第187話 飛び地と懐かしい声
お待たせして申し訳ありません。
今回も説明が多い回となっています。すみません。
まったりお楽しみ下さい。
あれから僕らは黒竜の背に乗って、再度蛇女族の隠れ里に戻ってきた。
今回は風の眷属精霊頼んでいない。
いや、本当は頼もうとも思ったんだけどね。ハクばっかりって不平を言われる自分の姿が浮かんできたから、我慢することにしたのさ。眷属に気を遣う眷属主って……、どうなんだろうねぇ。ははは……。
お蔭で約10時間のフライトだ。昼前に出て、到着は夜の10時。
まあ、急ぐ旅でもないからね。現状の速度が把握できたと思えばいいか。
黒竜に言わせればもう少し速度が出せるらしい。十分だけどな。それに数十分くらいしか到着時間が変わらないのなら、穏やかに移動したいよ。急ぐのは緊急時だけでいいさ。
このラミアの隠れ里。
前回は怪我人を治して、直ぐ世界樹の麓に蜻蛉返りだったから特に触れなかったんだけど……。
なんと、里全体の住居が竪穴式住居なんだ。
懐かしい……というか、教科書で見ていた物を実物で見れるとは思ってなかったよ。
考えてみれば、ラミアは女系種だ。
勿論、力で言えばエルフたちよりも勝るだろうが、女性は事、建築などに関してデザインは出来ても実際に作るとなると苦手な人が多い。建築現場で汗と埃に塗れて働く女性の比率が、男に比べて圧倒的に少ないことからも分かるってもんだ。
けど、女性しか居ない聚落では話は別だ。誰かがしなきゃ始まらないんだから。その点、この竪穴式住居は作りやすさ、構造の点で女性向きだと思う。
何と言っても、特徴は屋根が土で覆われてることだね。技術や特殊な材料の要る、茅葺きや藁葺屋根じゃないってことだ。
どう言う事かというと、なだらかな三角錐形に丸太を並べて骨組みを組んで三角帽を作り、木の隙間を塞ぐのと当面の水漏れを防ぐ為に木の皮を貼った上に土を被せてるんだよ。屋根の一番上はちゃんとした入り母屋型のヘの字屋根だけどね。火は使うんだから煙穴が必要さ。手がかかるのはここくらいだろう。
これだと周りの森から材料を幾らでも調達できるし、被せるための土は竪穴を掘った時に出た土を使えばいい。細かい技術は必要ないよな。おまけに草が自然とその上に生えて根が張れば、土がずり落ちることもなく、張り伸ばされた根のお蔭で防水効果が上がるというね。
入り口は段差を造って渡り板を造ってる。雨対策だな。板と言っても、太い枝を並べて上手に組み上げた物だ。入り口を崩さないようにする為の実際的な知恵ってやつだろう。本当、よく考えてある。土の中だから夏は涼しく、冬は温かいという彼女たちからすれば理想的な住まいだ。
変温動物である爬虫類と蛇女族はよく似た所があるからね。それは一緒に寝てみて気が付いたことなんだけど……おほん。
竪穴式住居の側で焚かれる篝火で里の中はそれなりに見通せる。僕らは住居の傍をなるだけ通らないように、眷属地にする場所へ向かって移動していた。
僕、イルムヒルデ、ゾフィー、リューディア、カリナ、ナハトア、ジル、シンシアの8人だ。
「ルイ様、本当にこのような夜中にするのですか? 今夜は休まれて、明日の朝でも良いのではありませんか?」
ナハトアの腕輪から出て案内をしてくれてるイルムヒルデが気を遣ってる。ヴィルには容赦無いのにな。
「良いんだよ。あんまり大勢に見せたくないしね。それと、ゾフィー」
「はい」
僕の呼び掛けに、ズルっと蛇体をくねらせながら這い寄って来るゾフィー。彼女の嬉しそうな表情を見てると僕も自然と笑顔になる。
え、あ、ナハトアもジルもそんな眼で見ない。
……リューディア。あ、眼を逸らした。
「大婆様だっけ? 守役のお婆ちゃんに訊いて、お婆ちゃんと、お互いに血の繋がりが遠い戦士を10人程連れて来てくれるかい?」
「郷長はどうしますか?」
「え? もう決まったの?」
ゾフィーの問い返しに少し驚いた。あの時点ではまで決まってなかったけど、僕らが戻って1日や2日で決まったのか。
「蛇王女ではありませんが、今の郷の中で随一の魔力を持っていましたので」
ゾフィーの代わりにルルが答えてくれた。予めナーガ種が生まれなければ、次点はという話になってのかも知れないな。本当なら大婆様の後任だった可能性も……。じゃあ尚更来てもらったほうが良い。
「ああ、それなら郷長も連れて来るといい。僕らはこのまま村の奥に移動するから、皆を連れて合流してくれるかい?」
「は、ルイ様!」
尾の先を機嫌良さそうに揺らして這って行くゾフィーを見送った僕らは、再び予定地に向かって移動を始める。
時折、住居から何事かと顔を出して驚くラミアたちに手を振りながら、僕はリーンリーンと染み入るように鳴く虫たちの鈴の音に耳を傾けていたーー。
◇
15分は経っただろうか。
僕らは里の1番奥まった場所に来ていた。結界の際らしい。このまま結界を抜けて真っ直ぐ進めば7日から10日で街に出るんだとか。まあ、森の中だもんな。それくらい掛かるか。
周りに竪穴式住居もないし、ここなら周りに迷惑を掛けることはないだろう。
ま、大婆様を連れて来てもらって、確認してからだな。そう思ってたら、大勢の気配が近づいてくるのが分かった。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14……あれ? 多いな。15人は居るぞ?
大婆様とゾフィーが松明を手に、13人の成人したラミアたちを引き連れ遣って来た。ああ、大婆様は松明じゃなくて杖だな。
「お待たせてして申し訳ありませんのじゃ」
のじゃ言葉が背中の曲がった老婆のラミアから聞けると、少し安心する。
「ああ、僕らもちょうど着いたところだから気にしなくて良いよ。家を出す場所を相談したいんだけどね、ここら辺は問題ないかな? 先祖を祀る大事な土地だとか、そういうのはない?」
「はい、ございませんですじゃ。御館様」
「御館様?」
「はい。我らは誰も館など持っておりませぬじゃ。必要がないからというのもありますが、建てる術を持たぬと言うた方が良いかも知れませぬな。姫様たちも、ルイ様の名は出さぬ方が良いと仰いましたのでな、それならばと思案したのですじゃ。ふぇっふぇっ」
「あ、ああ」
皺くちゃな顔で笑う大婆様に引きつつも、呼び方に結びついた理由が腑に落ちた。まあ、其処彼処で呼ばれる呼称じゃないしな。ま、良いか。
「ルイ様、では家を何処へ出しましょうか?」
「あ〜、位置決めはリューディアに任せるよ。なるだけ平たいところと言うことくらいしか僕からは言うこと無いしね」
リューディアに訊かれても、建築学を学んでる訳じゃないから僕には分からない。精々《せいぜい》「傾かない方が良いよね?」くらいだ。それに、リューディアはこれから出す家を移設しながら、転々と各地を回っていたらしいから僕よりは詳しいだろう。
「分かりました。少し辺りを調べてまいります。ゾフィー、カリナ、一緒に来てくれるかい?」
「あ、はい」「え? あたしも!? わ、分かりました」
カリナはまだ「自分がここに居て良いのか?」って顔してるな。まあ、リューディアから説明受けてるだろうし、元々知らぬ仲じゃないみたいだから任せるか。さて。
「うん、ゆっくりでいいよ。僕の方もすることがあるから。さてと、大婆様は言わなくても分かるけど、郷長は誰かな?」
「わたくしでございます。御館様」
僕の問い掛けに、大婆様の後ろに控えていたラミアが進み出る。光源が松明と月光だけだからはっきりは判らない。ウェーブ掛かった赤っぽい髪を腰まで伸ばした綺麗な女性だ。
「で、少し増えたけどあとの12人が血の繋がりが薄い戦士ってことでいいのかな?」
「然様にございますじゃ。皆、里を守る12の組の長ですじゃ」
なる程ね。じゃあ、申し分ないか。
「一応、確認しておくね。ここに来た者だけ、僕の眷属にする。勿論、里の忠誠は別に受け入れるつもりでいるから、眷属にならなくても問題はないよ。眷属にするのは、ここに新しく眷属地を作るから、その守護も兼ねてという打算もある。それでも良いというのなら、ここに残って。少し考えたいという者は、残念だけど眷属にはしない。決断は今ここでしてもらいたい。どうかな?」
これはリューディアから言われて考えていたことだ。思う所はあるけど、飛び地に眷属地があっても面白いと思う。けど、管理もせずに放っておくことも出来ないからね。だったら、里の者に特典を付けちゃえば互いに利があると思って貰えるだろって算段だ。
少し返答を待ってみたけど、誰1人その場から去るものは居ない。承諾したという理解でいいな。横で動く気配がするから視線を動かすと、シンシアとイルムヒルデが腕を組んで大きく鷹揚に頷いているのが横目に見えた。君たちねえ……。
「御館様の眷属の末席に加えて頂けるなど、存外の悦びでございます! どうぞわたくし共の永遠の忠誠をお受取り下さい!」
そう思っていると、郷長が進み出て、いつもルルやゾフィーが見せていた、胸の前で指を伸ばした腕を交差させ、90°にお辞儀をしたんだ。声が震えてる。喜んでもらえたのなら良いんだけどね。郷長の動きに倣い、大婆様を含めた11人も同じようにお辞儀をしてくれた。
じゃ、次の工程に入るかな。
「分かった。君たちの忠誠を受け取る。それとこれは命令だ。誰かを決して蔑まないこと。僕を裏切らないこと」
2つ目の命令で「それは当たり前では?」的な表情が薄暗がりに見えた。まあ、普通はそうだな。けど、そうじゃないんだよな。最後の方が女神様の強制命令付だからね。重みが違う。
「分かってないようだけど、眷属になれば分かるよ。その時に改めて説明する。それと、皆、得意な属性を教えてくれるかい?」
その言葉に、ルルが「えっ!?」という表情で振り向いた。あ、うん、言いたいことは分かるよ。でも、何となく結果が違うような気がするんだよね。何て言うか……直感?
「ま、大丈夫さ。変な事になればまた女神様が来るだろうしね」
「「「「また!?」」」」
ルルとシンシア、それにナハトアとジルからも突っ込まれた。ああ、まだ複数回逢ってなかったんだな。場面は違えど、女神様たち、かなり頻繁に地上に来てる気がするのは気のせいか? いや、深く考えたら負けだ。
「おほん、まあ、それはおいおいね」
このまま質問攻めも困るので、得意な属性を聞き出し、それに合わせてアイテムボックス内で死蔵している竜の鱗を【融合】してあげることにした。結果として誰かの頭に例の天使の輪、【布告の光輪】は現れなかったよ。ちょっと残念な気もする。
光は天竜、闇は黒竜、火は赤竜、水は青竜、風は羽竜、地は角竜の鱗で対応できた。アピスとかが使う固有魔法とかを持ってるラミアは居なかったから、対応には困らなかったよ。
何にせよラミアたちの種を変革させる要素には成り得なかったと、納得することにした。
その後は、2年前からディーとこっそり切り集めていた、僕の右腕を【融合】していく作業だ。眷属になって【状態異常耐性】と【精神支配耐性】のスキルが生えてきた者も居るけど、生えない者も居たんだよね。エレオノーラが召喚した水色の乙女騎士団の大半が後者だったから結構消費したんだけど、これを知ってるのはエレンとアーデルハイドの2人だけだ。
勿論、補充済み。何でか解らないんだけど、昔から僕の【実体化】した体の1部を【融合】するとこの2つのスキルが生えるんだ。そこは今も説明できない。「ルイ様だから」の一言に苦笑いするだけさ。
なので、今回は【鑑定】しながら1人ずつ【癒合】することにしたって訳。これもそんなに時間も掛からずに終了。天使の輪もなし。
そうこうしてると、リューディアたちも戻って来た。
「いい場所があったかい?」
「矢張りこの辺りが最適かと思います」
と、首を振るリューディア。
「そっか。じゃあ家を出して眷属化してしまうかな。リューディア、宜しく」
「畏まりました。では家を出しますので、少しお離れ下さい」
そう促されて下がった時、僕はあることを思い出した。
ーーしまった。まだ3日経ってなかったぞ。
そう。今の僕は神様から与えられた制約で3日に1回しか【実体化】出来ないんだ。この夜が明けて昼前がくれば3日経つんだけど、今この時点では無理。さて、どうするかな……。
ん? ああ、何でも無いよ。
どうもウチの女性陣は勘が鋭い。
ポーカーフェイスが上手くいってると思ってるのは僕だけだったりしてね。ははは……。
アイテムボックスの表示を出し、収納物をスクロールしながら目星い物を探す。
ーーあった。
エトの為に取り分けていた僕の血液だけ詰めた大瓶が3本ある。これを使ってやろう。うん、それがいい。
地響きと共にリューディアのアイテムポーチから1戸建ての家が現れた。ああ、見覚えがある。サフィーロ王国の王都で見たままの状態だな。
「ルイ様、お願いします」
「分かった。じゃあ、皆家の中に入ってくれるかい? カリナ、ゾフィー、あとルル、ヴィルと一緒に入ると良いよ。リューディアと、ナハトア、シンシアとジルはこれから線を引く外に居ること」
「「えっ!?」」「よ、宜しいのですか!?」「む、真か!? 忝ない」
驚くカリナとゾフィー。ルルの喜べば良いのか驚くべきなのか、良く分からなくなった表情で確認してきたので肯いておく。ヴィルもナハトアの腕輪からヌルっと現れた。ナハトアを眷属地の敷地から外しておけばホノカとナディアを困らせることもないと思ったんだ。
この先どうなるか判らないけど、2人を無理やり眷属にしたくはないからね。ナハトアのケースは事故だと思って諦めることにした。結局、僕にとって良い位置に落ち着いたし……。ははは……。
「「畏まりました」」「分かりました」「承知」
既に眷属の4人は肯いて、家から距離を取る。リューディアとジルの受け答えが硬い。
じゃあ始めよう。
2年前にエレクタニアでしたように、瓶の血を地面に滴らせて線を引いていく。少しは余裕が有ったほうが良いから、家の前後左右にそれぞれ家3つ分くらいの広さを確保する。そうすると、1瓶じゃ足らなくなるからもう1本開封した。
うん、これでいいな。
「あ、そうだった。カリナ、ちょっと来てくれる?」
「は、はい!」
「カリナが得意な属性って光と水だった?」
「そうです。風も使えますが、何が得意かって訊かれるとその2つですね」
「はい、じゃあこれ持って」
アイテムボックスから取り出した天竜と青竜の鱗をカリナに手渡す。
「へ?」
「【融合】」「きゃっ」
状況がよく飲み込めてない位置に【融合】しておく。天使の輪は出ない。じゃあもうでないな。
「あとこれも」
「ふぇっ!? ーーっ!? こ、こ、これ!?」
受け取った僕の右腕を両手で差し出しながら、軽く混乱し始めるカリナ。
「ああ、僕の腕だから心配しないで」
「し、心配しないでって、何で切ってるんですかぁ!?」
「うん、何かに使えるかと思ってね」
「は!? いや、意味解らないですって!?」
こういう時でも突っ込めるのは流石だね。
「ほい、じゃあ、もう1回ね。【融合】」「うきゃあっ!?」
「【鑑定】」
◆ステータス◆
【名前】カリナ
【種族】ハイダークエルフ / ハイエルフ族
【性別】女
【職業】巫
【レベル】287
【状態】興奮
【Hp】38,467 / 38,467
【Mp】96,267 / 96,267
【Str】6,734
【Vit】3,327
【Agi】7,886
【Dex】4,813
【Mnd】8,959
【Chr】5,193
【Luk】4,714
【ユニークスキル】精霊語、祓いLv89
【アクティブスキル】光魔法Lv241、水魔法Lv239、風魔法Lv125、武術Lv105、弓術Lv173、舞踊Lv201
【パッシブスキル】料理Lv146、野営Lv29、水泳Lv66、潜水Lv58、光耐性Lv221、水耐性Lv238、風耐性Lv107、状態異常耐性LvMaX、精神支配無効
毎回思うんだけど、ナハトアにしても、カリナもそうだけど、種族としてはハイエルフなんだな。肌の色が黒かろうが白かろうが、エルフには変わりないということか。
まあそうだよな。肌の色が違おうが人間は人間な訳で、住んでる地域で〇〇人って呼んでるだけだから、それと同じと考えれば別に可怪しいことじゃない。良し、【状態異常耐性LvMaX】と【精神支配無効】も無事に付いたな。
ルル、ゾフィー、ヴィルは何もしなくても付くんじゃないかと思ってる。ま、付いてなければ後から付け直せばいい話だから準備はここまでにしておくにした。
「良し、準備万端! カリナも家の中に入っててくれるかい?」
「む〜。何か色々と言いたいですけど、後にします」
「ははは……。そうしてもらえると嬉しいよ。家の中に入って周りが明るく光を放ち始めても家から出ないように中の人にも伝えてくれる?」
「分かりました」
「ふぅ。さてと、久々に使うから緊張するな。4人ともちゃんと距離取ってね?」
「「「はい」」」「問題ないぞ」
うん。シンシア、普段のその話し方はヴィルと被るんだけど、竜族の若い者って皆そうなのか?
いや、シンシアだけ、ヴィルだけの時はそこまで思わなかったけど、2人が近くに居ると「あれ?」って思っちゃったんだよね。シンシアはデレてなければ「主殿」って呼んで、ヴィルは「ルイ殿」だから声以外でも区別は付くんだけど……。
ああ、いかんいかん。関係のない事に気が逸れてる。
もう一度深呼吸して周囲に耳を澄ませる。背後に居る4人の息遣いと、森の中から染み出てくる虫の声にざわついていた心が鎮まってくるのが判った。いい感じだ。
「血よ。紅い絲と為りて我と我が愛する者たちを掬び賜え。血よ。我が力を我の愛する者たちに、我の愛する者たちの懐いを我に渡し、解け得ぬ断ち切れぬ大綱と為りて産霊、永遠の契の証しとせよ。」
祝詞のような呪文を唱え始めると、紅い光が血で描いた線の全てをなぞり一段と強い光を発した次の瞬間、一気にMpが吸い取られる感覚に襲われる。
今回はアピスのサポート無しだ。範囲が狭いし、あの頃よりも格段にMpに余裕はある。問題なくいけそうだ。
「【眷属化】!!」
術の完成と同時に地面全体から紅い光が溢れ出て、線の内側に居る土地と屋敷を包み込む。ふぅ。人数がリューディアたちを眷属化した時より多いのと、土地も含めてだから結構持って行かれたな。でも、一番最初の時ほど消費はしてない。でもあの時に使ったMpは10,000,000で、今はその6倍は余裕があるってどんだけ規格外なんだよ。我ながら自分の体が空恐ろしい。
「屋敷がーー」「「あっ」」「何が起きてる!?」
「っ!?」
光が包まれた土地とリューディアの家が、ぐにゃりと画面越しに歪み加工しているかのように波打ち始めたその時だったーー。
ぴこん♪
あの天使の輪が顕れてしまったのだ。
ーーあ、ひょっとしてやっちゃった?
「こぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」「「「「えっ!?」」」」
天空から懐かしい声が降って来た。
声のする上空に眼を向けたリューディア、ジル、ナハトア、シンシア、そして僕の眼に小学1年生を思わせるほどの幼い女の子がすごい勢いで急降下して来ている様子が映し出される。いや落下か?
その発光している姿が物凄い勢いで近づくにつれ、その容姿がはっきり見えてくる。
背中まで伸びている金髪に琥珀色の瞳が収まったくるっと愛らしく大きな目。白い肌に白いワンピースを身に着け、金色の額飾りを着けている。頭から急降下しているせいで今回も裸足であることに気が付く。
背中に小さな一対の翼があるが大人の肩甲骨くらいの大きさで飾りっぽい。急降下してる様だと可愛さは伝わらないけど前に言ってた神力というやつで飛んでるんだろうね。多分。黙っていればすごく可愛い女の子なんだけど。
やっぱり来た。懐かしさで頬が緩む。
魔力纏で体をシッカリ覆い、体を文字通り僕の女神様に向かって水平になるように傾けて、両腕を広げて到着を待った。
「ルイくんっ!!」「ぐはっ!?」
どぉぉぉぉぉん!
受け止めれたと思ったら、そのまま地面に減り込んで小さなクレーターを造ってしまった。どんだけ目一杯抱きついてんだ!
「っ!?」「ひぃっ!?」「な、なあっ!?」「御久し振りでございます」
4人とも僕から離れてて良かったよ。下敷きになるとこだった。ジルとシンシアはウチの女神様と面識があるが、あまりの事に思考を処理できたのはシンシアだけだったようだ。シンシアだけ跪いている。
「皆、我らに加護を下賜くださった女神エレクトラ様だ。頭が高い」
「も、申し訳ありません!」「お、御久しゅうございます!」「し、失礼しました!」
シンシアの言葉でビクンと体を震わせて、その場に跪く3人。うん、この角度だと長い丈のスカートを履いているリューディア以外は……おほん。
「折檻は終わったんですね、エレクトラ様?」
「ふふふっ。そうなのよ! あのじじいときたら容赦なくてね! ん〜やっぱりルイくんはいい匂いがするね! ルイくんのお蔭でわたしの下に連なるファミリアも増えて、良いこと尽くめよ♪ ここも上げた【範囲眷属化】で上手く眷属化出来たみたいだし。ああ、そうそう、マイア姉様に伝えてた言伝聞いた? あの猫と犬っころめ、わたしのルイくんを信じずに猿なんかにコロっと鞍替えするなんて。姉様が止めなければひゃぁにゃにしゅ○※◇○※△」
話が逸れて行き始めたので、僕に抱き着いたまま眼を瞑ってうんうんと悦に入っている女神様の頬を左右に引っ張る。何を言ってるのか分からないので仕方なく放すと頬を摩りながらまた睨まれた。だって。
「エレクトラ様、御出でになった理由を説明していただかないと――」
「ルイくんて本当にわたしのこと神様だと思ってるのか時々心配になるわ」
「思ってますよ! で、どういうことなんですか?」
久々にこの絡みが出来るのも嬉しいと思っている自分が居る。
ああ、そこの4人もそんな顔しない。『神様にそんなことして大丈夫なのでしょうか!?』的なオロオロ感が伝わって来る。
うん、大丈夫だから。
「ゔ〜。久し振りなんだからもう少しルイくん成分を補給したって良いじゃない」
「それをしながらでも、話は出来ますよね?」
「本当にルイくんて容赦無いわよね」
「拳骨を落とさないだけでも優しくなったと思って下さい」
「また」
「また?」
「また新しい種族を創ったわね?」「ぶっ!」「「「「っ!!?」」」」
「今はそこの屋敷と土地も変化中だから中に居る子を呼び出せないけど、またやらかしたのよ?」
Oh……。マジですか。
「あの中にダークエルフの子が居るでしょ?」
「カリナですね?」
「そ。種がエルフから変わってるから、ルイくんが責任持って増やすのよ?」
「ち、因みにどんな種ですか?」
またそれですか。僕、生霊なんですけど?
「ドラゴンとエルフが混ざった種ね。う〜ん……安直にくっつけて【ドラルフ】ってなってるわ」
「へ、へえ」
やらかした感が半端ない。まあ、実験というか遊び感覚で混ぜたというのもあるけど、カリナには悪い事したな。でも、眷属としたからには責任は持つ。その思いは変わらない。
「それと、ルイくんはまだ出遇ってないようだけど、蜥蜴人より厳つい感じの竜人っていう種があるから、カリナちゃんを連れ去られないようにね?」
「は?」
「あの子たち、竜の血信仰が凄いのよ。自分たちの血を濃くして竜になろうと思ってる節があるの。ま、無理なんだけどね。あははは。ああ、それを言えばゾフィーちゃんも危ないわね。ルイくん、頑張りなさい」
いや、何を暢気に「あははは」ですか。
「は、はあ。でもまあ、眷属としたからには守りますよ」
「うんうん、宜しい。さてと、わたしは新しく眷属になった子たちに加護を付けて還るね。じゃ、またね」
そう言うが早いか、右の頬に柔らかい感触が伝わる。レイスなのにそれが分かるってやっぱり神様な何だなって改めて思ったよ。何か気の利いた事でも言おうかと思ったら、もうその姿はない。相変わらずせっかちだね。
ふと体を起こして眼に入って来たのは、何故か3倍以上に膨れ上がった、塀に囲まれた蔦まみれの屋敷と庭だった。
質量保存の法則とか完全に無視された状態だ。
もう別物と言っていい。
リューディアたちはエレクトラ様の登場で思考が止まって居るらしく、まだぼーっとしてる。
ああ、そのままでいいよ。中見てくるから。
余韻に浸らせることにして、僕は屋敷の前に移動することにした。カリナとか、中に居るラミアたちの様子が気になるだろ? 他にも変化してないのかどうか……とか。
そう思って両開きの玄関扉の前に進んだ時だったーー。
「そこにいらっしゃるのは、ルイ様でございますか!?」
これまた懐かしい、震える声が僕の耳に飛び込んで来た。
「ああ、そうだよ」
軋む音と共にゆっくり内に開く扉の隙間から屋内の光が溢れてくる。光を背にしている為に輪郭しか見えないが、僕にはその声で直ぐに気が付いた。気が付かない訳がない。
開かれた扉の先に居たのはーー。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
ブックマークやユニークをありがとうございます!
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