく。もしかしたら獲得できるかもしれないしね。この遣り取りを気がつかれないように一歩前に出てお辞儀する。


 『お招き頂き恐悦至極に存じます。連れの者は王の威圧に気圧されて挨拶もできませぬゆえ、ご容赦頂けるなら幸いでございます』


 『ほぅ。この中で声が出せるか。人でありながら大したものだな』


 『お褒めに預かり光栄でございます』


 『娘から事の次第を聞いた。娘の病を治してくれたことに礼を言う』


 『わたしの及ぶ範囲で運良く治療できただけにございます。偏にアンジェラ様のお力の御蔭かと存じます』


 王様、それは人に礼を言う時の態度ではありませんよ? なんで威圧したまま礼を言ってるの?


 『ふん。よく回る口だな』


 『王の威厳を前にして震えている自分を都合よく隠す為でございます。ご容赦ください』


 どうかな? 厭味を混ぜてみたけど? あ~ちょっとイライラしてきたかも。ちらっと横目でギゼラとディーを見るとなんとか耐えていた。うん、頑張れ!


 『父上! この仕打ちはあんまりでございます!うぅっ!』


 アンジェラさんが見かねて助け舟を出してくれようとしたんだけど、お父上のひと睨みで黙らされてしまう。やれやれ怖いお父上だこと。ヴァルさんは入婿なのかな?だったら強く抗えないよね。ストレスが大変そうだ。


 『褒美を取らせる。杖をこれへ!』


 王様の言葉に奥から一人の女翼人が、赤い布に包まれた何の変哲もない木製の杖を両手で掲げるように持ち上げて入ってきた。恐らく、だけど。光沢が鉄みたいに黒いんだよな。


 なんだろ? ほら仏壇とかに使われてる硬い木。


 そう! 黒檀だ!


 黒檀みたいに硬そうな黒い木でできた杖、だと思う。を褒美に持ってきてくれたらしい。ちらっとヴァルさんを見るとすっと眼を逸らされた。何かあるなこれ。


 呪われた物でも、呪いは状態異常だから僕には効かない。まぁ、それを知った上で持ってくることはないだろうけどね。【鑑定】された感じはないし、偽装してるから見られても平気だと思う。


 じゃあなんだろう?


 『大きな杖ですね』


 思わず、思ったことが口から漏れる。僕の身長が180cm程なんだけど、それに匹敵しそうな長さなんだ。


 『その杖はただの木の杖ではない』


 でしょうね。ただ木の杖でここまで勿体ぶられた上にポキッと折れたんじゃあ笑えない。まぁ褒美をもらうために直したわけじゃないんだけど、嫌な気分にされるくらいなら貰わない方がいいよね?


 『2000年生きた精霊樹(トレント)が自ら削り出し賢者に託した霊験あらたかな宝杖ほうじょうだ。娘の命は何にも代え難いものであるゆえに、我らもその方に最大の謝意を持ってこの品を選んだ。どうか貰って欲しい』


 眼の前に横一文字に掲げられた大層立派な箔が付いた杖がある。怪しさ満点だ。


 ちらっとアンジェラさんの方に視線を送ると何か言いたそうにした途端に、威圧が伸し掛った。あぁ、これが何かアンジェラさんは知ってるんだな。でも、それを言わせないようにしている。ヴァルさんは立場上何も言えない。


 これは想像するに、褒美という名を借りた厄介払いの意味が強そうだ。だけど、貰ってあげないと今度はアンジェラさんに迷惑がかかりそうだな。ったく(ろく)な父親じゃない。


 まぁいいさ。死んでるんだから、死ぬこともないだろうし。やってやろうじゃないの!


 「ギゼラもディーも僕に何かあったからといって動かないように。ね?」


 「「え?」」


 「ね?」


 「分かりました」「分かりましたわ」


 二人の言質を取ってから王様の方に向き直り恭しく挨拶をすることにした。


 『そのような由緒ある宝物ほうもつを賜われるとは身に余る光栄です。が、失礼を承知でお尋ねいたします。発言をお許しいただけますか?』


 『許す。申してみよ』


 おや? 威圧が少し緩まった?


 『ありがとうございます。皆様方からすればわたしは人族。地に這う者でございます。その様な下賤の輩に王家に受け継がれてきた宝を賜われても宜しいのでしょうか? わたしは卑し者です。欲の面が厚いので一度頂いたものを返せと言われてもお返しできそうにありません。それでも宜しいのでしょうか?』


 周りの反応にも気を配るがなぜ僕に宝を? というような雰囲気は感じられない。むしろ逆だ。早く受け取てくれ、と感じられてならない。


 『ふはははは。面白い男よ。我も其れ程小さき器ではないと自負しておる。二言はない』


 『父上』


 お父上の言葉にアンジェラさんも再度何か言いそうになるが、今度はひと睨みで黙らされた。ならば、あとは鬼が出るか蛇が出るか、だな。


 『分かりました。王の言質が取れて安堵いたしました。それでは遠慮なく戴きます』


 『うむ』


 僕が杖に手を伸ばした瞬間、広間に張り詰められていた威圧が消えた。男は度胸だ! 差し出されていた黒い木質の杖の首の部分に右手を伸ばしがしっと握り締めたその瞬間! 眼の前が真っ白になった!?


 【所有者認証を始めます。認証完了。ルイ・イチジク様をマスター登録します。宜しいですか? はい/いいえ】


 はい?


 【登録承認確認完了】


 ええっ!? 今ので!?


 【これより杖形態の進化を始めます。エナジーをチャージしますか? はい/いいえ】


 いいえ。


 【これより杖形態の進化を始めます。エナジーをチャージしますか? はい/いいえ】


 うっ、いいえ。


 【これより杖形態の進化を始めます。エナジーをチャージしますか? はい/いいえ】


 逃げれないのか。はい。


 【承認完了。エナジーチャージを開始します】


 無理やりだろ? んんっ? なんだ?! ドレインされてる? 【ステータス】!


 ◆ステータス◆ 

 【名前】ルイ・イチジク

 【種族】レイス / 不死族

 【性別】男

 【称号】レイス・ロード

 【レベル】200

 【Hp】123019/127702

 【Mp】448434/448434

  ・

  ・

  ・


 可笑しい減ってるよ!? それも猛烈な勢いでっ!?

 

 【Hp】123019/127702 110861/127702…70820/127702…30023/127702…9719/127702…508/127702


 おいおい、これ消滅ってパターン?


 【素体のエナジーの不足を確認。プールとリンクしますか? はい/いいえ】


 はい?


 【承認確認。リンクを開始します】


 Oh……。またやっちゃった。


 【エナジーチャージ完了。杖の進化を開始します。マスター。杖のイメージを提供して下さい】


 イメージ? イメージねぇ。医者の卵で杖ときたらもうあれしかないよね? 杖に蛇が絡みついているイメージでどうかな?


 【抽象的過ぎます。具体例を求めます】


 おっとっ!? 突っ込んできたぞ? う~ん、蛇のイメージってそんなもんあるわけないぞ。いやあるというか、これしかないな。


 フライングジャイアントバイパーが杖に巻き付いている感じで、ついでに杖の下先端は槍みたいに尖ってると面白いな。


 【イメージ登録完了。これより進化を始めます。宜しいですか? はい/いいえ】


 勿論、ここまできてはい以外はないでしょ? はい!


 手にした杖が優しい光に包まれて変形し始め、光が消えた時には蛇姿のギゼラが杖に絡んでるような杖がそこにあった。


 おぉ~! いいねいいね♪ なんか凄いかっこいい杖になったじゃん! 注文通りというかそれ以上の仕上がりの良さだね!


 【ありがとうございます♪】


 ほえ?


 【おほん!マスター、杖に命名してください】


 う~ん。アスクレピオス! これで決まりだね♪


 【宝杖ほうじょうアスクレピオス、今よりマスターにお仕え致します。どうぞ宜しくお願いします】


 次の瞬間、真っ白になった眼の前の色が戻り、先程までと同じ情景が見えていた。違ったのは、僕が手にしていた杖が形状を変えているという事。


 「へ? 今何がどうなったの? ディー、ギゼラ? 僕どうなったの?」


 「「……」」


 「え? 何? 何かあった?」


 「ルイ様、ルイ様の先程のエネルギーは?」


 「到底、人一人が持ち合わせている量を遥かに超えておりましてよ?」


 ああ、さっきのでプールしてたエナジーがドバっと出ちゃったのね。と言うか、出したのはこいつだけど。今はどうなってるんだ?


 【今はリンクは切れています。あれはマスターの命の危機でしたから緊急避難です。それにしても避難用のプールを持っておられるマスターって】


 ぬぉ!? 今の声どこから来た!?


 「ルイ様どうされましたか?」


 声の正体に気づかずに僕は慌てて左右を見るが声の主はいない。


 「い、いや、ちょっと気になった事があったんだけど、色んなことがあって疲れてるのかな? あ、あれはね、内緒のプール♪ いつもは使ってないんだけどこの杖が変化するのに大分僕のエナジー吸っちゃったから」


 「はぁ、本当、ルイは規格外なのですね! いつも驚かされっ放しですわ!」


 まぁ、そうなるよな。僕もかなりチートスキルだと自覚してるけど今回はそれで助かった。危うく死にかけたんだから。


 『莫迦(ばか)なっ!? 宝杖の発動に耐えれるだけのエナジーを有していただとっ!?』


 アンジェラの親父さんが()えた。うん、お父上とかもう良いよね。結果オーライだけど騙されちゃったし? アンジェラさんの手前(おとし)めることは控えますが、これ返しませんよ?


 【はい、わたしもあんな埃っぽい処に何百年も放置は嫌です!】


 そだよなぁ~。誰にも触られず、触ったら吸われるからって嫌われて。ん? んん? もしもしアスクレピオスさん?


 【はい、マスター♪】


 「どわっ!」


 「「きゃっ!!」」


 驚いて声を出したら、ギゼラとディーが飛び上がった。巨蜘蛛が飛び上がるってなかなか見れないよ。


 「あ、ごめん。ちょっとびっくりした事があって」


 「こっちがびっくりですわ!! 何ですの、急に!?」


 ディーの苦情にギゼラが胸を抑えてこくこくと頷いてる。若干涙目だ。ううっ、ごめん。あの時の会話は夢じゃなかったのね。まさか本当に理智ある(インテリジェンス)アイテムだったとは。


 【はい! これからはマスターと共に色んな世界を見て回れるので楽しみです♪】


 いや、悪いね。僕アクティブな引き籠もりだから、あんまり役には立たないかもよ?


 【何ですか? その矛盾だらけの言葉は? でも、ここからおさらば出来るだけでも嬉しいです!】


 ま、そこは保証するよ。返さなくていいって言質取ってるから。っていうか、おさらばってどこで覚えたの? そんな言葉。


 『あれ? もしかして僕がエナジー吸われ過ぎて消滅すると思ってたんでしょうか?』


 『ルイ様!』『ルイ殿!』『『よくぞご無事で!』』


 アンジェラさんとヴァルバロッサさんが寄って来る。うん、この2人は信頼できるから良いとして、流石に敬意は示し辛いな。動揺の色を隠せないアンジェラの親父さんに向かって厭味を言ってみる。


 『王よ。そのお言葉に二言はないとはっきりお聞きいたしましたが、器の大きさを見せて頂けるのでしょうか?』


 『無論だ。娘を助けてくれた事改めて礼を言う。ありがとう』


 ほぉ、思ってた以上に器が大きかったな。逆ギレさせようかと思ったのに。それにさっきまでの威圧感がない。何がしたかったのだろ?


 『いえ、こちらこそ失礼の段お許し下さい』


 波風立てないでいいならそれに越したことはない。僕も謝って水に流しておこう。


 『ふはははは。面白い男だな。そんな堅苦しい言い回しより、先程の言葉の方がその方らしかったぞ? 全く、アンジェラもとんでもない男を連れてきたものだ。御蔭で宝が一つ減ってしまったわ』


 『父上!?』


 『儂も堅苦しいより、ざっくばらんの方が良い。晩餐の時には畏まらずともよいぞ。では、また後でな。ガレット』


 『はい』


 『案内は任せる。粗相のないようにな』


 『畏まりました』


 アンジェラの親父さんとお母上は奥に消えてゆかれた。本当、この宮殿の作りってどうなってるんだろうね? 僕の理解の速度がついてこないは。僕たちを案内してくれたガレットさんが引き続きお世話してくれるのね。


 『では皆様こちらへ』


 『ありがとうございます。よろしくお願いします』「ギゼラ、ディー行くよ、付いてきて」


 「はい♪」「分かりましたわ♪」


 2人は嬉しそうに返事をしてくれた。杖はうん、何故か手にしっくりくね。


 『ルイ様、わたしたちは此処で失礼します。また後程』


 『はい、親子水入らずの時間を楽しんでください』


 ガレットさんの後ろについて歩き始めた時にアンジェラさんがそう告げてきた。まぁ実家に帰ってきたのに僕たちに付き纏っていても面白くもなんともないよね。晩餐会ならそれまでの間時間があるだろうし、試せるね。


 『こちらでございます』


 案内されたのは大きな両開きの扉がある部屋の前だった。ディーが入れる部屋となれば(おのず)とサイズが限定される。仕方がないのだが、片側の扉が高さ3m横2mのサイズとなればそれなりの重さになるよね?


 そう思ってたら、ガレットさんが申し訳なさそうに口を開いた。


 『本来でしたらわたしがお開きしなければならないのですが、申し訳ありません。重すぎて開かないのです』


 『ですよね……』







最後まで読んで下さりありがとうございました。


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