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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 鷲の王国
31/220

第30話 翼人

2016/3/30:本文修正しました。

 

 『鳥人……』


 『むっ。そこの人間! 我らを見て鳥人(とりびと)と言ったか!?』


 『あっ』


 しまった! 無意識に出てたか!? たまたま目の前を通りかかった翼を持つ男性を見て呟いてしまったのだ。170cm程の身長に短いが緩やかな巻癖の金髪に碧眼のイケメンが振り返って、僕を咎めたのだ。手には槍が握られている。


 『申し訳ありません』


 ギゼラはそのままに慌てて、アンジェラさんの背中から飛び降りて謝罪することにした。


 『わたし個人は翼を持たれる人たちを見るのも聞くのも初めてでございます。それゆえどう自分の中で表現すればよいのか分からず、思わず言葉が漏れてしまったようです。無礼の段、ご容赦ください』


 と頭を下げた。今回は僕に非がある。揚げ足を取られる前に一歩引いておくに越したことはない。


 『野蛮な者かと思ったが話が分かる者のようで安心したぞ。我らは翼人(よくびと)。鳥の頭を持つ者たちとくれぐれも混同せぬ事だ。気性が荒い者も居るからな』


 『はい。肝に銘じます』


 『時に貴公は我らの言葉を話しているが何処かで学んだのか?』


 『いえ、これは生まれながらに頂いた賜物(ギフト)です。その御蔭でこのような場にまで招いて頂ける事になりました』


 色々説明は面倒なので、次からこう言おうと決めていたんだ。これで賜物(ギフト)という概念が異世界(こっち)にあるかどうかもわかるしね。ギゼラたちに聞いておけば良かったんだけど、こういう事って意外と忘れてるんだよね。だからぶっつけ本番――。


 『神も粋なことをする。皆が言葉が分かれば不要な争いなど生まれもせぬだろうに』


 どうやら賜物(ギフト)という言い方はありらしい。


 『この度はアンジェラ様を癒していただき我らも感謝しているのです。ロイもそのくらいになさい』


 『これはガレット様。では、この方々が!?』


 『そうです。失礼の無いように』


 『はい』


 『いえ、いきなり失礼をしてしまったのは僕の方です。気分を害させてしまい申し訳ありません』


 突然横合いから翼人のイケメンに声が掛かる。見ると170cm程の身長に長いストレートヘアーの金髪に碧眼のスレンダーな美女が立っていた。皆背が高いな。イケメンに美女におまけに翼もあれば神話の話だね! 一瞬見とれてしまうが、上からの視線に気づき我に返る。危ない危ない。


 でもあることに気がついた。翼人の皆さんはちゃんと服を着ていらっしゃる!! これで服が手に入るかも!?


 『あの、これからどんな感じになるのでしょうか?』


 『と申されますと?』


 『いえ、ちょっと止事無(やんごとな)き事情でアンジェラ様の背に居る連れの女性が服を失ってしまったのです。今はわたしの外衣を羽織らせているのですが、高貴な方の前に出るにはいささか礼を逸している姿です。それで、宜しければ彼女に何か身につけるものをお貸し頂けないものかと思いまして』


 ガレットと呼ばれた女性の眼が一瞬ギゼラを見極めるように細くなる。それも瞬く間で、現れた時のような微笑みを向けてくれた。


 『畏まりました。確かに一理ございます。失礼ですがご一緒していただくことは可能ですか?』


 『勿論です』「ギゼラ、降りておいで♪」


 「はい、ルイ様♪」


 『ロイ! 向こうを向きなさい!!』


 『はっ! 申し訳ありません!』


 ギゼラを呼ぶと無防備に降りてこようとするのだったが、その姿をロイが驚いた顔で凝視していたのだ。一瞬蹴ってやろうかと思ったけど、その前にガレットさん注意してくれたので事なきを得た。やれやれ。ギゼラもガレットさんに劣らぬ美人さんだからね。気持ちはわかるよ。マシュマロも大きいしね。


 そういえば、翼人の体型は皆出っ張ってない気がする。飛ぶときに邪魔になるからかな? この質問をしても気にしなさそうな人がいたら聞いてみよ、と。


 「ディーは悪いけど、ヴァルバロッサさんと一緒に居てくれるかな? すぐ戻ってくるから」


 「もぅ、この埋め合わせはきっちりしてもらいますからね!」


 「うん、分かった! じゃ、行ってくるね」


 「あ、お待ちなさい! これを!」


 ヴァルさんの背中でディーが身動ぎする。翼人の二人はびくっと驚いたようだったが、僕と意思の疎通が図れているのを知って安心したようだ。その場を離れようとした時に、ディーから何かが飛んでくる。あ、分身だ。よっぽど寂しかったんだね。ごめんね、ディー。


 分身を受け取って頭の上に乗せると、ディーたちに手を振ってガレットさんの後について移動を始めるのだった。巨鷲の王宮、翼人たちは鷲に仕えている種族なのかな? う~ん、決め込まずにオープンでいよう。まずは情報収集だ。


 『あの、先程ヴァルバロッサ様の背に居られたのはスカーレットシュピンネでございますか?』


 とガレットが尋ねてきた。あれ? 気になる存在なのかな?


 『はい、そうです。綺麗な緋色ですよね』


 『はい――』


 何か考えてるね? 結構真剣に?


 『あの……ガレットさん?』


 『あ、申し訳ありません。その……お客人にしかも大恩あるお方のお連れ様にこのような事をお願いするのはお恥ずかしい限りなのですが――』


 何かあるらしい。聞くだけ聞いてみよう。


 『立ち話で済むような内容でしたらお気軽に言ってみてください。出来なければ無理だと言いますから』


 『それでは。実はスカーレットシュピンネが分泌する糸は特殊な性質を有しています。わたし共はスカーレットシュピンネの巣を見つけてはそれを回収し王たちの衣を縫っているのです』


 なるほど、ディーが出す糸が欲しいという事か。ただ、それをすると危険だよな?飼う為に囲われる危険が出てくる。今は大丈夫だろうけどこの後が大変だ。


 『つまり生糸が欲しいと?』


 僕の確認にガレットさんが黙って頷く。でもすんなり良いですよとは言えないよな。


 『う~ん、良いですよと言ってあげたいのですが、彼女はわたしの大切な友人です。彼女の意志を確認しなければ迂闊にお返事はできません。申し訳ありません』


 『そうですよね! 申し訳ありません。今のは忘れてください。こ、こちらでございます』


 ガレットさんはそう頭を下げると足早にある部屋に案内してくれるのであった。


 「なんだったのかしら?」


 「ディーの作る生糸で王様の服が縫いたいから生糸をもらえないだろうか? だって」


 頭の上から小声でディーが尋ねてくる。


 「それくらいなら」


 「ダメだよ」


 「どうしてですの?」


 「精神支配を受けて飼い殺されるのが落ちさ」


 「……」


 「そのようなことするでしょうか?」


 「するだろうね。何故なら、(えん)(ゆかり)もない僕たちが先に帰りましたってアンジェラさんたちに伝えられたらどうするの?」


 「「……」」


 ギゼラと三人で小声で話しながらガレットさんに案内された部屋に入る。小奇麗な部屋だね。【鑑定アプリーズ】。即座に部屋を調べる。ガレットさんには【鑑定】は向けてはいけない。問題はなさそうだ。


 『しばらくお待ち頂けますか? すぐに用意いたしますので』


 『はい、宜しくお願いします』


 ガレットさんはそう言って足早に部屋を出て行くのを見送る。さてここからだぞ?


 「ごめん、二人共ステータス見せてもらうね?」


 「はい」「構いませんわ」


 「ありがとう【鑑定アプリーズ】」


 見るべきは2人のバッシプスキルだ。


 ◆ステータス◆

 【名前】ギゼラ

  ・

  ・

  ・

 【パッシブスキル】風耐性LvMAX、水耐性Lv20


 ◆ステータス◆

 【名前】ディード

  ・

  ・

  ・

 【パッシブスキル】風耐性LvMAX、闇耐性Lv103


 「二人とも精神支配耐性や状態異常耐性がないね」


 「そんな稀少能力(レアスキル)持っている方が可笑しいですわ」


 「そうです。だからルイ様は特別なのです」


 「え? もしかして」


 「うん、2つともある」


 「えええええっ!?」


 「しーっ!! しーっ!!」


 慌ててディーを抑える。騒がしいとバレちゃうでしょ!


 「ディー。アンジェラさんの時に出した斬糸以上に鋭過ぎるもの出せる?」


 「う~ん、試したことはありませんが出来ると思いますわ」


 「よし、じゃあ急場の思いつきだけど、二人ともちょっと手伝ってくれる?」


 「はい」「宜しくてよ」


 2人の返事を聞いて僕も覚悟が決まった。前の時の甘さを出しちゃダメだ。いつ寝首を掻かれるかわからない。予防措置だ。


 まずアイテムボックスに僕が左腕を突っ込む。で、ギゼラにアイテムバッグの口を開けた状態で肘から前の腕の真ん中辺りの下に持って固定して血飛沫をそれで受けてもらう。そしてディーにそこを斬り取ってもらう、という訳だ。


 「本当に宜しくて?」


 「大丈夫! すぐに癒すから。それに斬れ味がいいと出血までに時間掛かるからね。良い糸をお願いしますよ?」


 「ふふっ。誰に向かって言ってるのかしら? 見てなさい、ぎゃふんと言わしてあげますわ!」


 ディー、その言葉どこで覚えたの?


 「さ、宜しくて? 斬りますわよ?」


 「やっちゃって!」【治癒(ヒール)


 「え? 今斬りましたのに? 元通りになってますわよ? 斬れてなかったのかしら?」


 「ううん、それよりじゃんじゃんやろう! 斬れ味が落ちて来たら糸替えてね?」


 予定通りだった。斬られた瞬間に【治癒(ヒール)】を掛ければ、斬られた左腕はアイテムボックス内にどんどん鮮度を保ったまま個数を増やして行くと同時に腕が再生する。金太郎飴だね。


 アイテムボックスを見ると【アイテム名】斬られたルイの左腕って、なってた。笑っちゃったけど、ガレットさんが帰ってくるまでに50本は作れた。【実体化】を解くまでなら保存は効くだろうから、折を見て試さなきゃね。


 斬糸もアイテムボックスに回収しておいた。ここに放り投げていくわけにもいかず。ディーが処理すればバレちゃうので結局こうなったのだ。


 そんなことより、ギゼラの着替えは素敵だった。ガレットさんが連れてきたお付の翼人のお姉さん達がささっと着付けを済ませたのだ。ギゼラは両手を開いて立っているだけ。揺れるマシュマロ、張りのある桃。御馳走様でした。ガレットさんの視線が何か言いたげだったけど気にせずに無表情(ポーカーフェイス)に徹して着付けを眺めちゃったよ。


 翼人たちが持っている生地の種類が少ないのか白い絹製の衣を着させてもらえたギゼラは見違える程綺麗になった。下着は本当に下着。褌ではないけど紐パンでした。胸の為の下着は存在しないらしく、布越しにマシュマロが感じられるのは前より被ダメージを増した気がする。なにか僕に感じるものがあったのか、ディーの分身に噛み付かれたのは意外と痛かった。ごめんよ、ディー。だって僕男の子なんだもん。気になるって。


 こうしてギゼラの身支度が整ったので、僕たちは来た道を帰り謁見することとなった。アンジェラさんは先にお母上との面会を済ませに行かれたようで、ヴァルバロッサさんが律儀に待っててくれたのだった。背中にディーの本体を背負ったまま。重たいだろうに。


 ヴァルさんもありがとう。こっそり頭を下げておいた。改めて巨鷲の王に謁見。


 巨鷲の三倍はあろうかと言う天井高の石畳の回廊を進み、開けたとろこに案内された。


 昔世界史の教科書に貼られているのを見たギリシャのパルテノン神殿の柱を思わせる列柱が奥向かってに並び立っている。列柱は、垂直に立てられた直線的柱のように見えるけども、柱の中間にはふくらみがあり、上部は細くなっていてこの場の雰囲気にはぴったりだ。


 そこに3羽の巨鷲が止まり木とは威厳を欠く表現だけど、他に語彙がないから仕方ない。あえて言い直すなら、止まり木のような台座に立っていた。


 一番高い台座に先程見たお父上が。その左下の台座に、少し小振りな巨鷲が止まっている恐らくお母上だろう。アンジェラさんはその反対側のさらに低い台座だ。うん、一応見分けはつきそうだね。


 唐突に放たれた王の一言は威圧感のたっぷり込められた重たい言葉だった。


 『人よ。よく参られた』







最後まで読んで下さりありがとうございました。


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