表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二幕 辺境の街
21/220

第20話 山岳に聳える砦

2016/3/30:本文修正しました。

 

 3日間の道中は居たたまれない感覚に襲われ続けた。


 御供の騎士様たちは全員男。しかもジルさんとレアさんに欣慕(きんぼ)し、僕を羨望の眼で見るものだから折角美味し食事に与れたとしても、喉を通らないのです。


 まぁ何処の馬の骨とも分からないぱっと出のさして格好良くもない平民男に美女が甲斐甲斐しく付き纏っているのだ。面白い訳がない。僕が逆の立場なら間違いなくそうだ。


 だから、自重して。とお願いしてたんだけど「分かっております」と返事だけいいんだよ?


 どこが分かってるの!? って言いたいのを我慢して溜め息をつくこと何百回。でも、(ようや)くこの状況から解放されそうな気配を感じてきた。


 大分遠きに見えていた雪冠を頂く山麓が漸く眼前に広がったのだ。景色が良い山から吹き降ろされる風にひんやりとしたものを感じた。


 「彼処にアジトがあるのか」


 「此処からは幻術で視覚を惑わせる壁をルイ様の引く荷馬車の荷台に立てます。その後に私たちが隊列を組んで進みましょう」


 「了解。剣も借りてるから、矢ぐらいであれば叩き落とすことにするよ。まぁ今すぐはそんなことないだろうけどね」


 「我らを朧げな壁にて覆い、我らが敵手の眼を欺け。【欺く壁(デムリィウォール)】」


 何も見えないけど、魔法が発動したのが分かる。これが幻術かぁ~。魔法って奥が深いんだなぁ~。


 そんなことを思ってると、二列縦隊に騎士様たちが隊列を組む。僕が居る荷馬車の後ろにジルさんとレアさん、その後ろに騎士様たちだ。山の麓まであと小1時間だろうか。


 焦る気持ちを押さえつけながら、僕たちは一路山腹を目指した。




             ◇




 一方、山腹のアジトでは。


 ガシャーンッ!!


 カンゼムが足に着いた鎖で周りの物を砕きまわっていた。


 「クソッ! 忌々しい! 何だこの鎖は!? なぜ外れぬっ! 大蛇も狐もあと一息で我が物にできるというのに、この枷の所為で何も出来ぬ! 【技量の血晶石(スキルハート)】が手元にあっても発動せぬとは一体どういうことだ!?」


 小太りの男は忌々しげに部屋の奥に蹲る少女と、その少女を守るかのように蜷局(とぐろ)を巻く大蛇を睨むのだった。命令に対しては一応従うようだが、完全に【調教(ティム)】出来ていない為か斑があるのだ。


 此奴らの主とかいうあの小生意気な男の所為で貴重なタイミングを逸してしまった。思い出してもはらわたが煮えかえるようだ。それと同時にぶるっと身震いする。あの威圧感は只者ではなかった。


 自分にあの装置の話を持ってきた男でさえ、あれ程の存在感はなかったのだ。ふと不安がよぎる。何処かで選択を間違ってはいないだろうか? と。その時ーー。


 慌ただしく部屋に駆け込んでくる足音がする。


 「申し上げます! 荷馬車を引いた男が1人(・・)山腹に向かってきています」


 鎧を身にまとった兵士風の男が駆け込んでくる。


 「なに? 今何といった?1 人だと!?」


 莫迦(ばか)な。この砦にどれだけの者を集めたと思っているのだ! 200名だぞ! 傭兵崩れのやつから盗賊まで! そして砦の周辺を彷徨いていた魔物どもも10数匹はいる! 誘導か!?


 「他には本当にいないのか!? 誘導かもしれんのだぞ!?」


 「はい! それがいくら周りを探しても姿が見えないのです」


 「ちっ! (何だこの言いようのない不快感は)大蛇に小娘よ、聞いたか! 貴様の主がのこのこと1人で死ににやって来たぞ! 見ておれ、ミンチにして貴様らの心を折ってくれる」


 カンゼムの言葉に大蛇と少女の頭が持ち上がる。双眸は虚ろな光を宿しているのだが、その奥で微かに光が点った気がした。その様子を見ている拳大の緋色の蜘蛛が天井の隅にいたことに誰も気づかない。




             ◇




 「随分りっぱな砦ですね。ここ一年そこらで出来るような造りでないことがよく分かります」


 「本来は魔王領からの侵入を防ぐ最前線の砦として建設されたのですが、今は任せられる人もいないため、荒れていたのです」


 と1人の騎士様が教えてくれる。砦を褒められたことが嬉しかったのかな。その砦が慌ただしさを増している。どうやら(おとり)に気がついたようだね。


 「さてと、どうやら僕に気がついたようなので、行って来ます♪」


 「「ルイ様!?」」


 ジルさんとレアさんが隊列を飛び出そうとしたんだけど、手で制する。


 「ダメだよ。こういう計画だったでしょ? 約束通り砦から煙が出るまでは動かないって?」


 「「そ、それはそうなのですが」」


 「聞き分けのない子は嫌いです」


 「「ゔ……」」


 どうやらこの言葉に弱いらしいという事を3日目に発見できたのは僥倖だった気がする。騎士様たちは二人がここに残ってくることは大歓迎らしいので、僕を諌めることはしない。大人の対応だ♪


 「騎士様たちも二人のこと宜しくお願い致します。後ほど御逢いしましょう」


 「「「お任せ下さい! 我らが誠心誠意お守りいたします!!」」」


 うん、頑張って。凄い目で睨まれてるのに気づかないようだし、幸せなまま居てください。


 さてと、じゃあ2人を取り戻しに行きますか。 


 この3日間のほほんと2人の美女の接待に現を抜かしていた訳じゃないよ。魔法をなるだけ目立たなくするにはどうすればいいかな? って思って、練度を上げてたんだ♪


 まぁステータスには乗らない項目だけどね、魔力の制御や操作、調整などなどが関係してくるみたい。で、何をしてたかって? これさ♪


 【黒珠ダークボール


 テニスボール大だった闇魔法で作った珠を、ビー玉大の大きさに威力を保ったまま縮めたんだ。1個できればコツは意外に簡単で、今は100個の薄黒いビー玉が宙に浮いてる。


 僕の動きについてくるので、初級魔法とは言え随分助かってるんだ。それに動いてると、風景に溶け込んで100個の縮小黒珠は捉えることができない凶器と化す。


 「「…………」」


 この縮小黒珠を纏ってる僕を見て、ジルさんとレアさんは僕を見て引いていた。ううっ。ごめんなさい。つい夢中になる性格なんです。


 「じゃ、あとでね」


 そう言い残して僕は坂道を駆け上がり始めた。出来るだけ速い動きの方が纏ってるものがバレにくいからだ。レベルが上がってる御蔭で息切れの心配もなさそう。昔なら酸欠で倒れてひぃひぃ言ってただろうけどね。


 異世界様々だ。砦の入り口付近に人が集まり始めるのが見える。相手は一人と思い込み、扉を閉めることなく一網打尽にという魂胆が見え見えだね。走る姿勢を前屈みにして、地面から砂利を無造作に掴み取る。


 ひゅっ


 と時折単発的に矢が掠めて行くけど、なるだけ木の陰をジグザグに駆け上がっていく。不死身というレッテルを貼られるのは御免被りたい。怪我を恐れて慎重に行動してるのを間に受けてもらえるならそれに越したことはないからね。


 手入れを長年抛って置いてくれた御蔭で、木々が砦の傍まで生え育って容易に近づくことが出来た。砦の入口には20名前後の盗賊や傭兵のような男たちがいる。うん、おやすみ♪


 そう胸の内で呟いて掴み取った砂利を投げつける!それに合わせて縮小【黒珠(ダークボール)】を飛ばす!次の発射に合わせて、再び足元の砂利を掴み取る。1投では完全に意識を削れなかった者もいた。レベルが高いものもいるということかな?


 【黒珠(ダークボール)


 再び縮小【黒珠(ダークボール)】を作り出し、砂利と共に投げつけ再び砂利を掴み取る。その繰り返しだ。一気に砦入り口に駆け込むと、確認せずに砂利と【黒珠(ダークボール)】を投げつけ、外に出て扉越しに中を確認してみる。粗方片付いたかな?


 「ジル、ジル!」


 「な、何ですのレア」


 「ルイ様は本当に人なのだろうか」


 「魔族だとしても、あそこまでの戦士は見たことないわ」


 「ーーーー本当に規格外なのだな……」


 「ーーーー本当に規格外ですね……」


 そんなことを後方で話されているとも露知らず、素早く【鑑定】を掛け3種類のドレインを済ませてゆく。次の足音が近づいて来るまでに初戦の処理は終わっていた。


 さて、第2ラウンドだ♪


 砦の中は薄暗いので小細工はいらないだろうと思ったんだけど、念のため両手に一握りずつ砂利を握っておく事にした。【黒珠(ダークボール)】を準備しておく。


 姿が見えた時に砂利と一緒に投げつけて、もう一度【黒珠(ダークボール)】をお見舞いする。


 その繰り返しで、砦突入後20分ほどで3分の1は刈り取っていた。僕頑張ったよ。と言うか、どれだけ化物になっちゃったんだろうね。


 でも肝心の2人に逢えない。まだ奥に居るのか、囚われているのか? あ、思い出した。2人だけじゃなくて二尾の狐さんたちも探さなきゃいけないんだよ。


 ぽとりっ


 何かが肩の上に落ちてくる。ん?


 「おわっ! き」


 そこに居たのは拳大の緋色の蜘蛛だった。


 『今キショいって言おうと思ったでしょ?』


 『え、あ、いや、その』


 『思ったでしょ?』


 『はい、ごめんなさい』


 何故か僕はその蜘蛛に謝っていた。そう思ったのは事実だったし、声が聞こえなければ払い落とそうと思ったくらいだったから。仕方ないよね。


 『宜しい、じゃあお詫びに私を助けなさい』


 肩の上にいる蜘蛛を凝視する。緋色。普通の蜘蛛ではないのは明らかだ。だが自由に動けるこの蜘蛛を助けるとはこれ如何に? 思わず聞き返していたーーーー。


 『は?』







最後まで読んで下さりありがとうございました。

ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪


誤字脱字をご指摘ください。


ご意見やご感想を頂けると嬉しいです。

宜しくお願い致します♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ