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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第五幕 妖精郷
190/220

第174話 物見遊山のつもりが

少し早く描き上げれましたのでギリギリ11時台。放流します♪

まったりお楽しみ下さい。

 

 「「こぉの莫迦っっ!!!」」


 「へぶしっ!?」


 2人の鉄拳を顔面に喰らったヴィルが弧を描いて海面に吸い込まれていく光景を、僕はスローモーションを見てるかのような感覚で眺めていたーー。


 ヴィル、お前の事は忘れないよ。


 「ああっ、ヴィリーッ!!」


 なんて思ってたら、ナハトアの召喚具《腕輪》から更にもう1つ黒い塊がぬるりと飛び出して海に消えた。ヴィルヘルムの嫁になったイルムヒルデ(ルル)だ。どちらも僕に仕えることを条件でナハトアと【従者契約】を結んで、同じ召喚具《腕輪》に住んでる。経緯を知れば押しかけ女房と言った方が良いんだろうけど……。


 「だったら夫婦じゃない?」というと2人とも満更まんざらではなかったようで、目出度めでたく夫婦になりおった。まあ、何も祝わないのも変な気がしたから、自己満足も兼ねて指輪をプレゼントしたよ。


 ん? 鍛冶場かじば


 ああ、イケメン猿魔王のガレオン船が意外に高性能で、簡単に鍛冶が出来るスペースもあったんだよ。船の中なのにね。魔法って不思議だなと改めて思ったよ。武器の手入れくらいで済ませる用途で据え付けられてた小さな炉だったけど、指輪を作るには全く問題ない。随分昔にもらったオリハルコンがまだ残ってたから、それを加工した。


 いつの間にやら【鍛冶】スキルがカウンターストップ(カンスト)してるから、ありがたい事にどうにでもなる。色々試してみた処、この【鍛冶】スキルには冶金やきんも含まれているのが分かった。だから、金属の精製、加工もできるという訳さ。


 2人の血をそれぞれの指輪に【融合】したら黒い指輪が出来上がったけど、これはこれでと喜んでもらえたから良しとした。この時にこっそり3人の指輪も作っていたんだけど、どう転ぶかわからないからまだアイテムボックスの肥やしだ。


 という訳で、押しかけ女房で旦那を超甘やかすルルが海に沈んだヴィルを引き上げるのをぼーっとながめてると、隣でシンシアとナハトアが熱く握手をしてるのが見えた。


 「シンシアという。ナハトア、お前とは気が合いそうだ」


 「わたしもです。シンシアさん。どうぞ宜しくお願いします」


 「ふっ、聞けば同じ眷属というではないか。ならば敬称はいらん。エルフならばリューディアが居るが、ダークエルフの眷属は初めてだ」


 「「えっ!?」」


 リューディアの名前が出ると、ナハトアとカリナが異常な喰い付きを見せた。ん?


 「どうした?」


 「今リューディアと聞こえたんですが?」


 恐る恐る尋ねるナハトア。


 「リューディアさんて、“ヘクセ”とか呼ばれてませんでしたか?」


 と確認するカリナ。


 「ほう、よく知っているな。うむ。リューディアは魔女ヘクセの称号を持つエルフだ」


 「「えええっ!? そのリューディアさんとどういったご関係で!?」」


 シンシアにすがり付かんばかりの勢いで間を詰める2人だったが……。


 「ん? 可怪しな事をく。リューディアも我らと同じ眷属だ。お主らこそどうしたのだ? リューディアと知り合いなのか? そう言えばここはエルフの郷と言うしな」


 「「お、終わったーー」」


 シンシアの答えと同時に、その場へ崩れ落ちるように2人は四つん這いになる。昔メールで落胆を表すのに「orz」というアルファベットで書いてたのを思い出した。まさしく2人の今の姿勢があれだ。面白いくらいにコロコロと表情が変わる2人の挙動を楽しんでいると、コレットを除いた5人がゾフィーを質問攻めにしているのが見えた。でも声は聞こえないから、こっちに集中するかな。


 「おい、どうしたのだ、ナハトア? それに……」


 「カリナです」


 「おお、済まぬ。カリナよ。むっ」


 「其処そこ女郎じょろう、よくもわらわの夫に手を上げてくれたな。ナハトア、そちもじゃっ!」


 ザバッと水中からヴィルを石畳に放り投げ、ずるりと蛇体じゃたいをくねらせて陸に上がるルルは艶っぽさをかもし出していた。海水を滴らせ、濡れた黒髪が頬や胸元に張り付くその容貌に前屈まえかがみになる男がちらほら視界に入ってくる。うん、まあ、そうだよな。服も薄着だし……。でも、ヴィルの扱いが雑じゃない?


 「夫?」


 シンシアがある言葉を聞きとがめた。うん、伝えてなかったな。それは。


 「最近、結婚したんです」


 僕の代わりにナハトアが答えてくれる。ファインプレーだよ、ナハトア。


 「ヴィルにいとこのラミアが?」


 「そうです」「ラミアではない! ナーガじゃ!」


 ナハトアに視線を向けながら、ルルの方を指差すシンシアに2人が同時に反応した。面白いな。


 「ぷっ」


 白目をむいて濡れねずみになっているヴィルをチラッと見てシンシアが口元を人差し指で隠す。


 「何が可笑しい!」


 「あ、いや済まぬ。場をわきまえぬ傍若無人振ぼうじゃくぶじんぶりがいささかも衰えておらぬヴィル兄に、とついでくれる奇特きとく御仁ごじんが居たのだと思ってな。不束者ふつつかものの兄だが宜しく頼む」


 「そ、そうかえ。ならば特別に姉上と呼ぶことを許そう」


 小さく頭を下げたルルの期限が一気に良くなる。シンシアが竜の時もそうだったが、尾の先が犬の尻尾のように揺れるんだ。ちょろいな。本当に莫迦ップルなのか?


 ナハトア、そんな眼で僕に助けを求めるな。こっちが吹き出す。


 「いや、結構」「何故じゃっ!? 其方そなた、今ヴィリーを兄と呼んだではないか!?」


 「うむ。郷で歳の近い存在でな。我ら姉妹と良くつるんでおったのだ。その時以来ずっと兄呼ばわしてきたが、実の兄ではない。従兄弟いとこではあるがな。処で、名を聞いても良いだろうか?」


 「ヴィルヘルムが妻、イルムヒルデ・ド・ガドゥル―じゃ。ルイ様の命でこのナハトアの従者として夫と共に務めておる」


 姿勢を正したルルがクイッと胸を張り、指を伸ばした両手を胸の前で交差させて名乗る。あれが正式なやり方なのかな、とぼんやり思いながら眺めている。ヴィルは気を失ったままだ。やれやれ暢気に気絶とは恐れ入るよ。なんて思っていたら、気になることをシンシアが口走った。


 「ほう。古の血を継ぐ家人かじん夫婦めおとになったのか」


 古い血? なんだろうね。ま、それも覚えてたらいてみるか。


 「誠に済まぬのじゃが、妾らは共に死人しびとゆえに子は残せぬ。血は其処そこな妹のゾフィーに引き継がせる」


 「死人? “けがれ”が出ていないではな……」


 「えっと、多分それは僕のせいだ。詳しいことは馬車で説明するよ。一先ひとまず、3人を旅に同伴してもいいかな?」


 シンシアがいぶかしげに眉をひそめたから、さっと助け舟を出す。僕も“穢”が消失するメカニズムが解ってる訳じゃないんだけど、どういう経緯でそうなったかは説明できる。でも、それは今しなくてもいいよな、って思ってるから止めた。


 「問題ありませんわ」「ナハトアさんは眷属仲間だから今更だけど」「後のお2人は、観察させてもらいましょうね」「良かったね!」「ふふっ。カティナを味方に付けておけば悪い方には転がらないから安心してね?」


 ディー、リーゼ、アピスが譲歩してくれた。カティナとギゼラはそこまで気にしていないようだ。2人のお蔭でゾフィーの表情も和らいでる気がする。


 「ならばルイ様にお任せ致します。妾たちは一度戻りますゆえ。ゾフィー、ここが正念場しょうねんばぞ」


 5人と一緒に歩み寄ってきたゾフィーにそう告げると、ルルは蛇の尾を器用にヴィルの体を巻きつけてナハトアの腕輪の中にぬるりと戻っていった。あの腕輪の中どうなってるんだろうな。今更ながら不思議空間だな〜と笑ってしまった。


 「う、うん、ありがとう、姉さん! 頑張る!」


 そんなルル()に励まされたゾフィーがぐっと両拳を胸の前で握りしめていた。長く生きてる割には、反応が幼いので微笑ましく思ってしまうんだろう。ここには居ないサーシャの笑顔か浮かんできた。会えなかったのは残念だけど、ここでの用事が終わればすぐに会えるさ。


 ん? そう言えば、用事ってナハトアとカリナを祭りに連れて来るってことだったよな。ひょっとして終わりか?


 「一先ひとまず、馬車に入ろう。目立ってることに変わりないから」


 そうなんだ。自慢じゃないけど、色んな種類の美人が僕の回りに居る。いや、自慢か。なので、何をしなくても衆人環視しゅうじんかんしのもとにあるんだ。さっさと退散したい。親書も気になるけど、ジルやリューディアの顔も久し振りに見たいしね。


 イケメン猿魔王のガレオン船(魔道船)に乗ってシムレムまで掛った日数は凡そ15日。祭りまで2ヶ月を少し切ったくらいだったから、あと1月は時間がある。


 シムレム観光できるかな?


 馬車に乗り込みながらそんなことを考えていると、コレットが御者席から声を掛けてきた。


 「ルイ様。どうやらペストなる病気がシムレムで蔓延まんえんしているそうです」


 「えっ!? その名前を何処で?」


 思わず話をさえぎってしまった。コレットが知ってるはずのない病名を口にしたからだ。それも、ここではなない別の場所で聞いた情報を口にしたらしい。


 「そのことで御報告したい件があります。御聞き下さいますか?」


 「ああ、お願い。このまま町を出よう。走らせながらでも問題ないよね?」


 「問題ありません」


 「じゃ、宜しく」


 コレットに丸投げして馬車の調度品としてはあり得ないようなソファーに体を預けた。以前に王都からエレクタニアへ戻る時に使った馬車はこれの半分くらいの大きさだた記憶がある。随分でっかい物を造ってもらったようだ。揺れも殆ど感じない。


 あれ? サスペンションとか話した記憶ないんだけど?


 なんて思いながら、コレットの報告に耳を傾けた。まとめるとこんな感じだ。


 コレットたちがシンシアにシムレムまで運んでもらったのは、丁度僕たちの到着と重なる頃だった。到着した場所は、シアの中央、世界樹がある場所らしい。そこで今起きている状況を“聖樹様”と呼ばれる半精霊のような良く分からないエルフから聞いたんだとか。しかも異世界人らしいから驚きだ。


 でも、それなら黒死病ペストを知っているのもうなずける。信憑性しんぴょうせいは一気に高まったな。


 そのコズエというエルフからその時に依頼を受けたんだと。この島のペストを防除ぼうじょして、拡散防止を図ってもらいたいということだ。是非もない。この世界で黒死病ペストなんかが大流行した日にはあっという間に死体の山だぞ。幸い、僕には防除して拡散防止できる手段と力がある。祭りまでには問題なく収まるはずだ。


 なのでコレットから聞いた話は快諾かいだくした。断る理由もない。


 けど問題はその罹患りかんした村だ。病気の進行速度から考えると、恐らく全滅だろう。発現した村は無理としても、近隣への拡散を何処まで抑えれるか……だな。あとはペストの発生源になっただろうねずみだ。確か、向こうの世界では熊鼠クマネズミが1番かかりやすいんだったけ。鼠の他にも猿、兎、猫が感染うつるって話だけど、見たこと無いな。


 ふむ。死体は触らなければ問題ないだろうし、恐らく捕食動物の餌になるだろうか過剰な心配は要らない。


 人間、今回は主にエルフたちに感染ったペストの事を考えればいいってことだ。


 その間、ナハトアとカリナ、それにゾフィーがカティナ、リーゼ、ディーにこれまでの事を根掘り葉掘り尋問されてた。尋問? まあ尋問だろうね。黙秘はダメ。強制的に質問に答えさせられてるんだから。思わず苦笑してしまう。


 コレットから事の説明を聞いた後は、シンシア、ギゼラ、アピスの年長組からこれまでの経緯を聞いた。それぞれ自由に動いているようで安心したけど、気になるのが2点あった。1つは親書の事。これは世界樹まで戻れば解決するので棚上げ。もう1つはジルを含めた居残り組の事だ。


 アイーダがリンと一緒に極秘に動いてくれているということで自分を抑えることが出来たけど、最近自分が可怪しくなったと思う。以前はもっとのんびりしてた気もするんだけど……。そんなことをポツリとつぶやくと、シンシアとギゼラが最近自分たちも可怪しい事が起きたと教えてくれた。


 けば、僕が巨大な海竜とも言うべき姿をしたオピーオーンから“神魔力しんまりょく”とかいう訳の分からない物を体に取り込んだ時に起きたようだ。僕もアナウンスを薄っすらと聞き覚えているけど、2人の方がしっかり覚えていた。


 それで教えてもらったんだけど……。


 《※※の※より※※を譲渡されたため、竜の系譜に連なる眷属の魔力が微変質し、※※を微量帯びるようになります》


 《※※の※より譲渡された※※は秘匿情報のため、現在マスターへの開示条件が適合しません。って※※の※より譲渡された※※はマスター及び眷属に秘匿されました》


 という穴あきばっかりのアナウンスだったらしい。


 正解かどうかは正直判らないけど、オピーオーンはギリシャ神話では“原初の蛇”とも言われてるから譲渡主はあいつなんだろう。神魔力を譲渡された? う〜ん、マイア様に説明してもらったけど、あれは上手に言いくるめられてしまったんじゃないだろうか、と思ってしまうな。


 虫食いを埋めてみてもしっくり来ないんだ。月次つきなみな言葉だけど、何かもっとヤバイもののような気がする。


 「それにしても、何処に向かってるの?」


 思わずいてしまった。


 だって「どちらに行きましょうか」とも、「どうしましょうか」とも振られてないんだから。行き先なんて判るはずもない。


 それと馬車の奥の方でガールズトークを楽しんでいる面々は何故か頬を赤らめて、こちらをチラチラ見ることが多くなってきた。ゾフィーの尾が機嫌良さそうに揺れている。ナハトアやカリナもモジモジしてるっぽい。おい、ナハトアさんや一体何をかれて、何を話したんだ?


 「はい、何でも1番最初にペストの事を知らせた聚落しゅうらくが港町の近くにあるそうで、そちらに向かっております。と言いましても、そろそろ着く頃かと思いますが」


 「え? もう着くの!?」


 コレットの言葉に耳を疑った。コレットが召喚した吸血馬ダンピールホースたちの能力を疑うわけではないけど、それにしても早過ぎるだろ!? だって港町を出て1時間くらいしか経ってないんだよ?


 それに聚落の場所も初見で判るものなの?


 「その答えは実際に見て頂いた方が良いかましれません」


 そう言ってコレットが御者席と馬車を仕切ってる幕を払い上げてくれた。その光景に言葉を失う。


 「ほう、これは凄いな」


 「流石はリューディアですね」


 「この馬車、リューディアが魔道具で地面から指1本分浮かせてるんですって。マスター凄いですね!」


 「ーーーー」


 僕と一緒に居るシンシア、ギゼラ、アピスも同じように顔を覗かせてかなりの速度で過ぎ去って行く風景に驚いていた。そりゃ驚くよ。馬にかれる馬車が車並みの速度で進んでるんだよ!?


 時速60キロくらい出てるんじゃないのか? これ。しかも走ってるのは未舗装の街道だよ。土肌が出て、草も生えてるこの街道でどんだけ出鱈目でたらめなんだ。


 いや、待て。今何か不穏な言葉が聞こえたぞ!?


 「ね、ねえ、今魔道具で浮かせてるって聞こえたけど? 改造してるの? この馬車!?」


 「はい。確か風魔法の【空中浮揚レビテーション】という魔法の発動体を馬車の裏底に何枚か貼ってるそうです」


 Oh……魔改造だ。ラノベで主人公がよくやるやつ。


 僕にはそんなスキルないし、憶えれないんだよな。というか、ミスラーロフからって貼り付けてあげた【魔道具創造】っていうスキル、もう使いこなしてるのか。流石は魔女って呼ばれるだけはある。


 正直構造が気になるけど、まあコレットたちにいても良く分からないだろうから、お楽しみはリューディアに会うまで取っておくかな。


 しばらく外の様子を見ていると、馬の速度に合わせて、馬車もスピードを落とすのが判った。慣性の法則もちゃんと制御できてるみたいだな。これで、馬は止まっても馬車は止まりませんじゃ眼も当てられない。毎回馬車に撥ねられて怪我した馬を取り替えるのも可哀想な話だ。ははは……。


 「それにしても、よく聚落しゅうらくの場所が判ったね?」


 そうなんだ。シムレムに来たのがほぼ同じタイミングなら、港町はいざ知らず、森の中にある聚落の位置なんか調べようがないはずなんだ。ん?


 「ルイ様、申し訳ありません。怒らずに聞いて頂けますか?」


 何だか懐かしい雰囲気がコレットの周りで湧いた。それに反応してか、コレットが少し焦ってるのが判る。何だ?


 「あ」


 ひょこっとコレットの肩の向こう側。胸の方から可愛らしい一輪の花が顔をのぞかせたんだ。手のひら大のその花の上に、萌黄色もえぎいろの髪をツインドリルにし、頭に小さなティアラを載せたハナがそこに居た。


 「ハナ様に手伝って頂いてたのです。無断で」「ああ、気にしないで。ウチの精霊たちは自由だからコレットも気にしないように。どうせ、手伝いますってハナから声掛けたんだろうしね」


 向き直って謝ろうとするコレットを制する。速度は落ちてきたと言ってもまだ時速40キロくらいはあるから、前を向いてて欲しい。


 「ーー」


 「ははは。いや、そんなに驚かなくたって良いだろうに」


 顔の前で小さな手を一杯に開いて驚いた顔を隠そうとするハナに思わず笑ってしまった。どうやら当てずっぽうが当たっていたようだ。


 「ルイ様はぁどうしてわたくしの行動を知ってるのかしらぁ?」


 おっとりした口調でハナがふわふわと僕の眼の前にやって来る。彼女の可愛さにシンシアたち3人の頬も自然と緩んでいるみたい。どの世界でも、小さな可愛さは癒やしの効果があるよな。


 「ん〜そうだな〜。ここに来る前にセイにも会ったんだ。海の底に遊びに来てたからね。ハナもひょっとしたらここに遊びに来ることがあるのかな? って思ったんだよ」


 「はぇ〜。そうでしたかぁ。そうなのです。私とコズエは友だちなのですぅ。それで困っているようでしたのでぇ、何かお手伝いをぉと思いましたら、皆が来たのですよぉ」


 それなら話が早い。道案内が居てくれるのは随分助かる。セイのお蔭であの時も説明が随分早く済んだからな。


 「じゃあ、ここに居る間は道案内を頼めるかい?」


 「はいぃ、喜んでぇ」


 「あと、ハナは病気で土地が汚れてるというのもわかるのかな?」


 「ん〜。それはぁ良く判らないのですぅ。でもぉ、瘴気しょうきで森が汚されるのは判りますよぉ」


 「何で瘴気が出るの?」


 「恐らく死体がアンデッド化し始めてるからだと思いますよ、マスター」


 アピスが皆に代わって教えてくれた。 


 ああ、自然発生型のアンデッドね。ナハトアのような死霊魔術師ネクロマンサーに創り出されるアンデッドとは違って、自然発生型のアンデットは生者に強い執着を示して仲間に引きこもうとするんだよな。生霊レイスの僕が何言ってるんだ、って笑われそうだけど、今は生身があるから撒餌まきえ役には適任だ。


 聚落しゅうらくに着いたらすることは決まってる。


 「リーゼ、コレット、ナハトアも聴いて欲しい」


 「「「はい、ルイ様」」」


 馬車の奥からリーゼとナハトアが居住いずまいを正すのが見えた。ほぼ3人が同時に返事を返してくる。


 「これから聚落の中で【浄化】魔法を使う。僕の眷属なら問題なとは思うんだけど、念の為範囲に入らないように。消滅するといけないから」


 「「「分かりました」」承知しました」


 これで良し。あとは……。


 「聚落に入るのは、僕とシンシア、それにハナの3人だけだ。皆は特にすることは無いけど、動物の死体、特に鼠の死体には触らないように。火魔法が使えれば焼却して」


 「うむ。安心して魔法を使って良いぞ」


 「私もなのですねぇ」


 「分かりましたわ」「分かった!」「「はい」」


 馬車の奥に居るリーゼを除く4人の返事が返ってくる。これでいかな。チラッとギゼラを見るとニコリと微笑んでうなずいてくれた。良し。そう思ったら、アピスが僕の左腕に腕を絡ませで来る。マシュマロの感触が伝わってくるじゃないか……。ふっと耳に息を吹きかけるように甘えた声でタレ目の美人さんがいてきた。


 「マスター、わたしはもう杖に戻らなくていいのでしょうか?」


 「ああ、そうだった。まだサポートがあると助かる。頼めるかな?」


 「仰せの通りに我が(マイ・)主よ(マスター)。【解除リリース】」


 その一言で、甘えた表情をふっと消して体を離すアピス。淡くアピスの体が光ったかと思うと、僕の左手に2m程の長さの杖が握られていた。馬車は、気が付くと止まっている。いつの間に着いたんだろうか。


 馬車が高性能過ぎるな。盗難防止もしてあるだろうけど、これに乗ったら皆欲しがるだろうな。


 「じゃ、行ってくる」


 馬車を降り、聚落の中に歩き始めた僕たちの背中を居残り組の視線が追っているのが分かった。


 何て言うか、時間が出来たからシムレムで物見遊山でもと思ってたけど、浄化行脚じょうかあんぎゃになりそうだな。ま、どちらでも奥さんたちと一緒に動けるというのは嬉しいから問題ないか。することも難しいことじゃないし。後はあの3人が巧く溶け込んでくれれば良いんだけどね〜。


 チラッと後ろを見ると、それに気付いて皆が手を振ってくれた。


 ーーなんだこれ。嬉しんだけど……?




             ◇




 30分後。


 【浄化】と滅菌消毒を兼ねての【透過】、【治癒のキュア・シャワー】のコンビネーション(コンボ)で綺麗になった村長宅に僕らは居た。


 したことといえば、村全体を聖魔法で綺麗にして、アンデット化してしまったダークエルフたちは消滅させ、まだアンデッド化していない遺体をアイテムボックスに回収るだけの単純作業だからね。陽も高いし、次の聚落しゅうらくに行くのかと思いきや、村長宅に連れ込まれた、と言った方が正しい……な。


 僕は居間で待て状態(ステイ)だ。


 何故かというと、リーゼとコレットが村の空き家からせっせとベッドを運び込んでいるから……。


 ーーまぁ、うん。


 個人的には悪い気はしない。むしろ嬉しいと言っても良い。期待してワクワクしている自分も居るのが恥ずかしいけど、役得だと前向きに考えることにした。


 「あ、そうだった」


 もう1人紹介しておいた方が良い人物が居た。


 「何だ? 何かやり忘れてることでもあるのか?」


 「港町に比べれば死人が多いくらいで変ったことはないはずですが?」


 僕の両隣に陣取るシンシアとアピスが、さっきまでの事を思い出すように確認してきた。うん、そこは問題ないよ。思い出したのは別のことさ。


 「「「あっ」」」


 そこにナハトア、カリナ、ゾフィーが声を上げ顔を見合わせてから、僕に視線を向けてきた。不安げな表情から察するに、気が付いたってことかな。でも、避けては通れないでしょ。


 「「「ーー?」」」


 逆にギゼラ、ディー、カティナ首をかしげている。うん、それは仕方ない。だってったこと無いんだから。


 「もう1人、紹介するのを忘れていたんだ。今は魔法生物という枠だけど、将来的にはハーレムに入れたいと思ってるよ。おいで、【深淵の女帝(アビスエンプレス)】」


 「「「「「「「っ!?」」」」」」」「「「ーー」」」


 「主様ぬしさま、御呼びでございますか」


 僕の前に片膝を立ててひざまずく、真っ黒な女性の輪郭を持つ魔法生物アビスが現れた。初見の7人は緊張したようだけど、顔見知りの3人は「どうするの?」という表情だ。


 「全員じゃないけど紹介しておくね。僕の妻たちと、妻候補。仲良くして欲しい」


 「畏まりました」「「「「「「「「「ーーーー♪」」」」」」」」」」「皆様、アビスと申します。以後お見知りおきを」


 すっと立ち上がり右手を左胸に当ててお辞儀をするアビスだったけど、皆デレて聞いちゃいない。まあシムレム(ここ)で口にするようになったから免疫がないのもわかる。


 「まあ、皆こんな感じだから慣れてね。それと、アビスも嫁候補だって伝えてるからそのつもりで」


 「っ!? ぬ、主様!?」


 「まあ、アビスに相応しい生身からだを手に入れれてからの話だけど」


 「そ、それでも、嬉しゅうございます」


 そう言ってウインクすると、口元に震える手を当てて深々とお辞儀をする。その様子を、何処か呆れたような笑顔で見守る面々。良いじゃないか。ウチのハーレム、人族1人も居ないんだから、魔法生物が入っても問題ないだろ?


 開き直りだ。


 パンパン


 そこへシンシアの柏手が響く。何だ?


 「準備が整ったそうだ。ルイ様は……部屋でお待ちくださいますか?」


 おふっ。シンシアがデレた。


 「あ、うん。そ、そうだね。先に入ってるよ」




             ◇




 10分後。




 それは美の競艶きょうえんだったと言っておこう。




 一糸纏いっしまとわぬ姿で現れた彼女たちの魅力と蠱惑的こわくてきな笑みに敵うはずもなく。


 


 知らず知らず彼女たちを懐に招き入れた僕は獣になったーー。




 止めなく(あふ)れる劣情の流れには(あら)がえる訳もなく……。




 押し流され……。




 深みに足を取られ……。




 引きずり込まれ……。




 朝が来た――。






後まで読んで下さりありがとうございました!


ブックマークやユニークをありがとうございます!


誤字脱字をご指摘ください。


ご意見ご感想もありがとうございます!

“感想が書かれました”って出ると未だにドキッとなってビックリしてしまいますが、力になります!

引き続きご意見やご感想を頂けると嬉しいです!


これからもよろしくお願いします♪

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