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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二幕 辺境の街
24/220

第23話 姉と妹

2016/3/3:誤字修正しました。

3016/3/30:本文修正しました。

 

 「「はぁ~〜〜……」」


 背後で溜め息が聞こえた。あれ? いつの間にかジルさんとレアさんが来てる。あの狐さんが話をつけてくれたらしい。


 「あ、サーシャ、お姉ちゃんだよ?」


 「!?」


 僕の言葉にサーシャが僕にしがみついたままひょいと顔だけ覗かせる。その仕草も可愛い。ジルさんとレアさんも思わず笑ってしまっていた。


 「おねぇちゃん!!」


 その姿を確認したサーシャが僕から離れてぱたぱたとレアさんに走り寄り、姉妹同士で再会を喜んだのだった。良いものだね~♪ 僕はその姿をにこにこして見てる。向き直ってるけど、今度は左腕をギゼラの首に回してる。ギゼラはそれで満足らしい。


 「おねぇちゃん心配かけてごめんなさい!」


 「いいんだ。怪我はないか?」


 「うん! ルイ様が怪我しないようにしてくださったから!」


 レアさんの問い掛けにぱぁっと明るい笑顔で答えるサーシャ。一瞬困ったような表情をした気もしたけど、レアさんは嬉しそうに微笑むのだった。


 「そう言えば、シェイラ姉さまも無事だったぞ!」


 え? 他にも姉妹(きょうだい)いたの?


 「えっ!? 姉さまも無事だったんだ! 良かったぁ~♪」


 「砦の外で待ってもらっている。後で逢いに行こう」


 「うん!」


 「ルイ様、“帰らずの森”の説明をお願いしたいので同席していただけますか?」


 「え? あぁ、うん、いいよ。騎士さんたち以外の皆で行けばいいんじゃないかな。どうせ森でまた説明するのも面倒だし。えっと、ジルさん?」


 レアさんとサーシャが抱き合って仲良く身内話に花が咲いている横で、ジルさんがもじもじしてた。仲間はずれになってるって、いじけてるのかな?


 「あの、お側に行っても?」


 「え? あぁ、うん、いいよ」


 ぱぁっと笑顔が咲いて、気が付くと凄い勢いで右腕が絡め取られていた!? むにゅっとした感触が右腕に伝わって来る。それを見たレアさんとサーシャの顔が「しまった!?」的な顔になってたのには笑ってしまった。内心、だけどね♪


 ギゼラはというと、構ってもらえてるのが嬉しのか、ジルさんの行動に目くじらを立てることもない。


 「それでルイ様、このスカーレットシュピンネはいかがなされたのですか?」


 「スカーレット、シュ、シュピ?」


 「この蜘蛛のことです」


 「拾い物だよ。ギゼラやサーシャみたいに【捕獲(ティム)】されてたんでついでに助けてあげたの」


 「拾い物ですか?」


 あぅ、言葉に気をつけよう。ジルさんとレアさん、サーシャの視線が痛い。そんなに見つめないでください。


 「え、あ、拾い物だと僕のものになっちゃうから、言い方が違うね。どうやらこの山の向こうの魔王様の配下みたいだよ?」


 「「「えっ!?」」」


 あぅ、そんな、これも地雷だったの!? ジルさん、そんなに迫って来るとむ、胸が。


 「本人が言ってたことだから、間違いないんじゃないかな?」


 『主殿、わたしもこの蜘蛛から勧誘を受けました』


 『おっと、やっぱりそうなのね。そんなに沢山スカウトマンが出歩いてるとは思わなかったから、その可能性も少し考えたんだけど。納得。教えてくれてありがとう、ギゼラ♪』


 頭の上からギゼラの声がした。その情報にお礼を言って首筋を撫でてあげる。思ったとおり尾が凄い勢いで振り回されている。可愛いね♪


 「で、どうされるおつもりで?」


 「う~ん、このまま抛って置いてもいいかな~って思ってる。女の子みたいだけど、まぁ蜘蛛にどうこうするような人はいないだろうから」


 「「「女!?」」」


 「はぅっ、う、うん。あ、そだ、鎖回収しなきゃ!」


 また詰め寄られそうになったので、ギゼラから手を離しておっさんの遺体に近寄る。首は首級(しるし)に騎士さんたちに預けなきゃいけないんだっけ。


 チャリ 鎖を手にしようとしゃがみこんだんだけど、ジルさんが同じようにしゃがみこむ。どうやら腕は放したくないらしい。


 「ジルさ、ん?」


 「ジルとお呼び下さいませ!」


 ずぃっと顔を寄せてくる。う、顔近い! 良い匂い。いやいや、美人さんに寄り添われるのは嬉しいんだけど、これじゃあ何にもできないじゃん。


 「えっと、ジル、首級(しるし)は騎士さんたちに預けなきゃいけないんだけど、何か包むもの持ってない?」


 「ルイ様! わたしポーチに大きな布入れてるよ~♪」


 ジルの返事を待たずにサーシャが襷掛けにしている小さなポーチから、明らかに収容量と異なる大きさの布を取り出してくる。サーシャ、ナイス!


 「サーシャありがとう。これ血で汚れちゃうけど使って良いのかな?」


 「うん! 大丈夫!」


 ぽふぽふとサーシャの頭を撫でながら確認を取ると、嬉しそうに返事をしてくれた。ジルは悔しそうに親指の爪を噛んでる。これこれ行儀悪い。僕も昔母さんによく怒られたな。サーシャから布を受け取って先に生首を包む。


 鑑賞する趣味はないし、できれば見たくない。その後で足首についた枷を外す。


 「【拘束を解くリムーヴリストリクション】」


 呪具を何もないところに突っ込もうと思ったんだけど、考え直して、懐に入れるふりをしながらアイテムボックスに収める。そうだな。この砦で伸びてる盗賊や傭兵崩れが持てるアイテムバックがないかな?あれば持っておくとこれかも楽そうだ。


 死体を漁るのは嫌なんだけど、【技量の血晶石(スキルハート)】も探して見る。懐にあった。人の心臓とは違い狐のそれは5分の1程度の大きさだ。それが1つに纏まっていても6つの心臓で人の心臓1つ程度の大きさにしかならない。モノを確認してそれも懐経由でアイテムボックスに入れておく。


 「ねぇ、レアさん」


 「ルイ様」


 「は、はい」


 「わたし以外を皆呼び捨てにしてるのに、なぜわたしだけ他人行儀なのですか?」


 そうレアさんは悲しそうに僕を見る。見つめられてる。うう、分かりました。


 「そ、そうだね、変なところで区切ることないよね。じゃあ、レア」


 「はい!」


 う、嬉しそうだね。僕も嬉しいけど、なにか違わないか?


 「ここでアイテム貰っていいことになってたんだけど、盗賊や傭兵崩れが持ってたアイテムバックを貰いたいんだ。騎士さんたちにその事を伝えてレアが片手に持てるだけ集めてくれないかな?」


 「畏まりました! でも本当にそれで宜しいのですか? もしかすると魔法を纏った武器(エンチャントウェポン)とか防具があるかもしれませんのに」


 レアが快く任されてくれた。僕が騎士さんたちに言うよりも聞いて貰い易いだろうからね。正直助かる♪ でも、その気持ちもわからなくはない。僕もその可能性を考えたんだけど、あっても低レベルだろうし、そんなに珍し物を欲すれば妬まれる。それは嫌だ。


 「うん、それよりかはアイテムバックがあった方が旅に重宝するよ? 武器や防具はまた手に入れれるチャンスもあるだろうけど、大量には要らない。でもアイテムバックは沢山あっても困らない。そういうことだから宜しくね♪」


 「はい!」


 「じゃあ、わたしもおねぇちゃんのお手伝いするね! ルイ様行って来ます~♪」


 「サーシャもお願いね~♪」


 手を振ってレアの後に付いていくサーシャに僕も手を振り返えす。可愛いなぁ~♪


 「あのルイ様、わたしにも何かお手伝いをさせてください」


 「あ、うん、そだね。じゃあ、3人で隠し扉を探そうか」


 ジルがずぃと寄ってくる。両手でジルの両鎖骨あたりを抑えて距離を保ちながらお願いする。地下にもなかったし、盗賊や傭兵崩れが屯する部屋に貴重なものは置いておくなんて考えられないからね。あるとすればこの近く。


 『ギゼラも隠し扉探してくれないかな? もしくは壁の向こうに誰か隠れてるところがないか』


 『承知しました』


 隠し扉の概念が理解できてるか不安だけど、誰かが隠れてれば分かるよね?


 コンコン コンコン


 ジルが剣の鞘の先端で壁を叩いている。音の反射だね。ギゼラは壁と睨めっこ。僕はどうしようかな。左手に生首の包みを持ってるし。そう思いを漂わせながら部屋全体を俯瞰してみる。


 それにしても飾りっけのない部屋だな。寝室でもなければ、応接間でも謁見の間でもない。ただ広いだけ。それが一番奥の部屋?不自然すぎるよな。


 一度部屋の入り口まで移動して、壁伝いに右手を滑らせながら調べてみることにした。隙間風が出てるところがないかって思ったんだ。でもその前に。


 『主殿』「ルイ様」


 ギゼラとジルから同時に呼ばれる。あったようだね。そこは部屋の隅だった。うん、開かないね。内側から鍵をかけてるということかな? 仕方ない。


 「ねぇ、ジル」


 「なんでございましょう?」


 「悪いけど、僕が良いよって言うまで眼を瞑って貰うことはできる?」


 「も、勿論でございます!」


 ジルの声が裏返ってる。なにか勘違いしてないか? 念のため、向こうを向いてもらおう。ジルの背後に回って両肩を持つと、くるっと反転させる。ジルの足元に包みを置いて。


 「じゃ、眼を瞑って♪」


 「は、はひぃっ!」


 『ギゼラ、ジルの後ろに来て』


 『目隠しですね』


 『うん、よろしくね♪』


 ギゼラに僕とジルの間に頭を差し込んでもらい、一瞬見えない形にしてもらう。その内に【解除(リリース)】して壁の向こう側に体を滑り込ませるのだった。


 どさっ


 と土の山が出来る音がジルの背後でする。壁の向こう側にいたのは2人の番兵だった。支給されている鎧が辺境伯の騎士たちが着けていた物に似ているので、おそらく家長に付いてきた古参の従者だろう。だが、彼らの目の前には半透明の生霊(レイス)が居た。その恐ろしさは皆よく知っている存在らしく何かする前に気絶してくれたのだった。でもお食事はさせてもらいます。


 【実体化(サブスタンティション)


 隠れ部屋の構造は単純だった。回転させない様につっかえ棒を内側から差し込んでるだけなんだからね。それを外してがらっと壁を回す。


 「ジル、もう良いよ♪」


 「え? ええ!? さっきまで壁は動かなかったのに、どうしてですか?」


 「うん、それは秘密♪ また教えてあげるね」


 と言ってにっこり笑っておく。まだ話せないね。ディーも居るし。もしかしたらもう意識が戻ってるかもしれないから、下手なことはできないぞ。僕の笑顔を見て頬を膨らます。狡いです、と呟いて。ご馳走様です。


 隠し部屋の中にはそれなりの金品が積まれていた。日本人だから刀があれば欲しいところだけど。まぁ、そんなに都合よくアイテムが手に入るはずもないだろうからね。さてと、じゃあ、ジルに騎士さんたちの誰かを呼んできてもら、おや? 来たかな?


 「ジル殿! うおっ!! 大蛇に大蜘蛛!?」


 「あぁ、待って! 騎士様たちが手を出さなきゃ、何もすることはないので、気にせずにこちらに来て頂けますか?」


 剣の柄に手をやって臨戦態勢を取ろうとする騎士たちを慌てて制して、隠れ部屋に入ってもらう。


 「「こ……これはーー」」


 「今ここを見つけたところなので、ここから片手に乗るだけのお金をいただきますね♪」


 そう言って掌をいっぱいに広げて持てるくらいの巾着形の革袋を持ち上げる。中身を確認すると金貨がぎっしり詰まっていた。騎士さんたちにも中身を確認してもらい、これを貰うことにする。ついでにジルの足元に置いていた首級(しるし)も預けたのだった。いつまでも持っていたくない。


 話を聞く限りでは大方盗賊たちの拘束が出来たらしい。魔物の死骸をどうするか悩んでいたので、それはこちらで引き受けることにした。アイテムボックスに入れておけば鮮度も落ないだろうし、ギゼラのおやつにはなる。


 ここにある金品の管理は騎士さんたちに任せて僕たちは砦の外に出ることにするのだったが、ディーはまだ突っ伏したままだった。騎士さんたちには蜘蛛を刺激しないように、もし起きたら「ルイが気をつけて帰ってください」と言っていたと言付を頼んでおいたから大丈夫だろう。


 あそこの金品を運び出すだけでも時間と労力が掛かりそうだからね。安心材料があるだけでも違うでしょう。


 砦の1階に降りてレアとサーシャに合流する。アイテムバックは全部で12個あった。意外に少ないのかな?1つ自分用に貰って後をアイテムボックスに収めておく。


 神様のアドバイス通り、アイテムバックを開けた状態でアイテムボックスの方へ投げ込むわけだ。その要領で熊さんの遺骸の回収に成功する。さて、レアとサーシャのお姉さまに逢いに行きますか。


 騎士の一人に砦の外に出ることを告げて僕たちは、山腹を下っている。ギゼラの背中に乗ってね。5分くらい下った頃、二尾の狐の一団が現れた。あの6匹も一緒だ。


 『レア! サーシャ!』


 あの時の狐さんが先頭に出てくる。


 『『シェイラ姉さま!!』』


 呼ばれた二人も同時に叫んでギゼラの背から飛び降りるのだった。うん、三姉妹だったのね。再会を喜んでいるのを横目に、あの6匹に近寄る。群れのものたちが警戒心を顕にしてるが、6匹の方は大丈夫そうだ。


 懐に手を入れてあの結晶石を取り出す。


 『取り返しては来たんだけど、どれが君たちの心臓なのか分からないんだ。ごめんね。どれが自分のだって分かれば助かるんだけど、どうかな?』


 そして、1つ1つを外して彼らの前に並べてみる。


 『レア、あれは何をしてるのだ?』


 『あれは外法の実験で我らのユニークスキルを心臓に固定して結晶化したものなのです』


 『なっ!? 誰がそんな酷いことを!?』


 『あの男です、姉さま』


 『くっ! 里を踏みにじっただけでなく、我らの仲間まで涜すとは!』


 後ろで三姉妹の声が聞こえてくる。うん、そうだよね。許しちゃいけない。


 『だが、心臓を抜き取られてるのに、なぜ生きているのだ!?』


 『それはルイ様が癒してくださったからです』


 『うん、ルイ様すごいんだよ! わたしたちの傷治してくれるんだよ!』


 『ーーそんなことが…』


 う~ん話を聞いておきたいとこだけど、こっちが優先だね。6匹の狐たちがくんくんそれぞれの心臓の結晶を嗅いでいる。そして暫くすると、それぞれが結晶石の前に並び直っていた。どうやら自分の心臓が判別できたらしい。


 心臓の近くで【融合】させるには腹を触る必要がある。だが、見た目は動物とはいえ歴とした言語を理解する魔物、いわゆる魔獣だ。その気高い精神(こころ)を持った者に無礼なことはできない。動物にとって腹部は守るべき大切なところであり、そう簡単に晒すことがない部位だ。


 理性がある魔獣であれば尚更だろう。


 僕はそう考えて聞いてみることにした。何も言わなくても分かってくれると言うのは傲慢だろう。僕はそれで失敗したのだから。


 『良かった。じゃあ、上手くいくかわからないけどそれぞれの心臓を戻していくね。……下腹を触るけど許してくれるかい?』


 恐る恐る尋ねると、僕の言葉に6匹の狐たちが一斉に頭を垂れてくれるのだったーーーー。







最後まで読んで下さりありがとうございました。

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